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 今では週休二日なんていうのは当たりまえになった。もちろん法律でも一週間の労働時間は四十時間と決められているから、どこの会社も週休二日だろう。しかし、この話のころは二十五年ほど前のこと、週休二日を実施している会社は少数だった。夏樹の勤めていた会社は一ヶ月に二回だけ土曜が半ドンだった。半ドンとは半日だけ仕事をして、午後からは休みなのだ。
 ことし一年間の連休は何処かへ泊りがけで旅に出るという計画を実行するためには、祝日と日曜日が連休になる時か、盆と正月、ゴールデンウイークしかない。今と違って泊まりの旅は難しかった。
 この年、盆休みの次の連休は九月二十三日、秋分の日と日曜日の連休だった。八月の終わるころに飛沢に電話をして、一泊の旅を誘った。
「んんん・・・。なんとかバイト先の店長にうまいこと言うて、休みをもらうわ」
「石田も誘ってみるは、あいつは多分大丈夫やと思うんやけどな」
「それで、どこへ行くんや」
「お前の車で何処かへ行こうって、前から言うてたやろ。東京へ行ってみいひんか」
「東京?」
 盆休みに入る少し前に、浜名湖で知り合った岡本から手紙が来ていた。彼女はいつものメンバーと一緒に浜名湖で盆休みを過ごすという内容だった。その手紙の最後に東京に遊びに来ないかと書き添えてあった。もちろん、案内するからとも書いてあった。休み明けに北海道へ行って来たことと、彼女の言葉を真に受け、九月の連休に一泊だけど東京へ遊びに行くと書いて返事を出した。飛沢と石田に連絡をする前に、二人の友達と三人で、車で行くと書いてしまった。


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2011.04.05 / Top↑
「東京まで車で行くんかあ」
「いいや、東京へ行ったことのないもんが、東京都内を車で走るのは無謀やって、言うてたわ」
「誰が言うてはんのや」
「こないだ話をしたやろ、奈良で知り合って、ほんで浜名湖へ行ったって、あの時の埼玉の女の人や」
「夏樹の彼女になったんか」
「あほか、そんなんやないって」
「そやかて、その人に逢いに行くんやろ」
「いや、そやのうて、東京へ来るんやったら案内してくれるって、言うてくれたはるだけや」
「ふううん。まあええわ」
「ええことないって、そこんとこはっきりしといてや」
 夏樹の心は少しだけ揺らめいていた。自分では気がついていなかったけれど、飛沢に言われて、彼女になってくれたらいいなあと、どこかの心が、僅かに期待していたような、気がする。
『東女に京男?あれ、反対やったかな』

 岡本が言うには、横浜の桜木町駅の近くに神奈川ユースホステルがある。そこの近くに有料駐車場があるからそこに車を置き、電車で東京まで来れば良いとのことだ。そして一緒に神奈川ユースホステルに泊まらないかという計画だった。桜木町から東京までは三十分ほどで行ける。京都から大阪よりも近い。早速、地図と時刻表、ユースホステルハンドブックを広げて計画を練り始めていた、飛沢と石田の都合を確かめたのは、それから一週間後のことだった。
「横浜のユースホステルに泊まるのは土曜日と言うことは、金曜日の夜に出発するんやな。何時間で横浜につくかなあ」
「五百キロほどやから、休憩時間も含めて八時間もあったらいけるやろ」




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2011.04.08 / Top↑
 夏樹の寮から名神高速京都東インターチェンジまでは、一時間ほどのところだ。そこから横浜インターチェンジ(現横浜町田インターチェンジ)までの営業距離は約四百八十キロメートルある。時速百キロで走り続ければ五時間ほどで着くが、休憩をして運転手の交代をして給油も必要になるだろう。また、横浜インターチェンジから桜木町駅までがどれぐらいの時間がかかるか、そのおおよその時間も含め寮から九時間で着くという計算をした。岡本との待ち合わせは上野駅に九時と決まっていた、桜木町駅から八時に電車に乗れば余裕で間に合う。出発は金曜日の十一時に決めた。
「俺の車でそんな遠いところへ行くのは初めてやな。今から待ち遠しいなあ」
「ところで西日本一周した時につくったユースホステル会員証は持ってるよな、あれを更新せんとあかんからな」
「ああ、あるはずや今度の休みに更新をしてくるは。石田には言うたんか」
「これからやけど、大丈夫やと思うで」
 飛沢との電話のやり取りを終え、すぐ石田に電話を掛けた。二つ返事で了解してくれた。飛沢と同じ大学へ通っている石田は、飛沢のアルバイトの予定に合わせて、アルバイトが休みの日に一緒にユースホステルの会員証の更新に行くと言って、電話を切った。

「夏樹さん、桜木町の次が横浜駅で、そこで東海道線に乗り換えて、東京からは山手線で上野まで来て下さいね。必ず東海道線に乗り換えてくださいよ」
 岡本から電話がかかってきた。
「はい、東海道線で東京、ほんで山手線で上野やね。九時までにはちゃんと着くように行きますから」
 鉄道が好きな夏樹にとっては簡単なことだと、気軽に考えていた。しかしこの変な自信が、のちに大きな間違いを犯すこととなった。



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2011.04.11 / Top↑
 アルバイトを少し早く切り上げさせてもらった飛沢が、石田と一緒に夏樹の寮へ来たのは九時三十分頃だった。二人とも一泊分の荷物をバッグに詰め、車のトランクに入れて来た。
「早かったなあ、出発まではまだ一時間以上もあるけど」
「家で時間を潰しても退屈やからなあ、バイト先の店長が今日はあんまり忙しくないから、帰ってもええって言うてくれたさかい」
「石田、久しぶりやな」
「おおう」
 相変わらず言葉少ない男だ。
 三人は夏樹の部屋でテレビなどを見ながら、一時間と少々の時間をなんとなく過ごした。これから車に乗って出かけるのだから、酒を飲むわけにもいかず、いつものように飲めない酒を飲みながらの馬鹿話はしなかった。車での遠出がはじめてという緊張からなのか、飛沢でさえも言葉が少なかった。
「飛沢、就職は決まったんか」
 夏樹が突然、口を開いた。
「んん、まだや。このまま今のアルバイト先で使うてもらおかな」
「大学を出て、小さな蕎麦屋に就職するんかあ」
「ええやないか、俺には、ああ言う仕事が向いてるような気がすんねん」
「まあなあ、人生いろいろ、俺がとやかく言うことは出きひんからなあ。お前が決めることやしなあ」
「来週な、面接やねん。車の販売の営業職なんやけどな。受かったらそこへ行こうと思うんや。もし、不採用やったら、店長に頼んでみようかな」
 飛沢は珍しく言葉に元気がなく、弱気なところを見せた。
「面接だけか」
「いいや、筆記試験もある。大卒しか採用せんところやし、給料もけっこうええみたいやで」
「それやのに遊びに出かけて、ええのんかあ」
「今ごろ何を言うてんのや、大丈夫やて」
 飛沢はいつものように大きな声で笑った。


