翌日も良い天気で、朝から快晴となった。今日の土木作業は昨日に芝を張り終えたグリーン以外の草刈り、芝刈りをやった。オーナーがモーター付の手押し芝刈り機で、ティーグランドからグリーンまでの芝を同じ幅で刈って行った。刈った芝を夏樹が熊手で掻き集め箱に詰めて敷地の端の方へ投げる作業の繰り返しとなった。
 午後からはマッさんも加わり少しは作業の進み具合が良くなったと思っていたら、オーナーが他の用でいなくなり、マッさんが芝刈り機を操作した。結局のところ夏樹は午後からも刈られた芝を掻き集め、箱に詰め、敷地の端の方へ持っていく作業となった。
 それでも楽しかった。マッさんとは年も近いからなのか、気が合い昔からの友と遊んでいるかのように接することができたし、接してくれた。芝刈りをしながら時々手を休めバカばなしをしたり、ふざけてさぼったりした。でも誰に怒られることもなく、日没が近づくころにはオーナーも加わり、楽しくさぼりながら作業を進めた。

「ええ、明日に帰っちゃうの、もう少しいなよ」
 夕食の時に母さんが少し大きな声で言った。
「しょうがないよ、夏樹君にも予定っていうものがあるだろうから」
 オーナーが間に入って言ってくれた。
「そんなに北海道に行きたいの」
「一応ですね、ここでの居候募集に断られたのですから、二、三日だけお世話になったら北へ向こう予定で計画を立てていましたんで」
「どんな計画なの」
「えっ・・・、ええとですねえ、とりあえず津軽半島の竜飛岬に行って、青森から青函連絡船で北海道に渡って、それから・・・、そうそう、アリスファームに寄る約束をしてます」
「アリスファーム?」


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2012.05.14 / Top↑
 ペンションで居候としての二日目は、泊りのお客さんが二組四人だけ。カレンダーをよく見るとこの日は日曜日だった。明日は月曜日だから泊りのお客さんは少ないのだそうだ。月曜日に休みが取れる人は床屋さんか、学生ぐらいかな。
 夕食後にオーナーと母さんとマッさん、そして夏樹の四人でゆっくりと話ができた。男三人はバドワイザーを片手に持っていた。大学生の女の子二人は今日の昼過ぎに実家に帰って行った。
「ナッさんはなぜ仕事を辞めてまで旅に出たの」
 母さんはお茶の入った湯呑を片手に持ちながら言った。
「後悔したくなかったんです。もう少し年を取って結婚して、子供ができたら二度と自由気ままに旅をすることはできひんでしょ。今しかできないことやから、今やろうと思ったんです」
「今しかできひんことねえ・・・」
「母さん、その変な関西弁はやめた方がいいよ・・」
「だって、うつっちゃうんだもの。マッさんはうつらないの」
「まあ、今のところは」
「まあ、ええやないですか、どこへ行ってもうつる人はいるみたいやから」
 昨日の夕食後に母さん以外の人たちと話したことを少し話し、その続きのような内容の話を四人で話した。ほとんど旅の話しばかりで、そんな話をしていると、時間が経つのは早く、食堂にいた二組のお客さんは、いつの間にか部屋に戻ったようだ。明朝もそんなに早く起きる必要もないからと言って、オーナーが二本目のバドワイザーを出してくれた。
「ナッさん、顔が真っ赤だよ」
「マッさんも結構赤くなったはるやん」
「なったはるやん・・・」
 母さんも一本目のバドワイザーを持っていた。


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2012.05.12 / Top↑
 ペンションでの二日目は客室の掃除を少し手伝い、オーナーと芝生張り作業にとりかかった。天気が良く少し動けばジワリと汗が出てきた。一輪車に芝の束を乗せ、小屋からグリーンまでの往復を何回しただろう、慣れない作業だからか足腰に痛みが出てきた。
「夏樹君、だいぶくたびれてきたようだねえ、腰が少し曲がってきているし、歩くのも遅くなってきたんじゃない」
「ちょっと腰がねえ・・・」
 押していた一輪車を止め、大きく背伸びをし、腰を伸ばした。
「そんなに重いわけやないんやけど、一輪車がいまだに思うように押せなくて、くたびれてきましたは」
「じゃあ、少し休もうか、ちょうど十時になるころだし」
 ペンションに戻り玄関のテラスの椅子に座り、冷たいお茶をいただいた。
「もう少しで出来上がるなあ。今日中には全部の芝生を敷き終えることができるよ。そして、一週間も寝かせておけばゴルフができるよ」
「えっ一週間後やないとできないんですか、俺はできひんのかあ」
「ああ、別にもう少しここにいてもいいよ」
「でも北海道に行って、会う約束をしているところもあるしねえ」
「いずれ北海道から京都へ戻るときがあるんだろ、その時にまた寄ればいいじゃないか、その時までに今以上に整備しておくよ。こんなに手伝ってくれたし、君にはここでプレーをする権利があるんだから」
「ありがとうございます、秋にはまた寄れると思います。その時を楽しみしています」
 予定通りこの日のうちにグリーンの芝は張り終わり、丸太に二本の棒を付けた道具で軽く芝の上を叩いて芝を整え終えたころには、陽が山に隠れそうになっていた。


