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 山陰本線の上りに乗って浜田駅から出雲市駅までは二時間ほどで着く。そこからは大社線(残念ながら平成二年に廃線となった)に乗り三つ目の駅が大社駅だ。大社造りの駅がとても立派で、わずか三駅しかないローカル線には不釣合いな感じもするが、そこは出雲大社、十月には日本中の神々が集まると言う、日本の神社の中の神社、キングオブ神社?
 飛沢が今回の旅行でここへ来ることが一番の目的と言っている出雲大社は、縁結びの神として有名であるが、果たして飛沢の思いは、いつ叶うのか。

「飛沢、そんなに肩を落とすなよ、間違いなく今日の午前中、昼までには出雲大社に着くから、今日中にお参りができるさかい、心配せんとき」
「そやかて、お前、今日中に出雲大社までお参りに行けるかどうか、分からんって言うからや」
 飛沢は夏樹の肩を右手で軽く叩いた。
「ほんの冗談や、堪忍やで。俺の計画に抜かりは無いでえ、時々、勘違いするだけや」
 三人は大きな荷物を肩に担ぎ、知らない人が見たら路上漫才をやっているのではないかと、思われるような会話をしながら、浜田の駅に向かった。

 浜田駅から少し走ると、車窓には日本海が見える。今日も快晴、穏やかな青い海の水平線が、わずかに曲線を作り、右から左へ切れ目無く美しい。
「広い空と海に、いろんな形の雲が描かれているのは、想像力を最大限に膨らませることができるから、見ていてあきひんけど、海と空だけ、それもどちらも真っ青で、他には何も無い空間て言うのも、なんかすごいなあ」
 夏樹は例によって大きく開け放った窓に両腕を組んで載せて、その上にあごを載せ、早春の少し冷たい風を体中に受けながら、独り言のように言った。
「シンプル・イズ・ベストっちゅうやつとちゃうのか」
 夏樹の向かいに座っている飛沢が、夏樹と同じような格好をして冷たい風を受け、独り言のように夏樹の言ったことに答えた。
 石田は通路側の席に座り、居眠りをしていた。車窓にはあまり興味がないようだ。



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2009.05.01 / Top↑






 浜田駅から出雲市駅には約二時間で着くが、車窓からの風景のほとんどが海岸線だ。緩やかなカーブが続く海岸線は変化の少ない風景だが、飛沢と夏樹は飽きもせずに、ずっと海を見ていた。時々見えてくる集落や、漁港の風景に出くわすと、何か面白いものはないかと、目だけを右左に動かし観察するのだ。そして、自分だけの発見にできず、二人は「あれ、なんや。ほれ、あそこを見てみい」と声を発する、大きく窓を開け放ったままである。
 二人が会話を交わすには、開け放った窓から入ってくる風の音が邪魔をする。目の前にいる相手の言葉が良く聞こえない。他愛の無い話しをしているのだから、お互いに相手の言っていることなどは、あまり気にせずに、独り言のように時々、何かを言っている。

 窓に両腕を組んで載せて、その上にあごを載せた二人の目の前が突然、真っ暗になり、ゴウーと大きな音ともに、今まで以上に冷たい風が、二人を襲ってきた。たまらず、夏樹が立ち上がり、大きく開け放った窓を下ろして閉めた。
「どないしたん、急に閉めて」
「いやあ、トンネルに入ったら、ちょっと寒ないか」
「まあなあ、ちょっと寒いなあ」
 さすがに三月初旬のトンネル内の風は、まだまだ冷たい。どんなに単調な車窓でも飽きることのない夏樹だけれど、この冷たい風には我慢の限界が来たようだ。

「飛沢、さっき何を言うてたんや」
「さっきって、何やたかいなあ、なんか面白い看板を見つけたさかいに、お前に見てみいって教えただけとちゃうか」
「いや、女がどうたら、こうたらって言うてへんかったか」
「ああ、綺麗な海水浴場が見えたから、あそこに可愛い女の子と泳ぎに来たいなあって,言うてたんとちゃうかなあ」
「そんな綺麗な海水浴場なんかあったかいなあ。けどなんでそこで可愛い女と一緒に泳ぎに来る話になるねん」
「だって早う可愛い彼女がほしいやんけ、そのために出雲大社に行って、ちゃんとお参りをしてお願いしに行くんやんか」
「お前、津和野ユースホステルで知り合ったくるくるパーマの川上信也に影響されたんとちゃうか」
「そんなことはないで、俺は前から早う彼女がほしかった。彼女がほしくない男なんかおるんかいな」