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2011.04.14 / Top↑
 十時からはじまったドラマを、他愛のない会話をしながら三人で見ていた。十一時五分ほど前に次週の予告も終わり、夏樹が一番に立ち上がりテレビを消した。
「さあ、そろそろ行きましょか」
 その掛け声のような言葉に飛沢と石田も立ち上がった。部屋を出たところで、近くのお好み焼き屋に飲みに行っていた小田君が帰って来た。
「今から行くのかい。気ぃつけて行ってらっしゃい」
「おぉきにぃ、行ってきます」
 飛沢の車はスカイライン。どのタイプなのかは覚えていない。と言うより夏樹は車にはまったく興味がなく、車種は分かるがその次に来る、GTとかEXって言う車のタイプなどは全く分からないのだ。いまだにタイヤのサイズ表示に使われている三種類の数字の意味が覚えられない。汽車とか電車は少々詳しいのだけれど。
 最初は飛沢が運転をした。助手席には夏樹が座り、石田は後ろに座った。まずは京都東インターチェンジへ向かう。
 政令指定都市である京都は人口こそ多いが、大きな企業より、どちらかと言うと地場産業の中小企業が多い。その当時は市営の地下鉄もなかったし、国鉄の京都駅から西北へ伸びる山陰本線は非電化路線だった。市内の主な交通手段は京都市営バスと一部に民営路線バスが走っていた。しかし十一時も過ぎるとバスの本数は減り、道路を走る車もタクシーが多く、道路の交通量はどこも少なかった。日中の移動よりもかなりはやく目的地へ着くことができそうだ。
「空いてるなあ。もうインターまで来たでえ」
「そやなあ、高速も空いてると楽でええねんけどなあ」



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2011.04.17 / Top↑
 遅い時間とあってか東名高速道は比較的空いていた。乗用車より大型トラックやバスの台数が多いように思う。飛沢は時速百キロを少し過ぎた速さで、快調にドライブを続けた。
「五十キロほどごとに運転を交替しようか」
 助手席の夏樹が言った。
「そやな、まあその時の状況しだいやな。まだ、ぜんぜん大丈夫やで」
 助手席に乗るものは、居眠りなどしてはいけない。ましてや長距離を運転する場合は、助手席に座るものが出来るだけ運転手に話しかけ、運転手が眠くならないようにしなければならない、と思っている。今回の長距離運転が、深夜の移動となると、なおさらである。京都東インターチェンジから高速道に入ったころには、日付が変わろうとしていた。
 夏樹は初めての深夜の高速道路を、乗用車の助手席という特等席で体験できるのだから、眠くなんかならないと思っていた。しかし、それも深夜の一時を過ぎると、瞼が自然に閉じてしまいそうになってきた。どんなに仲の良い友人であっても、長時間の会話を続けるには、新たなネタを探し、そのことについてお互いに盛り上がるような内容でなければ、すぐに会話は終わってしまうだろう。
 ほんの少しでも沈黙が続くと、夏樹の瞼が自然に閉じてしまいそうになるから、睡魔を堪えて何か新たな会話のネタを考えていた。
「そろそろ替わろうか」
「まだ、大丈夫やで。夏樹、眠いんやろ、寝てもええで、俺は運転をするのが好きやから、隣で寝られてもなんともないさかい」
「いやいや、そんなわけにはいかんやろ」
「ほな、俺が夏樹と替わろかあ」
 後から突然、石田が言った。出発してから初めて彼の声を聞いたような気がする。


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2011.04.19 / Top↑
「石田、お前、寝てたんとちゃうの」
 夏樹が驚いた表情で言った。
「少し寝たけど、高速を走るとタイヤの音がうるさいなあ、すぐに目が覚めて、ちゃんと寝られへんもんやで」
 石田は後ろの席の真ん中に座り、運転席と助手席のシートに腕を掛け、前の方に乗り出すようにして話をした。(その当時は後の席まではシートベルトの義務化はされていなかった)
 飛沢は名古屋インターチェンジの近くまで運転を続け、トイレ休憩をするために入ったパーキングで石田と運転を替わった。夏樹は睡魔に勝てず先に後の席で仮眠をとることにした。後ろの席で横になり目を閉じるとすぐに眠りに入った、しかし石田が言うように頭のすぐ下にあるタイヤの回転音が耳に付き、三十分ほどで目が覚め寝ているような、寝ていないような時間が過ぎて行った。
「おや、もう休憩するんか」
 夏樹は突然の車の音の変化に気づいて目を覚まし、起き上がった。夢と現実の時間を過ごしていると、状況の変化に敏感な反応をしてしまう。
「さっきのパーキングでトイレに行くのを忘れててん。急におしっこを我慢できなくなってき・・・」
 車を止めると話もそこそこに石田は飛び出して行った。
「飛沢、いま何時や」
「一時を少し過ぎたなあ」
「真夜中やなあ。けどパーキングには、それなりに車が止まってるんやなあ」
「長距離トラックが多いなあ、大きなトラックばっかりで乗用車は少ないなあ」
「今度はお前が後で寝たら」
「いいや、大丈夫や。それに俺の車やろ、なんとなく隣で見ていたいんや」
「そうか、次は俺が運転するさかいに、その時は隣で寝ててもかまへんからな」
「おう、サンキュウー。気にせんでええから、一晩ぐらい寝んでも、どうっちゅうことないから」



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2011.04.21 / Top↑
「おっ、石田がトイレから出てきたな」
 飛沢がそう言うと、上着の胸ポケットから煙草を取り出し、火を点けた。つられて夏樹も煙草を銜えた。それに気が付いた飛沢が自分の持っていたライターに火を点け、夏樹の銜えている煙草に近づけた。
「おう、サンキュー」
 二人は大きく煙を吸い、ほんの一瞬だけ息を止め、ほぼ同時に大きく煙を吐き出した。たちまち車の中は二人が吐き出した煙が充満してしまった。
「ごめん、ごめん。もうちょっと俺が運転するから、飛沢は寝ててもかまへんで」
「大丈夫やて、時間はまだまだあるから、ゆっくり行こうか」
 運転をしている石田とその隣にいる飛沢は大学時代の話をはじめた。夏樹にはわからない会話だ。聞いていても仕方がないので、時々見える遠くの明かりをなんとなく見たり、台数は少ないが周りの車を見たりしていた。追い越した車を見ながら後方を見ると、ずっと後のほうから乗用車の上に四角いものを載せた車が近づいてきた。ライトが眩しく車体とその上に載っている四角いものが一体となり、シルエットでしか確認できない。
「あれ、もしかして後から来るのってパトカーとちゃうか」
「ええ、ほんまか」
 先に反応したのは石田だった。バックミラーを除き込むように見た。その後すぐに飛沢が後を振り向いた。
「どれや。赤色灯は点いてへんで、違うんとちゃうか」
「けど、あの形はパトカー見たいやけどなあ」
「とりあえず、百キロちょうどで走るわ」
 少しづつパトカーらしき車が近づいてきた。やはりパトカーにそっくりのシルエットである。飛沢ももしかしたらパトカーの可能性があると言った。彼らの車のすぐ後ろまで近づいてきた。





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2011.04.24 / Top↑
「おかしいなあ、似てるけど、なんか違うみたいやぞ」
「暗いし、ライトが眩しくて、ようわからんなあ」
 飛沢は後ろの座席に乗り出しそうになり、目を凝らして見た。
「あっ、違うでこの車」
 夏樹が言った。
「ほんまや、車はスカイラインやなあ。高速道路のパトカーとして使われることが多いんや。けど上に載ってるのは赤色灯やのうて、タイヤやんか。なんでタイヤなんか積んで走ってのんや、紛らわしいヤツやなあ」
「変なの、乗用車の上にタイヤなんか積んで走らんやろ」
 夏樹はゆっくりと前向きに座り直して言った。
 飛沢が車の説明をしている間に、タイヤを積んだ車はゆっくりと追い越して行った。
「だいたい、こんな時間に赤いのを回さずにパトカーが走ってるわけがないやんか」
 石田は安堵したようだ。いつもより声が大きかったようにおもう。

