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「ひとつ聞いてもいいですか」
 石田が言った。
「大学の三年生やのうて、三回生なんですか」
「三年生には違いないんだけれど、一浪して一年留年したから、本当は去年の春に卒業しているはずなんだよね。だから同級生のほとんどは二歳年下なんだよ、それで三回生ってこと」
「へえ、そんな風に言うんですか」
 石田が大きく頷いた。
「留年って落第ってことですよね、成績が悪かったんですか、大学生でも頭が悪い人もいるんですね」
 飛沢がかなり失礼なことを言った。
「いやあ、まいったなあ、一応さあ、おれ、国立大なんだよね」
 ボサボサ頭の大学生が苦笑いをして言った。
「あっ、すんません、ついつい思ったことを正直に言ってしまいました。とても素直な良い子でして。やっぱり親の育て方が良かったのかなあ」
 飛沢がおどけた顔つきで、天井を見上げながら言った。
「あほかおまえ、自分で自分のことを素直な良い子って言わへんやろ。良い子っておまえ中学校の時にちょっとだけタバコ吸うてたやないか、何も良い子やないやんけ」
「おいおい、いまそんな話をせんでもええやんか」
「まあまあこんなとこで喧嘩せんと、昔から言うやろ『喧嘩はおやめ、鼻くそおとり』って」
 石田が飛沢と夏樹の間に割って入り、メロディを付けて歌った。
「いやいや面白い」
 ボサボサ頭の大学生がまた、大きな声を出して笑った。
 そしてまたまた夏樹たち三人が顔を見合わせて不思議そうな顔をした。
「そんなに面白いか、俺たちって」
 飛沢が小さな声で言った。


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2009.04.01 / Top↑




「そんなに面白くはないやろ、俺らよりもおもろい奴は一杯いるからなあ」
 夏樹が飛沢の顔をのぞきこむように言った。
「ごめんね、普段通りの普通の会話だったね。俺もまじめに君たちの疑問に答えるよ」
 こみ上げて来る笑いを抑えて、ボサボサ頭を右手でかき上げる仕草を繰り返した。その度に僅かだが白い粉がポロポロと落ちた。
「その仕草って金田一耕助みたいやね」
 石田がポツリと言った。

「俺は金田市郎って言います。歳は、いいか、そんなに詳しい自己紹介は。埼玉出身で今は東京の大学へ通っています。三回生です」
 飛沢が微笑んだ。それにつられて夏樹と石田も微笑んだ。
「金田さん、その辺の話はさっき聞きましたよ」
「あっそうか」
 みんなで大笑いをした。和やかなひと時。
「俺は小さい頃から地図を見るのが好きだった。小学校の五年生だったかな、教科書と一緒に地図帳を貰ったんだよね。親父とおふくろは埼玉県生まれの同級生だから、夏休みとかに帰省ということはしなかった、だから県外へはほとんど行ったことがなくてねえ、その地図帳を見たときに俺の住んでいるところが、日本地図の点なのだってことに驚愕したんだよ。そして地図を見ることにのめり込んでしまって。地図の上で日本中を廻ったんだ。図書館に行っては貸し出し禁止の『日本の風景』だったかな、大きなカラーの本を見たり、自分の地図帳より詳しい地図帳を見たりしていた。家では旅番組ばかり見ていたよ」
「それって『遠くへ行きたい』ですか、俺もいっつも見てましたよ」
 夏樹がくいついた。
「そう、毎週欠かさず見ていたな。高校生になってユースホステルクラブに入って、長期の休みの度に各地へみんなで旅行をして、『日本の風景』で見た写真の世界を自分自身の目で見ることが出来るようになった。もうそれは驚きの連続でさあ、もちろん写真とは比べようのない迫力に感動しまくりさ」
「そうやって旅ばっかりしてたから、一浪したんですね」
 飛沢が小声で言った。




