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 高校二年生になりユースホステル部にも、数名の一年生が入部した。新入部員は夏樹たち二年生よりも、学校として部活動の参加が必修だからという理由で、何でもいいから入部した、籍を置くだけのいわゆる『幽霊部員』がほとんどで、週に一回の活動日にも時々にしか顔を見せなかった。もちろん夏休みの旅行計画などには耳を傾けず、端から行く気はないようだ。
 そんな一年生に触発されたわけではないのだが、本村と田端も部室にも来なくなり、岡村は野球がやりたいと言って軟式野球部に転部した。同じ中学校から来た上田も辞めていった。
 そもそも、先生の目が届きにくい場所でみんながタムロできる所としてこの部室を見つけたのだから、活動内容にはなんの興味もない輩である。

「逢坂、今年の夏休みの旅行はどうする」
 夏樹が元気なく聞いた。
「春の奈良旅行はおもしろかったなあ。あんな感動を他の人にも味わってほしいのになあ」
 安達と三人だけが活動日に部室に集まり、たいした会話もなく出欠だけを取って解散となる。田代先生も、他の部活との掛け持ちなので、こちらからの用件がなければ、部室に顔を出すことはなかった。
 結局、今年の夏休みは体裁だけの自主活動ということになった。

「ナツ、今年の夏休みに海に行かへんか、知り合いの民宿が海からすぐのところにあるんや。赤川も誘って」
 飛沢からの電話である。
「もうひとり誘いたいやつが居んのやけど、かまへんか。おれとおんなじ高校なんやけど、中学校もおんなじやから、もしかしたらナツも知ってるかな」
「顔ぐらいは見たことあるかもな」
「ナツのことを話したら、わかるって言てたで」
「飛沢の連れ(友達)なら、おれはええよ」
 と言うことで、八月の初旬に四人で海へ二泊三日の旅行に行くこととなった。
 他に何の予定もない夏樹は二つ返事で了解した。このあたりで海と言えば日本海である。ユースホステルではないが列車に乗ることが出来る。
 赤川も一緒なら鉄道研究会の活動もできるし、ユースホステル部の自主活動がこれで一応は出来る。とにかく何処かへ行くことが夏樹は大好きなのだ。


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2008.10.06 / Top↑




 海に行く打ち合わせをするために、飛沢の家に四人が集まった。
「あれ、石田とちゃうか」
「おう、夏樹、久しぶりやな」
「もう一人誘いたいて言うのは石田のことやったんか、八年ぶりぐらいやなあ」
 石田と夏樹は小学校の一,二年生で同じクラスだった。よく遊んだ仲だったが、クラスが変わり疎遠になっていた。
「もしかしたら、幼稚園の時から知ってるんとちゃうかいなあ」
「そしたら、おれたちよりも古い友人と言うことやなあ」
 飛沢が言った。
 赤川とは中学校三年生のときに同じクラスだったようだ。
「四人がそれぞれに、いろんなところで繋がってるなあ。なんかおもろいなあ」

 丹後半島の北の端に経ヶ岬と言う岬がある。そこから少し西へ行くと、間人と書いて『たいざ』と読む集落がある。そこに飛沢の親父さんの古くからの友人が、民宿を経営していた。そこへ遊びに行くことになった。大きな海水浴場ではないが、目の前が海である。広い砂浜はないけれど、その代わり、海水浴客もあまり多くなく、穴場と言えるところである。
(三十年も前のことです。残念ながら現状は分かりません)

「丹後半島へ行くんやったら、加悦鉄道を見に行かへんか」
 赤川の鉄道知識が黙っていなかった。
「国産のSLが造られる前の輸入機関車なんかが展示してあるねん」
「おう、いくいく。復活、鉄道研究会や」
 夏樹がおおいに喜んだ。
「面白そうやなあ、石田もかまへんやろ」
 飛沢も鉄道研究会の正規メンバーである。
「ええよ、おれも鉄道とか好きやし、赤川からもいろいろ聞いてるし」
「よしこれで決まりやな、一日目に加悦鉄道に寄って、海に行くと言うことで」