 足柄サービスエリアに入るころには、進行方向の東の空が明るくなり、やがて雲がなく青く濃い色の空に太陽が昇ってきた。今日は良い天気になりそうだ。
 横浜のインターチェンジまでは六十キロメートルほどしかない。このまま走り続けるとあまりにも早く着いてしまう、この足柄サービスエリアでゆっくりと休んで時間の調整をすることにした。
「まずはガソリンをいれようか」
 飛沢がガソリンスタンドへゆっくりと車を進めた。それからトイレに近い所に車を止め、まずは毎朝のお決まりの用を済ませ、洗面所で顔を洗った。
「あっ、しまった、タオルを持ってくるのを忘れた。まあええか」
 洗った顔が濡れたままトイレを出て車に向かい、バッグからタオルを出して拭いた。
 売店に行ったがもちろん店は開店前だ。自動販売機で缶コーヒーを買いベンチに座り、ポケットから煙草を取り出し、火を点けた。三人はベンチに一列に並び、煙草を吸った。吐き出した煙が朝陽に照らされながらゆっくりと空に昇っていった。






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2011.04.26 / Top↑
 六時頃に横浜インターチェンジを出た。地図を頼りに桜木町の横浜ユースホステルを目指す。国道十六号線を二十キロほど走ると着けるはずだが、初めての道だし、京都とは比べ物にならないほどに交通量が多いことだろうと思っていた。
「朝の早い時間やからか、あんまり車は多ないなあ」
 足柄サービスエリアから運転をしていた飛沢が言った。助手席には夏樹が座り、その手元には地図を広げていた。
「このまま国道十六号線を標識の『横浜』を目指していけばええみたいやで」
「夏樹の言う通りに運転するさかいに、ちゃんと案内してや」

 ここへ来る前に予想していたよりも簡単に横浜の市街地に入り、桜木町の駅を見つけ、この日に泊まるユースホステルも見つけることが出来た。しかし、車を止める駐車場が見つからない。いつの間にか関内駅の標識が見てきた。そして横浜球場が見えた。球場の横に車を止め、フェンス越しに中を覗いたが、あまり良くは見えなかった。綺麗な緑色の芝生だけが印象に残っている。
 プロが使う球場を見るのはこの時が初めてだった。その当時は大洋ホエールズ(現、横浜ベイスターズ)の本拠地として使われていたはずだ。関西生まれの小生もご多聞に漏れずタイガースファンではあるが、残念ながらいまだに甲子園球場には行ったことがない。
「横浜球場はここやから、桜木町は・・・、あっちやな」
 球場のフェンスの横に止めた車に戻りながら、手に持った地図を夏樹は見ていた。
「あれって、有料駐車場とちゃうか。
 桜木町に戻っているだろう道沿いで、石田が大きな声で言った。



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2011.04.29 / Top↑
 ようやく駐車場に車を置き、桜木町駅で電車に乗ったのは八時ごろだった。約束の時間まで一時間となった。三十分ほどで上野駅には着くと岡本は言っていた。そして、必ず横浜で東海道線に乗り換えるようにとも言っていた。
「京浜東北線、上り大宮行きがまもなく到着します」
 ホームに上がると構内アナウンスが聞こえてきた。この電車に乗って横浜駅に行き、乗り換えればいいのだと、その時は思った。青い色の京浜東北線の車両に乗ると、乗降口の上にある路線図が目に入った。鉄道好きの人間はなぜかそういうものが気になり、すぐに見てしまう。見なければ良かったのだけれど。
「京浜東北線って上野を通って大宮まで行くんやんか。ほな横浜で乗り換えんでもこのまま乗ってても上野に着くやん」
 このままこの電車に乗っていても上野には着くのだが、関東にお住まいの方はもう気がつかれたであろう。横浜駅から東京駅までは東海道線も京浜東北線もだいたい同じ場所を走っているが、停車する駅が違うのだ。
 東海道線に乗ると横浜駅から四駅目が東京駅だ。所要時間は二十六分。京浜東北線では十三駅目が東京駅で、所要時間は四十二分もかかる。現在の時刻表を調べてこの時間差である。三十年近くも前ならば所要時間はもっと多かったかもしれない。このことに気がついていなかった夏樹は、面倒な乗り換えをせずに、このまま京浜東北線に乗ることを選択し、横浜駅では下車しなかった。
「あれ、今の電車の行き先表示は東京って書いてなかったか」
 横浜駅を出発してしばらくしてからのことだった。
「ううん、そうみたいやなあ」
 飛沢があやふやな返答をした。



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2011.05.06 / Top↑
夏樹たちが乗っている電車のすぐ横を緑色とオレンジ色の電車が、勢いよく追い越して行った。明らかに隣の電車のスピードが速いのは、夏樹たちが乗っている電車が駅に停まるために速度を落としていたからだ。まもなく夏樹たちの乗った電車は駅に停まったが、さっき追い越して行った緑とオレンジ色の電車はその駅には停まらずに走り去って行った。
「どういうことなんやろ。今の東京行きって書いた電車はなんなんや」
 乗降口の上にある路線図をじっくりと眺めた。山の手線の円を中心に四方八方へ伸びる線路と、数えきれないほどの駅名が書かれている。そして京浜東北線と東海道線を見つけた。その時、二つの路線は横浜から東京までは同じ所を走るが、停まる駅が大きく違うということに、初めて気がついた。
「そういうことか」
 夏樹は一人で頷いてしまった。
「次の東海道線が停まる駅は、川崎か。まだしばらくかかるなあ」
 あと二駅で川崎駅につくころだった、また緑とオレンジ色の電車が勢いよく追い越して行った。東京行きと書いてあった。
「飛沢、石田、次の次の川崎で降りるで。ほんで東海道線に乗り換えるで」
「なんでや」
「このまま、この電車に乗ってたら、約束の時間に間にあわへんかもしれんのんや」
 川崎駅で東海道線に乗り換えるために降りたが、次の電車が来たのは十五分後だった。東京駅に着くまでに青い電車を一両だけ追い越したようだ。結局のところ東京駅から上野まで乗った電車は、最初に乗っていた京浜東北線だったようだ。
 なんとも間の抜けたことをしてしまった。




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2011.05.09 / Top↑
 上野駅で岡本たちとの待ち合わせ時間に十分ほど遅れてしまった。駅に着いた時間は約束の時間前だったが、ホームから駅の外へ出るのに時間がかかってしまった。京都とは比べものにならないほどの人の多さと、駅の広さで、さすがの夏樹も迷ってしまい、遅れてしまった。
「おまたせ、岡本さん。遅くなってしもうて、すんません」
「こんにちは、私たちも、いま来たところだから」
「ご無沙汰してます、夏樹さん」
 岡本の後ろから、タナカが笑顔で迎えてくれた。彼女たち二人は社会人になって初めての一人旅で奈良に行った時に知り合った。浜名湖と今日で三回目となる。
「中学時代からの友達でこっちが石田で・・」
「こんにちは、飛沢です。夏樹の彼女はどっちの女(ひと)なんや」
「彼女・・・?」
 岡本が少し微笑んで、不思議そうな顔をした。
「飛沢、何を言うてんねん、誰もそんなこと言うてへんやろ。困ったはるやんか」
「すんませんねえ、こいつがお二人のことを話しする時は、すごく楽しそうやし、美人さんやて聞いてるさかいね、たぶん、どちらかが彼女なのかなあっと思って。それともお前、彼女やなかったら、もしかしたらどちっかの人が好きなんとちゃうかあ。予想通りの美人さんやもん」
「おまえなあ、初対面の人の前で、あること、ないことを、ようそんだけしゃべるなあ」
「あることって、やっぱりどっちかの人が好きなんやな」
「おもしろい人ですね、お二人の会話は漫才を聞いているみたいですよ」
 笑顔でタナカが言った。すると飛沢が左手で頭を掻いて二回頭を下げ、笑いながら「おぉきにぃ」と言った。


