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 飛沢が微笑みながら、夏樹の方へ向き直り話しを続けた。
「石田の隣にいたから、お前も気がつかへんかったんやな、たぶん大学生やろなあ、少し化粧をしてはったから俺たちより年は上とちゃうかなあ」
「よし、直ぐに食堂に行ってその人たちを探そう」
 夏樹と、飛沢がすっくと立ち上がり、部屋を出て行った。ところが石田は座って
いた自分のベッドにそのまま寝転がった。

 食堂では皆が食事を終えて、おもいおもいに話しをしたり、トランプゲームをしたりしていた。
 この当事、どこのユースホステルでもトランプゲームをやる時は『大富豪』が主流であった。地方によっては『大貧民』と言うらしいが、ルールも地方や、グループによって多小違うようだ。しかし、この違いが話しのきっかけとなり、会話が盛り上がっていくこともある。

「ずいぶん多くの人が居たはるなあ。なんか泊まってはる人のほとんどが、ここに集まってはるみたいやな」
「飛沢、どの人や、その可愛い人たちは」
 二人は食堂中をきょろきょろと見渡し、まるで不審者のような行動をしていた。
「いてないなあ。まだ、部屋にいたはんのやろか」
「まあ、しゃあないわ。とりあえずここが空いてるから、座ろうか」
「今日はミーティングちゅうのはないのかいなあ」
「ないかも知れへんなあ、ミーティングをせんでも、自主的に皆さんが集まって本来のミーティングの目的がはたされているから、あえてしなくてもええのやと思うわ」

「あれ、石田はどうしんたんやろ」
 ようやく飛沢が気づいた。石田は部屋で一人自分のベッドに寝ているはずだった。
「あいつ、そんなに知らん人と話をするのが苦手なんやろか」
「飛沢は小学校のころ、あいつと同じクラスやったんやろ、どうやったんや」
「あのころは、まあ、周りには知ってる人ばっかりで、そんなに初対面の人と話しをすることは、なかったしなあ」
「お前が転校して来て、あいつとはじめて話をした時は、どうやったん」
「五年生の一学期に転校してきたけど、そう言えば石田と初めて話しをしたのは、夏休みが終わってからやったなあ」



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2009.02.02 / Top↑





 飛沢と夏樹はお互いの顔を見ないで会話をしていた。飛沢が見かけたと言う可愛い女の子を捜して、食堂の隅から隅までを見渡していた。見落として気がつかなかったのか、部屋から出てきてこの食堂に向かっているのではないか、と入り口付近も見ていた。

 二人は石田のことも忘れて、別の大学生のグループと『大富豪』をやることになり、消灯時間まで食堂にいた。部屋に戻る時間になったが、結局お目当ての女の子は現れなかった。
「面白い人たちやったなあ、特にあの髭がもじゃもじゃのヒッピーみたいな男の人は最高におもろかった」
 飛沢が食堂から部屋へ向かい、歩きながら言った。
「東京の大学に行ってるけど、出身は福島って言てはったなあ」
「夏樹、福島やのうて、栃木ってゆうてなかったか」
「そうやったかなあ、どっちにしても関西弁でもなく、標準語でもなく、初めて耳にする方言やったなあ」
「あの人は大学生にしとくのはもったいない、ヨシモトに紹介したろか、売れると思うなあ」
 頭を大きく三回、上下させて、そのとうりだと言わんばかりに、飛沢の方に向き直り夏樹が頷いた。

 部屋に戻ると、石田はすでに熟睡しているようだった。飛沢は石田を起して、食堂で知り合った面白い大学生の人たちのことを教えてやろうと言ったが、夏樹が明日にしようと言って止めた。この部屋の他の宿泊者はみんな、寝る準備をしていた。
「飛沢、今日はもう寝よう、続きは明日ということで」
「そやな、そうしようか」
 二人は歯ブラシを持って、洗面所に向かった。