 夏樹が高校に入ってからは、帰宅遊部(きたくあそぶ)は廃部して、帰宅後はアルバイトに勤しんでいた。この頃になると一眼レフカメラが手元にあり、もう父親のカメラではなく、自分で稼いだお金で買ったカメラを持って、鉄道写真を中心に撮っていた。

「そしたら、三脚の安いやつを、どっこかで探してきなあかんなあ」


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2008.10.08 / Top↑


 餘部鉄橋を見に行った時と同じく、京都駅を始発の鈍行列車に乗り、旅行が始まった。もちろん、最後尾の客車の最後列の席を陣取り、乗降デッキに出ては心地よい風と、スリルを味わうのだ。
 途中、福知山で下車。福知山機関区を見学することができた。ここは京都北部、一部は福井、兵庫北部方面で活躍する機関車が駐留している機関区である。
 鉄道を趣味とする方々にしか、わからないかも知れないが、この当時蒸気機関車の時代が終わり、非電化区間の客車の牽引をしていたのがディーゼル機関車である。多くのDD54型、DF50型が駐留していた。
 福知山機関区には扇型機関庫と転車台(機関車の前後を回転させる装置)があった。地方の機関区としてはめずらしのではないだろうか。

「中に入ってもかまへんって、この腕章を付けてくださいって」
 赤川が駅員さんに機関区の見学を頼みに行ってくれた。
    
                  福知山


 鉄道オタクとしては、機関区に入って見学できるなどということは、至福のひとときである。そして、多くの機関車が機関庫に入っている姿を見ることができたのだから、運が良いとしか言いようがない。

「赤川、来てよかったなあ、普通は入れてもらわれへんのとちゃうかあ」
 夏樹は興奮を抑えきれずに声が少し上ずっていた。
「ほんまやなあ、聞いてみるもんやで」
 二人はさっそく三脚にカメラを取り付けて、おもいおもいのアングルから写真を撮りはじめた。

「あいつら、ほんまに鉄道が好きなんやなあ。ものすごく活き活きしてみえるは」
 石田が腕組みをして二人の様子を見て夏樹に言った。
「ええのとちゃうか、好きなことに夢中になれるということは、なんか羨ましいは、俺なんか、ああやって夢中になれることが、ないさかいなあ」
「そうなんかぁ?、夏樹とサイクリング行ったり、いろんな音楽をステレオで聴いたりしてんのとちゃうの」
「それは、自分から興味をもって始めたことやないねん、ナツと知り合って覚えていったことやし。たまたま、俺の親父がステレオを持っていたから、なんとなく音楽を聴くようになっただけや。知識はナツの方がいろんなことを知っとるで」

 飛沢と石田はカメラを持ってきたけれど、ケースから出すこともなく、じっと夏樹と赤川の行動を見ていた。



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2008.10.10 / Top↑



「そろそろ行かんと列車に乗り遅れんのとちゃうか」
 飛沢が夏樹と赤川に大きな声で言った。
「あっ、やべぇ、もうこんな時間か」
「急がんとあかんなあ」
 四人は駅員さんにお礼を言って、山陰本線の上り線ホームに向かった。いったん綾部に戻り舞鶴線に乗り宮津へ向かう。宮津線で丹後山田へ、そこから加悦鉄道に乗りに行くのだ。(残念ながら昭和六十年四月に営業終了してしまった)

 この当時の山陰本線はほとんどの区間で単線だったために、駅ではない場所で上り下りの列車がすれ違うことはなかった。しかし、福知山と綾部の間には、ほぼ直線で複線の区間がある。ここでは上り下りの列車が、走りながらすれ違うことができる。山陰本線では大変珍しいことなのだ。

「来年の夏休みには、こうやって遊びに出かけることは、でけへんやろうなあ」
 飛沢が少し寂しそうに言った。
「そやなあ、俺も来年の今頃は、こんなことしてらへんやろなあ」
 車窓から見える田園風景をぼんやりと見ながら、石田もなんとなく寂しげである。
「なんでやねん、これから楽しみ行くのに、そんなしみったれたことを言うなよ」
「夏樹の言うとおりや、ましてや来年のことなんか喋るなよ。鬼が笑うで」
 赤川は少し興奮しているようだ。