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2011.05.12 / Top↑
「さて、どこへ案内しましょうか」
 夏樹と飛沢の漫才のような、つまらない会話を遮るように岡本が言った。ほんの少しの沈黙のあとに夏樹が声を出した。
「浅草の雷門って描いた提灯があるところに行って見たいんですけど」
「浅草の浅草寺ね。東京タワーは見なくていいの」
 岡本が得意気に言った。
「ううん、ここへ来る前に、電車からちょっとだけ見えたから、いいかな」
「はい、俺は原宿の歩行者天国に行ってみたいなあ」
 飛沢が割り込むように前に出て、勢いよく手を上げて発言した。
 高速道を走っている時からずっと晴天が続き、気温も上がってきた。上着として着ていたセーターを脱ぎ、肩から掛けて歩いた。上野駅から地下鉄に乗り三つ目の駅が浅草で、そこからは歩いてすぐに着くのだとタナカが言った。
 夏樹の個人的な意見としては、いわゆる大都会東京というところに興味はなかったようだ。そして東京の観光地として最初に頭に浮かんだのが、雷門と描かれた提灯だった。
「結局、東京って全国から人が集まって来て、その二代目、三代目といった人が多いやろ。そやのうて、昔からの東京と言うより、江戸的なところに興味があるなあ」
「じゃあ、浅草周辺だよね」
 岡本が言った。
「いや俺は大都会東京やな、京都なんかよりも、ずっとトーカーイーなところがいいじゃん」
「飛沢、なんや今の『・・じゃん』は。思いっきり変やで。それとも彼女たちにうけようとしたんか、今の笑い方を見ると、スベッたな」
「うるさいなあ、お前に言われとうないわい」
 また岡本とタナカが苦笑した。さっきよりは受けたようだ。



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2011.05.16 / Top↑
 地下鉄に乗り浅草駅で降りた。銀座線は東京都内を走る多くの地下鉄路線の中では最も古く、日本で最初の地下鉄路線だ。ホームや改札周辺は天井が低く電燈も少し暗かった。柱も鉄骨がむき出しで昭和初期の歴史を偲ぶことができた。(あくまでも三十年ほど前のことで、現在は改装されているのかな)
 地下から地上に上がり浅草寺までの道程にスクランブル交差点があった。当時、京都にはまだなかったようにおもう。信号待ちをしていた場所の対角線上の場所へ渡っても良いのだから、歩行者用の信号が青になると一斉におもい思いの方向へ歩き出した。関西人は目の前の信号が青になるのを待って渡るのではなく、交差する道路の信号が赤になるのを見て渡りはじめる人が多い。夏樹もその一人だった。
「夏樹、どの信号が赤になった後に、俺らの信号が青になるのか、分からへんなあ」
 飛沢も夏樹と同じことを考えているようだ。
 全ての方向から車が進入しなくなり、交差点上には何もなく、静寂の世界となった。その時間はほんの一瞬で終わり、歩行者用の信号が一斉に青になると、目の不自由な人のための音楽が流れ、広い交差点は人が埋め尽くした。周りの人たちの歩くペースに圧倒されてぶつかってしまいそうになり、うかうかしていると岡本とタナカにおいてけぼりにされてしまいそうになった。
「今の信号が青の時に流れてた曲って、『とうりゃんせ、とうりゃせ』とちゃうか」
 飛沢が岡本たちの方だけを見ながら夏樹に言った。
「あつそうか、どっかで聞いたことのある曲やなあとおもたんや。おい、急がんと青が点滅してるで。あれ、石田はどこへ行ったんや」
 夏樹は後ろを見たが石田の姿を確認することはできなかった。


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2011.05.19 / Top↑
 夏樹と飛沢は小走りで横断歩道を渡り対岸の歩道へ辿りついた時、目の前に岡本とタナカとそして石田が立っていた。その石田の後ろに『雷門』と描かれた赤い提灯が見えた。
「これやこれ、赤い提灯。雷門なんや」 
 五人は参道である仲見世へと入って行った。多くの参拝客で賑わっていた。雷おこしや人形焼といった東京土産の店と、扇子や手ぬぐいなどの食べ物以外の土産ものの店が参道の両脇に並んでいた。その先には本堂があり、その手前には線香の煙がもくもくと立ち上がっていた。参拝客はその煙を頭に掛けるような仕草をしていた。頭がよくなるのかなあ、信じるものは救われるのだ。僅かだけれど夏樹は江戸情緒を味わった。
                 
                       雷門

 五人は本堂の前で横一列に並び、御賽銭を入れて手を合わせ、それぞれに祈った。
「飛沢は何を拝んだんや」
「はやく、可愛い彼女ができますように、に決まってるやろ」
「あれ、こないだ俺に紹介した子はどないしたん」
「ああ、あいつはただの友達や、彼女やないで」
「ほんまかいな、ふられたんやろ」
「ちがうわい。おまえは何を頼んだんや」
「おれかあ、悔しいけどお前と一緒や」
「ところでおまえは、どっちが好みなんや」
 飛沢は夏樹の耳元で小さな声で言った。
「あほか、こんなとこで何を言うてんのや」
「そやかて、なんかええなあって言うてへんかったか」
「そやけど、ここで言わんでもええやろ」
「協力をするから、そのためにはどっちが本命なんか聞いとかんと、あかんやろ」
「そうかあ、おぉきに。ええとなあ髪の長いほう」
 夏樹はさらに小さな声で飛沢の耳元で言った。


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2011.05.21 / Top↑
 夏樹と飛沢はこそこそ話をしながら、浅草寺の仲見世を雷門のある方へ歩いた。
「髪の長い方って、岡本さんか」
「おう、そうなんや、お前はどう思う」
「可愛い人やんか、なんかチャンスがあったら、後押しするさかいな」
「ああっ」
「さっきから二人で何をこそこそと喋ってんのんや」
 二人の後ろから石田の声が聞こえてきた。振り向くと岡本とタナカの間に石田が入り、三人がにこやかに微笑んだ。夏樹たち二人がこそこそ話をしている間に、三人は楽しく会話をしていたようなのだ。中学生のころから、石田は意外と抜け目のないところがあった。
「石田、なんでお前が彼女たちの間に入って歩いてんのんや」
 飛沢が言った。
「なんでって、お前ら二人で話をしてるさかい、残った俺と彼女たちが話をするのが自然とちゃうか」
「それはそうやけど、何で二人の間に入ってんの」
「人が多いやろ、ぶつからんように、気をつけて歩いてるうちに、たまたまこうなっただけやけど」
「そうだよ、なんだかお二人の中に入っていけなくて、石田さんに中学生の時の三人の出会いの話を聞いていました」
「おい石田、何を言うたんや、変なことを言うてないやろなあ」
 飛沢がプロレスの技を真似して、石田の首をヘッドロックした。
「言うてへんて、変なことなんか何もしてへんやろ、なんか心当たりがあんのんか」
「いや、ない」
 飛沢はそう言うとヘッドロックをやめた。
「三人とも仲がいいんですね。浅草寺のお参りは終わったから、次は都会らしい東京へ行きましょうか」
 岡本は立ち止まり、大きな声で言った。


