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 飛鳥。明日香とも書くようだ。
 四人は田代先生の旅の話を聞いたり、大学生たちと過ごした昨夜の話しをしたりしていた。ガイドブックに乗っている観光地を順に回りながら。でも、観光地のことなど何も覚えていなかった。

 吉野の山の上は、日没ともなると、気温が下がり、日中よりはかなり体感温度が低く感じられた。
「ちょっと、寒いなあ」
「先生は年やから、無理せんようにしてくださいよ」
「逢坂、バカにするなよ、まだそんな年やないで、お前かて,けっこう寒そうやないか」

 吉野山のケーブルを降りて、みやげ物屋が並ぶ道を通りすぎたところに、喜蔵院ユースホステルがあった。古いお寺で、宿坊の一部をそのまま、ユースホステルとして運営している。きのうとは違い、畳の部屋に各自で布団を引いた。同じ部屋には夏樹たち五人だけだった。少しカビ臭かった。
 夕食は肉と魚は、一切なかった。いわゆる精進料理である。本堂の横にある和室の部屋がユースホステルとしての食事の場所で、一人づつのお膳に精進料理が配膳されている。
 
「今日はなんか寂しいなあ、飯もやけれど、人もあんまり泊まってへんなあ」
 食事を食べながら、岡村が小さな声で隣にいた安達に言った。
「そやから、いろんなユースホステルがあるって、先生かて言(ゆう)てはったやろ」
 この日の宿泊者は、夏樹たちのほかには五人で、外国人の人、夫婦の人、みなさんが田代先生よりも年配の方々だった。
 食後のミーティングもなかったので、四人だけでみやげ物屋界隈をぶらぶらと歩いていた。先生はさすがに疲れた様子だったので、ひとりユースホステルの部屋において来た。

 初めてのユースホステル部の旅行は無事に終わった。

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2008.09.26 / Top↑



 次の日、ユースホステルの玄関の前で十五人が記念写真を撮り、トシが逢坂のところへ五人分の写真を送る約束をして別れた。トシたち十人は京都へ、夏樹たち五人は飛鳥から吉野へと向かった。

「いやあ、楽しかったなあ、もう二度と逢うことは無いかも知れへん人たちやけど、きのうの夜のあの時間のことは、一生忘れへんと思うわ」
 夏樹の言葉に他の三人も大きくうなずいた。
「そやな、初めてのユースホステルの旅行に来て、一泊目からあんなに楽しいことをお前たちに体験させられるやなんて、今までで初めてやなあ。おれも、久々に旅の楽しみを味わったように思う、そやから、ついつい一人でいろんなことを喋ってしもうた」

「先生、他の旅の話も聞かせてくださいよ」
 夏樹が歩いている田代先生の前へ、立ちはだかるようにして言った。
「けど、先生は日本全国を旅したって聞きましたけど、きのうの話やと、北海道とかまくらの秋田だけですねえ」
 逢坂が不思議そうに聞いた。

「赴任先の学校ですぐにはユースホステル部を創ることが、できひんかったんや。部活を持たされることも無く、担任もせんでよかったから、夏休みを上手にやりくりして、三年間、毎年の夏休みにあっちこっちへ旅をした、行かんかったんは沖縄だけやなあ。その頃には時刻表も、地図にもだいぶなれてきて、北海道の時みたいな大きな間違いは無かったけど、ちょっとした方向間違いや、乗り過ごし、降りるところを間違うことはあった。時間が合わなくて、何十キロも歩いたこともよくあったなあ」

「それって、カニ族って言うんでしょ」
「安達はいろんなことを知ってるなあ、カニほど大きな荷物は担いではいなかったけどな」
「沖縄には今でも行ってないんですか、そこへ行けば全国制覇じゃないですか」
 夏樹が聞いた。
「行ったよ、新婚旅行で、沖縄に行ってきたんや、彼女は海外へ行きたかったらしいけれど、おれは絶対に沖縄に行くってゆずらなかった、全国制覇がかかってたさかいなあ」

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2008.09.24 / Top↑





「放浪の旅は終わったんですね」
 夏樹が寂しそうに先生の顔を見た。
「けど、こうして旅は続けてる、ユースホステル部の顧問として、一人の旅人としてな。どこかの高校にユースホステル部があるって聞いたから、赴任先の高校ですぐに部を作って、生徒たちと各地をを廻ってる、そんなに遠くへは行かれへんけどな。これでおれの北海道の話はおしまいや、おれ一人で喋ってもうたがな、すまん」

「いえいえ、たいへん楽しく聞かせていただきました、今の先生を見ていると、話しの初めの頃のような、数学バカみたいなことが嘘のようです」
 トシが笑顔で言った。
「もちろん、今でも数学の教師やし、地理は苦手やけどな、旅をして人間的に丸くなったような気がするねん」

「そしたら次は、先生の恋の話を聞かせてもらいまひょかあ」
 岡村がおどけて言った。
「お前、そういうことは、よう覚えてんにゃな、勉強は全然あかんのに」
 またまた、安達が岡村を羽交い絞めにした。