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2012.05.10 / Top↑
 マッさんと夏樹は一本のバドワイザーをほぼ同時に飲み終えた。
「じゃあ、寝ましょうか」
「まだ、十時を少し過ぎただけですよ」
「朝は五時半に起きて朝食の準備がありますから。それに今日は久々にお客さんがいっぱいで、疲れちゃったからね、早く寝ます」
「そんなに早く起きるんですか」
「ナッさんは寝ていていいですよ」
「ええ、いいんですか」
「と言っても七時には起きてください、食べ終わった皿とかを下げる時は手伝ってほしいので」
「了解しました、マッさん」
「片付けの後はまた芝張り作業が待っていますから、今日はゆっくり休んでおかないとね」
 缶ビール一本を飲めばいつものように顔は赤くなっていたのだろうか、急に眠くなってきた。そういえば今日は朝から雨の中をバイクで走り、ペンションに着いたら慣れない土木作業をやり、体も疲れているのだろう、寝床に入るとすぐに寝入ってしまったようだ。
 翌朝、目が覚めたときには、隣のベッドにマッさんの姿はなく、時計はちょうど七時だった。部屋の中に明るい陽が差し込み、気持ちよく目が覚めた。着替えを済ませ顔を洗い、厨房へ降りて行った。ちょうど朝食を出し終わり、オーナーをはじめスタッフ全員がコーヒーを飲んでいた。
「おはようございます」
「ナッさんおはよう」
 母さんが大きな声で言ってくれた。その声につられるように他の人たちも声をかけてくれた。
「はい、まずモーニングコーヒーをどうぞ」
 オーナーがカップを差し出してくれた。
「おぉきにぃ、ありがとうございます」
「関西弁はいいねえ、なんとなく優しく聞こえて」
 母さんが言った。
「そうですかあ、ドラマとかではちょっと、きつい感じがしますけど」
「ナッさんの話し方がええのかなあ」
 少しだけ母さんが関西弁をまねて話した。それを聞いて夏樹以外のスタッフたちが微笑んだ。和やかな朝のひと時となった。


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2012.05.06 / Top↑
 部屋に戻りマッさんに教えられて風呂へ向かった。再び部屋に戻ってタオルを干し、荷物を整理してから今日の出来事をノートに書き留めていた。
「何を書いているの」
 夏樹の後ろから音もなくマッさんが話しかけてきた。
「ああ、びっくりしたなあ、もう。いつの間に来たんですか」
「たった今。別に脅かそうと思って静かに入ってきたわけじゃ、ないんだけどなあ」
 そう言ってマッさんは夏樹に缶ビールを渡してくれた。
「おぉきにぃ。あれ、見たことのない缶やけど、これって日本のビールやないのとちゃうか」
「そう、アメリカのバドワイザーさ。ここの居候は三食と寝るところと、一日一本のバドワイザーをつけてくれるんだ」
「これって輸入品やから、ちょっと高いのとちゃうの」
「お客さんにも出すビールだから大量仕入れをして、少しは市販より安いんじゃないかなあ」
「へえ」
「日本の田舎のペンションだけど、日本らしくない高原の風景の中の洋風の宿で、普段とは違うものを味わう、オーナーのちょっとしたこだわりらしいんだ」
「なるほどねえ。・・・ああ、美味しいわ」
 缶ビールを飲みながらマッさんの話を聞いた。ハムを作る工場で働いていた彼はそこで培った技術を活かして、自家製のハムや燻製を出せるような店をやりたいというのだ。宿にはこだわっていないようだ。
「ここのような高現地帯のリゾート地の宿などにも卸せればいいなあ」
(たまたまなのだが、彼が夢を実現したことをネットで知った)
「ナッさんはどうなの、ペンションをやりたいの」
「いやあ、ペンションがどのようなものなのか、あっちこっちを見て歩いているところで・・・、でも俺みたいな旅好きが気軽に集まれる宿ができたらいいなあって、今はまず、俺がその旅の途中っていうところかな」


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2012.05.03 / Top↑
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