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2011.05.23 / Top↑
「おれ、新宿に行ってみたい。お昼のテレビで新宿アルタ前って、よく出てくるんやけど、そこに行ってみたいんやけど」
 今まであまり発言しなかった石田が、大きな声で言った。
「新宿に行って原宿に行きましょうか。じゃあ地下鉄で移動した方がいいわね」
 岡本がすかさずに言った。
「そうすると東京タワーが見えないよ。いいのかな」
 タナカが言った。
「あっそうか、でも原宿から横浜へ行く時に少しだけ見えるんじゃない」
「東京タワーは、見なくてもかまわへんじゃん」
「飛沢、無理して標準語を使うな、思いっきりおかしかったで」
「標準語は難しいじゃん」
「やっぱりおかしいわ。やめとき、ぜんぜん似合わへんし、どっこから見ても関西のヤンキーの風貌やし。その顔からちゃんとした標準語が出てきたら、ものすごい違和感やわ」
「夏樹、それはどう言う意味やねん、俺がそんなにカッコエエっちゅうことなんか」
「本当に面白い人たちですね。なんだっけ、大阪のお笑いの会社に入ればいいのに、ねえ」
 タナカが岡本に同意を求めるように言った。
「いやいや、あそこにはもっともっとおもろい連中がいっぱいいてるから、この程度では話になりませんで」
 石田が微笑みながら、タナカの方だけを見て言った。
「夏樹、石田の今の様子、見たか。なんか妖しくないか」
 飛沢が夏樹の耳元で他の人たちにも聞こえるように言った。
「妖しいって、何が妖しいねん」
 石田は男二人の間に割って入って言った。

 浅草から新宿まで、どの路線に乗り、どこで何回乗り換えたのか覚えていないが、地下から地上に上がった時はビルだらけの所に出てきた。そしてビルしかないのに,
空がとても広く感じたことを覚えている。



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2011.05.26 / Top↑
「なんでやろ。ビルばっかりやのに、随分とすっきりと空が見えるし、広く感じひんか」
 夏樹は立ち止まり、空のほうばかりを見ていた。
「今日はとても天気が良いから、雲ひとつない青空だね。東京では珍しいんじゃないかなあ」
 岡本が少し空を見上げて言った。
「そやけど、道幅は同じぐらいやけど、あきらかに京都の繁華街よりも高いビルばっかりやのに、空がすごく広いとおもわへんか」
「そうかあ、言われて見ればそうかもしれへんなあ」
 飛沢も空を見上げて、その場でぐるりと一回りした。
「電柱と電線がないさかいとちゃうか」
 石田が静に言った。
「あっそうかあ、それやなあ、ぜんぜん無いもんなあ、電線も電柱も」
 大発見をしたような大きな声で夏樹は微笑んだ。
「電柱と電線がないだけで、こんなに空が広く見えるんや。京都の四条通りなんか、電線だらけやもんなあ。あれ、ほな電線はどこにあるんや」
「地下に埋められているんじゃない」
 タナカが言った。その一言で夏樹は一人で喋り始めた。ビルにも地下の部分が何階も作られ、それぞれを結ぶ地下道があり、下水に上水、ガスに電気までが地下に埋まっている。そして何本もの電車が走っているから地下鉄の駅がすごく深いところにもあり、長いエスカレーターに乗ることもある。
「東京の地下を断面図にしたら、面白いやろなあ。京都は難しいらしいで、いまだに地下鉄がないのは、どこかを掘れば何かが出てくるらしいわ」
 (阪急電車は、市内の一部分が地下だった。現在は市営の地下鉄も南北と東西に走っている)
「何かってなんなの」
 岡本が言った。




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2011.05.28 / Top↑
夏樹は一人で喋りまくっていることなど全く気にしていなかった。それどころか岡本が話しの内容に少し興味をもち、質問してくれたことでますます調子に乗り出した。
「遺跡」
「遺跡?」
「それが出てくると、工事を中断して、調査をしてからやないと前に進むことは出来ひんらしいわ。どこを掘っても何かの遺跡が出てくるんやて」」
「何かって、もしかしてお化けかと思っちゃった」
 タナカはなぜか微笑みながら言った。
「まさか、あほなことを言わんといてや、京都の街を掘ったらお化けが出るなんってことはないやろ」
 飛沢は振向き、後ろにいるタナカを見た。そして後ろ向きに歩きながら言った。
「だって、出るって言ったら、お化けしかないじゃない」
「お化けが好きなんですか、タナカちゃんは」
 飛沢は誰とでもすぐに友達になれる。馴れ馴れしいと思う人もいるかもしれないが、たいていの場合、飛沢のペースに飲み込まれていく。
「ううん、お化けとか、妖怪とか、オカルトとか恐いものは大嫌い」
「そうでもないんじゃない。あなた、彼氏と映画を見にいくと、いつも恐い映画じゃん」
「それは、その・・・」
「恐いからと言う理由で、くっつきたいからやんなあ。キャーとか言いながら」
 飛沢はタナカをからかった。
「ええ、彼氏がいたはるんですか」
 石田が立ち止まり、小さな声で言った。
「お化けと言えば、ちょっと面白い話しを思い出したわ」
 夏樹がそう言うと、タナカが両耳を手で覆うって隠した。
「なになに、聞きたい。わたしはそういうの好きなのよ」
 岡本は興味津々のようだ。



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2011.05.30 / Top↑
 去年の夏に、会社の仲間と夕涼みドライブに出かけた時のことを、夏樹は話しはじめた。京都の夏は湿度が高く、とても蒸し暑いところで、クーラーなどはあまり普及していなかったころである。京都市内の北部にある池の周辺で幽霊が出ると言う情報を、夏樹よりひとつ年上の先輩が仕入れてきたのだ。男女十人で二台の車に分乗し、出かけた時のことだ。
「幽霊が出るって言われてる池の周辺は、街頭も少ないし、けっこう暗かった。車を止めて外へ降りて、しばらくは誰も喋らずにキョロキョロしてたんや」
「その時、フワーッと出て来たんか」
「きゃあ、飛沢さん脅かさないでよ」
 タナカが両手で耳を押えて下を向いていた。
「いいや、いつまで待っても、それらしいものを見ることは、誰もできひんかったんや」
「なんだ、つまんない」
「岡本さん、話はまだ終わってませんで」
「じゃあ、それで」
 岡本は嫌がるタナカの両肩を掴み、微笑んだ。
 夜の八時を過ぎているのに、この日も風もなく蒸し暑かった。一人の女が喫茶店に行って、かき氷を食べに行くことを提案した。二台の車に乗り込みしばらくすると、緩やかなカーブの両側が切り立った崖になり、街頭の灯りが全くとどかない道になった。
「月も出てへんし、真っ暗やな」
 前の車に乗っていた夏樹は、進行方向左の方を見て言った。その時、後ろの車のライトが消えた。それにつられるように夏樹の乗っていた車の運転手も速度を落とし、ライトを消した。
「なにぃ、あ、れ・・・」
 一人の女が悲鳴のような声で言った。その女が指差す方を見ると、白いものがフワフワと流れるように動いていた。車に乗っていた五人がほぼ同時に「なんや、あれわ」と叫んだ。運転手はすぐに車のライトを点けた。



