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 石田は柔道をやっていたことがあるからか、ガッチリとした体型である。いつもならどんぶり飯を二杯は食べるのに、今日は普通の飯茶碗に一杯しか食べなかった。よほどの対人恐怖症だというのか。
「石田、お代わりせんでええのんか」
「ああ、食欲ないねん」
「そうか、ほな、ごっつぉさんでした。食器を持っていって部屋にもどうろか」
 夏樹が食べ終わった食器の載ったトレーを持って立ち上がった。 それにつられて飛沢と石田も立ち上がった。

 ユースホステルには食堂兼、談話室兼、ミーティングルームといった部屋で、食事後にはおもいおもいに話しをしたり、トランプゲームをしたりしている人たちの輪が出来てくる。その部屋に立派なオーディオが置いてあるところは、何回か見たことがあるが、テレビは置いていない。もちろん部屋にもテレビは置いていない。

 後々の話になるが、ホテルの一部をユースホステルとして運営しているところに泊まったときは、部屋にテレビが置いてあった。旧本館の古い建物の端っこの方の部屋だったが、以前はホテルの部屋として使っていたのだろうと思われる。二時間で百円だった。

 部屋に戻った夏樹は、時刻表を開き明日の電車時間の確認をはじめた。朝から夕刻まで、ずっと電車に乗りっぱなしになる。一つの電車に乗り間違えると、乗り換えの連絡が上手くいかず、目的地に着くのが大幅に遅くなってしまうこともある。とりあえず、倉敷駅で何時の電車に乗るか、そこが基準になる。

「石田君、元気ないなあ、どないしたんや」
「飛沢はえらい元気やなあ」
「さっきの飯のときにな、お前の後ろの方のテーブルに座ってた女の子が、けっこう可愛かったんや。女の子四人のグループみたいなんやけど、あの子らと後でトランプでもしませんか、とか言って、お近づきになれへんかなあと思うてなあ」
「それで飯の時に俺の方ばっかり見てたんか」
「えっ、そんなに可愛い子やったか、気がつかへんかったなあ」
 夏樹が、時刻表を閉じながら話しに入ってきた。


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2009.01.30 / Top↑





 飛沢と夏樹は会話も少なく、淡々と食事を済ませた。石田だけは、どことなく落ち着きがなく、食堂のあちらこちらを見ていた。どうしても食後のミーティングが気になるらしい。こんな対人恐怖症のようなことでは映画監督など、夢のまた夢である。

「石田、どうしたんや、さっきからキョロキョロして、不審者見たいやで」
「夏樹、変なこと言うなよ。こんなとこに泊まるのは初めてやさかいに、いろんなことが珍しいねん」
「別にそんな珍しいものは何もないやろ、この椅子かて普通のパイプ椅子やし、この部屋の造りやインテリアも地味な感じやし、何が珍しいんや」
「いやあ、いろんな人がいるんやなと思ってな、いままでに旅行と言えば、修学旅行と去年の夏に民宿に泊まった海水浴ぐらいやからなあ」

 石田は面識のない人と一つの場所に泊まって、これからこの人たちと会話をすることになるかもしれない、と言うことを彼なりに受け入れようとしているようだ。
 初めての人と話しをすることは恥ずかしい、面倒くさい、といった煩わしい思いをどうすれば払拭できるか、周りにいる人たちを観察することで、何かを得ることが出来ないか、石田は自分自身に問いかけていた。

「ほら、あそこのグループ、二十人ぐらいの大学生やと思うんやけど、男の人も女のも人いたはるんやけど、何のグループなんやろなあ。部活の合宿やろか。五,六人なら仲良しグループなんやろうけど」
「あの人たちは二十人のグループやないと思うで。少人数のグループがいくつか集まったんとちゃうかなあ。たまたま同じテーブルに座ったから、誰かがとなりに座った人に『どこから来たんですか』とか聞いたりして会話が始まったんとちゃうかなあ。もしくは、男同士、女同士が同じ部屋でその時に『こんにちは』の一言から会話が始まって、そのまま同じテーブルで食事をしてはるかもしれへんで」
「なるほどな、そんな簡単に知り合えて会話が出来るもんなんや」
「外国人なら言葉も通じひんこともあるけど、同じ日本人やもん、多少の分からん方言の人もいるかもしれへんけど、何も問題なく会話できるし、そういうことを嫌いな人は最初からユースホステルには泊まりに来いひんから」





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2009.01.28 / Top↑





 三人は風呂から上がり、食堂へ向かった。
「なんか普通のとんかつ定食みたいやなあ」
 キャベツの千切りを軽く盛り付けた横に、薄くスライスされたきゅうりが三枚添えられ、メインに一口サイズにきられた大きなとんかつが置かれている皿が一つ、味噌汁椀と、御飯の入った茶碗と、香の物が入った小鉢を、アルミ製のトレーに載せてテーブルに向かった。
「おれ、お茶を持ってくるは」
 石田が自分のトレーをテーブルに置き、お茶の入ったポットのところへ行った。
「今日は満室やろか、テーブルもほとんどいっぱいやなあ」
 飛沢が食堂の全体をみわたして言った。
「ここのユースホステルは定員が八十人やから、これだけの人がここにいるちゅうことは、ほぼ満室やろなあ」
 大学生ぐらいの年齢の小グループが一番多く見られる。中には年配のご夫婦や、外国人の人もいるようだ。