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2009.05.07 / Top↑






 飛沢は彼女いない暦十八年、夏樹も石田も同じく。飛沢と石田に関しては、通っていた高校が男子校だったので、ほとんど知り合う機会はなかった、夏樹も女子が少ない高校に通っていた。興味がないわけでは、もちろんない。いま流行の草食系ではないのだけれど、そんなに積極的でもなかった。チャンスか少なかっただけだ。
「飛沢って神や仏を信じるんかんいな」
 夏樹が言った。
「お化けとか、超能力とかは信じひんけど、占いとかは信じる方かなあ」
「出雲大社の神さんにお参りしたら、直ぐに彼女ができると思てんの」
「いや、そんなことは思ってへんけどな、お参りせんよりは、した方が、可愛い彼女が見つかるような気がしてな」
「その可愛いっちゅうのは、ちょっとこっちの方に置いといたほうが、ええのとちゃうか。まずは付き合ってくれる女の子と、知り合うこととちゃうか」
「けど、可愛いほうがええやんけ」
「そうかも知れへんけどな、俺かて彼女なんて言えるような女友達は今までいいひんかったから、偉そうなことは言えへんけどな、まずはお前が「あの子可愛いなあ、俺のタイプやな」と思える女の子と巡り逢うことやないかなあ。それから、その子を好きになって行って、付き合って、もっとその子のことを知りたいとか、話をしたいとか、一緒にデートをしたいとかって思うんやろ、そして告白する、いきなり彼女はできひんやろ」
「そやから、今までにそんな風に思える女の子に巡り逢ったことがないのよ」
 飛沢が深刻な顔つきで言った。とその時トンネルを抜けて、青い空と青い海が再び車窓一面に広がった。

 飛沢は男子校に通っていたから、女の子と知り合う機会は少なかったけれど、今の飛沢からは、単に男のスケベ心的な感情、本能ともう一つ、焦りのようなものも感じ取れた。飛沢との会話から、なんとなくではあるが、夏樹に伝わってきた。

「ところで飛沢のタイプの女の子ってどんな感じなんや」
「さっきから言うてるやんか、可愛い子」
「あまりにも抽象的やなあ、芸能人で言うたらどの人とか、あるやろ」
「ミキちゃんみたいな感じかな、どっちかって言うと見た目はおとなしい感じかな」
 ミキちゃんとは当時、人気絶頂の女三人組みのアイドルの一人である。





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2009.05.08 / Top↑





「あっ、ああ、寝過ごしてもうたかと思った」
 突然、石田が大きな声をだして、目を覚ました。
「まだやで、あと一時間ぐらいは乗ってるかな。お前、こんな綺麗な風景を見逃すのかいな、せっかくの列車の旅やのに居眠りしてたら、もったいないやんか」
「夏樹、しゃあないは、石田は鉄道にはあんまり興味がないんやから、映画のロケ地とかやったら興味があるんとちゃうか」
 飛沢が言った。
「それやったら出雲市駅から、もうちょっと行った宍道駅から、木次線に乗ると亀嵩って言う駅があるんや・・・」
「あっ、それやったら俺も知ってる、「砂の器」の舞台になったところやろ」
 夏樹が話し終わる前に、石田は答えを言った。
「さすがに映画のことは詳しいなあ。去年の春休みに、亀嵩駅は通過したなあ」
「ええなあ、出雲からは近いんか、明日はそっちへ廻って行かれへんのか」
「石田、今回の旅行の最大の目的は、可愛い彼女ができるように,出雲大社に行って、お参りをして、ちゃんと拝んでくることや」
 飛沢が少しだけ怒った顔つきで、石田に言った。
「もう、全部の予定が決まってるから無理やなあ。俺は別に彼女なんかまだいらんけどなあ、それより映画をいっぱい見たいなあ」
 石田が寂しそうに俯いた。

