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「いいんじゃないか」
突然、顧問の田代先生が入って来た。
「びっくりしたなあもう」
「来るなら、来るって言ってくださいよ」
「本村、お前がここで悪いことしてへんか、見にきたんや」
「なんにも悪いことなんかしてませんて」
「飛鳥、吉野方面なら、三日間でゆっくり廻ってこれるし、ユースもいいとこがあるはずや」
田代先生は学生時代に日本全国を歩いて旅をしたと、逢坂が聞いてきた。いわゆる『カニ族』の走りのようなもので、一日に五十キロも歩くことがあったようだ。ユースホステルはその時に利用したようだ。夏休みを中心に三年間で全国を廻り、ユースには百箇所以上に泊まった。ただ、毎日は泊まらなかった。安いとは言っても毎日となると経済的に少々きつく、三,四日に一回ぐらいの利用だったようだ。ユースに泊まらないときはどうするか、無人の駅や寺、神社の軒で寝袋一つにくるまって寝ていたそうだ。

「何時のどこ行きの電車に乗って、どこを見て廻わるか、時刻表と、ガイドブックを見ながら、ちゃんと計画書を作っておくように。田代と本村もサボらんように」
「はあーい」
田端と本村は先生とは目を合わせずに、少しふてくされた顔つきで、小さく返事をした。


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2008.08.01 / Top↑




 春休みになり予定通り二泊三日で奈良、飛鳥、吉野方面へ行くこととなった。会員証は七人とも一緒に入会手続きをしたが、今回、参加したのは部長の逢坂、安達、岡村、そして夏樹、先生を含めて五人。
 だいたいのコースを先生に報告して、それならば、と泊まるユースホステルを先生の意見で、『山の辺の家ユース』と吉野『喜蔵院ユース』となった。喜蔵院ユースは宿坊の一部をユースホステルとして開放している。
 近鉄天理駅から日本最古の道と言われている『山の辺の道』を歩き、この道の途中にある山の辺の家ユースを目指す。

「本村と田端がいないと、誰もしゃべらんなあ」
先生が天理駅を降りるとぼそぼそと言った。
「まあ、もともとおとなしめの四人ですから」
「いや逢坂はいつもなら、ようしゃべるけど、今日はなんか知らんけど静かやなあ」
夏樹と逢坂は中学校もクラスも違うが、なんとなく気が合うようだ。
「本村のおもろないギャグに突っ込みを入れるのが楽しみなんや」
「たしかにあいつはようしゃべるし、おもろないギャグばっかりやしなあ」
安達がようやく口を開いた。いつものように話す相手を見ていないけれど。

 近鉄天理駅前の商店街を歩きながら、岡村は飲み終えた缶コーヒーの空き缶を道路の真ん中に、素早い動きで音も立てずにそっと置いた。それとほぼ同時に黒い法被を着た男の人が前方右側より、岡村に近づいて来たかと思った次の瞬間、岡村より素早い動きで空き缶を取りそのまま歩いていった。その一部始終を岡村より少し後ろを歩いて見ていた、安達と夏樹が顔を見合わせて岡村に走り寄り
「あほか、お前なにやってんねん」
「すぐに誤ってこいよ」
安達が岡村の後頭部を軽く叩いた。
しかし、法被を着た人は早足で歩いていったので、商店街の人ごみに紛れてしまい、見失ってしまった。
「しかし、早い動きやったなあ」
「おれ、あの人に怒られるかと思った」

 もう少し後になってから気がついたのだが、ここの周辺にはごみが落ちていない。先ほどと同じ法被を着た人たちが、あちらこちらで箒を持ってそうじをしていた。


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2008.08.04 / Top↑



 ガイドブックに載っている名所、旧跡を廻り、山の辺の道を南下して行った。
「京都に比べると地味目の観光地やなあ」
「けどこっちの方が歴史は古いし、いにしえのロマンを感じるなあ」
「逢坂、お前ってそんなにロマンチストやったか」
夏樹が逢坂を下から見上げるように言った。
「そうやぁ、知らんかったかあ」
「どちらかといえば、エロチストとちゃうか」
「安達クンうまい、座布団三枚上げる」
「何でやねん、おれはエロチストなんかとちゃうでぇ、ロマンチストや」
「エロチストかどうかは知らんけど、ロマンチストには見えへんなあ」
「先生までなんちゅうことを言うんですか」
 他愛もないくだらない話をしながら、五人は山の辺の道を歩いた。