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2009.02.04 / Top↑





 ユースホステルの朝は早い。朝食が七時か七時半ごろから始まり、八時には宿泊者のほとんどが出発する。
 倉敷のこの日の朝も、六時ごろからあちらこちらで、寝床のベッドから、洗面所へ向かう足音が聞こえてくる。

「ええ天気やなあ」
 石田が窓のカーテンを少し開けて言った。
「おおう、おはよう」
 夏樹が朝の第一声を発した。
「飛沢は起きたか」
「おはよう、何時や」
 飛沢が少し寝ぼけた様子で言った。
「あれ、まだ六時やんか、こんなに早く起きることはあんまりないなあ」
 石田は夕食後に部屋へ戻り、そのまま眠ってしまった。そのためかいつもより早く目が覚めたようだ。
「飛沢、見てみ快晴やで、空は真っ青や」
「お前だけ早くに寝たから、朝はようから元気なんやな」
「こんなに気持ちのええ朝は、久しぶりやなあ」
「きのうの夜に、おもろいことがあったんやけど、教えたらへんぞ、なあ夏樹」
「そうやなあ。混む前に顔を洗ってこうようか」

 飛沢と夏樹はまだ寝ぼけ眼(まなこ)で起き上がり、ベッドの脇に干しておいたタオルを持って洗面所へ向かった。
 朝食はご飯に味噌汁、焼き魚に香のもの、といった、一般的には和食が多い。時にはパックの牛乳やヤクルトが着くこともある。主食がパンのところもあった。




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2009.02.06 / Top↑







「夏樹、窓際の四人組やわ、俺がきのう言ってたのは」
「ふうん、そうか。お前の好みのタイプは、ああいう感じなんや」
「可愛いと思わへんか」
「うん、まあ」
 女の子の好みのタイプは人それぞれ、この話しはこのあたりで終り。

 ユースホステルを出発する時に、昨夜『大富豪』をやった大学生グループと一緒になった。髭を蓄えたヒッピー風の男が夏樹たちに気がつき、声を掛けてきた。
「おはよう、関西ボーイズ君」
 関西弁を話す高校生だから「関西ボーイズ」と呼ばれていた。夏樹と飛沢は二人でワンセット扱いだったのだ。
「あっ、髭親父。おはようさんです。今日はどちらまで行かはりまんの」
 夏樹がわざとらしく変な関西弁で話した。
「お前はやっぱりおもしろい。是非ともヨシモトに行きなさい。売れないから」
「なんですかそれ。髭さんこそ行ったほうがええですよ」
 みんなで大いに笑い、語りあい、僅かな時間だけれど楽しく過ごすことが出来た。名残惜しいがお互いのカメラで記念撮影をして別れた。

 おそらく二度と会うことはないだろうけれど、記憶の中にはいつまでも想い出として残っていく。そんな想い出を、少しでも多く作っていける旅にしたい。




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2009.02.07 / Top↑






 西本州一週、いわゆる卒業旅行は二日目となった。倉敷駅から山陽本線の下り普通列車に乗り、岩国で一度乗り換えて小郡まで行く。小郡からは津和野線に乗り二日目の目的地、津和野へ向かう。
 倉敷駅を九時過ぎの電車に乗り、津和野に着くのは午後五時を過ぎる、乗り換えに多くの時間はなく、ほとんど電車に乗りっぱなしの一日となった。かなりの強行軍ではある。日程的にはそんなに無理をしなくても、津和野までの間にもう一箇所ぐらい入れても良かったのだけれど、列車に乗ってユースホステルに泊まるだけの旅行ではない、一応は観光もすると考えると、広島では倉敷と近すぎる、と言って、津和野までの間に行って見たいような有名な観光地も思い当たらず、倉敷から津和野までの強行軍となった。

