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 列車が五両も止まれば一杯になるような短いホームの端から端までいったり、小さな駅舎から外に出て見たり、カメラを片手にうろうろしていると、『プアーーン』登りの急行列車がゆっくりとホーム入ってきた。
「駅長さん、まだ十五分しか過ぎてませんけど」
「先にこの急行が出発して、十分後に下りが発車します。だから、まだ大丈夫ですよ、ゆっくりと写真を撮って下さい」
「じゃあまだうろうろできるなあ」

              出雲坂根4            出雲坂根3


「急行が発車して五分後にここへ来てください、あそこをこの急行列車が通るのが見えますから」
 といいながら駅舎とは反対側の山の上の方を駅長さんが、指差しして教えてくれた。

                           出雲坂根5


 ホームのずっと上の山の斜面を通る急行列車も撮し、小さい駅のダブルくロスも撮した。夏樹と安達はカメラをバッグに片付けて下りの列車に乗り込んだ。
「駅長さん、ありがとうございました」
「いえいえ、良い旅をお続けください」


                           出雲坂根2



 下りの一両のディーゼルカーは、定刻に宍道駅を目指して発車した。


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2008.12.04 / Top↑





 一両編成のディーゼルカーが停車した。駅に着いたと思った。しかし駅舎らしき建物もなく、ホームも見えない。どうしたのだろう、と思って車内や、窓の外をキョロキョロしていると、運転手さんが運転に使うレバーを持って、小走りに後ろへ行った。すると後ろからは車掌さんがまた、小走りに前へと走って行った。
 まもなく一両のディーゼルカーは今まで走っていたのとは逆の方へ動き出したのだ。

「いよいよこれがスイッチバックの最初の折り返しなんや」
 夏樹と安達は興味津々で、まだ山のあちらこちらに雪が残っていて、外は寒い。しかし、そんなことなどお構いなしに窓を大きく開けて、進行方向の左側に身を乗り出すように外を見た。
「この列車は下ってるけど、左側に上って行く線路が見えるで」
 夏樹の声が少し浮付いているようだ。
「そやなあ、ここを下って今、最初の折り返しで、さらに下って出雲坂根の駅に入っていくんやな」
 下りの線路をエンジン音も静かに、ゆっくりと進んだ、まもなく大きなダブルクロスのポイントを超えて小さな駅に滑り込んだ。

 駅舎も小さく、狭く短いホームにはこのディーゼルカーに乗ろうとする人はなく、降りたのも夏樹と安達だけだった。
「どちらへ行かれるの」
 駅員さんが声を掛けてきた。
「いえ、どこへも行きません。この駅に来たんです」
「じゃあ降りないの」
「いいえ降ります」
「降りるのだったら、切符を下さい」
「いや、駅からは出ません。次の下り列車が来るまで、この駅にいます」
「次の下りは二時間後にならないと、来ないですよ」
 胸の名札には駅長と書いてある。小さい駅だから駅長さん一人で何でもやらなければならいのだろう。

「二時間後ですか、それはまずいなあ、出雲まで着かなくなっちゃうなあ」
「夏樹、そこまでは計算せんかったんか」
「今乗ってきた列車は、登りの急行がくるので、ここに三十分止まってますよ」
 駅長さんが教えてくれた。
「えっ、三十分ですか。じゃあこの列車が出発するまで、この辺りをうろうろしています」

 夏樹と安達はカメラを取り出し、出雲坂根駅のホームを走り出した。



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2008.12.01 / Top↑





 新見から備後落合への列車もディーゼルカー三両編成だった。こちらも乗客は少なく、車内はがらんとしていた。
「なんか山ばっかりやなあ」
「中国山地を横断中やからな、けどこの辺ってあんまり高い山がないのか、何処にでも道路があって家があって、それなりに標高は高いんやろうけど、すごく周りの山が低く感じるなあ」
「そらあ信州の山々よりは、はるかに標高が低いし、尖がった山もないから山頂付近にも、道があって、家があるんやろなあ」
 安達はそう話しながら、ジャンパーの下に着ているウエスタンシャツの胸ポケットから、タバコを出した。

「安達、俺といる時は吸うてもええけど、他の奴といる時は我慢しいや。ましてや学校では絶対に吸うなよ、そうせんと、ややこしい奴らに、またからまれたりするで」
「ああ、分かってる」

 備後落合に着いた時には、昼時を少し過ぎていた。駅の立ち食いそばで昼食を済ませ、木次線に乗りいよいよスイッチバックのある出雲坂根駅に向かう。
 木次線はディーゼルカー一両だけの、ローカル線である。今の時刻表を見ても、備後落合から、宍道までの列車は一日四本しかない。
 当時の時刻表がないので、不確かではあるが、あの頃は広島からの急行も走っていたように思う。

