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 舞鶴で宮津線に乗り換えて丹後山田へ向かう。右手には日本海がちらほらと見え隠れするようになって来た。一日目、二ヶ所目の目的地である加悦鉄道に乗って、終点加悦駅の『SL広場』へ向かう。

     (何十年かぶりに、時刻表に付いている北近畿地方の路線図を見ると、
      丹後山田駅は見当たらなかった。宮津線は第三セクターの
      北近畿タンゴ鉄道になっていた。鉄道研究会をサボっていました)

 当時のSL広場は加悦駅構内にあった。明治時代の英国製蒸気機関車や、戦前、戦後に活躍したSLや気動車、ディーゼル機関車、客車が展示してあった。赤川と夏樹はカメラを片手に、あまり広くはない構内を走りまわっていた。今日の最終目的地の間人(たいざ)の民宿へたどり着くには、あまり時間がなかった。

             
              加悦1             加悦2



 名残惜しい気持ちを堪えて、再び加悦鉄道に乗り、丹後山田へ。宮津線の網野からはバスに乗り間人へ向かう。海水浴場とはいっても、砂浜ではなく、小石の海岸で、人もあまり多くはなかった。今日のところは時間も遅いので海には入らず、すぐに民宿の風呂に入り、夕食の時間となった。
 部屋にはテレビもなく、だからといって外へ散歩などにも出かけず、なぜか四人でトランプをやっていた。当時としては、まじめな部類の高校生である。酒なども飲まずに、ジュースを片手に、ポーカーが始まった。

 まじめな部類とは言え、そこは高校生、ゲームが白熱してくると、声も大きくなってくる。
「こらあ、うるさいぞ」
 隣の部屋の家族連れのお父さんから怒りの叱責が聞こえてきた。隣の部屋とはいっても、広い続き間をその時の人数によって、襖一枚で仕切りを換えて部屋を作っているので、隣へは声が筒抜けである。

 隣のお父さんから怒りの叱責が来るのも当たり前であった。いつの間にか十一時をとっくに過ぎていたのだ。
「すいませーん」


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2008.10.22 / Top↑






「俺は、たまたまやりたいことが決まっていて、それが職人仕事やから何ぼでも早く、その仕事を覚えた方がええって言われたんや。ほんまは高校へ行かずに修行したほうが、ええねんけど,って言う人もいたけど、親父が高校だけは出ておいた方が、これからのためやからって、その仕事がいやになるかも知れへんし、他の理由で出来なくなることもあるかも知れへんし」

 車窓を見ることもなく話に夢中になっていた。何処の駅だろうか、停車しているこの列車の横を、二両編成のディーゼル車が綾部方面へゆっくりと発車して行った。そのディーゼル車の走行音が聞こえなくなってすぐに、夏樹たちが乗ったディーゼル車の発車を知らせる警笛が「ブオォーーーン」と聞こえてきた。

 夏樹が自分の思いを続けた。
「飛沢が言うたとうりやと思うんやけど、まだ十七歳になったばっかりやろ、今はこれがやりたいと思ってその道に入っても、思てたのと違うことに、やってみて初めて『こんなはずやなかった』って気づくこともあるかもしれへんしな、それでその仕事を辞めて転職するときに、中卒ではなかなか仕事を見つけるのは難しいやろ、履歴書に高校卒業と書かへんと、雇ってくれるところが少ないんのとちゃうやろか。そういう意味では大卒の方がもっと有利やろなあ」

「そうなんや、とりあえずでも大学を出ておけば、就職のときに何ぼでも有利やということは分かってる、そういう理由で大学にはいろうとしてるのが半分や、残りの半分は、俺が今の段階でやりたいこと、やって見たいことが見えてきいひんから、大学に行けば何かが見えてくるのとちゃうかなと思うんや、見えてくるまで高校にいるわけにも、いかしまへんしなあ」
 飛沢が少しおどけて言った。

「赤川の言うとうりや、来年のことなんか話してたら鬼に笑われるわ。せっかくの夏休みにこうやって遊びに来てんのやから、楽しまんとな」
「おい石田、俺たちは遊びに来てんのとちゃうで、鉄道研究会として研究に来てるんやかな」
 赤川のこの一言で四人が大笑いをして。
 夏樹たちの乗ったディーゼル車はクーラーがない列車だ。大きく開けた窓からの心地よい風を感じながら、車窓に見える山々や田園風景を楽しんだ。



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2008.10.20 / Top↑





「そんなことないやろ、中学のころは俺よりも成績は良かったし、今からでもまにあうって、一緒に進学しようや」
 飛沢の声が珍しく高ぶっていた。
「いやあ、俺も赤川とおんなじような考えなんや、大学はとりあえず行くところやない、それに俺は今やりたいことがある、それは大学やなくて高校を卒業したら、やりたいことができる処へ就職することや。そこで早く仕事を覚えて一人前の職人になることが、俺の今の夢なんや」

「職人?なんか物を作る仕事かあ、何を作る仕事や」
 赤川が興味のある顔付きで夏樹を見た。
「まあ、それはええやないか、いずれ分かることやし。それに、まだ行くところは決まってないし、来年の秋にならんと分からんことやからなあ」

「そうかあ、夏樹はもう将来の自分のやりたいことが決まってるんやなあ。そういうやつはその道にまっしぐらに進めばええねん、俺みたになんも決まってへんやつは、今のところ、とりあえずなんやけど、大学に行くことしか想い浮かばへんのや」
 少し元気なく石田が言った。
「赤川と夏樹が言うてることは、俺かてようわかってるけどな、今のところ、やりたいことや将来の夢とか、何にも見えてきいひんねん、世間ではもう高校生やろって言う感じで見てるけどな、俺にしてみれば、まだ高校生やねん、まだ十七歳になったばっかりやねん」
 飛沢も少し寂しそうな口調で言った。