「一日中、電車に乗ってるとさすがに疲れるなあ」
 津和野の駅に降り立ち、大きな荷物を肩へ担ぎ上げながら飛沢が言った。
 直ぐ後ろを夏樹が「よいしょっと」こちらも大きな荷物を肩へ担ぎ上げた。
 なぜか石田は少しうつむき加減に遅れて歩いていた。それを見て夏樹が声を掛けた。
「石田はまだ、ご機嫌斜めなんか」
「いいや、そんなことはないで。一人、先に寝てしもたんやさかいに、しゃあないやんか。きのうの夜に俺を起してくれへんからって、怒ってるわけやないで」
 昨夜の倉敷ユースホステルで、大学生グループたちとトランプゲーム『大富豪』をやって、楽しかったことを、電車の中で飛沢が石田に聞かせたのだ。
 その話しを聞いた時の石田は少し不機嫌だった。しかし、知らない初対面の人たちとのミーティングを、不安で、出来ればやりたくないと言っていた石田のことを思い、知らせずに黙って寝かせておいたのだと、夏樹が諭すように聞かせた。

「怒ってへんのやったら、はよう来いよ。バスに乗り遅れるで」
 津和野の駅からはバスに十分ほど乗り、ユースホステルへと向かう。
「今日のユースホステルは個人の住宅をユースホステルとして運営してるって、ガイドブックには書いてあったんや。定員も昨日の半分ほどなんやけど、どんなとこやろなあ」



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2009.02.09 / Top↑





 津和野駅からバスに乗り、十分ほどの停留所で降りた。そこからは歩いて直ぐのところに津和野ユースホステルはある。周りには商店が並び、民家も多く、ちょっと田舎の中心地と言った趣きのところだ。旅行者が頻繁に歩くようなところではなさそうだ。
「ここやなあ、津和野ユースホステルて書いてあるで」
 夏樹が言った。その建物を見て飛沢が「これって普通の家やんか」と言った。確かに一般の民家のようであるが、少々立派な民家である。昔は何かの商いをしていた大店の家か、それとも武家の家だったのか、白い壁が印象的だ。
 普通の玄関を入り、中も普通の民家と殆ど変わりのない造りだった

「なんか、民家としては大きい家やな、中庭があったりするんやけど」
 夏樹が大きな荷物を担いで板張りの廊下を進んだ。
 畳の部屋が廊下の両側にあり、その置くには中庭があった。部屋への入り口は障子一枚だけで、宿泊施設とは思えないぐらいに普通の古い民家である。六畳の部屋の真ん中には電気炬燵が置いてあった。
 
「今日はベッドやのうて畳の上に布団を敷いて寝るんやな」
 石田が少し安堵した様子で言った。
 暦では弥生三月、春だけれど外はまだまだ寒い、早速に炬燵の電気を入れて、三人は潜り込んだ。

 炬燵の赤外線部分に両手をかざしながら、少し猫背になっている夏樹が、部屋の中をゆっくりと見渡しながら話しはじめた。
「ユースホステルに泊まるのはここが十軒目かな、こんなところは初めてやな。なんか親戚の家に遊びに来たみたいやなあ」
「それにしても静かやなあ、他には誰も泊まってへんのかなあ」
 夏樹の真向かい座って、同じような姿勢で少し猫背になっている飛沢が言った。
「ほんまやなあ、静かやなあ、今日は俺たちだけやろか」
 炬燵にあたり、冷えた体が少し温まったのか、眠くなってきたようだ。三人の会話が止まって、静寂な時間がしばらく続いた。

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2009.02.11 / Top↑





 炬燵の温もりがからだ全体に行きわたり、三人が会話をやめて、うとうととしていた。その時突然、目が覚めるような大きな声が聞こえてきた。
「ええ、こんなところに止まんのかいなあ」
「なんぼ安いってゆうたかて、これはひどいなあ」
 初めと、二番目に聞こえてきた声は別人のようである。夏樹たち三人が居る部屋の向かいの障子戸が開き、荷物をどすんと降ろす音が二つ聞こえた。
 向かいの部屋に二人連れの泊まり客が入ったようだ。声を聞く限りでは、夏樹たちとあまり変わらない歳の二人のようだ。それと、二人とも、こてこての関西弁、おそらく大阪の人たちのようだ。