 備後落合駅を出てからしばらく走っても、あまり速度は上がらなかった。かなり勾配が大きいようだ。一両のディーゼルカーの車内は、今までの列車以上に人が少なく、車掌さんも客室の座席に座り、雑誌を読みはじめる始末である。(職務中にそんなことしていてイイのかな)
 列車の速度は上がらないが、エンジン音は今までになく、唸るような大きな音を出していた。勾配の大きさをエンジン音という形で表現しているようだ。
 右も左も山ばかりの風景の中をゆっくりと、そして確実に前へ進んでいくディーゼルカーはようやく出雲坂根の駅に着いた。



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2008.11.26 / Top↑





 肘掛の枕は硬く、少し窮屈だけれど、それ以上に睡魔が勝り、わずかな時間ではあったが熟睡したようだ。どこかの駅を発車する時の大きな揺れで目が覚めた時には、列車の進行方向左の山々の間から、登ったばかりの眩しい日差しが、車内を照らしていた。

「朝になったな」
「夏樹、ここは何処や。ぐっすりと寝たけど、まさか乗り過ごしてへんやろなあ」
「大丈夫や、いま六時半やから」
「伯耆大山駅では、乗り換えにあんまり時間がないんやろ」
「十分ぐらいかな」
「今のうちにトイレに行ってくるは、顔も洗わんとなあ」

 伯耆大山駅からの列車は、新見行きの三両編成のディーゼルカー。休日の早朝だからなのか乗客はまばらで、三両に散らばっている人たちを一両にまとめても、まだ全席は埋まらないだろう。平日のこの時間帯なら高校生の黒や紺色の制服で埋め尽くされているのだろうか。
 伯耆大山駅を出てすぐに、雪をかぶった大山が見えてきた。中国地方の最高峰、だったよなあ。たぶん。

「新見駅では乗り換えに一時間ぐらいあるから、売店でパンでも買って朝飯にしようか」
「そやな、それがええわ。腹が減った」

 新見駅に着くまでにいくつかの駅に停車したけれど、乗降客はほとんどなく、新見に着いた時には各車両に十人ぐらいの人しか乗っていなかった。国鉄時代の話です。

 新見に近づくにしたがって、線路の両脇に山が迫って来た。
 後々になって知ったことだが、この辺りの鳥取、島根、岡山、広島の県境周辺はあの有名な探偵『金田一耕助』が、たびたび活躍した地である。映画やテレビで見たことがあるような風景が車窓からうかがえたように思う。
 そして、今目指しているスイッチバックのある出雲坂根より三っ目の駅,亀嵩駅は、松本清張先生の『砂の器』の舞台になった場所である。記憶違いでなければ、この映画を初めて見たのは中学校か高校の時の芸術鑑賞会だったと思う。
多感なる思春期にあの映画を見たときは、十代なりにいろんなことを考えさせられて、ある意味、カルチャーショックを受けたように思う。

 新見に着いた時は、もう九時を過ぎていた。この駅の売店でアンパンとコーヒー牛乳を買い、少し遅めの朝飯となった。



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2008.11.25 / Top↑



 車内で話をする人は誰もいなかった。時々、何処からか鼾が聞こえてきた。
 車窓には夏樹と安達がぼんやりと映し出されているだけで、外の景色は何も見えない。ようく目を凝らして窓の外を見ていると、電柱につけられた裸電球や、横断歩道を照らす明るい光、夜中に走る車のライト、消し忘れたのか家の外灯などが時々見える。

「まだ、三時過ぎかあ、外は真っ暗やなあ」
「四時半ごろに鳥取で、七時半ごろに米子やろ」
「米子の二つ手前の伯耆大山で伯備線に乗り換えて新見へ、そして芸備線で備後落合、木次線でいよいよ出雲坂根の駅に着く。昼ごろにはつくはずやなあ」
「さすがに夏樹やな、時刻表が頭の中に入ってるみたいやなあ」
「好きこそものの上手なれ、って言うやろ。ところでさっきの話は気がすんだんか」
「ああ。『ほっといてぇ』やろ」
「そう、その調子や『ほっといてぇ』や」

 二人は顔を見合わせて小さな声で笑った。その時「ゴゴゴーーーーー」とトンネルに入った。夏樹はここぞとばかりに大きな声で笑った。安達もその声につられて大きな声を出して笑った。

「ほな少し寝よか、まだ伯耆大山までは三時間ぐらいあるしなあ」
「そやな、寝よか、おやすみ」

 二人は通路側の肘掛を枕代わりに、窓側に足を伸ばし、眠ることにした。
「なあ安達、俺が鼾をかいてもほっといてな、うるさいかも知れへんけど、列車の音よりは静かやと思うから」
「ああ、俺の方が大きい鼾をかくかもな、その時はほっといてやあ」



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2008.11.22 / Top↑

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