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2009.04.03 / Top↑






 ボサボサ頭をかき上げる度に、白いものがポロポロと落ちることなどまったく気にせずに、何回も右手でかき上げ、俯いたまま顔を少し赤くして話し始めた。
「いやあ、その通り。まず高校三年生の夏休みに北海道に行って、牧場で住み込みのアルバイトをしていて、夏休みに中に仕上げなければならない課題をまったくやらなかった。揚句の果てに夏休みが終わっても学校に行かずに、九月の中ごろまで北海道にいたんだよ」
「なんでですかあ、高三の大事な時期に何をやってたんですか」
 飛沢が噛み付くように言った。自分も大学を目指して、夏休みに入る前から受験のこと意外はすべて断ち切り、頑張ったことを思い出していたのだ。
「そんなに怒らないでくれよ、帰りたくても帰れなかったんだよ、バイト先の親父さんが怪我をしてね、秋までにやらなければならない作業が残っていてさ、それが終わるまで手伝っていたんだよ」

「似たような話しをどこかで聞いたような、聞かなかったような」
 夏樹が天井を見上げて呟いた。高校の時の田代先生だ、と一人で納得して頷いた。

「親父さんは牧場のことは大丈夫だから、学校が始まるから早く帰った方が良いて言ってくれたけど、親父さんが怪我をしたのは俺にも責任があるのだから、どうしても手伝わせてほしいって言って、残ったんだよ」
「牧場の親父さんは元気になったんですか」
 夏樹が言った。
「ああ、俺が埼玉の家に帰る頃にはだいぶ良くなって、作業もめどがついたから家に帰ったんだ。そしたら、父親に思いっきり怒られるかと思って覚悟をしていたんだけれど。大学は来年だって受けられる、まあ慌てるなってさ」
「・・・・・」
 夏樹たち三人は顔をみあい、言葉が出なかった。

少し沈黙の時間が流れてから石田がその沈黙を破った。
「それで受験勉強に向かったのが他の人たちよりもだいぶ遅れて、希望の大学へ行けなかったんですね」
「先生には絶対に無理だから他の大学に行けと言われた。必死に頑張ったのだけれど、やっぱり挽回できなかった。希望校に行けないのだったら、もう一年がんばろうと思って一浪したんだよ」



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2009.04.06 / Top↑






「俺はまだ十九才やし、人生がどうのこうのなんて言えるような歳やないけれど、北海道にいたその僅かな時間は、金田さんにとってはとても貴重な時間だったんだと思いますよ、これからの人生にとっての大きな、大切な時間になったんと、ちゃいますか」
 石田がいつもとは違う表情で、力説した。
「ありがとう、実は父親も同じようなことを大学に入ってから言ってくれたよ」
「なんか今日のおまえは、ごっつ格好ええやんか」
 隣にいた夏樹が、石田の肩を抱きかかえるように右手を回した。

「さっきはすんません、少し大きな声をだして」
 飛沢が申し訳ないと謝った。
「俺と石田は一応やけれど必死に受験に向けて頑張った。けど、結局のところ希望の大学には入ることが出来ずに、入れるところに行くことにしたんです。そやから今の話を聞くと、なんかとても複雑な想いで」
「いや、俺が正しいわけじゃないんだよ、だいたい高校三年の夏休みは受験勉強だろ、遊びに行っちゃいけないよ。生き方は人それぞれなのだから、俺みたいなのもいるってことさ」

 希望の大学だけを受験して、不合格となった金田は合格発表の次の日から、一年後の受験日を目指して勉強に打ち込んだ。そして、希望校だけに的を絞り、一年送れて希望の国立大学にみごと合格した。
 しかし、合格した次の日からさっそく旅に出て行ったのだと言う。入学の準備はすべて母親に任せて、北海道のあの牧場へ向かった。様々な思いを牧場の親父さんに聞いてほしかったのだという。帰って来たのは入学式の前日だった。

「そうすると、留年も旅をしていて単位を落としたんですか」
 夏樹が言った。
「その通り、旅好きは直らなかった。高校を卒業してからどこにも行かずに勉強をしたから、その反動なのか一年の夏休みに、また北海道に行ったんだよ、そして今度は別の牧場でアルバイトをしていたんだ、そのまま冬までいたのさ。一年の半分は北海道にいたことになるかな」
 金田は他人事のようにニコニコと笑いながら言った。そのときの彼の右手はボサボサ頭を何度もかき上げていた。白いものがポロポロと落ちてきていることなど、まったく気にもしていない様子だった。


