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 新潟行きの特急列車がホームに入って来た。
「バイバイ、必ず東京に行くからね」
 クリタが二人の女子大学生の手を握り、笑顔で言った。
 二人は列車に乗り込み、とりあえずホーム側の空いている席の窓際に座り、ホームに残った四人に大きく手を振った。特急だから窓は開かない。何かを話しているのか、口が動いていても何を言っているかわからない。
 列車が動き始めた。ホームに残っている四人がゆっくりと歩きながら、二人に笑顔で手を振った。
 東京へ帰る女子大生を見送り、四人は臨時急行に乗り込んだ。臨時列車だからだろうか、七割ほどの乗客がまばらに座っていた。四人掛けのボックス席に陣取り、夏樹たちはさまざまな話しをした。一人で列車に乗る時はいつも車窓を眺めて、いろいろな発見をして楽しんでいたが、今日は通路側に座り、車窓をほとんど見ることはなく、四人での会話を楽しんだ。
 夏樹と二人の男子大学生が降りる京都駅までのあいだ、誰も席を離れることなく、会話が途切れることもなかった。三時間という時間は瞬く間に過ぎ去り、夏樹たちの乗った臨時急行は京都駅に入って行った。本当の別れがやってきた。
 クリタはそのまま大阪へ、そこから山陽線に乗り換え岡山の宇野から宇高連絡線で高松に向かう。家に着くのは九時を過ぎるようだ。

 大晦日から四泊五日の旅もまもなく終わろうとしている。ユースホステルと言う男女別相部屋の宿で多くの人と出会った。出身地や年齢、職業、その立場などは何の関係もない。旅の途中のある日に、同じ所に泊まった者同士、と言う共通点だけで、様々な会話をし、情報交換をした。ほんの少しだけど、人として大きくなったような気がする。
 夏樹と二人の男子大学生は改札口で握手を交わし別れた。
「いつの日か、またどこかで会いましょう」


       小説のような、旅のはじまり 七章 終り


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2010.04.30 / Top↑
「靴の中がグチョグチョになってもうたは、足が冷とうなってる」
 誰も踏み入れていない雪の上を歩きまわったことで、雪の水分が靴に浸み込み、靴下まで濡れてしまったが、夏樹の顔は笑顔だった。
 六人は兼六園の近くの食堂で簡単に昼食を済ませ。金沢駅に向かった。女子大生二人は新潟経由で東京へ帰る。香川の女性と男子大学生二人、夏樹は大阪行きの臨時急行に乗ることにした。
「クリタさん、今度は東京に遊びに来てくださいね、いろんな所を案内しますから」
 東京へ帰る女子大生の一人が言った。
「ありがとう、帰ったら写真を入れて手紙を送るから、ゴールデンウイークには東京に行きたいなあ」
 香川へ帰るクリタがそう言って二人の女子大学生と握手をした。
「その時は俺も呼んでください、実家に帰らないで一緒に東京ツアーに参加したいです」
 大学院への進学が決まっているアズマが言った。
「じゃあその時は俺も行きます、横浜を案内しますよ」
 神奈川の大学生、タカギが手を上げながら言った。
「ええなあ皆、おれ以外の五人で盛り上がってるやんか、まだ東京には行ったことないしなあ、クリタさんが行く時は俺にも連絡してえなあ、一緒にいかへんか」
「ええ、一緒に東京に行くんですか」
「あらあ、嫌われてんのかいなあ、やっぱりこのヒゲが印象を悪くしてんのかなあ」
「そんなことないですよ。カッコいいですよ」
 二人の女子大生のあまり話さなかった女の子が、はにかんだ顔で言った。
「おぉきにぃ、ものすごく嬉しいは」
 夏樹はそう言ってくれた女子大生に握手を求めた。

金沢駅周辺

金沢駅



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2010.04.28 / Top↑
 一月四日の金沢の朝は、一面の銀世界になった。雪景色を見たくて北陸地方への旅に出てきた。ようやく希望が叶い雪を踏みしめることができる。夏樹は部屋からの真っ白な景色を見て、心が躍った。
「おはようございます。雪が降ったで、銀世界や」
 子どのものようにはしゃいだ。