「ああっ、寝そうやったけど、いっぺんに目が覚めてしもうたわ」
 石田が驚いたように言った。
「なんか向かいの部屋にお仲間が来た見たみたいやなあ」
 夏樹も寝ていたようだが、僅かな時間の睡眠中に変な夢を見たようで、少し目をこすってから、首を大きく三回まわしてから天井を見てから、ゆっくりと言った。
「おっ、もうこんな時間や、風呂に入ろうか」

 三人が風呂に行く準備をして部屋を出たところで、向かいの部屋の障子戸が開き、中からくるくるのパーマをかけた大きな男が出てきた。
 先頭にいた石田は、出会い頭だったので、体を仰け反らせるようにして後ろへ半歩下がった。
 急に下がってきた石田に、少しだけ夏樹が怒りの言葉を言った。
「あっ、ごめん、お向かいさんとぶつかりそうになったんや」
「こちらこそすいません、急に出てきてしもうて」
 向かいの部屋のパーマかけた大きな男が頭を下げた。
 それを切っ掛けに、こんな狭い廊下で三人と二人は簡単なあいさつをして、五人ともが同じ年であることが解り、急にしたしくなった。

「俺たち、先に風呂に入ってくるから、その後でゆっくりと話しをしようや」と夏樹が言った。
 パーマをかけた大きな男と、その連れの丸刈りの小柄な男が、右手の親指と人差し指で丸を作り、にっこりと「了解」と言った。



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2009.02.14 / Top↑






 夏樹たちが風呂から部屋に戻ったことを、向かいの二人に伝えると、二人はすぐに風呂へ向かった。

「風呂も普通の家の風呂より少し広いぐらいで、昨日とはずいぶんと違うなあ」
 石田が風呂で使ったタオルをハンガーに掛けて、中庭に面した窓の鴨居に引っ掛けて、炬燵の前に座った。
「俺の家には風呂がないねん、そやから、いっつも銭湯に行くさかい、今日みたな風呂はちょっと窮屈やなあ」
「夏樹っていっつも銭湯に行っての」
 飛沢が少し驚いたように言った。
「銭湯は広くてええでえ。電気風呂や、水風呂、薬湯に、ジェット水流のある風呂もあるしなあ、けどサウナは苦手やねん、暑いだけでちょっとも汗は出えへんし、息苦しいし、あれはあかんわ」
「へええ、帰ったら俺も行ってみよう」

「入ってもかまへんか」
 向かいの部屋の丸刈りで小柄なほうの人の声が聞こえてきた。
「えっ、もう風呂から上がったんかいな、早いなあ」
 夏樹が驚いた様子で言ってから、すぐに部屋に招き入れた。
「いやあ、どうもどうも」
「自分、ずいぶんと早いなあ、どこを洗うてきたんや、ちゃんと石鹸を使うてきたんか」
 飛沢が不思議そうに聞いた。
「俺の頭を見てみいなあ、体と一緒にぐるっと洗うたらすぐや」
「そやけど、湯船につかって来たんかあ」
「じゃぼんと入って、十数えたら十分やろ」
「小っちゃい子供やないんやから、十数えたらって」
 夏樹たち三人が唖然とした顔つきでいた。
「ところでパーマの彼はどないしたん」
「一緒に十を数えたんやけどな、あいつの頭見たら分かるやろ、ドライヤーを掛けて乾かすのに時間がかかるんや」
「風呂場にドライヤーなんかあったか」
「もちろん自分のを持って来てるがな」