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2009.04.08 / Top↑




 十人部屋の宿泊客は、二、三人ずつのグループが多いのか、四つの塊に分かれて思い思いに会話を交わしていた。そして、消灯の時間になり、ざわざわっと散らばり二十分後には皆が布団に入り、入り口に一番近いところに陣取った丸刈りの高校生風の男が「消しますよ」と言って、部屋の灯りを消した。

 翌朝も良い天気となり、まぶしいほどの朝陽が十人部屋の入り口の反対側の大きな窓から差し込んできた。大勢が一つの部屋に寝ていると、起床時間よりも早い時間に起き出すものが、必ず一人はいる。その物音に別のものが眼を覚ます、またその物音で誰かが起きる、連鎖的にざわざわとおき始めるものだ。
 しかし、早く起きてしまう奴とは対照的に、廻りのほとんどが布団を離れて、部屋全体が賑やかになって来ても、一人や二人はいつまでも寝ている奴がいるものだ。今朝は金田と飛沢の二人だけが、いまだにねむっているようだ。

「飛沢、朝やで起きる時間やで」
 隣にいた石田が飛沢の体をゆすりながら言った。その声に金田もゆっくりと眼を覚ました。
「おう、おはよう」
 飛沢の目は片目しか開いていない。
「おはようございます」
 金田はそう言って顔を隠すように布団を被った。

 金田の今日の旅程は山陰本線の下りに乗って下関に向かうと言う。夏樹たち三人は萩市内を観光して浜田まで向かう。有名な観光地はないのだけれど、石田の親戚が住んでいるということで、寄ることにした。たまたまユースホステルもあるし、出雲までは少し距離がある、浜田がちょうどよい中継点なのだ。

「金田さん、四月になったらちゃんと大学に行ってくださいよ。もう一年、留年なんてことにならんように」
 荷物をまとめ、出発の準備を整えて、ユースホステルの玄関で飛沢が言った。
「そうだね、来年は卒業できるように学校へ行くよ。君たちも良い旅を続けてね、昨日は楽しい夜だったよ」
「いえいえこちらこそ面白かったです、おぉきにぃ、ありがとうございました」
 夏樹が言った。
「ほな、さいなら」
 金田が大きく手を振りながら駅に向かった。
「あれあれ、移ったんですか。また、どこかで会えるといいですね」
 夏樹たちも金田と反対方向へ笑顔で手を振りながら向かった。


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2009.04.10 / Top↑





 萩といえば藩政時代の長州藩の中心地である。幕末ドラマの中心地と言っても良いだろう。高杉晋作、桂小五郎、明治新政府の初の首相である伊藤博文、彼らの師とも言うべき吉田松陰など、新しい時代を造った立役者たちがおおく輩出された地である。
 歴史が好きな人たちにとっての一番人気なのは戦国時代と、この幕末の時代であろう。どちらも激動の歴史があり、多くのドラマが生まれた時代だ。映画やテレビドラマなどにも多く描かれている。長州は必ず出てくる土地である。
 教科書にも出てくるような有名人の生誕地や旧宅、ゆかりの地が多くあり、幕末好きでなくても、聞き覚えのある人たちの名前が多くあるはずだ。

 夏樹たち三人は倉敷、津和野での教訓を生かし、ここ萩では玉江駅のロッカーに荷物を預けて、カメラと観光案内図だけを持ち、身軽になって萩の観光地を廻った。
「なんか歴史を感じるなあ」
 石田が突然、話しだした。
「お前に歴史が分かるんかい」
 飛沢が言った。
「分かるよう、幕末を舞台にした映画やドラマはいろいろ見たけど、必ず長州は出てくるし、今まで廻ってきた生誕地や旧宅の住人たちが、新しい時代を創ったんやから、歴史に興味がなくても聞いたことのある名前ばっかりやろ」
「なるほどなあ、確かに俺かて知ってる名前の人がいたは」
 夏樹はこの当時、歴史にはあまり興味がなかったが、高杉晋作の名前だけは知っていたようだ。
「津和野で一緒やった川上信也の愛読書に出てくる坂本竜馬もここかなあ、幕末の人なんやろ」
「夏樹、お前ほんまに知らんのか、坂本竜馬は土佐や、今の高知県やで」
 飛沢が夏樹の頭を軽く叩いた。
「あははははは・・」