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2011.06.02 / Top↑
「きゃあ・・・やめてよ」
 タナカが大きな声を出し、両手で耳を押えてその場でしゃがみこみそうになった。
「ついに出たな、妖怪」
「飛沢、妖怪はでえへんで」
「それで、本物の幽霊だったの」
「車のライトの先には、前ボタンを留めずに、マントのようにひるがえる白衣を着たおじさんが、ライトも点けずに自転車に乗っている姿があったんや。その人の横顔を見ながら、ゆっくりと前に進みました。おしまい」
「白衣を着た、おじさん・・・。それが幽霊の正体なの」
 岡本の顔から笑みがなくなり、期待がはずれ、大きなため息をついた。
「まあ、幽霊なんちゅうもんは、大体だがそんなもんや。暗いところで、恐いと思う心が、柳の木を幽霊に見間違えてしまうんよ」
 石田が評論家のような口ぶりで言った。映画の仕事を目指したことのある石田は、様々な本を読んでいた。そのときの本から獲た知識なのだろう、時々すごく物知り人に見える。
「岡本さんって、お化けとか幽霊とか、そういうものが何で好きなんですか」
「えっ、だって面白いじゃん。私はね、幽霊、妖怪、それからユーホーに宇宙人なんていうものはね、信じていないの。あんなものは全て、人間の見えないものへの恐怖心をあおるために作り出したものなのよ。恐怖心をあおることで、真面目に生きていかないと、恐い思いをして、もしかすると命も奪われるよって、宗教的な戒めの発想だと思っているの。見たって言う証言が、どれもがとても曖昧で、本当にいるのなら、この目でしかと見てみたいのよ。ぜんぜん恐いとは思わないわ」
 岡本は他の四人よりも少し前に出て歩いていた。


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2011.06.04 / Top↑
「なんか、難しい話やなあ。要するに岡本さんは、強い人なんとちゃうかなあ」
 飛沢は眉をひそめるような表情をした。
「強くはないわよ。ただね・・・私の誕生日はね、六月六日なの」
「あっ、オーメンやね」
 石田が大きな声で言った。その声にタナカが両手で耳を押えて、飛沢の背中に顔をうずめた。微かに石田の顔が曇ったようにみえた。

 新宿の歩行者天国を少し歩きながら、他愛のない会話を続けた。いつの間にか夏樹と岡本、その後から飛沢と石田とその間にタナカが並び会話をしながら歩いていた。
「新宿のアルタ前に着きましたよ」
 岡本が振り返り大きな声で言った。
「思ったより狭いところなんやな。もっと広い場所に大きなテレビ画面があるのかと思ってた」
 石田は肩幅より少し広く足を広げ両手を腰に置き、ビルの壁に映し出されている映像を見上げて言った。
「じゃあ次は原宿へ移動しましょうか」
 岡本はなぜか楽しそうだ。
 今度は山の手線に乗り二つ目が原宿駅だ。駅を出て表参道へは横断歩道を渡る。道路の上を通る時に東京にしてはビルが少なく、空がより広く見えるところと、木々が茂る林が見えた。夏樹があそこは何かと聞く前に、変わった建物があるあたりは代々木の国立競技場で、木々が茂る林は明治神宮だと岡本が教えてくれた。
「それでね、あっちがNHKよ」
                    原宿駅

「へえ、なんかこの辺は高いビルが少ないし、緑がいっぱいあるし、東京やないみたいやなあ」
 小走りで飛沢は夏樹に近づいた。
「夏樹、なんか、ええ感じなんとちゃうか」
 飛沢が夏樹の耳元で話した。
「そやろか、ほんまにそう思うかあ」
 夏樹も飛沢にだけ聞こえるような小さな声で言った。



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2011.06.06 / Top↑
 二人の男が身体を寄せ合い、小声で会話をしている状況は、岡本とタナカの女性陣には異質で不愉快な気持ちにさせたようだ。岡本が大きな声で言った。
「あなたたち何やっているの、何か変よ」
「ごめん、ちょっとこの後の相談をしてただけやから」
「夏樹がな、あんたのことがな・・・」
 突然の飛沢の発言に驚き、背中から飛びつき口を押えた。
「おまえ、何を言いだすんや」
「ええ、私、私がどうしたの」
                表参道2

                       表参道1

 原宿、表参道は、都会の中のちょっと大人びた空間、といった印象だった。行き交う人も多くなく、変な表現だが古き良き都会とでも言うのだろうか。いままで思い描いていた東京とは違う空間だった。
 原宿駅から三百メートルほどの区間が表参道の歩行者天国になっていた。再び駅に向かうころには、ちょうどお昼時となり飛沢は腹が減ったと大きな声で言った。
「何を食べましょうか」
「岡本さん。何ぞ、東京らしいものがエエのとちゃうかなあ」
「東京らしい食べ物って何かしら」
「江戸っ子好みのものとか・・・」
「私も彼女も東京人じゃないし、もちろん江戸っ子でもないしねえ」
 そのときだった夏樹が立ち止まり、ビルの前に小さな看板を見つけ指を指した。
「あれ、京風お好み焼きって、どんなんやろ。お好み焼きに京風なんてあったかいなあ」
 ビルの一階に洋食を出すような雰囲気の店があり、その前の小さな看板に『京風 お好み焼き』と縦書きされた看板があった。
「へえ、おもしろそうやなあ。東京で京風のお好み焼きを食べる。ちょっと興味があるなあ。入ってみいひんか。岡本さんたちは、どないです」
 飛沢がその小さな看板に駆け寄り言った。



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2011.06.10 / Top↑
 京風お好み焼き屋の店内は、関西のそれとは異質の内装で店の外から見た様子と同じく洋食店の趣だった。
「さてと、何のお好み焼きにしようかな」
「飛沢、迷うほど種類がないのとちゃうか。俺はミックスにしようかな」
「そうやな、俺もそうするわ。岡本さんとタナカさんはどうします」
「わたしは、ブタ」
「わたしは、イカにしようっと」
 石田もイカを注文した。

 京都では客の目の前に鉄板があり自分で焼く店がおおいのだが、この店は奥の厨房で注文のものを焼きテーブルに持って来てくれる。最初に来たのはブタの
お好み焼きだった。
「ブタいりです」
 若い店員が笑顔で岡本の座る前に置いていった。そのお好み焼きを見た男達三人は、黙ったまま顔を見合わせた。
「イカです」
 さっきと同じ店員が両手に一枚ずつの皿を持ってきた。タナカと石田の座る前に置いていった。
「やっぱりおなじやな」
 飛沢が石田の前に置かれたお好み焼きを見て言った。夏樹も同じようにそのお好み焼きを見て頷いた。
「石田、どうや、味は」
 まだ鰹節がゆらゆらと動いているイカ入りのお好み焼きを、箸で切り分け石田が口に運んだ。
「おいしいで、けどちょっと、なんか違うなあ」
「ミックスです」
 飛沢と夏樹は自分から手を伸ばして皿を受け取り、すぐに箸を割り切り分け口に運んだ。
「ううん、まあ味はそれなりかな、けどやっぱり薄いなあ」
 飛沢は口の中に入っているものが熱いのを我慢し、言葉が途切れ途切れになっていた。夏樹も味はともかく、京都のものと比べて薄いお好み焼きであることを言った。
「これで値段は京都の店よりも、ちょっと高いんやなあ」
 石田も同じことを言った。