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2009.02.16 / Top↑






「自分用のドライヤーを持ってるんか」
 女の子ならまだしも、高校生(正確には高校を卒業したばかりの)男が自分用のドライヤーを持ってるいることが、とても珍しく、変な奴じゃないかと、夏樹たち三人は顔を見合わせて「変な奴ウ」と声をそろえた。
「入ってもええかあ」
 くるくるパーマをかけた大きな男の声が聞こえてきた。
「どうぞ」
 丸刈り君が答えた。すると、スーッと障子戸が開いた。
「なんでおまえが答えてんねん、ここはおまえの部屋とちゃうやろ、それになんか俺のことを変人扱いしてへんかったか。タクよりはずっとましやと思うで、お前よりはスケベやないし、頭も悪くはないし、面白いし、背もちっちゃくはないし、お前よりは変やないでえ」
 パーマの男は背が大きく、無口で、気むずかしそうな顔に見えたのだが、一人でべらべらとよく喋る男であった。人は見かけだけでは解らないものだ。
「おいおい、最後の背がちっちゃいは関係ないやろ」
「まあまあ、くるくるパーマ君、まずは座ってくんなまし」
 二人の仲を割って、夏樹が声をかけた。
「おいおい、それはちょっと言い過ぎとちゃいますか、初対面の人間に対して、くるくるパーはないやろ。確かに高校ではタクの次ぎやったけどな、成績が学年で下から一番がタクで、その次やけどな。くるくるパーはないやろ」
「じぶん、よう喋るなあ、もっと無口な奴やと思ってたは」

 関西人は「きみ、あなた」と言う言葉と同じように、話をする相手に対して、少し丁寧な呼び方として「じぶん」と言う言葉を使う。
 初めて関東の人と話しをしたときに、相手のことを「じぶん」と呼ぶものだから、相手の人は不思議な顔つきで、「なぜ、さっきから、「じぶん」て言うの、変じゃない。じぶんが、じぶんに何をしたって言うの」こんなところからも、コミュニケーションが始まり、新たな出会いが始まることもある。




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2009.02.18 / Top↑





 旅先で出会った人との会話の始まりはお国言葉、方言のことが切っ掛けとなることがよくある。人は生まれ育った場所の言葉を脳に沁みこませる。親の話す言葉の単語、イントネーション、その土地独特の言い回しを、自然に覚える。
 今は東京に住んでいても、子供のころに関西に居た人は、どこかに関西弁が残っているようだ。だいたい何歳ぐらいまでの記憶が、その後の言葉の習慣を支配し影響を与えるのだろうか
 関西に二十数年、東北にも二十数年も暮らしていると、関西訛りの東北弁?いや、東北訛りの関西弁?いずれにせよ、変な言葉を操る、変なおじさんとなる。おそらく、関西弁には死んでも支配されるであろう。

「俺がよう喋るって、失礼やないか、こんなおとなしくて、まじめで、背が高くて、少しやけどエエ男を捕まえて、なんちゅうことを言うんですか」
「みなさん、すいませんねえ、こいつは高校でも有名なアホですねん、みんなに早うヨシモトに行けって言われてますねん」
 丸刈りのタク君が言った。
「就職先はそしたらヨシモトなんですか」
 石田が真面目な顔つきで言った。
「なんでやねん」
 くるくるパーマが右手の甲で、石田の胸を軽く叩いた。

「一人でぼけて、一人で突っ込んで、さすがやねえ」
 夏樹が大いに笑い転げながら言った。
「そんなには面白くはないやろ」
 くるくるパーマが真面目な顔をして言った。
「そやかて、おもろいやんか、タク君が言うようにヨシモトに行った方がええと思うわ」
「俺はお笑いの道には進まへん、ちゃんと就職してお金を稼いで、可愛い嫁さんを貰って、ほんで大阪の郊外にマイホームを建てて、子供は三人はほしいな、男の子が生まれたら、近くの公園でキャッチボールをするんや、女子には七五三の時に可愛い着物を着せてあげるんや」
 くるくるパーマ君は今までの冗談を言っている時とは別人のように、真面目な顔をしていた。十八歳の青年が、ささやかだけれど、大きな夢を語った。