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2009.04.14 / Top↑





 三人は馬鹿な話をしながら、観光案内図を片手に、幕末の情緒を味わっていた。
 伊藤博文の旧宅に立ち寄ったときに、夏樹が言った。
「伊藤博文ってあの千円札の人やなあ」
 歴史にあまり詳しくない夏樹も伊藤博文は知っていた。
「これを機会にもう少し歴史の勉強をしようっと」

 萩から浜田までは普通列車に乗り三時間ほどで移動できる。五時までには浜田のユースホステルに着きたい、そのために二時過ぎには玉江駅に戻った
 本線とは言っても山陰線はローカル線だ、列車の本数は多くはない。三人が玉江駅に着いて時刻表を見ると、次に乗れる列車は十四時二十分の出発だった。これに乗ると浜田駅に着くのは十七時過ぎになる、夕食には間に合うだろう。

 益田駅を過ぎた頃から、山陰海岸に沿うように線路がつづき、進行方向右手に海が望める。快晴の空に穏やかな海のはるか彼方に水平線がくっきりと見える。その水平線の近くにも雲が無く、海と空と、数十分後には沈むであろう太陽しか見えない。
「なんで太陽って沈む頃にはあんなにはっきりとした丸に見えるんやろ、ほんで大きく見えるし、真っ赤になったりするやろう、自然って不思議やなあ」
 夏樹が誰に問いかけるでもなく、独り言のように言った。
「空気中の塵とかが影響して赤く見えるとかって、テレビかなんかで聞いたように思うけど、忘れたわ。あんまり難しいことはわからん。俺、理科系はあんまり得意やないしなあ」
 飛沢も大きく開いた窓に両腕を組んで乗せ、少し冷たい風を顔中に受け、数十分後に沈む太陽を見ながら、独り言のように夏樹の言葉に答えた。
「どこのチャンネルやったかなあ、世界を旅して紹介する番組が始まる時の映像に、大きく真っ赤な太陽が水平線に沈んで行くのを見たことがあるんやけど、あれの実物を見てみたいなあ。もしかしたら、今日がそのチャンスやろか」
 夏樹も飛沢と同じ格好をして、水平線に近づいてきた太陽を見て言った。
 しかし、残念ながら太陽が水平線に沈む前に線路は海沿いを離れ、浜田駅に着いた。




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2009.04.20 / Top↑





 浜田駅から歩いて十分ほどのところに浜田ユースホステルはある。一般の民家をユースホステルとして契約している。玄関を入り「こんにちは」と声をかけても反応がない。電気も点いていないし、物音ひとつしない、どうしたのだろうか。
「誰かいませんか」
 夏樹が大きな声を出した。
 ようやく奥からペアレントさんと思われる女性が出てきた。
「お帰りなさい、夏樹さんたちだね、電気を点けんといかんね」
 大きな荷物をひとまず降ろし、宿泊の手続きをした。今日のとまりは彼ら三人だけだと聞かされた。だから、初めて会ったのに夏樹の名前を知っていたのだ。
「夕食は六時からでいいかな、三人だからミーティングもやらないから、ゆっくりとして下さい。食堂のテレビを独占してもいいよ」

「夕食後に風呂に入って、その後で外出してもいいですか、近くに親戚が住んでいるんです、久々に逢いに行きたいのですが」
 石田が丁寧な口調でペアレントさんに言った。
「あっそうなの、どうぞ、十時までには帰ってきてね」
 食後、風呂に入り、石田の親戚の家に遊びに行った。石田の従兄弟だという人は、石田より七歳年上の二人の子持ちの兄さんだ。

