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 少し長髪のボサボサ頭で色黒の大学生は、夏樹たちが少し不機嫌そうに話すことに気がつき、笑いをこらえながら軽く謝った。
彼にとっての関西弁は、テレビなどで見る漫才のイメージが強く、関西弁イコール面白い話し、面白い話し方と言うことになるのだという。
「ごめんね、気を悪くさせちゃったね。全国を旅しているとさ、さまざまな人たちと出会うけど、やっぱり関西の人はねえ陽気で、楽しくて、面白い人が多いんだよね。テレビで見る上方漫才の芸人さんに見えちゃうんだよ」
「全国って日本中を旅したんですか」
 話し方が漫才みたいだと言われたことなど、もうどうでもよくなった、『日本中を旅した』と言う言葉に、夏樹がまたまた、興味津々である。

 ボサボサ頭で色黒の大学生は埼玉県の出身で、いまは東京の大学の三回生だそうだ。夏休みなどの長期間の休みを利用して、日本中を旅しているのだという。
「日本中と言っても、隅々まで行った訳ではないんだけどね。休みが始まると、とりあえず荷物だけをまとめて駅に向かう、そしてなんとなくその時の気分で、どこの方向へ行くかを決めて、乗る電車を決めるんだよ。駅に行くと各地の観光案内のポスターが貼ってあるじゃん、それをちらちらと眺めて決める時もあったりするんだよね」
「気の向くままのぶらり旅、なんかのテレビ番組のタイトルみたいな旅ですねえ」
飛沢も興味津々だ。

「春は桜を見に行って、夏は涼しい北海道や避暑地に、冬は雪景色のきれいなところやあまり有名ではない温泉地に向かうことが多いかな。秋はねえ秋休みがないから、あまり遠くへは行けないんだよね」
 大学へ行っている時は毎日のようにアルバイトをして、旅の資金を稼ぎ、休みになると旅に向かう。一度出かければ三週間以上の長旅になるため、アルバイトで貯めた資金だけでは贅沢は出来ず、節約ばかりの貧乏旅行になる。時には駅に野宿をしたり、電車やバスの連絡が悪く、ヒッチハイクをして目的地へ向ったりもした。もちろん歩くこともしばしばで、そのために顔だけが日に焼けて黒くなり、床屋へ行く金が惜しく、ボサボサの長髪なのである。


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2009.03.30 / Top↑






「かなりお疲れのようですねえ」
 飛沢の右隣に陣取って、布団の上に座っていた大学生ふうの男が声を掛けてきた。
「あっああ、どうも」
 飛沢が飛び起きるように布団の上にあぐらをかいて座った。大きな荷物を担いで、あちらこちらを歩いたために足も、肩も筋肉痛になり、特に足が痛くなったことを、飛沢にしては丁寧に話した。
「君達は大阪の人ですか」
 隣に座っていた男の髪は少し長いボサボサ頭、日に焼けた黒い顔の中にひときわ白さが目立つ歯を見せながら笑顔を作り、話し掛けてきた。
「あっ、やっぱりわかりますか、大阪やないけど同じ関西人ですねん」
 夏樹がにっこりして言った。
「わかるよ、大阪の友達がいるからね、話し方が同じだから」
「けど、大阪と京都ではちょっと違いますけどね」
 石田も会話に参加してきた。知らない人との会話が苦手だと言っていたのだけれど。
「へえ京都から来たんだ、京都はいいところだよね、修学旅行で行った時に感動してね、大学に入ってからも何回も行ったよ」
「京都のどこいらへんがいいですか。十八年ほど住んでますけど、観光地とかにはあんまり行ったことがないから、ユースホステルとかでお勧めはとか聞かれても答えらへんのですわ」
「何や夏樹、京都の観光地に行ったことないんかいな」
「ほな飛沢は、あっちこっちの観光地に行ったんかいな」
「うん、清水寺には行ったことあるで」
「他には何処に行ったん」
「んんと、京都タワーかな」
「あれは観光地とちゃうやろ」
「そうかなあ」
 少し髪を伸ばしてボサボサ頭で、色の黒い大学生が、部屋中に響き渡りそうな大きな声で笑いはじめた。
「君達、おもしろいね、漫才を見ているみたいだよ」
 夏樹たち三人はにこりとともせずに、色黒の男を見た。飛沢が小さく言った。
「そんなに面白いですか、普通の普段通りの会話ですけど」




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2009.03.27 / Top↑






 津和野から山口線に乗り四十分ほどで山陰本線の益田へ、そこから下りの列車に乗り一時間ほどで萩に着く。この日に止まる萩のユースホステルは萩駅の次の玉江駅で下車し、駅から二十分ほど歩いた萩城跡の近くにある。
「今日のユースホステルは倉敷のユースホステルとおんなじぐらいの規模やから、大きい建物やと思うで」
 夏樹がガイドブックを見ながら言った。
「おっ、こことちゃうか、けっこう、大きな建物やなあ」
 飛沢は今日も大きくて重い荷物を担いで、津和野の街を歩き、また萩までの電車に揺られたためか、顔に疲れが出てきていた。

 十八歳の青年、若いとは言っても飛沢と夏樹と石田は中学、高校の部活は帰宅部、体力には全く自信はない。大きな荷物を担ぐと、重さが肩にずしりと食い込み、両肩から首にかけての全体が、荷物を下ろしても重く感じていた。もちろん両足も、腿から足の指先まで疲れが溜まって来ていた。青年の貧乏旅行である、周遊券の使えない市街地の観光や、駅からユースホステルまでの移動は、ほとんど歩き、徒歩である。