「飛沢も進学なんやろ」
「そうや、石田はどこの大学へいくんや」
「俺の頭ではなあ、行きたいところやのうて、とりあえず入れるところへ行くしかないもんなあ」
「俺もやなあ。けど、できれば家から通えるところへ、行きたいねんけどなあ」
「それの方が親の負担も少なくてすむしなあ」

「なんや、お前ら大学に行くのか。それで来年は受験勉強をせんといかんから、こんなことをしてられへんて言うことか。その程度の理由で大学に行って何をやるつもりや。そやから、今の大学生なんか遊んでるやつばっかりで、いつ勉強をしてんのか分からへんのが多すぎる。出席日数が足らんから留年して、それでも懲りずに遊び惚けるから、結局、退学してヒッピーみたなんになって、なんもせんと、フラフラしてるやつらがいるやないか。とりあえず大学へ行くやなんて、俺はきらいや」
 赤川がますます興奮してきた。
 


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2008.10.14 / Top↑




 大学とは、とりあえず行くところではなく、将来の目標のために、本気で行きたいやつが、入りたい大学を目指して、真剣に勉強して希望の大学に入る。そして、入学してからはその目標に向かって勉強するところなのだ。これが赤川の大学に対する考え方である。
「夏樹はそう思わへんか」
「いや、ううん、多分。とりあえず遊びに行くところではないわなあ」

「けど今の時代はとりあえずでも大学を出とかんと、後でいろいろと大変なんや」
 石田も少し興奮しているようだ。
「まあまあ、せっかくの旅行やないか、赤川も石田も喧嘩みたいな喋り方は止めようや」
 飛沢がやんわりと割って入った。
「赤川の言うとおりやと俺も思うけどな、最終目標が決まらへんから、行きたい大学も決められへんやろ、そやから俺もとりあえず大学へ行こうと思うてるんやけどな。それって間違ってるやろか」
「すまん、ちょっと興奮してしもうた。俺の知ってる大学生に遊び惚けてる人が何人かいるんや。それと、そういう大学生が主人公のテレビのドラマを見て、すごく頭にきてたから、少し言い過ぎたかな。ごめん」

「赤川はどうするんや、これからの進路は」
夏樹が聞いた。
「俺は」
 興奮していた気持ちを落ち着けるように、少しのあいだ車窓を眺めていた。その時下りの特急列車が、けたたましい轟音を響かせて福知山方面へと走っていった。
「ごめん、俺もまだ決まってないんや。将来の目標って言うか、なんとなく、やって見たいことはあるんやけど、具体的には何も決まってない。ただ、とりあえず行くところとは違うと思うんや、大学て」

 夏樹はいますれ違った下りの特急列車が何だったのか、気にしながら話に入っていった。
「そうすると赤川も進学の可能性もあるということか」
「そういうことやな、やってみたいことのために、何を勉強すればええのか、まだよう分からんへんから、どこの大学へ行けばええのかも分からん」
「そうかあ、一応三人とも進学かあ、俺だけやな就職希望は。まあ、どっちみち俺の頭ではとりあえずでも入れる大学なんかないけどな」




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2008.10.16 / Top↑





「そんなことないやろ、中学のころは俺よりも成績は良かったし、今からでもまにあうって、一緒に進学しようや」
 飛沢の声が珍しく高ぶっていた。
「いやあ、俺も赤川とおんなじような考えなんや、大学はとりあえず行くところやない、それに俺は今やりたいことがある、それは大学やなくて高校を卒業したら、やりたいことができる処へ就職することや。そこで早く仕事を覚えて一人前の職人になることが、俺の今の夢なんや」

「職人?なんか物を作る仕事かあ、何を作る仕事や」
 赤川が興味のある顔付きで夏樹を見た。
「まあ、それはええやないか、いずれ分かることやし。それに、まだ行くところは決まってないし、来年の秋にならんと分からんことやからなあ」

「そうかあ、夏樹はもう将来の自分のやりたいことが決まってるんやなあ。そういうやつはその道にまっしぐらに進めばええねん、俺みたになんも決まってへんやつは、今のところ、とりあえずなんやけど、大学に行くことしか想い浮かばへんのや」
 少し元気なく石田が言った。
「赤川と夏樹が言うてることは、俺かてようわかってるけどな、今のところ、やりたいことや将来の夢とか、何にも見えてきいひんねん、世間ではもう高校生やろって言う感じで見てるけどな、俺にしてみれば、まだ高校生やねん、まだ十七歳になったばっかりやねん」
 飛沢も少し寂しそうな口調で言った。