 午後四時ごろだっただろうか、先生がユースホステルに着いたことを教えた。
「先生ここが今日泊まるユースホステルですか」
岡村が不思議そうな顔をして聞いた。
「ホテルみたいにビルじゃないし、旅館みたいに大きな庭があるようには見えへんし、ちょっと大き目の普通の家なんですけど」
「ユースホステルはさまざまあってな、ホテルみたいに大きいところもあるし、旅館みたいに大きな庭があるところもあるし、ここみたいに普通の家みたいなところもある」

 会員証をフロントに出して宿泊の手続きを済ませ、シーツとを貰って部屋へ入った。四人分の二段ベッドが左右の壁にあり八人部屋になっていた。
「こんにちは」
すでにこの部屋に入っていた大学生らしき男の人が三人、夏樹たちに声を掛けてきた。
「こんにちは」
先生がすぐに反応して挨拶をした。夏樹たち四人はわずかに首を傾げることしかできなかった。
「お前ら、ちゃんと挨拶をせんとあかんやろ」
「もしかして君たち高校のユースホステルホステルクラブなのかい。それで今日が始めての宿泊なの」
肩ほどまでに髪を伸ばして、細くて背の高い人が話してきた。
「こちらが顧問の先生ですか」
さっきの人よりもっと髪が長く、少し不精髭を伸ばし、メガネを掛けた人が聞いた。


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2008.08.06 / Top↑




「おれたちも、高校の時はユースホステルクラブだったのですよ、みんな別々の大学に進学したので、今回はその時の仲間と、久々の同窓会旅行に関西方面へ来たのです」
「予約しないで飛び込みだったので、三人と四人と三人の別々の部屋になっちゃって」
「別の三人は女なんですけどね」
角刈りのいかにも体育会系のがっちりした体の人が、少し寂しそうに話した。
「おまえ、エリちゃんと同じ部屋じゃないから寂しいのか」
髪が一番長い人がひやかした。
「バカ言ってんじゃねえよ」
少し赤い顔になった角刈りさんが下を向いてしまった。
「あっすいません、われわれだけで盛り上がっちゃって。じつはタカは、こいつ川田孝弘で通称『タカ』がですね、そのいま名前の出てきたエリちゃんとですね、大学を卒業したら結婚することを約束していまして」
「おい、やめろよ」
赤い顔がますます赤くなって、さっきよりもいっそう恥ずかしそうに、髪が一番長い人の胸を、軽く握りこぶしでこずいた。
「へえ、おめでとうございます」
突然、逢坂がにっこりと笑顔を作ってお祝いを言った。
われわれ五人は、とりあえず荷物とシーツをその場に置き、それぞれがベッドに腰を掛けたり、床に座ったりして大学生たちの話を聞き入っていた。
 
 埼玉県の県立高校時代にユースホステルクラブに入っていて、長期の休みには必ずどこかへ旅に行ったそうだ。三年生の夏休みには、国鉄(JRになる前の話しです)を使い、二十日間で北海道を一周したそうだ。
「なぜ、二十日間ちょうどなんですか」
いつもよりさらに小さな声で岡村が聞いた。
「それは、北海道周遊券の期限が二十日間やから。そうでしょ」
鉄道オタクの夏樹が少し自慢げに大学生たちに言った。
「その通り。北海道に入ってから二十日間なので、前の日の夜行で上野駅を発って、翌朝早くの連絡船で北海道に入り、二十日後に再び青函連絡船で青森に戻って、夜行で東京へ」
「正確には二十二日間だよ」
もう一人の大学生が、肩まで伸ばした髪をかき上げながら言った。
 

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2008.08.08 / Top↑


「でっかいどう、北海道ですね」
逢坂が少しリズムをつけて、大きな声で言った。
「北海道かいいですねえ、おれもいつかはきっと行きたいです。緩やかな丘陵地帯に高い山はどこにも見えない、見えるのは地平線とその先まで続く牧草の畑。まっすぐに伸びた道路、そして線路」
 テレビのドラマで見た北海道の景色が、夏樹の頭の記憶の部分に、強烈に焼付けられている。『北海道』と聞くとテレビドラマで見た広大な風景が甦り、いつかは自分の目で見てみたいと思うのだった。