「ヨシ、久しぶりじゃのう、大きゅうなっていくつになった」
 石田の下の名前は義行。だから「ヨシ」と呼ばれているようだ。
「トシ兄もすっかりおっさんになって、もう十年ぶりかなあ」
 石田の母方の従兄弟で佐藤俊和というそうだ。
「そうじゃのう、もう十年になるかのう」
 うまくは書けないが、言葉の最後に「のう」という語を強調する喋り方が印象的だった。
「三人は同じ高校の友達かあ、こんな何にも無い田舎に何しに来たんじゃ」
「中学の時の友達で、高校は別なんですよ。西日本をぐるっと一周しようと思いまして。そしたらこの浜田に石田の親戚の兄さんが居るから、是非よりたいと言うもんですから」
 夏樹が言った。
「ほう、そうか、うれしいのう、まあ何も無いけどゆっくりしていって、のう。今日はどこに泊まっとるんじゃ」
「駅からすぐのユースホステルです」
「なにユースホステルか、あそこじゃあんまりうまいもんは食わせんじゃろ、のう」
「はあ、まあ」
 飛沢が小さな声で言った。



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2009.04.22 / Top↑






「ヨシ、来る前に電話寄こせば、わしが美味いもんを食わせる所に泊めてやったのに、のう。ここは海の傍じゃもの刺身をたらふく食わせてやったのに」
 石田はこの旅行の計画が決まり、出かける三日前にトシ兄さんのことを思い出したのだということを話した。
「すでに泊まるところは予約済みで、変更なんかんかできひんと思ってたし、前もって連絡すれば迷惑をかけるから、昨日になってから電話したんや」
「何を遠慮してんのじゃ、わしら従兄弟やないか、めったに会えんのやし、それにお前の母さんにはいろいろと世話になったからな、今からでも遅うはない、ユースホステルの予約を断ってこいや、近くの民宿に泊まったらええは、のう」
「いやあ、飯も食ったし、風呂も入ったし、残念やけど今日は」
「そうか、そしたら明日は刺身の旨い民宿をとってやるから、そこに泊まればええが」
「明日は出雲まで行く予定で、ユースホステルも予約済みでして」
 夏樹が申し訳なさそうに言った。
「という事で、トシ兄ちゃん、今度また来るさかいにその時はお願いします」
「そうかあ、残念やのう、そしたら今日は呑もうや旨い酒があるんや、な」
「トシ兄ちゃん、俺たちはまだ高校を卒業したばっかりや、酒はあかんやろ」
「あっそうか、酒もあかんか、ほな、コーヒーかあ紅茶か、それともコーラか、何でも好きなもん言いや、無かったら買うてくるから、のう」

 トシ兄は酒を、夏樹たち三人はコーラを飲み、眼の前にはほんの一、二時間では絶対に食べきれないほどのお菓子や煮物、魚の天ぷらに刺身などがテーブル一面に並び、とにかく食べろと進めてくれるのだが、三人は少しだけのお菓子にだけ手をつけた、ユースホステルで夕飯を食べてきたからだ。
「おいしそうやなあ、けど今さらこんな「ごっつぉう」が目の前にあっても、入って行かへんなあ」
 飛沢が夏樹の顔を覗き込み、小さな声で言った。
「そやなあ」





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2009.04.25 / Top↑





 トシ兄は浜田の生まれで、地元の高校を卒業後に三年間だけであるが、京都に就職した。叔母である石田の母の近くのアパートに暮らしていた。その時の思い出話しが盛り上がり、トシ兄と石田が、時には大きな声で笑いながら語り合った。夏樹と飛沢はほとんど二人の会話を聞いていたが、なぜ三人が出会い、今回の旅行を計画したのか、そんな話には加わり、さほど退屈はしなかった。

「そしたら夏樹君とヨシが同じクラスやったのは、小学校の一,二年生の時だけか、そんな二人を再会させてくれたんが、飛沢君なんやな」
「そうなんです、ほんで俺と飛沢は中学一年の時だけ同じクラス、飛沢と石田は中学三年の時だけ、おんなじクラスやった。同じ学年に四百人も居るのに、この三人で、なんか知らんけど、こうやって旅行してますねん」
 夏樹が言った。
「運命っちゅうやつと、ちゃうか。今ぐらいの歳の時の友達は、大切にせんといけん、のう。これからの長い人生で、一番の頼りになるのは若い時に親しくした友達じゃ、のう。進む道は違っもて時々は会って、酒を酌み交わすだけでもええんじゃ、大事にせえよ」
 今まで冗談が半分のような話し方だったトシ兄が、真剣に真面目な顔で話した。三人にはすごく心に染み入ったようだ。