「ごめん、俺も少し言いすぎたなあ、偉そうなことを言うたけど、まだやりたいことなんか、なんとなくしか見えてへん。さっきも言うたけどな、こないだ見たドラマに出てた大学生があまりにもだらしなくてな、その役のせりふが『今が楽しきゃ、それでいいじゃねえか、何年かけて大学を卒業しようと俺の勝手だろうが、ほっといてくれ』って言いよった、なんかものすごう腹が立ってきてなあ」
「赤川の見たドラマって日曜日の八時からのやつか、俺も見た、なんか腹が立ったなあ」
 飛沢も同じドラマを見たようだ。






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2008.10.18 / Top↑






「俺は、たまたまやりたいことが決まっていて、それが職人仕事やから何ぼでも早く、その仕事を覚えた方がええって言われたんや。ほんまは高校へ行かずに修行したほうが、ええねんけど,って言う人もいたけど、親父が高校だけは出ておいた方が、これからのためやからって、その仕事がいやになるかも知れへんし、他の理由で出来なくなることもあるかも知れへんし」

 車窓を見ることもなく話に夢中になっていた。何処の駅だろうか、停車しているこの列車の横を、二両編成のディーゼル車が綾部方面へゆっくりと発車して行った。そのディーゼル車の走行音が聞こえなくなってすぐに、夏樹たちが乗ったディーゼル車の発車を知らせる警笛が「ブオォーーーン」と聞こえてきた。

 夏樹が自分の思いを続けた。
「飛沢が言うたとうりやと思うんやけど、まだ十七歳になったばっかりやろ、今はこれがやりたいと思ってその道に入っても、思てたのと違うことに、やってみて初めて『こんなはずやなかった』って気づくこともあるかもしれへんしな、それでその仕事を辞めて転職するときに、中卒ではなかなか仕事を見つけるのは難しいやろ、履歴書に高校卒業と書かへんと、雇ってくれるところが少ないんのとちゃうやろか。そういう意味では大卒の方がもっと有利やろなあ」

「そうなんや、とりあえずでも大学を出ておけば、就職のときに何ぼでも有利やということは分かってる、そういう理由で大学にはいろうとしてるのが半分や、残りの半分は、俺が今の段階でやりたいこと、やって見たいことが見えてきいひんから、大学に行けば何かが見えてくるのとちゃうかなと思うんや、見えてくるまで高校にいるわけにも、いかしまへんしなあ」
 飛沢が少しおどけて言った。

「赤川の言うとうりや、来年のことなんか話してたら鬼に笑われるわ。せっかくの夏休みにこうやって遊びに来てんのやから、楽しまんとな」
「おい石田、俺たちは遊びに来てんのとちゃうで、鉄道研究会として研究に来てるんやかな」
 赤川のこの一言で四人が大笑いをして。
 夏樹たちの乗ったディーゼル車はクーラーがない列車だ。大きく開けた窓からの心地よい風を感じながら、車窓に見える山々や田園風景を楽しんだ。



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2008.10.20 / Top↑




 舞鶴で宮津線に乗り換えて丹後山田へ向かう。右手には日本海がちらほらと見え隠れするようになって来た。一日目、二ヶ所目の目的地である加悦鉄道に乗って、終点加悦駅の『SL広場』へ向かう。

     (何十年かぶりに、時刻表に付いている北近畿地方の路線図を見ると、
      丹後山田駅は見当たらなかった。宮津線は第三セクターの
      北近畿タンゴ鉄道になっていた。鉄道研究会をサボっていました)

 当時のSL広場は加悦駅構内にあった。明治時代の英国製蒸気機関車や、戦前、戦後に活躍したSLや気動車、ディーゼル機関車、客車が展示してあった。赤川と夏樹はカメラを片手に、あまり広くはない構内を走りまわっていた。今日の最終目的地の間人(たいざ)の民宿へたどり着くには、あまり時間がなかった。