「私は北海道に七ヶ月居たんだ」
田代先生が突然、話しだした。
「もちろん二十年以上も前のことやけどね」
 田代先生の専門は数学。大学時代は数字との格闘を毎日のように続けていた。やり方を間違わなければ、どのような問題も必ず答えが出てくる。要するにそのやり方をいかに導くか、そのための計算と計算をするための公式をどこから、どのように引っ張りだしてくるかなのだと考えていた。昼夜を問わずに本とノートと計算機だけを見つめていた。

「あいつの頭はコンピューターみたいやなあ、と冷たい目線を感じていたよ」
「頭がコンピューターみたいやなあって、褒められてんのと、ちゃうんですか」
逢坂が不思議そうな顔をした。
「決して良い意味ではないんや、ものごとの全てにおいて数学的に、正しいか間違っているかを瞬時に言ってしまうところがあってなあ」
 田代先生はいつもの授業のときとは違う人のように、柔らかい口調で自分自身のことを話しはじめた。

「仲間数人で恋愛映画を見に行った時のことなんやけどな、映画を見終わって外へ出てきた時には、一緒に行った三人の女の子がみんな泣いてたんや」
「恋人が最後には病気で死んでしまうような、哀しい物語なんですね」
角刈りのタカさんが小声で言った。
「そうなんや。そこで私は感情など全くない人間のように、あの場面はおかしい、間違っているとか、あの台詞はこのように言うのが正しいとか言うてしまったんや」
「たしかに、恋愛映画を数学的に分析してしまうと、間違っていることが多すぎる。でも、それを見て哀しくて涙を流している女性の前で、分析結果を言ってしまえば、みんなが興ざめしてしまい、嫌がられるでしょうね」
髪の一番長い大学生が、自分も同じようなことを言って、彼女にふられたことを付け加えて話した。


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2008.08.11 / Top↑



「おれも、その時ふられた。三人のうちの一人に」
 ふられたことはとても悲しく、残念だったことはもちろんだが、それ以上に自分が学んできた数学では解けないことがあり、自分が解き明かしたと思っていた答えによって、時には人を傷つけることがある。今までにそのことに気がつくこともなく、考えることもできなかった自分が情けなくて、ある意味、恐ろしいとまで思っていた。
「その時のショックからなかなか立ち直れなくてなあ」

 教師になることしか考えていなかった田代先生は、ふられた時のことが頭から離れず、大学を卒業したものの教員採用試験に失敗した。教師になることの他を考えたことがなく、来年の採用試験までの一年間を、どのような身の振り方にするか悩んだ。そして、将来の教師としての視野の拡大と後学のために、それと同じ問題でも、二つ以上の違う答えがあるのだろうか、と言う思いを解決するために、あえて今までとは違う世界に自分自身を置いてみたくなった。

「それで北海道へ行かれたのですか、なんとなくわかるような気がします」
髪の一番長い大学生が大きくうなずいた。
「へえ、先生にそんな恋愛物語があったんや」
「岡村。それはちょっと違うやろが」
安達が岡村を羽がいじめにした。
「おいおい、おれかて恋愛物語の一つやふたつはあるでえ」
「先生が別人みたいに思いっきりの笑顔になってるでえ。そんなにおもろい話しやったら、ゆっくりとその恋愛物語の第一話から聞かせて下さいよ」
逢坂が興味津々である。
「いや、それよりさっきの続きの北海道の話が先や、恋愛物語の第一話はその後や、それが話の流れっちゅうもんや」
夏樹の言葉に大学生の三人も大きくうなずいた。

「いや、その前に風呂や、お前らどのベッドに寝るか早よう決めろ。毛布二枚の間にシーツを入れて、寝られるようにセットして、風呂に入るぞ。ユースホステルでの生活は時間厳守、自分のことは自分でやる、風呂の後は夕食やで」
 田代先生が入り口に一番近い左側の下のベッドに一枚目の毛布を広げて、フロントで貰ったシーツを広げた。その上に二枚目の毛布を置き、頭を置くあたりに枕を置いた。シーツは片側が開いた袋になっていて、その袋の中に自分の身を入れて寝るのである。
「さっ、行くぞ」
「はい」
夏樹たち四人と同時に大学生の三人も元気な返事をした。

