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まいどぉ おぉきにぃ、
 ゆっくりと太陽が昇りあたりは完全に明るくなった。寒さもようやく和らいできた。
「さてと、ユースホステルに戻って朝食をいただきましょうか」
 智史が言った。特別メニューとして、少しの御節と雑煮が本日の朝食だとタナカが教えてくれた。
「さっきのぜんざいを食べた時に思ったんやけど、この辺の餅って四角いんやねえ」
「夏樹君それって普通じゃないの。餅は四角いものだよ」
 ケイコが言った。
「関西の餅は丸ですよ。高校の三年間の年末は餅屋でアルバイトをしてましたからねえ、機械で餅を搾り出してカッターで、チョキンチョキンと切るんですよ、ほんで切られた餅は滑り台を転げ落ちて、それを浅い箱に並べると、柔らかいから勝手に丸くて平べったい餅になりよるんですは」
「ほな大福と同じで丸い餅なんや」
 トオルが懲りずに変な関西弁を使って言ったが、夏樹は呆れてしまい、もう突っ込みを入れなかった。

 帰り道は初日が昇った快晴の空の下を、昨夜からのコンサートで歌った歌のそれぞれの思いを話したり、今までに行った旅の話しをしたりしながら数人が固まっては散らばりゆっくりと歩いた。
「皆さん、今日のこの後は家に帰らはるんですか」
「正月は実家に帰って新年の挨拶をしないとねえ」
 智史が言った。
「私は別にこのまま、休み中を何処かへ旅行をしてもいいのだけれどねえ」
 ケイコは智史の方を見上げて言った。
「私たちも朝食を食べたら帰ります、そして元旦は家で過ごさないと母親がちょっと煩くてね」
 タナカが言った。
「夏樹さんは帰らないの」
 岡本が言った。
「俺、今日は名古屋あたりに泊まって、明日は金沢に向かう予定なんです。連休は必ずどこかへ旅に出るという、他人から見ればどうでもいいようなことなんやけど去年の春に決めたんやけどね」



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2009.11.21 Sat l 旅(小説のような)七章 l COM(0) TB(0) l top ▲
 少しずつ明るくなってきた海岸は今までよりも風が強く、さらに冷たく感じてきた。
 ユースホステルのスタッフが買い物籠に湯のみ茶碗を入れて持ってきた。その後ろから一升瓶を持ったスタッフも来た。新年のお神酒を持って来てくれたのだ。何人かの手が湯のみ茶碗を手に取り、お神酒を注いでもらい一気に飲み乾していった。
 夏樹と智史、トオル、ケイコが湯のみ茶碗を手に取り、お神酒を注いでもらった。
「あけまして、おめでとう」
 四人は湯のみ茶碗を目の前に上げ乾杯した。
「だいぶ明るくなってきたけど、まだ陽が登らへんなあ」
「日の出の時間は何時なのかな。それにしても寒いねえ」
 智史が言った。
 水平線近くには低い雲が垂れ込めていたが、それ以外の全ての空には雲はなく、東に近い空の色が少し赤くなってきった。
「さぶ、さぶ、さぶ」
 夏樹は左右の手を胸の前で忙しなくすり合わせ、両足を上下にばたばたと動かした。
「水平線の雲がなければ、もう陽は出てきているのかな」
 田中も夏樹と同じような動きをしながら言った。
「かなり明るくなってきたけれど、まだなんじゃないかなあ」
「トオルさん、日の出の時間をしってはるんですか」
「そんなもん知らんは」
「また、その変な関西弁はやめてえな。おもいっきり変なんでっせ」
「なんか君も変になってきているよ」
 智史が言った。
「ねえねえ、あそこの雲の間から太陽が少し顔を出して来たんじゃなあい」
 岡本が水平線の一番明るくなっている方角を指差して言った。
「おぉぉーーーー」
 海岸のあちらこちらから歓声が上がった。少しずつ雲の間から太陽が昇ってきた。待ちに待った初日の出の登場である。両手を合わせ目を瞑り、拝み始めるものもいた。
 しばらくのあいだ、誰も言葉を発せず、初日の方へ視線を向けていた。

初日の出





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2009.11.18 Wed l l COM(0) TB(0) l top ▲
「ゆきたいーーー」
 演奏も終わった。しかし参加者の半分ぐらいの歌がまだ終わっていなかった。
「・・・翼を広げ、飛んで行きたいよーー、悲しみのない自由な空へ翼はためかせーーー。この大空に翼を広げ、飛んで行きたいよーー、悲しみのない自由な空へ翼はためかせーーー」
 演奏が終わっているからアカペラ状態で歌われている。隣同士で肩を組み、右に左に大きく揺れながら歌が続き、すこしずつ歌う声が増えてきた。
「この大空に翼を広げ、飛んで行きたいよーー、悲しみのない自由な空へ翼はためかせーーー」
 いつの間にか参加者全員が歌っていた。アカペラ状態が十回も続いただろうか、バンドの演奏がキーボード、ベース、ギターの順に再開され、大合唱の声の音量もさらに大きくなった。
「この大空に翼を広げ、飛んで行きたいよーー、悲しみのない自由な空へ翼はためかせーーーーー」
「今度が本当にラストーー」
 大合唱が十回ほど続いただろうか、バンドリーダーとは違う大きな声が言った。
「ゆきたいーーー」
 演奏も終わった。
「・・・翼を広げ、飛んで行きたいよーー」
 十数人の声が聞こえてきたが、さすがにその声に賛同して歌い始める者はいなかった。十数人の声も尻すぼみとなり、聞こえなくなってしまった。

 ホールの時計は四時を少し過ぎていた。参加者全員が部屋へ戻り、防寒着を着て玄関に向かった。初日の出を見に行くのだ。
 東海地方というのは冬でも比較的温暖なところではあるが、今は元旦の午前四時、あたりはまだ真っ暗だ。顔に当たる風は冷たく、防寒着なしでは歩くことはできない。
 ユースホステルからぞろぞろと大勢の人が、少し遠慮した小さめの声で、にこにこ、わいわいと雑談しながら海岸へ向かった。十五分ほど歩くと海岸に着いた。ほんの少しだけ明るくなり、僅かに水平線を確認することができた。



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2009.11.16 Mon l 旅(小説のような)七章 l COM(1) TB(0) l top ▲