「荷物が重いと、なんか駅からの距離が遠く感じるなあ。やっと着いたっちゅうところやなあ」
 石田も疲れが溜まってきているようだ。

 受付を済ませシーツを貰って部屋へ向かった。二十人は入れるであろう大きな部屋が、今日の三人の寝床だった。長方形の部屋の、長い辺の壁側に頭を向けて布団を敷いている先客が多くいる。たたまれた敷き布団、掛け布団その上に枕の順に積み上げられたところは、先客はいない証しなのだろう。ちょうど三人分が並んでいるところの壁近くに荷物を置き、受付けで貰ったシーツを、広げた敷き布団の上に敷いた。
 その上に三人が大きく手を伸ばして上を向いて寝転んだ。
「あっああ、くたびれた」



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2009.03.25 / Top↑






夏樹、飛沢、石田の三人は津和野駅に置いてあった観光案内図を片手に観光へ繰り出した。今思えば大きな荷物は、駅のロッカーにでも預ければ良かったものを、なぜか担いだままで、あちらこちらを歩き廻った。
 津和野へ来る前に一つだけ行って見たかったところがあった。白壁の武家屋敷風の建物が並ぶ町並みに、巾が一メートル程の堀が流れていて、その緩やかな流れの中に鯉が泳いでいるのを「遠くへ行きたい」か何かの旅番組を見て、強く印象に残っていた。

 夏樹の家の前にも水が流れる側溝があるが、下水道が整備される前の家庭排水路である。いわゆる「どぶ」と言うものはあった。どうしても、家の前を流れる水の中に鯉が泳いでいるという事が、ミステリアスな事実というか、信じがたいことだった。見たことのない情景を、とにかく自分の目で確認したかった。
 津和野駅から歩いて十分ほどのところに、殿町通りといわれる武家屋敷が、観光用に整備された道路沿いに並び、その白壁の直ぐ下を清んだ水が流れる堀がある。中をのぞいて見ると、本当に鯉がいた。悠々と泳いでいるではないか。十八歳の春の新たな発見、感動を与えてくれた。

 殿町を見た後は、津和野カトリック教会、乙女峠記念聖堂、などを見て廻った。京都は観光地としては日本一なのかも知れないが、キリスト教の教会などは少ないように思う。そのためか、カトリック教会などというものは珍しく、見入ってしまった。
 次に津和野城跡へ向かった。石垣の頂上に登ると一面に雪が積もり、関西人には雪は珍しく、何もない城跡の石垣の頂上一面を覆う雪に、きょう二回目の感動をもらった。
「わあ、雪や、雪やで」
 飛沢が早速、雪を手に取り丸めて投げた。
「津和野の街が全部見えるやんか、山口線の列車が走ってるのも見えるなあ」
 夏樹は風景を楽しんだ。山口線を走る列車は、上りか下りかも気になっていた。どうでも良いことのようだけれど、そこいらへんが「鉄ちゃん」の性なのである。



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2009.03.18 / Top↑






 翌朝、天気は快晴だったが三月にしては寒かった。ユースホステルの中庭にはうっすらと雪が積もっていた。
 一日中電車に乗って、少しだけ夜更かしをしたためなのか、七時を過ぎても誰も起きなかった。ペアレントさんも起こしには来なかった。
「おい、もう七時を過ぎてるで、起きなあかんやろ」
 石田が自分の腕時計を見て、大きな声を出した。夏樹と飛沢もその声で慌てて起きたが、眠気が残っていて動きが遅い。

 簡単に蒲団をたたみ、三人が部屋を出たところに、向かいの部屋の障子戸が開き、信也とタクが出てきた。
「おはよう」
「おはようさん、自分ら急がんと今日の予定が狂ってくるのとちゃうか」
 夏樹が信也たちに言った。信也たちは津和野から小郡へ、新幹線で広島まで行く予定になっている。急がないと津和野の駅へ行くバスに乗り遅れてしまうかも知れない。
 夏樹たちは津和野の街を観光して、萩まで向かう。
 五人で早々に朝食を済ませ、荷物をまとめて一緒にユースホステルを出た。
「行ってきます」
 ペアレントさんに挨拶をした。
 ユースホステルを出て直ぐに目の前をバスが通り過ぎて行った。
「今のバスって駅に行くバスとちゃうか」
 夏樹が言った。バスの行き先名には「津和野駅」と書いてあった。
「走って行ったら間に合うのとちゃうか、俺達は乗らへんけど信也君とタク君はあれに乗って行かなあかんのやろ」
 夏樹が二人を見ると呆然としてバスを見ていた。
「おい、どないしたんや、はよ、走って行ったら間にあうで」
 それでも二人は走り去って行くバスを見つめていたが、信也とタクはほぼ同時に顔を見合わせて言った。
「見たか、一番後ろの席」
「見た、間違いないやろ」
「なあ、走ろ」
「ほな、さいなら」
 二人は夏樹たちに一瞬だけ向き直り、荷物を担いでバスに向かって走って行った。
「じゃあな、またどこかで」
「間に合うかな」
「あれ、後ろの席に誰かが乗ってたんやろか、もしかして・・・」
 





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2009.03.16 / Top↑

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