 せっかくだからと、出雲に着くまでは、もう少し映画の話をさせてほしいと、石田が先ほどの続きを話しはじめた。
「ほんでな」
 石田は以外に立ち直りがはやい。
「島根、鳥取、広島、岡山の県境あたりの中国山地はあまり高い山が少ないからか、結構な山の奥にも人が住んでいるところが多くあって、歴史ある土地も多い。宿場町とか、温泉地、鉱山町とかな。そこを舞台にした物語も多くあって、映画なんかもあちこちでロケをしてるんや」
 映画の話になると石田は生き生きと語りはじめる。
「寅さんとか金田一耕助とかも活躍したところがあるんやで」
「金田一耕助なら俺も見た。あれは面白かったなあ」
 夏樹が石田の話しを遮るように言った。



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2009.05.11 / Top↑






「おれは金田一も寅さんも見たことないし、興味もない」
 飛沢はご機嫌斜めである。
「まあまあ、ええやないか、せっかくこうやって旅行に来てんのやから、楽しもうや」
 夏樹が、割って入った。
「すまんな、俺も、もうちょっと車窓を楽しんで、旅行を楽しむから、ごめんな」
 石田が謝った。飛沢も、笑顔に戻った。これで一見落着、いつもの三人に戻った。

「飛沢はいままで彼女がいたことはないのか」
 石田が突然、話題を飛沢寄りに替えた。
「ええ!急に何を聞くんやねん。彼女と呼べるような女の子は,いてないなあ」
 飛沢は焦っている。
「夏樹はいたんちゃうの、なんか二人で歩いてるところを、見たような気がするけど」
「石田、いつの話しやねん、好きな子はいたけど、あっさりふられたは」
「中学一年の頃やなあ、確か、岩淵とちゃうか」
「ちょちょっと待てよ、なんでお前が岩淵のことを知ってんのや、同じクラスやったことがあるんか」
 夏樹は少し、顔を赤らめ、喋り方に落ち着きがなくなった。
「中学二年の時に一緒やったから、お前と岩淵が一緒に歩いてるところを見てから後に、名前が判ったんやけどな。彼女がほしいっていう話しやったからな、ふと、夏樹と岩淵のことを思い出したんや」
「変なことを思い出さんでええは」

「ほな、お前は付き合ってたんか」
 飛沢の顔が夏樹の顔に急接近して、言った。
「そやから、ふられたって言うたやろ」
「岩淵って、あれ、中学一年のときに同じクラスとちゃうかいなあ」
「飛沢まで変なことを思い出すなよ」
 その時、ちょうどトンネルに入り、ゴーっと大きな音に、三人の会話が遮られた。




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2009.05.13 / Top↑









 岩淵と夏樹は小学校四年から、中学一年まで同じクラスだった。小学校の頃の夏樹にとって、岩淵は一人のクラスメイトに過ぎなかった。中学校に入り小学校のクラスメイトで同じクラスになったのは夏樹と岩淵と、中川という女子の三人だけだった。同じクラスだったと言うだけで、なんとなく三人で一緒に帰ったり、教室で固まったりしていた。そんな、なんとなく仲の良い関係がしばらく続いた。

 夏休みの理科の宿題は自由研究だった。
「一緒になんかやらへんか」
 岩淵の方から共同研究を持ちかけて来た。何をやるか何も決まっていなかったが、同姓の友達同士が軽い気持ちで誘って、誘われて、了解したような感じで、何の違和感も不自然さもなかった。夏樹はその時はそう思っていた。
 夏休みに入る前から、打ち合わせと言う名目で、岩淵と夏樹の二人だけで教室に残り、一緒に帰ることもあった。その様子を石田が見たのだろう。
 夏休み中に二回会っただけで、理科の自由研究は何もできず、中途半端な形で終り、先生に怒られた記憶がある。
 そんな夏休みが終り、二学期に入ってからも中川を含めた三人の、なんとなく仲の良い関係は続いていた。

 夏樹にとって岩淵は同じ小学校のクラスメイトで、特別な感情はなかったが、二年生になると別のクラスになることになり、岩淵が夏樹に言った一言が頭に残り、しばらくのあいだ夏樹を悩ませたのだった。
「二年生になったら別のクラスやね、夏樹君とはずっと一緒だと思ってたのになあ」
「えっええ・・・」
 春休みを迎える頃には夏樹の心と頭の奥の方が、ざわめき始めた。
「これって何やろ、なんか不思議なこの気持ちは」
 中川と一緒にいるときには感じない、不思議なざわめきを夏樹は感じていた。