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2008.08.15 / Top↑




 ユースホステルの食事はホテルや旅館のように豪華な食事ではないが、おかわりは自由である。ところによってはとても豪華な(価格の割には)食事のユースホステルもあるし、オフィス御用達の弁当屋の宅配夕食が出てきたり、メロンパンと牛乳一本が朝の枕元に置いてあったりと、様々である。
 観光ホテルの一部が、ユースホステルになっているところに泊まった時は、山側の少し見晴らしの悪い部屋だったけれど、和風のいかにも観光ホテルの部屋で、同宿者と二人だった。食事はこの観光ホテルに泊まる一泊二食付の夕食メニューから一品だけ減らした料理で、立派な刺身や天ぷらが付いた。逆にこの日の宿泊は一人なので、外で食べてきて、と言われたユースホステルもあった。

「紹介します。残り三人の淑女と、四人のヤロウドモです」
肩まで髪を伸ばした大学生が夏樹たちに、他の仲間を紹介した。
「おい、トシ、四人のヤロウドモて誰のことなんだよ」
「まままあ、そしてこちらは・・・」
「こんにちは、京都の高校生の逢坂と言います。あのう、エリさんてどの方なんですか」
逢坂が三人の女性を満面の笑みで、覗き込むように身を乗り出した。
「えっ、なぜ私の名前をしっているの」
「おいおい、逢坂君やめろよ」
角刈りのタカがあわてて椅子から立ち上がり、逢坂を制止した。
「美人さんですね。タカさん」
「あなたたち、もうそんなに仲良くなったの、私も仲間に入れてよ」
タカとは対照的に物おじすることなく、京都から来た高校生に興味がいっぱいで、目を輝かせていた。

 肩まで髪を伸ばしたトシがここまでの経緯を簡単に話して、先ほどの続きの話を田代先生に頼んだ。
「まあ、その前に目の前のご馳走をいただこうよ」
「そうですね、では皆さん、手を合わせて、いただきます」
エリが大きな声で先導した。
「すいません、彼女は小学校の先生になるのが夢で、先日、教育実習で一年生を受け持っていまして」
トシが申し訳なさそうに話した。
「ええなあ、若くて元気で美人の先生、エリさんが先生になったら一年生になろう」
「面白い子やねえ」
全員で大笑いして、十六人で『いただきます』を言った。



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2008.08.18 / Top↑



 夏樹たち五人と関東方面から来た大学生グループ十人は、簡単な自己紹介をしながら夕食を食べた。
 夏樹たち五人の自己紹介か終わり、大学生たちのトップバッターで話し始めた角刈りの川田孝弘が自己紹介を終えると、自ら起立して背筋を伸ばし少し紅潮した面持ちできりだした。
「隣にいますこの人がエリさん、高橋エリさんです。片仮名でエリと書きます。来年の春には大学を卒業する予定ですが、無事に卒業しました暁には結婚するつもりです」
「ちょっと、タカ何を言っているのよ、わたしそんな約束したっけ」
 タカが今さら何を言い出すのかと、あわてた口調でエリの両肩に手を置き、「約束したじゃないか」と食堂中に聞こえる大きな声で叫んだ。
 食堂にいた他のホステラー(ユースホステルの宿泊者)も全員がタカたちの方を見た。
「タカ、心配するなよ、お前がプロポーズした時はおれが隣で聞いていたし、エリの『はい』の言葉もしっかり聞いた。突然大勢の前で話し出したから、照れているだけだよ。なあエリ」
トシがタカを静かに、なだめるように言った。

「カッコええなあ、タカさん」
 逢坂が大きな拍手をしながら立ち上がった。
「いや、男らしいね、無事に卒業して結婚できるように、わたしも応援しているよ」
 田代先生も拍手をした。
 立ったまま背中を丸くして、頭の後ろを掻いているタカの左手を、エリが強く引っ張りながら椅子に座らせた。タカとエリは二人とも顔を真っ赤にしていた。
 食堂にいた他の人たちからも、タカの大きな声の理由が明らかになり、状況が理解できた数人からも拍手が送られた。もちろん夏樹たちと他の大学生たちからも大きな拍手が送られた。

「あれ、なんですか皆さん、何の拍手ですか」
 奥からペアレントさん(ユースホステルに泊まることは我が家に帰って来たことと同じ、と言う考えから、ユースホステルの経営者または運営者のことをそう呼ぶ)がある程度は話の状況を把握している様子で、にっこりとして食堂へ出てきた。口髭がとても似合う初老のペアレントさんだ。