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2009.02.20 / Top↑







「じぶんって、随分と堅実やなあ、そんなくるくるの頭してんのに」
「いやこれはな、失敗やねん、こんなになるとは思わんかったんや。高校の校則でパーマは禁止やったんやけど、どうしてもパーマをあてたかったんや、ほんで卒業式が終わって、そのまま真っ直ぐに美容院に行って、パーマあててって言うて、そのまま寝てしもうたんや、目が覚めた時にはこんなんやったんや」
 パーマをあてるというのは、関西だけのようだけれど。確認はできていない。

 少し伸びていた髪の毛をカットせずに、そのままパーマを掛けてしまったから、くるくるのアフロになってしまったことを、タク君が補足した。
「なんでカットせんかったん」
「卒業式で疲れてしもうて、パーマをあててって言うことを頼んだ後は、ちょっと寝ぼけてたみたいでな、あんまり覚えてへんのやけど、カットせんといてって言たみたいなんや」
「ほんで、そんな頭になってしもうたっちゅうことか」

 五人は関西から遠く離れた津和野の地で、偶然知り合い、小さな炬燵に足を入れて、些細な内容だけれど関西弁を飛び交わしていた。つい数時間前までは、まったくの他人、見ず知らずの人だったのに、旅は大いに人の心を広げて、多くの知識を吸収できる場なのではないだろうか、そして人として大きくしてくれるように思う。

「じぶんらは、いつから旅にでたんや」
 夏樹が話しを変えた。
「今日からや、今朝、大阪を出て津和野に着いたんや」
 タク君が言った。
「と言うことは、新幹線で小郡まで来たんか、随分と贅沢な旅行やなあ」
「そやかて「旅のしおり」にはそう書いてあったんや、それで小郡まで新幹線で来たんや。さすがに泊まる所まではその「旅のしおり」の通り、ちゅうわけにはいかへんから、ユースホステルに泊まることにしたんや、「旅のしおり」に書いてあるホテルに泊まるには、あまりにも予算が足らんし、実際問題として新幹線に乗ってしまうと、他に使える金が殆ど残らへんのよ。泊まるところで一番安いところはどこやって、担任のセンコウに聞いたら、ユースホステルが安いって、その代わりに部屋は相部屋、食事も普通の飯やし、ほんまに安いだけやでって聞かされて来たんや。けどホテルみたいな所とはこんなに違うとは思いもせんかったで」
 くるくるパーマは相変わらず饒舌である。



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2009.02.23 / Top↑





「なんやその「旅のしおり」って、じぶんたちの旅の計画表を作ったんか、わざわざ、そうやとしたら、べつに金が掛からんように計画を考えたらええのとちゃうの」
 飛沢が不思議そうに聞いた。
「俺たちが作ったんとちゃうがな、殆どは学校のセンコウが勝手に考えて作ったんや」
 くるくるパーマが少し不機嫌そうに言った。
「はあ、どういうことや、先生が考えた旅行の計画をじぶんらが実行してるって、わけわからんなあ」
 飛沢がますます不思議そうな顔つきで言った。
「もしかして、それって修学旅行の「旅のしおり」とちゃいますか」
 石田が静かに、ゆっくりと言った。
「あっそうか、肝心なことを言わんかったなあ、角刈りの兄ちゃんの言うとおりなんや」
 くるくるパーマが自分の部屋から「旅のしおり」を持て来て見せた。薄茶色のわら半紙にガリ版で印刷され、片側を二ヶ所ホチキスで綴じた手作りの「旅のしおり」である。
 ようやくことの真相が三人に伝わったようだ。いや、まだ不可解である、泊まるところは違っていても、高校を卒業した二人が、なぜ修学旅行の「旅のしおり」を持って、それに書いてある予定表の通りに旅をしているのか解らない。その「旅のしおり」をよく見ると「大阪市立○○中学校」と書いてある。