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2009.05.18 / Top↑




 彼女も夏樹に対する気持ちが、まだ、はっきりとしたものではないにしろ、中学一年生の岩淵なりの淡い恋心のようなものを、伝えようとした一言なのか、それとも、ただなんとなく、別のクラスになるということへの、別れの言葉だったのだろうか。いずれにせよ、純粋な中学一年生の男子として、急に岩淵という女子を意識するには、充分すぎるほどの一言だったのだ。
 今までは朝の登校時に偶然に一緒になっても、普通に「おはよう」と挨拶を交わせていたのに、あの一言が夏樹の思考回路を狂わせてしまったために、たどたどしくなり、逆に岩淵に不信感を与えるようなった。
 二年生に進級して別のクラスになり、会うことが少なくなった。部活動も違うために帰宅時間も違う。夏樹が岩淵を意識しすぎるあまり、いつの間にか「おはよう」「おう」だけのただの知り合いという関係になっていった。もちろん会話もなくなった。
 中川を含めた三人のなんとなく仲の良い関係はどこかえ行ってしまった。

 そんなたどたどしい関係が続いていたが、夏樹の岩淵への気持ちはどんどん大きくなり、はっきりとした恋心に変わっていった。
 でも、そんな気持ちを伝えることはおろか、廊下で偶然会っても、まともに顔を見て会話を交わすこともできず、岩淵は夏樹のことをかなり不信に思っていたのではないだろうか。

 そんな初恋のようなものは、二年生の三学期になり、もう直ぐ三年生になるという頃に呆気なく終演を迎えたのだった。夏樹と同じ二年生のある男子と岩淵が、校舎のはずれの人目の少ないところで、親しく並んで会話をしているのを見てしまったのだ。
 後日、岩淵と同じように小学校からの四年のあいだクラスメイトだった中川に、二人が付き合っていることを聞かされた。
 あの一言は夏樹のただの勘違いだったのか、それとも岩淵からの最大限の気持ちのあらわれだったのに、夏樹がその思いを受け止めて答えることができず、たどたどしい態度をするようになったことで岩淵の心も離れていったのか、いまとなっては確かめるすべはない。

 石田が突然に思い出した中学生の頃の話により蘇った、淡くせつない思春期の思い出を頭の中のスクリーンに映し出し、車窓の海を見るともなく夏樹は大きく溜息をついた。



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2009.05.20 / Top↑

「あっ、思い出した、岩淵ってやっぱり中一のときに同じクラスやった。そうかあ、あの岩淵みたいなんがタイプなんや」
 飛沢が突然おおきな声で言った。
「そやから、いらんことを思い出さんでええから、さっきも言うたけど振られたんやから、もうええやんか」
「振られたって、告白したんかいな」
 石田が真面目に質問した。
「いや、する前に別の奴と付き合っているのを知ったんや」
「ほな告白はしてないちゅうことは、振られたっちゅうのは正しくないなあ」
 石田が真面目に分析した。
「おわり、おわり、もうおしまい」
「そうかぁ、わかった、この話しはこれで終りや、なっ石田」
 飛沢が喧嘩の仲裁をするかのように割って入った。
「俺は別に、攻めてるわけやないで、ちょっと羨ましかっただけや、そやかて岩淵は可愛かったしなあ」
 石田の声のトーンが少し小さくなっていった。
「なんやおまえ、それって、どういうこっちゃねん」
 夏樹の隣に座っていた石田の首に右手を回し、プロレスの技のように軽くしめつけた。その顔は大きく崩れ、笑っていた。

 そんな馬鹿話しをしている間に、車窓には海が見えなくなり、二,三の駅に停車し過ぎていった。
「今の駅って西出雲って書いてたなあ、次で乗り換えるで、いよいよ出雲大社やで」
 夏樹が言った。
「よし、俺も岩淵みたいな可愛い彼女ができるように、ちゃんとお願いしに行くぞ」
「飛沢、その話はあと終りとちゃうんかい」
「ああっ、ごめん、ごめん、終りやな、おわり」
 飛沢は両手を顔の前であわせ、夏樹に向かって軽く頭を下げた。