「ごめん、俺も少し言いすぎたなあ、偉そうなことを言うたけど、まだやりたいことなんか、なんとなくしか見えてへん。さっきも言うたけどな、こないだ見たドラマに出てた大学生があまりにもだらしなくてな、その役のせりふが『今が楽しきゃ、それでいいじゃねえか、何年かけて大学を卒業しようと俺の勝手だろうが、ほっといてくれ』って言いよった、なんかものすごう腹が立ってきてなあ」
「赤川の見たドラマって日曜日の八時からのやつか、俺も見た、なんか腹が立ったなあ」
 飛沢も同じドラマを見たようだ。






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2008.10.18 / Top↑




 大学とは、とりあえず行くところではなく、将来の目標のために、本気で行きたいやつが、入りたい大学を目指して、真剣に勉強して希望の大学に入る。そして、入学してからはその目標に向かって勉強するところなのだ。これが赤川の大学に対する考え方である。
「夏樹はそう思わへんか」
「いや、ううん、多分。とりあえず遊びに行くところではないわなあ」

「けど今の時代はとりあえずでも大学を出とかんと、後でいろいろと大変なんや」
 石田も少し興奮しているようだ。
「まあまあ、せっかくの旅行やないか、赤川も石田も喧嘩みたいな喋り方は止めようや」
 飛沢がやんわりと割って入った。
「赤川の言うとおりやと俺も思うけどな、最終目標が決まらへんから、行きたい大学も決められへんやろ、そやから俺もとりあえず大学へ行こうと思うてるんやけどな。それって間違ってるやろか」
「すまん、ちょっと興奮してしもうた。俺の知ってる大学生に遊び惚けてる人が何人かいるんや。それと、そういう大学生が主人公のテレビのドラマを見て、すごく頭にきてたから、少し言い過ぎたかな。ごめん」

「赤川はどうするんや、これからの進路は」
夏樹が聞いた。
「俺は」
 興奮していた気持ちを落ち着けるように、少しのあいだ車窓を眺めていた。その時下りの特急列車が、けたたましい轟音を響かせて福知山方面へと走っていった。
「ごめん、俺もまだ決まってないんや。将来の目標って言うか、なんとなく、やって見たいことはあるんやけど、具体的には何も決まってない。ただ、とりあえず行くところとは違うと思うんや、大学て」

 夏樹はいますれ違った下りの特急列車が何だったのか、気にしながら話に入っていった。
「そうすると赤川も進学の可能性もあるということか」
「そういうことやな、やってみたいことのために、何を勉強すればええのか、まだよう分からんへんから、どこの大学へ行けばええのかも分からん」
「そうかあ、一応三人とも進学かあ、俺だけやな就職希望は。まあ、どっちみち俺の頭ではとりあえずでも入れる大学なんかないけどな」




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2008.10.16 / Top↑



「そろそろ行かんと列車に乗り遅れんのとちゃうか」
 飛沢が夏樹と赤川に大きな声で言った。
「あっ、やべぇ、もうこんな時間か」
「急がんとあかんなあ」
 四人は駅員さんにお礼を言って、山陰本線の上り線ホームに向かった。いったん綾部に戻り舞鶴線に乗り宮津へ向かう。宮津線で丹後山田へ、そこから加悦鉄道に乗りに行くのだ。(残念ながら昭和六十年四月に営業終了してしまった)

 この当時の山陰本線はほとんどの区間で単線だったために、駅ではない場所で上り下りの列車がすれ違うことはなかった。しかし、福知山と綾部の間には、ほぼ直線で複線の区間がある。ここでは上り下りの列車が、走りながらすれ違うことができる。山陰本線では大変珍しいことなのだ。

「来年の夏休みには、こうやって遊びに出かけることは、でけへんやろうなあ」
 飛沢が少し寂しそうに言った。
「そやなあ、俺も来年の今頃は、こんなことしてらへんやろなあ」
 車窓から見える田園風景をぼんやりと見ながら、石田もなんとなく寂しげである。
「なんでやねん、これから楽しみ行くのに、そんなしみったれたことを言うなよ」
「夏樹の言うとおりや、ましてや来年のことなんか喋るなよ。鬼が笑うで」
 赤川は少し興奮しているようだ。

「飛沢も進学なんやろ」
「そうや、石田はどこの大学へいくんや」
「俺の頭ではなあ、行きたいところやのうて、とりあえず入れるところへ行くしかないもんなあ」
「俺もやなあ。けど、できれば家から通えるところへ、行きたいねんけどなあ」
「それの方が親の負担も少なくてすむしなあ」

「なんや、お前ら大学に行くのか。それで来年は受験勉強をせんといかんから、こんなことをしてられへんて言うことか。その程度の理由で大学に行って何をやるつもりや。そやから、今の大学生なんか遊んでるやつばっかりで、いつ勉強をしてんのか分からへんのが多すぎる。出席日数が足らんから留年して、それでも懲りずに遊び惚けるから、結局、退学してヒッピーみたなんになって、なんもせんと、フラフラしてるやつらがいるやないか。とりあえず大学へ行くやなんて、俺はきらいや」
 赤川がますます興奮してきた。
 


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2008.10.14 / Top↑

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