「そしたらここまで話したんやから、ついでに少しのろけよか。採用試験が終わってひと息の頃かな、大学の頃に皆で見に行った恋愛ドラマの映画を上映している映画館を見つけてな、一人で見たんや。前とは違っておれは泣いた、あの時、彼女がおれの言ったことで憤慨した訳がよく分ったような気がした。そして、目を赤く腫らしていたから、少しうつむき加減で歩いて外へ出たら、突然、人にぶつかった、向こうもうつむきながら歩いていた、目を赤く腫らしていた。おれがふられた彼女やったんや、同じ映画を見ていて、出てきたところで偶然ぶつかったんや」

「エッ、もしかして」
「もしかしてって、もしかして」
「先生って結婚したはりましたよね、それも大学を卒業して間もないころに」
「そうなんや、今の奥さんなんや」
 田代先生は顔を真っ赤にしながら、頭をボリボリと掻いた。
 十人全員が大きな拍手を先生に送った。エリがひときわ大きかったようだ。


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2008.09.19 / Top↑





 田代先生は札幌から小樽へ行き、とりあえず北上した。先生にとってはとても苦手な地理の世界と、毎日、格闘しながら各地を廻り、行く先々で地元の人、列車、ユースホステル、または野宿の時に様々な人たちとの出会い、会話を通じて、多くのことを学び、吸収していった。大学生十人と教え子の高校生四人に、時間を忘れて夢中に話した。

「最北端の稚内へ向かう途中で礼文島に行ったんや、七月のはじめごろかなあ、そこのユースホステルで『夏休み入ると人が多くなるから、手伝ってくれないか』と頼まれて、ちょうど懐も寂しくなって来たから、しばらくはバイトをすることにしたんや」
「それって、伝説の桃岩荘ですか」
 エリが大きな声で聞いた。

「いや、別のユースホステルなんや、伝説はづっと後から聞いたから。結局、そこには十月ごろまでいたかな、人は少なくなったけれど、冬支度の準備も手伝って、雪がちらついて来たころに島を出て、稚内からオホーツクへ、そして内陸方面にも行ったし、知床あたりで新年を迎えた。根室、釧路、帯広から襟裳岬のユースホステルで日高の牧場に電話したら、髭さんが、残って手伝っていたんや。それでそこに寄ろうと思ったんやけどな、実家の親父が入院したって聞いて、急遽、京都へ帰ったんや」

「じゃあ放浪の旅も終わったんですか」
 タカが聞いた。
「いいや、親父が入院したんはほんまやけどな、盲腸やったんや、一週間もせん内に退院したから、京都では珍しい雪の原を見に東北へ向かった、かまくらも見たかったしな、日本海沿いの夜行でな」

「寝台特急『日本海』ですね」
 夏樹はまた金子に先をこされてしまい、少ししょぼくれた。
「そこから、ゆっくりと各地を廻って、関東、信州、北陸から山陰、九州まで行こうと思ったんやけどな、教員採用試験を受けるために、かまくらを見たら京都へ帰って勉強した、もっと日本中を行って見たかったけれど、いつまでもブラブラしてられへんしなあ、そしたら次の年に採用が決まって、教師になったんや」

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2008.09.17 / Top↑




 トシがおもむろに立ち上がり、両腕を胸の前で組んで、そのまま右手であごの辺りをなでながら少し天井を見上げた。
「旅は必要とする人同士を引き合わせてくれる力を、持っているのかも知れないなあ。今日の我々の出会いも運命的なのかもしれないねえ」
「トシさん、その運命的な出会いって僕とエリさんのことですか」
「逢坂くん何を変な勘違いしてはるの」
「タカさん、冗談ですよ、それよりその変な関西弁を止めとくんなはれ」
 みんなで大笑いをした。

「牧場には二週間だけお世話になった。鉄さんの奥さんも少しやけど牧場の仕事が出来るようになったし、髭さんとその友人もだいぶ仕事に慣れてきて、乳搾りも出来るようになったから、髭さんが言っていたユースホステルに行って見ようと思ってな、急ぐ旅やないけど、いろんなところへ行って見たくなったんや」

「そしたら、これからが本格的な北海道のたびの始まりですか、だってまだ三週間ぐらいしか過ぎてませんよね、七ヶ月もの長いあいだ、北海道にいたんですよね」
 夏樹が身を乗り出して言った。

「まず、札幌に戻ってユースホステル協会の事務局で会員証を作って、ガイドブックと時刻表の地図を見て、国鉄線からさほど遠くないところを転々と移動した。国鉄から離れてバスに乗ると、今まで以上に方向音痴が邪魔をすると思ってな」
「そうですね、バスに乗って行き先を間違ったら、何処へ行ってしまうか、ここは何処、わたしは誰。見たになっちゃいますもんね」

「トシくんの言うとおり。じつは北海道で三回、本州へ入ってからは五回ぐらいそんなことがあったかな、駅の近くにはユースホステルがあんまり無くて、バスに乗らなあかんことが多かった、すると『ここは何処ですか、わたしはどっちへ行けばよいですか』って聞いたよ。そしたら『あなたは何処から来たの、何処へ行きたいの』って聞き返されたんや、なんとも情けなかったなあ」

「じゃ、目的のユースホステルに辿り着けないこともあったんじゃないですか」
「金子くん、『あったんじゃないですか』どころじゃないよ、しょっちゅうだよ、三日に一回は駅やお寺の軒下なんかに野宿をしなあ。まっ、それはそれで面白かったけどね」


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2008.09.16 / Top↑

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