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2008.08.20 / Top↑




「こちらのタカさんとエリさんが来春に大学を卒業したら、結婚するとみんなの前で発表してくれはったんです」
 夏樹が自分のことのように、興奮した気持ちを、抑えながら説明した。
「いやいや、それはそれはおめでとう。青春やなあ、ええなあ若いちゅうことは」
 もともと目の細い顔立ちのペアレントさんの顔に、目がなくなってしまったような満面の笑みで、大きな拍手を送った。
「そしたら、今夜のミーティングはお二人の馴れ初めなんぞを、皆さんで聞かせてもらいまひょかあ。たっぷりと惚けてもろうてもかましまへんでえ」

 ミーティングとは食後にホステラー達との交流の時間で、みんなで歌を歌ったり、ゲームをしたりとユースホステルによって様々である。何もしないところもあるし、強制的に引っ張り出して参加させるところもある。

「そしたら早くやりましょうよ、そのミーティングとやらを、田代先生の話も聞かなあかんし」
「逢坂、あわてるなよ、まだ飯も終わってへんし、風呂もまだや。ミーティングはその後や、それにおれの恋愛話はええやないか」
「いえいえ先生、わたしたちとしては先生のその二つや三つの恋愛話の方が興味を持っておりますので、是非お聞かせ下さい」
タカと同室の二人が声をそろえて言った。
 近くに座ったもの同士がそれぞれに談笑しながら夕食を済ませた。

 夏樹たち五人と、大学生グループ十人は今までの面識はなく、今日、奈良県のとある場所ではじめて逢ったのだ。生まれた土地も、育った環境も、今の年齢、地位、職業などももちろん違う。この日たまたまここに、このユースホステルに泊まったと言う一点だけの共通点が、旧知の友のように親しく会話できる。
 ここはそんな場所なのだ。

「さあ夕飯が終わったから風呂にいこかあ」
「あれ、いま関西弁しゃべりませんでしたか、タカさん」
 逢坂がちゃかした。
「いや、そうだった。気のせいとちゃうかあ」
「ほら、また、『ちゃうかあ』って言うたやんかあ」
「こいつねえ、高校の時から旅行に出て関西の人と知り合うと、必ずうつっちゃうんだよ、関西弁がね」
 トシが笑いながら逢坂の肩を軽くたたいた。

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2008.08.22 / Top↑

「小説のような、旅のはじまり 三章-⑮」


 食事を終えて風呂に入り、部屋で荷物の整理をしていると館内放送が聞こえてきた。
『これよりミーティングをはじめまあす、みなさあん食堂へ集まって下さいなあ』
 あまり売れていない関西のお笑い芸人のような話し方で、スピーカーから聞こえてきた。

「こんばんは、ようこそお帰りなさい、今宵はゆっくりと旅の疲れを癒してくださいね。当ユースホステルでは、特別なミーティングはやりませんが、全部のホステラーさんに部屋ではなくここに集まっていただいてですね、とりあえずお茶を飲みましょう。そこのカウンターに紅茶のパックと耐熱ポットとカップとお湯が置いてあります。一人づつ用意するより、何人かでみんなのを用意してもらおうと思います。今日は三十四人の方がいたはるんで、五人の人に手伝ってもらいたいです」
 そこまで話し終えると何人かの女性が立ち上がってカウンターへ歩きだした、
「あっ、ちょっとまっとくんなはれ、慌てずにもう一回座ってください。皆さん、右手を上げて下さい、わたしとジャンケンをして勝った人に、この名誉あるお茶運びをお願いします」
「と言うことは負ければここに座って、待っていればええっちゅことやなあ」
 岡村が小さな声で言った。
「君の言うとおり、負ければ名誉あるお茶運びは出来ません」
 岡村はビクッとして首をすくめた。
「それではいきすよ、最初はグー・・・」

 一斉にジャンケンがはじまり、負けた人も、勝った人もニコニコしながら仲間と談笑し、食堂中が賑やかになった。
 三回ほどジャンケンをやった後に、ペアレントさんはますます目がなくなってきた。
「勝った人は立ってください」
 岡村がゆっくりと立ち上がった。
「おまえ勝ち残ってたんか、ええなあ、名誉に向かってまっしぐらやなあ」
 逢坂が満面の笑みを浮かべながら、岡村の背中を叩いた。
「八人の人が残ってますね、今日は五人ではなく八人の人に名誉あるお茶運びをお願いします」
 岡村が頭を下げて、ゆっくりと歩き出した。その後ろから高橋エリが岡村の両肩を持って、押しながらカウンターへ向かった。
「岡村君行くよ」
 なぜか岡村の顔が赤くなっていた。