「高校生ぐらいの年の人は少ないみたいやな」
 夏樹が食堂の中を何回も見渡して言った。
「やっぱり食事の後でミーティングっちゅうのをやらはんのかなあ」
「石田君、何を心配してんの、ミーティングといってもそんな難しいことをするわけやないさかい、それにこれだけ多くの人が泊まってるときは、何もせえへんかもしれへんで。そんな時はたぶん、あっちこっちで自然発生的に人が集まって、いろんなことをするんとちゃうかなあ」
 右手に持った箸を口元に近いところで止めて、夏樹が言った。

「なあ夏樹、明日は津和野まで行くんやろ、何時間ぐらい電車に乗るんや」
 飛沢が言った。
「朝の九時ごろに倉敷駅を出発して、津和野に着くのは午後の三時ごろかな」
「一日中、電車に乗ってなあかんなあ」
「それもまた旅、楽しいで」



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2009.01.26 / Top↑





 倉敷ユースホステルは、美観地区から少し山の手にある、ユースホステル協会直営の施設だ。直営のユースホステルは規則が厳しいと言われているが、それぞれのペアレント(ユースホステルの運営者)の考え方、やり方で様々である。

「ユースホステルって、二段ベッドなんや、おれの家では布団やからベッドになんか寝たことないねん」
 石田が珍しいものを見るように、直ぐに上の段へと上がって行った。
「俺は弟と二人、二段ベッドやから珍しくはないけど、家では下の段やから今日は上に寝よかな」
「飛沢君、早い者勝ちやから空いているところはどこでも自由にどうぞ。荷物が置いてないところは空いているから、俺は下の段にするは、こないだ上に寝たんやけど、なんか窮屈でなあ、あきまへんわ」
 夏樹は平均よりは身長が大きいほうである。以前に泊まったユースホステルで二段ベッドの上に寝た時に、窮屈な思いをしたのだ。
石田と、飛沢は今日がユースホステルに泊まるのが初めてである。

「民宿と違って、あんまり食いものは期待せんように。夕食にはまだ時間があるから先に風呂に入ろうや」
「そやな、そうしようか。ところで夕食の後にミーティングちゅうのはやらはんのか、知らん人なんかと話したりするのは、苦手なんやけどなあ」
 石田はいつも少々やさしい話し方である。生まれ持った性格なのであろうか。
「わからんなあ、それぞれやさかいに、ここはやるのかなあ。けど面白いで、知らん人って言っても、年も出身も仕事も、もちろん仕事での地位も何も関係ないんや、目的は同じ旅人やから。今日だけの同宿者同士で情報交換したり、お国のことを話したり、ゲームや歌を歌ったり、楽しいで、いろんな人がいたはるさかいなあ」
 それでも石田は苦手であると言わんばかりに、目を細めた。

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2009.01.23 / Top↑





「おっと、もうこんな時間やんか、そろそろユースホステルに行こうか」
「夏樹、ここから近いんか」
「ユースホステルのハンドブックの地図によるとやなあ、歩いたら二十分ぐらいかな」
「それにしても、女子大生風の女が多いと思わへんか」
「ディスカバー・ジャパンやろ、何年前かなあ国鉄のキャンペーンで、女の人でも気軽に旅行をっていうやつやろ、女性誌を片手にいわゆる『アンノン族』と言う女の人たちが全国の観光地へ押し寄せているみたいやなあ」

 温泉地や有名なお寺、名所、旧跡よりも、軽井沢や、京都、倉敷、清里、または勝手にと言えば少し御幣があるが、全国に小京都と名乗るところが多くある。そんな女性向けの少しおしゃれな、一部は意図的に創られたような観光地に人気があったようだ。
 女が集まれば、男も集まる。そうすれば観光地として賑わい、いろんなところが儲かって、潤っていったようだ。

 思い荷物を担ぎ、倉敷美観地区から少し山手の方へ歩いてユースホステルへと向かった。

「ホテルのような建物やないけど、二食付で三千円で泊まれんのやから、高校生の貧乏旅行には最適やろ」
「いやあ建物なんか別にかまへん、美味しいものが食えればそれでええんねんけどなあ」
 飛沢は以外に食通である。
「それは無理や、二食付いて三千円で泊まれるところに、食いものを期待できひんやろ」
「やっぱりなあ、まあ腹一杯食えればええは」
「とりあえず、ご飯はお代り自由やから、思いっきり食べてくださいな」


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2009.01.21 / Top↑

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