             
              加悦1             加悦2



 名残惜しい気持ちを堪えて、再び加悦鉄道に乗り、丹後山田へ。宮津線の網野からはバスに乗り間人へ向かう。海水浴場とはいっても、砂浜ではなく、小石の海岸で、人もあまり多くはなかった。今日のところは時間も遅いので海には入らず、すぐに民宿の風呂に入り、夕食の時間となった。
 部屋にはテレビもなく、だからといって外へ散歩などにも出かけず、なぜか四人でトランプをやっていた。当時としては、まじめな部類の高校生である。酒なども飲まずに、ジュースを片手に、ポーカーが始まった。

 まじめな部類とは言え、そこは高校生、ゲームが白熱してくると、声も大きくなってくる。
「こらあ、うるさいぞ」
 隣の部屋の家族連れのお父さんから怒りの叱責が聞こえてきた。隣の部屋とはいっても、広い続き間をその時の人数によって、襖一枚で仕切りを換えて部屋を作っているので、隣へは声が筒抜けである。

 隣のお父さんから怒りの叱責が来るのも当たり前であった。いつの間にか十一時をとっくに過ぎていたのだ。
「すいませーん」


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2008.10.22 / Top↑



 高校二年の夏休みは、飛沢、赤川、石田、そして夏樹の四人で丹後半島の間人(たいざ)への二泊三日の海水浴旅行に行った以外は、四人ともアルバイトに勤しんでいた。要するに四人とも夏休みにもかかわらず、毎日のように学校へ行かなければならないような、部活動は何もやっていなかったのだ。四人ともに運動は遊びとしての域を超えるほどの興味、関心はなく、中学生時代も何も入っていなかった。

 また、あの当時の体育会系の部活は、先輩、後輩の縦の関係が非常に厳しく、一年でも年上の先輩の言うことは絶対だった。それだけその競技への強い想いと、強靭な精神力のない人間は部活動に入っても、苦しいだけだったかもしれない。四人が通っていた中学校の体育会系の部活は、大会では常に上位入賞をする部が多かった。
 文化系にもあまり興味を持てる部活はなかった。絵を描くのも、音符も苦手だった。

 夏樹が籍を置いている、ユースホステル部と、鉄道研究部は、夏休みにおいては自主活動、自主研究ということだった。結局、何もないのである。

「夏樹」
 夏休みが終わって二学期が始まったころだった、安達が声をかけてきた。
 安達も夏樹と同じくユースホステル部と、鉄道研究部に籍を置き週に一度の活動日に顔は会わせていたが、相変わらずユースホステル部には、この二人と逢坂と一年生の何人かが顔を出すだけだった。
「冬か春の休みにスイッチバックを見に行かへんか」
 スイッチバックとは、列車が高低差の大きい急傾斜を、ジグザグに登りくだりする場所である。

「ユースホステル部と鉄道研究部の両方の自主活動が出来るやろ、スイッチバックはこの辺にはないから、一度見て見たかったんや」
「ええなあ、何処へ行くんや」
「島根県の宍道湖のある宍道駅から、県境の岡山側の備後落合駅を結ぶ、木次線の出雲坂根駅にZ型のスイッチバックがあるんよ」

 地図を見てもはっきりとZ型に線路が書かれている。
「そこやったら山間のローカル線やろ、列車の本数は少ないやろなあ。早めに計画を立てんとあかんなあ。岡山側から島根に行って、そや出雲大社にお参りにいこ、あそこは縁結びの神さんやろ、そろそろ彼女が出来ますようにって頼んでこうよう」
 さっそく二人は地図と時刻表を開いた。


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2008.10.27 / Top↑




 山陰方面へはいつも始発の列車に乗って行くのだが、今回は山陰本線の長距離列車の最終便、二十二時ごろ発の夜行列車に乗って行くことにした。夜行鈍行である。
     (残念ながら現在の時刻表には載っていない。いつの間に
     廃止されてしまったのだろうか、またまた、鉄道研究会を
     サボっていました)
 この列車で米子まで行き、伯備線で新見へ芸備線で備後落合へ、そして木次線で出雲坂根駅へ向こうことにした。