「じぶんら、何で中学校の時の「旅のしおりを持って旅をしてるんや」
 夏樹が言った。
 二人は少し背を丸めるような姿勢になり、俯きながらタク君が話し始めた。
「実はなあ、俺たちは幼稚園からの腐れ縁の関係なんやけどな、中学生のときに学校が荒れててなあ、市内でもちょっとは名の知れた悪いやつらが多い学校やったんや」
 そこまで話したところで、くるくるパーマがタク君を制するように割って入ってきた。
「タク、そんな話までせんでええやんか」
 一呼吸してからくるくるパーマが話を続けた。
「実は修学旅行に行く直前に、三年生の一部が大勢で大喧嘩をしたんや、何やくだらん勢力争いみたいなことが発端やったらしいは、それで怪我人が出て、学校中が大騒ぎになって、怪我をした先生もいたんやけど、警察沙汰にはならんかった。けど先生たちはこんな連中を修学旅行に連れて行く訳にはいかない、ということで中止になった。親からはほとんどの生徒は関係ないから、関わった生徒だけを行かせないで、修学旅行は予定通り行かせてほしいと反論したんやけど、先生たちが生徒をまとめる自信がないとか、旅行先で同じような問題が起きない保障はないとか泣き言みたいなことばっかり言うて、結局、中止になった」




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2009.02.25 / Top↑






「ええっ、あんたらそんなに悪い人たちなんですか」
 石田が座ったままで仰け反り、半身の体勢になった。
「あほなこと言わんといて、俺たちがそんな悪いやつらに見えますかって」
 二人が口を揃えて言った。
「うん、見えますよ」
飛沢と夏樹が同時に言った。
「その頭かっこやったら、どこから見てもヤンキーの兄ちゃんやで」
「飛沢の言う通り、大喧嘩のときの、どっちかのグループの親分とちゃいまんのか」
 夏樹が少し笑いながら言った。
「なんちゅうこと言いますねん、さっきも言うたけど、タクよりはスケベやないし、頭も悪くはないし、面白いし、背もちっちゃくはないし、こんなに大人しい僕が喧嘩をするようなグループの親分やなんて、ありえへんでしょう」
「誰が大人しいねん」
 くるくるパーマを除く四人が口を揃えてつっこみをいれた。その後は五人で大笑いした。

 ちょうどそのとき、障子戸が開いた。
「ずいぶん楽しく盛り上がってるところ申し訳ないのですが、夕食の時間です、食堂へ来てください」
とペアレントさんが声をかけてきた。

 ここに今日、泊まっているのはやはり夏樹、飛沢、石田と、タク君とくるくるパーマ君の五人だけだった。
 今日の夕食も家庭料理というか、定食屋さんのスペシャルランチというか、もちろんホテルや、旅館の料理のような豪華なものではなかった。

 夕食後に五人は夏樹たちの部屋の炬燵に潜り込んで、話を続けた。
「津和野って女もんの雑誌とかによく載っていて、今では有名な観光地なんやろ。若い姉ちゃんたちがいっぱい来てるって聞いてたから、楽しみにしていたのに、ここは男しか泊まってへんって、どういうことやねん。つまらんのう、タク。責任者でてこいっちゅうねん」
 くるくるパーマが言った。
「シンヤ、俺にぼやいたかて、どないにもならんやろ」
 くるくるパーマはシンヤという名前らしい。
「俺たちも今日の五時過ぎに駅について、まっすぐにここへ来たからなあ。けど観光客はあんまり見かけへんかったなあ。失敗パーマ君は、若い姉ちゃんが目的で来たんかいなあ」
 夏樹が言った。
「失敗パーマって言わんといて、俺はシンヤ、川上信也ちゅうねん、以後お見知りおきを」
 と言って右の手のひらを上にして前に突き出した。任侠映画の影響が大きい奴のようだ。

 




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2009.02.27 / Top↑

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