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2008.08.25 / Top↑
「小説のような、旅のはじまり 三章-⑯」


 全員に紅茶の入ったカップが行きわたり岡村とエリも席に座った。
「皆さんにカップが行きましたね、おかわりは自由ですから各自で何杯でもどうぞ」
 ペアレントさんがこのユースホステル周辺の簡単な観光案内の説明をして、ユースホステルの会員証を見せると割引になる数箇所の施設や食堂などを教えてくれた。
「先生、明日はいま聞いた食堂でお昼にしましょうよ、一割も割り引きしてくれるやないですか」
「そやなあ逢坂君、おれたちも一緒にいかないかい、なあトシ」
「タカ、君どうしたの、その話し方、なんだか変だよ」
「いつもこいつは旅に出て関西の人と知り合うと、関西弁のまねをするんだよ、まねって言うかうつっちゃうんだよね」
 トシがタカの肩を左手で抱えながら言った。

「では皆さん後はご自由にご歓談下さいませませ」
 ペアレトンさんの喋り方は受けを狙っているのが良くわかるのだけれど、あまり面白くないので、みんなが苦笑いをした。

 トシがすくっと立ち上がり田代先生の方を見て言った。
「北海道の話の続きをお聞かせいただきたいのですが」
「やっぱり、覚えてたの」
「はい、是非お願いします」
 照れ笑いをしながら田代先生が話しはじめた。

「夏樹や逢坂たちが生まれる少し前のことだから、昭和の何年だったかな、旅行と言えば修学旅行しか行ったことがないから、切符の買い方もろくに知らなかったおれは、京都駅に行って切符売り場を探して、『北海道までの切符を下さい』って言うたんや」
「ほんまですか先生、やっぱり数学しか知らんかったんですか」
 めずらしく、安達がいつもよりは大きな声で言った。
「そうだったなあ、あのころは。けど一応やけど大学に入れたんやから、数学以外も勉強はしたで」
「たしかに、数学だけでは大学には入れませんからねえ」
 タカが当たり前のことなのに、すごく感心した。
「荷物も山岳部の友達から借りたリュックに数日分の着替えと、数冊の小説と、本屋で見つけた北海道のガイドブックを入れてかついだ」
 あえて数学関係のものは何も持たなかったことを付け加えた。
 

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2008.08.27 / Top↑




「あのう、なぜ今までと違う世界が、北海道になったのですか」
 背中まで髪を伸ばし髭を蓄えて丸いメガネを掛けた金子義彦が、低音で太い声でゆっくりと聞いた。
「さっきの夏樹とおなじやねん、何かの雑誌で広大な牧草地に、牛が放牧された写真が載っていてな、そこには山はなく、真っ直ぐな地平線が同じ日本にあるとは思えんかった」
「京都は三方が山に囲まれた盆地やさかい、地平線が見えるところなんって、日本にはないと思もてた」
 安達も北海道に憧れている一人なのだ。

「おれも、京都に生まれて京都の大学に行った。修学旅行で行った伊勢と東京しか知らんから、あんな地平線を見ることが出来る場所が日本にあるなんて驚いたんや。西部劇の映画でしか見たことなかったしなぁ」
「けど、先生が北海道を目指した頃って新幹線もまだ開通してへんし、すごい時間がかかったんとちゃいますかぁ」
 夏樹の鉄道知識が少し役立ったかな。
「たしか、東京までが直通の夜行列車で十二時間ぐらい、東京から青森までも夜行列車で十二時間ぐらいだったかな」
「そしたら足掛け三日ですか、乗りっぱなしで三日かかるなあ」
 逢坂が指折り数えながら驚きの表情で言った。
「今と違って座席は硬いし、揺れは大きいし、六月に出発したからクーラーのついていない列車は暑かったなあ。でも、空いていたから二人がけの座席に一人で横になって寝ることが出来たから、まあ我慢ができたけどね」

「その当時だと蒸気機関車だったんじゃないですか」
「夏樹は鉄道のことは良く知ってるなぁ。東京から青森の列車は、たぶんそうやった。六月でもだいぶ暑い日やったのに、窓は閉めたまんまで、うつらうつら眠っていても暑いのと、石炭臭かったこと覚えている」
「蒸気機関車が客車を引っ張っていたとしたら、窓は開けてはいられないですよ、そのままトンネルに入ったら大変なことになっちゃいますからね」
 金子も鉄道に詳しいらしい。


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2008.08.29 / Top↑

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