「イマさんまた来ますね、二日間の金沢は楽しかったです。行ってきます」
「いってらっしゃい」
 イマさんは笑顔で見送ってくれた。
 昨夜の約束通りに大学生の男二人、女子大生二人、香川へ帰る女性と夏樹は兼六園に向かった。ユースホステルの外も十センチメートルほどの雪が積っている。雪を踏みながら歩くと、「きゅっきゅっ」と音がする。夏樹にはとても心地の良い音である。
「ええ音やなあ、この音が聞きたかったんや」
「ヒゲさんっておもしろいねえ」
 大学三年のタカギが言った。
「そやかて楽しないかあ、全てのものが白くなってすごく綺麗やんか、それにこの雪を踏む時の「きゅっきゅっ」っていう音がええやんか、俺はこの音がだい好きやねん、京都ではめったに雪なんか積らへんから、この音を聞かれへんやろ」
 靴の中に雪の水分が浸み込み、靴下までがずぶ濡れになって足が冷たくなってきたが、そんなことはお構いなしに、まだ誰も踏み入れていない雪の上を小走りに歩き、雪の感触と「きゅっきゅっ」という音を楽しんだ。
 正月の兼六園は入園無料になっていた。それでも観光客はあまりいなかった。背の高い木には名物の雪吊りが施され、昨夜からの雪が縄全体に積もり白くなって、その中にある木も白い花が咲いたようになっている。
 一緒に兼六園へ来ている他の五人より、はしゃいでいた。

  兼六園
                            雪吊り





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2010.04.26 / Top↑
「北海道のユースホステルはどこも良かったけど、礼文島の桃岩荘は面白いよ。何が面白いかは行って見ないと分かんないなあ、ちょっと説明が難しいなあ。九州も良いところが多かったなあ」
「北海道かあ、行って見たいなあ、憧れの大地って言う感じかな。都会に住んでいると、北海道みたいな広大で何もない牧草地に憧れますねえ。地平線に沈む夕陽を是非見てみたい」
「綺麗だったよ、北海道にいるときに何回か見たんだ。僕も憧れの大地だったよ」
「北海道に行ってみたいなあ。いつかきっと行くそ」
「気合が入っていますねえ。きっと、いつの日か行けますよ、いや絶対に行ってください」
 イマさんは再び夏樹のカップにコーヒーを入れた。
「ヒゲさんは一昨日にウイスキーを飲まないよねえ、特別サービス、コーヒーに少し入れると美味しいよ」
 そう言ってウイスキーをティースプーンにとって、夏樹のコーヒーに入れた。
「あっおいしい、こんなコーヒーを飲むのは初めてやなあ」
 その後は他の宿泊者も加わり、消灯時間を少し過ぎるまで、会話を楽しんだ。
「みなさん、あしたで正月休みが終わる方がほとんどでしょう、あさってからは仕事ですね、頑張ってください。そして、いつの日かお休みの時に、ここへ帰って来てくださいね、私はどこか他のユースホステルに転勤しているかも知れませんが、金沢はいいところですから」
「はあい」
 みんなが大きな返事をして、それぞれの部屋に戻って行った。
 部屋の窓から外を見ると、大粒の雪が音もなく風にも流されず、しんしんと真っ直ぐに地面に向かって降りそそいでいた。日中の気温よりかなり下がったように感じた。
「おやすみなさい。電気を消しますよ」
 同部屋のアズマが言った。
「かまへんよ、おやすみなさい」





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2010.04.21 / Top↑
 宿泊者八人の自己紹介が一通り終わり、そのまま会話が続いた。旅の情報交換が主な話題だった。ユースホステルを利用して初めての一人旅に出たおじいさんは、埼玉に住みタカハシと自己紹介した。タカハシさんはずっと笑顔で自分の孫ほどの宿泊者に、旅は初心者だと言って、丁寧な言葉で色々な質問を繰り返していた。彼の明日の予定は富山の宇奈月温泉に向かうと言っていた。
 いつの日か歳を重ね、旅に出かけた時に年齢や仕事での立場などは関係なく、旅人と言う共通点だけで会話ができるだろうか。タカハシさんのことを書き留めておきたかった。

 一杯限定の水割りを飲み干し、二杯目はコーヒーをもらった。
「イマさん、コーヒーは今夜もサービスですか」
「はい、何杯でもどうぞ。でも、あまり飲むと寝られなくなっちゃうかな」
「じゃあ、まず一杯下さい。イマさんは金沢の前はどこのユースホステルにいたんですか」
「最初はねえ、都内のユースホステルに勤めて、それからここに来たんだ。ここは五年になるかなあ」
「学生時代には、やっぱり全国を廻ったんですか」
「そうねえ一応、日本一周したね。夏は北海道のユースホステルでヘルパーをして、冬は九州や沖縄でヘルパーをしていたなあ。そこへ行くまでに各地を廻って全国のユースホステルに泊まったよ」
 イマさんはコーヒーを飲みながら笑顔で話してくれた。
「どこのユースホステルが良かったですか」
「いろんなユースホステルがあってさ、ペアレントさんが個性豊かで、どこも良かったよ。まあ、たまにはずれもあったけどね」
「特にここのユースホステルには、行ったほうが良いよって処を教えてくださいよ」
「そうだねえ・・・」
 そう言いながら夏樹のカップと自分のカップにコーヒーを注いだ。



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2010.04.19 / Top↑

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