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2011.06.12 / Top↑
 昼食を終え会計をする時にどこが京風なのか聞こうと飛沢が言ったのだが、それを聞いたからといって、どうなるものでもない。店員のほとんどはアルバイトだろうし、まともな答は返ってこないだろうから、聞かないことにしようと石田が言った。
 店を出たところで石田がNHKを見てみたいと言い出したので、歩いてNHKへ向かい、さっと見学をして出てきた。歩いてきた道を原宿の駅へ向かおうとすると、岡本が、そっちじゃないよとNHKの建物を右手にそのまま歩き出した。すぐそこに渋谷駅があると言うのだ。地図で見ると原宿駅から渋谷駅は一キロ少々しか距離がなく、戻るより行ったほうが近いようだ。
 健康のために最寄りの駅の二駅手前で降りて歩く、という人が多いようだが、二駅手前から歩いても三キロほどしかないということだ、いい運動になるわけである。
 
 余談になるが、現在の私の住む地域で二駅手前の駅で降りると、七キロはある。さらに最寄りの駅までは六キロほどある。健康のために歩ける距離ではない。さらに余談だが最寄りの駅までの道程に信号は三ヵ所しかない。とても田舎なのだ。

「渋谷駅と言えば、忠犬ハチ公の像があうるんとちゃうかいなあ」
「夏樹さんの言うとおり、待ち合わせの場所として一番人気らしいよ」
「ほな、そのハチ公の像が見れるんやね」
「見れますよ」
 タナカが言った。その時夏樹たち三人の男達は、タナカの顔をいぶかしげに見た。
「今の喋り方、関西弁になっていたよ」
 岡本が夏樹たち三人の男達より先にタナカに言った。
「ええ、そうだった。うつったのかなあ、わたし、影響されやすいから」
「そうね、いろいろと影響されやすいからねえ」
 今度は岡本がタナカをいぶかしげに見た。


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2011.06.16 / Top↑
 渋谷駅の周辺は原宿よりビルが林立し、多くの人が往きかっていた。駅前には犬の像が誇らしげにお座りをしていた。
「これが忠犬ハチ公の像なんや、意外と小さいなあ」
 夏樹は駅前にいる多くの人たちの間からハチ公の像を見つけ、思わずカメラのシャッターをきった。

              ハチ公

 渋谷の駅から山の手線に乗り品川駅から東海道線に乗り換え、今日の宿がある横浜へ向かうことにした。その途中、電車の中から東京タワーが見えるかもしれないと岡本が言った。進行方向左手のビルの隙間からもしかすると東京タワーが見えるかもしれない、もしかしたらであった。
 夏樹と飛沢は進行方向左側にある出入り口用のドアに寄りかかり、車窓を流れて行くビルとビルの隙間に目を凝らした。
「あつ、あれとちゃうか」
「飛沢、ほんまか、どこや」
「あれ、あそことあそこのビルの間に・・・、もう見えんようになってしもうたわ」
「ほんまに見えたんか、どこにも見えへんやんか」
 夏樹と飛沢がそんなやり取りをしているうちに、品川駅に着いてしまった。電車を降り跨線橋を渡り東海道線のホームへ向かった。下りの電車がすぐに入って来た。
「東京タワー、見れんかったなあ。飛沢はほんまに見たんか」
「う、ううん。たぶんあれは東京タワーやと思うけどなあ」
「そうか、残念やなあ」

 横浜駅から京浜東北線に乗り桜木町駅へ向かったが、ユースホステルに入るには少し時間が早かった。桜木町周辺を五人で散策し、他愛のない話をしていたが飛沢が突然、真面目な顔をして岡本に面と向かった。
「あのう、岡本さんには、いま彼氏はいたはるんですか」
「ええ、突然なんの話しですか」
 岡本が飛沢の顔をいぶかしげに見た。



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2011.06.18 / Top↑
「あっ、はあ。すんません、きょう初めて会って当然、こんなことを聞いたら、やっぱり失礼ですよねえ」
「そうですね、たぶん、そう思います」
「飛沢、あんまり先走るなよ、自分の気持ちは自分で伝えるから」
 そう言うと夏樹は飛沢の肩を軽く引っ張り、今まで飛沢が立っていたところに立ち、岡本に面と向かった。しばらくの間は何も言わず、黙って岡本を見ていた。岡本と他の三人は夏樹が何を言い出すのか、黙って見ていた。
「あの、前回の明治村に行ったときから、あなたが、心のどこかに入り込んでしまって、離れなくなってしもうて・・・、ほんで、きょう、また会えるということが、とても楽しみで・・・、ほんで・・・」
「夏樹、何が言いたいのんや、男やったらズバッと言わんかい」
「うるさいなあ、順番ちゅうもんがあるやないか」
「ごめんなさい」
「ええ、なんで謝らはんのですか、まだ何にも言うてませんけど」
「ごめんなさい。さっきの飛沢さんの質問から答えますね、いま彼氏と呼べる人はいません。でも好きな人はいます、片思いですけど」
「あっああ、そうですか」
 飛沢が夏樹より肩を落とし、落胆した様子だった。
「ごめんなさい、またやっちゃった」
「そうだよ、あなたの悪い癖だよね」
 タナカが小さな声で言った。
「そうなのよね、わたしの、こういうところがね、男の人に好かれないところなのだと思うのよねえ。人が考えていることが分かったつもりになって、勝手に自分で先に答を出して、とんでもないことを言ってしまうのよねえ」
「それで、男の人から少しずつ離れて行っちゃうのよねえ」
「よっ子、そこまで言わなくてもいいじゃない」
「だって、事実だもの」



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2011.06.20 / Top↑
 岡本とタナカは高校時代からの友人だということだ。お互いに旅と七十年代、八十年代のフォーク、ニューミュージックが好きで、知り合った高校の二年生の時から毎年恒例の浜名湖ニューイヤー・イブ・コンサートに参加していて、もう大常連なのだ。いわゆる無二の親友の仲と言って言いのだろう。
 しかし、そんな二人でも恋愛に関する価値観だけは意見が合わないのだと言う。女は優しく、経済力のある男の人を見つけ、結婚後は専業主婦として家庭を守るものという考えを持っているのは田中葉子。結婚とは男と女の共同作業であり、結婚をしても女は好きなやりたい仕事を続け、家事や子育てはお互いの仕事の都合を考慮して話し合いのうえで分担していく。決して家事や子育ては女だけがやるものではない。男が働いて家族を養うなどと言う考えは過去のこと、と言いきるのは岡本雅美だ。
「よっ子が高収入の男の人と結婚して、専業主婦になるのが夢なのは分かるけど、いまの彼はちょっと不味いんじゃないの・・・。だってあの人には・・・」
 田中は慌てて岡本の口を押えて話すのを止めさせた。
「ちょっとここでそれを言っちゃうのは、まずいでしょう」
「そうだね、ごめん」
「あのう、夏樹が岡本さんに告白をしようとしているのに、何でそちらさん二人で俺たちの分からんことで、喧嘩見たになってるんですか」
「私?、・・・」
「雅美に?・・・」
「夏樹が、・・・」
「飛沢、お前何を言うてんのんや、そやから、先走って喋るなよって言うたのに」
「ああ、そやけど、明日にはもう帰るんやで、さっさと決めることを決めてやな、少しでも二人で楽しんだほうが、ええやないか。遠距離なんやから、今度はいつ会えるか分からへんにゃで」