 この夜行鈍行は山口県の下関駅までの各駅停車の鈍行で、亀岡あたりまでは会社帰りに一杯飲んでのサラリーマンの乗降があったように思う。その先はほとんど人の乗降はなく、静かに駅に止まり、静かに駅を後にしていく、この連続であった。
 嵯峨駅を過ぎれば、街の灯りはなくなり、車窓からは何も見えなくなる。窓ガラスには車内の様子がくっきりと映り込んでいた。亀岡駅を出たあたりだろうか、車内アナウンスはなくなり、室内灯も少し落とされて薄暗くなる。各駅停車の夜行鈍行なのに、一両だけではあるがB寝台車が連結されていた。

 四人掛けのボックス席には、二,三人ずつの人しか座っていなかった。一人で四人分を独占している人もいた。夏樹と安達も四人分を二人で使っていた。
「今日は空いてる方なんやろか」
 静まり返った車内に夏樹の小さな声が、隣の席の客にも聞こえてしまいそうだ。
「どうなんやろ、分からんけど。結構、揺れるなあ」
 車内アナウンスはないし、駅での出発のベルも鳴らないが、発車の時は『ガッタンゴッゴン』と大きく揺れる。
「今日の運転手はへたくそやなあ」
「そうみたいやなあ」
 夏樹と安達は、窓に映っているお互いの顔を見ながら、苦笑いをした。

「米子に着くのは朝の七時半ごろ。寝過ごさんようにちゃんと降りんとなあ」
「夏樹、心配せんでも大丈夫やと思うで、多分、寝られへんのとちゃうか、走ってる時も結構、揺れるし」
「いや、俺は寝てしまうかも知れへんから、安達、自分に頼むは、起こしてな」




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2008.10.29 / Top↑




 車内のほとんどの人たちはおもいおもいのスタイルで眠っているように見える。何人かのおじさんは、透明のガラスカップに入った酒や、缶ビールを片手に持ち、寝るでもなく、起きているでもないような、赤い顔をしてとても気持ちの良いように見える。まさしく夢心地といったところだろうか、あのおじさんたちには、列車の揺れ具合がちょうど良い感じの揺れ具合なのだろう。

 日付が替わり安達と夏樹は小声で話しをしていた。内緒話に花が咲いたような光景で、学校の教室や街中の喫茶店などで、こうやって男子高校生二人が、お互いの顔を近づけて、小声で話をしていたら、とても滑稽であろう。
 夏樹はうとうとと眠ってしまいそうなのだけれど、缶ビール片手のおじさんのように、列車の揺れが心地良い揺れとはならず、しっかりと眠ることは出来なかった。
 眠いのだけれど、揺れと列車の走行音が、睡眠の邪魔をするのだ。

「安達の言うとおりやな、ひとっつも寝られへんは」
「けどさっき、大きな鼾をかいてたで」
「うそう、俺って鼾をかくのんかいな、なんかショックやなあ、そんなこと言われたん初めてやで」
「五分ぐらいやったかな、すぐに目を覚ましたけどな、少しだけやけど寝てることには間違いないわな」
「そんなこと聞かされたら、気になって寝らへんがな」
「なんも気にすることなかあらへん、見てみ、あそこのおじさん、思いっきり鼾かいてるはる、さっきからずっとや。けど、走行音の方がうるさいから、ぜんぜん気にならへんやろ」

 夏樹から見れば二つ後ろの席で、通路側の肘掛を枕代わりにして、夏樹たちの方へ顔を向けて寝ている、五十代ぐらいのおじさんが見えた。鼾の音が聞こえるが、それ以上に『ガタンゴトン、ガタンゴトン』の音の方が大きく、あまり聞こえてこなかった。

「ほんまやな、静かな部屋で一緒やったらかなりの顰蹙(ひんしゅく)もんかもしれへんなあ。あれ、もしかして自分は全然寝てへんのか」
「うるさいのと揺れが大きさかいになあ、それと少し考えごとをしてたさかいに、目が冴えてしもうたは」
「なんぞ、悩みでもあんのんかあ、俺でよかったら相談にのるでえ」
「おうきに」

『ガタンガガッタガタゴトン』
 大きく左右に揺れて、ポイントの上を通る大きな音がした。スピードも急に遅くなってきたようだ。どこかの駅に入って行ったのだろう。

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2008.10.31 / Top↑

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