 楽しい時間とは、時計が早回りしているのではないかと思うぐらいに、過ぎるのが早い。トシ兄の家にお邪魔をしてすでに三時間が経った。ユースホステルに戻らないといけない時間になってしまった。名残惜しいが帰らなければならない。
「また来いな、今度は美味い刺身と酒を用意しておくから、ちゃんと電話を寄こせよ。ヨシがこれなくても、お前らだけで来たかてええから、のう」
 右腕を夏樹に、左腕を飛沢の肩に回し、二人だけに聞こえるような小さな声で言った。酒の臭いが少し鼻に付いた。
「いやあ、そういうわけには、いかないでしょう、なあ」
 飛沢が夏樹の顔を見て言った。
「何を言うてんのや、ヨシの友達は俺の友達じゃが、遠慮せんと遊びに来いな」
「おぉきにぃ、ありがとうございます、きっといつか、遊びに来ます」
「あっ、ちょっと待てな」
と言って先ほどまでテーブルの上に置かれていた菓子を、そのまま大きな紙の袋に入れて、石田に持たせてくれた。
 三人は大きく頭を下げて、礼を言いユースホステルに戻った。

 ユースホステルに戻ってから三人は部屋に布団を敷き、トシ兄さんの家で貰った菓子を広げて、一つふたつと摘み、楽しかった時間の余韻に浸っていた。



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2009.04.27 / Top↑






 翌朝も良い天気だった。卒業式の次の日に出発した今回の旅行だが、今日で五日目となった。本当に毎日が良い天気だ。
 三月の初旬という今の時期は、例年であれば『三寒四温』という慣用句があるように、不安定な天気が続くのであるが、五日間も連続して良い天気が続くのは珍しいのではないだろうか。

「おはよう、今日は出雲までいくで」
 夏樹が張り切って笑顔で言った。
「いよいよ出雲か、あの出雲大社に行けるわけやな、楽しみやな」
 飛沢もとても元気で、楽しそうだ。
「二人ともなんで今日はそんなに楽しそうなんや、なんか特別にええことでもあんのんかあ」
 石田が不思議そうに二人の顔を覗き込んだ。
「あれ、石田は知らんのかいな、今回の旅行を西本州一周にした一番の理由は、出雲大社に行くためや」
 飛沢がますますにこやかな顔をして言った。
「最初は一週間ぐらいで、ぐるっと廻ってこれるような旅行をしようと、飛沢に持ちかけたんや、それで俺は西本州一週ぐらいが、手ごろでええのとちゃうかなって提案したんや」
「夏樹からそれを聞いた時に、なぜか直ぐに出雲大社が頭に浮かんだわけよ、西本州ということは、山陰、山陽地方のことやな、山陰といえば島根県の出雲や、あの出雲大社があるじゃ、あありませんか、とひらめいた訳や」
「出雲大社って言うんやから神社なんやろ、飛沢って神社がすきなんか」
 石田が真面目な顔をして言った。
「はあ、おまえ、何を言うてまんねん、十八歳の青年が神社マニアなわけないやろ。出雲大社や、知らんのかいな、ここは縁結びの神さんやないか。ちゃんとお参りをして、かわいい彼女ができますようにって、お願いをしてくるんやないか」

 今朝の飛沢は、旅行に出かけてから初めて一番に起きて、いつも以上ににこやかで、楽しそうなのか、その理由がようやく石田は理解できた。
「けど今日中に出雲大社までお参りに行けるかどうか、分からんで。俺もそこまでは計画をしてないからなあ」
「夏樹、それはないで、ようやく出雲大社にお参りにいけると思うたのに」
 飛沢の顔が、少し俯き加減になった。


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2009.04.29 / Top↑

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