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2011.06.23 / Top↑
「あのなあ、何を決めろって言うねん。まだええとも、悪いとも言われてへんのに、二人で楽しむって何のこっちゃねん」
 田中がその時、大きな笑顔で夏樹と飛沢の会話を聞いていた。
「よっ子、そこで笑っちゃ失礼よ」
「ごめんなさい」
 田中はそう言うと下を向き、肩をすくめた。
「私、夏樹さんのことは好きよ」
「よっしゃあ、やったなあ夏樹」
「でも、人としてですよ。恋愛感情は今のところないの。それに遠距離恋愛は私には無理です。会いたい時に会えないと、それがストレスになって仕事に影響すると思うの、そうすると恋愛も仕事もどちらも中途半端になってしまうと思うのね。それだけは、いやだわ」
「そうですかあ、やっぱりあきませんか」
「いや、駄目とは言わない・・・、いや、やっぱり遠距離は・・・」
「分かりました。でも大晦日には一緒に浜名湖へ行きましょうね。ほんで思いっきり歌って、善哉を食べて、初日の出を見ましょうね」
「夏樹さん、もちろんよ。よろしくね」
 そう言うと岡本は夏樹に右手を差し出し、握手をした。

 桜木町駅近くの駐車場に止めて置いた飛沢の車を取りに行き、そのまま横浜ユースホステルへ向かった。ほぼ満員のようで、玄関付近にまで多くの人たちの話し声や笑い声が聞こえてきた。飛沢は受付をしながら夕食のメニューが気になるなるらしく、建物の中を覗き込むように見て、食堂がどちらにあるのかしきりに探していた。
「腹が減ったなあ」
「飛沢、まずは風呂や、風呂に先に入ろう」
「そやな、それの方がゆっくりしてええのちゃうかな、ね田中さん」
 石田がそう言うと荷物を持って部屋に向かった。
「石田、そっちとちゃうで、そっちは女子用の部屋やで」
 石田は慌てて回れ右をして、小走りに駆けて行った。




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2011.06.25 / Top↑
 横浜ユースホステルはやはり満員だった。早めに風呂に入りゆっくりと食事をしようと思っていたが、風呂にはすでに先客が多くいて混雑していた。一旦部屋に戻り、混み具合を伺いながら短めに入浴を済ませた。ほとんど「カラスの行水」のようなものだったが、身体を洗い浴槽に入った時、飛沢は夏樹に話しかけてきた。
「残念やったなあ」
「ううん」
「ええ子やけどなあ。完全にふられたわけやないから、ちょっとぐらいはチャンスがあるんとちゃうか」
「いいや、やっぱり遠距離は難しいやろ、よっぽどの強い気持ちがなかったら。彼女も精一杯、俺に気ぃつこうて言うてくれたんやと思うで」
「まあなあ。それでも大晦日の約束は出来たし、きょう、明日で最後っていうことやないしなあ」
「飛沢、お前も大晦日に浜名湖に行こ。石田と三人で、面白いで」
「そやなあ、バイトがなかったらな」
 その時三人の男達が、狭い浴槽に無理やり入って来た。男だけのイモ洗い状態は勘弁願いたいと、夏樹と飛沢は慌てて脱衣所へ避難した。石田は身体を洗ったらそのまま脱衣所へ向かい、すでに部屋に戻ったようだった。
 この日の夕食後にユースホステル恒例のミーティングはなかった、人が多いので収集がつかなくなるからだろう。食堂のテーブルで就寝時間になるまで五人で話をした。なぜか夏樹と飛沢の会話が漫才のように聞こえるらしく、田中はしきりに笑っていた。時には大きな声を出し、腹をかかえ涙も少し流して笑っていた。そんな二人の会話に石田も加わろうとするのだが、どうしてもうまく絡めず、田中が失笑してしまうことが多かった。
「よっ子、そこでそんな顔をしちゃ悪いわよ」
「ごめんなさい」
 田中はペロッと舌を出し、肩をすくめた。



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2011.06.27 / Top↑
 翌日、快晴ではないが晴れの良い天気となった。今日中に京都へ帰るために昼過ぎにはここを出発しなければならない。見方を変えれば午前中は横浜近辺を観光することが出来る。
 そこで横浜より少し足を伸ばし、鎌倉へ行くことにした。鎌倉には京都の次に日本の中心となったところで、古都に相応しく歴史的建造物も多い。また当時流行っていたドラマに「俺たちの・・・」シリーズがあり、その何作目だったか勝野洋、長谷直美らが主演のドラマの舞台が鎌倉で、江ノ電が走り、アパートの近くの駅が「極楽寺」だったことをなぜか良く覚えている。せっかくここまで来たのだから江ノ電と極楽寺駅を見ずに帰るわけにはいかないだろう。
 まずは車で鎌倉へ向かい、鎌倉駅に近い駐車場に止めた。海岸から真っ直ぐ北へ伸びた広い道路を、鶴岡八幡宮目指して歩いた。
 鶴岡八幡宮への参道には多くの観光客が行き交い、とても賑わっていた。
 鎌倉と言う言葉から連想されるのは、源頼朝が開いた幕府。初めて近畿以外に作られた日本の中心。いや違うかも知れないなあ、邪馬台国が九州にあったという説が有力になってきているから、初めて近畿以外の中心地ではないかもしれない。もう一つ鎌倉と言えば、大仏。奈良よりは小さいが建物の外に鎮座している大仏が印象的だ。鶴岡八幡宮へ参詣の次に江ノ電に乗り長谷駅で降り、大仏見学に向かった。
        大仏





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2011.06.30 / Top↑
「何で建物がなくて、大仏だけがあるんやろ」
 飛沢が目の前に聳える大仏を見上げて言った。
「大昔に津波が来て、建物はなくなったって聞いたような・・・」
 岡本は自信のない言い方だった。
「そうなんやあ」
 飛沢にはそれ以上の興味はないようだ。
 長谷駅から再び江ノ電に乗り極楽寺駅に向かった。ドラマのシーンなどを思い起こしながら、駅周辺を歩いた。駅からすぐに極楽寺があった。寺の写真は残っているが、なぜか駅と江ノ電の写真が残っていない。二十数年も前のこと、なぜなのかは全く覚えていない。

               極楽寺

 このあと海へ出た。湘南の海、サザンの世界に慕った。
「あれが江ノ島よ」
「へえ、あの歌に出てくる江ノ島かあ。江ノ島がみえてきた・・・」
 飛沢が突然、サザンの歌を歌いだした。
「へたくそやなあ、それに、そこしか知らんのかいなあ」
「ええやないか、そこだけでも知ってたら」
 また田中が微笑んでいた。
「さあ、そろそろ行こか。昼を食べたら、鎌倉に戻って帰ろうか」
 夏樹が言った。もちろん夏樹と岡本、田中は明日から仕事、飛沢と石田は学校がある。湘南の海沿いにあるラーメン屋で昼を食べ、江ノ電に乗り鎌倉駅へ向かった。
 岡本たちとは鎌倉駅で別れた。年末に浜名湖で会うことを再度約束した。
 今回は飛沢、石田の三人で初めて車を使って旅行をしたが、わずか二日ちょっとの慌しいものだった。いずれまたゆっくりと旅をしようと帰りの車の中で約束をした。いつの日か時間など気にしないで、気の向くまま風の吹くままの旅をしようと。

              小説のような、旅のはじまり 十章 完


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2011.07.03 / Top↑

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