 出雲市駅で大社線に乗り換える。気動車が一両だけのローカル線で三つ目の駅が大社だ。二十分ほどで到着する。一見、神社のような大社造りの駅舎が迎えてくれる。


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2009.05.22 / Top↑

 大社線の大社駅に降り立ち、まずは出雲大社へ向かった。いつものように重い荷物を肩に担ぎ、大社の駅前から右に曲がって真っ直ぐに伸びた参道をテクテクと歩く。心なしか飛沢の足取りが軽く見える。
「石田、何してんの、はよう行くでえ」
 飛沢が石田を急かした。
「お前、なんでそんなに元気なんや、こんな重い荷物を持ってるのに」
「何回も言わせるな、今回の旅行の一番の目的は、この出雲大社にお参りに来ることやないか」
「石田、今日だけは目をつぶってな、そんなに遠くはないはずやら」
 夏樹が言った。

 十月の昔の異名を「神無月」というが、ここ出雲では「神有月」という。この話しは有名な話であるが、これ以上の歴史的な話しは知らない、勉強不足で申し訳ない。
 単純に考えて、なぜ日本中の神々が山陰地方のこの地に集まるのか、現代では裏日本などといわれるところである。全国の神が集まる地ということは、日本の発祥の地なのか。やはりこれは改めてこの神話の時代、日本書紀などを勉強しなければならない。

 大社駅から十分ほど歩くと一畑電鉄の大社駅がある。モダンな造りの建物で、半円形の屋根が当時の国鉄大社駅とは対照的だ。内壁も丸くなっているところがあり、十数センチメートル四方の厚いガラスが、何枚も規則正しく埋め込められている。
 国鉄の大社駅が完成したのが大正十三年、一畑電鉄の大社駅ができたのが昭和五年である。さほどの違いがない年代に、都市というにはあまりにもかけ離れた地に、なぜ国鉄と私鉄が競合しているのか、出雲大社への信仰の篤さを感じずにはいられない。最盛期には国鉄大社駅へ関西方面からの特急や急行が乗り入れていたようだ

 今は神話も伝説も、また鉄道の歴史もたいした重要性はない、とにかくしっかりと参詣して、可愛い彼女ができることをお願いすることしか、飛沢の頭の中にはないようだ。一畑電鉄の大社駅など見ることもなく、さっさと前進あるのみ。


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2009.05.26 / Top↑

「おっ、鳥居が目の前にあるけどこれって出雲大社のかなあ、随分と大きいけど」
 飛沢が鳥居を見上げて言った。
「たぶん、そやろ。けど、ここからもう少しあるで、拝殿までは」
 夏樹が言った。
「よし、もうすこしやな、頑張って行こうや」
 念願の出雲大社が目の前に近づき、飛沢は心が躍る思いでいた。

                            出雲大社

 
 三人は拝殿の前に進み、神妙な面持ちで両手を合わせ、大きく頭を下げていた。中でも飛沢は他の二人よりも長い時間をかけて頭を下げていた。
「飛沢、ちゃんとお願いをしたか」
「夏樹、当たり前やんか、岩淵みたいな可愛い彼女が現れて、俺の彼女になってくれますようにって、お願いをしましたよ」
「あのなあ、岩淵みたいなは余計やろ」
「おう、そうやったな、すまんな。ところで、あの人たちは何をしてるんや」
 飛沢が拝殿の正面にある大きな注連縄の下にいる数人の人たちを見て言った。その注連縄に向けて何かを投げているのである。
「あれってお金とちゃうか」
 よく見ると注連縄の一番端の、藁が束ねられた断面に向けて、硬貨を投げつけているようだ。色からすると五円か十円玉のようである。
「みんな、なんか楽しそうやなあ、手を叩いて喜んでる人もいるでぇ」
「なんかのお呪いやろか」
 飛沢と夏樹は顔を見合わせたり、硬貨を投げる人の様子を見たりしていた。

 この日に泊まったユースホステルのペアレトンさんに教えられたのだが、注連縄の断面に五円玉を投げて、うまくそこに刺さると、恋が叶うと言うのだ。手を叩いて喜んでいたのは、うまく刺さった人だったのだろう。
 ではなぜ五円玉なのか「ご縁がありますように」の語呂合わせだそうだ。
 因みに御賽銭に十五円を入れると「充分にご縁がありますように」二十五円は「重々、ご縁がありますように」百二十五円は「十二分にご縁がありますように」だそうだ。
 語呂合わせもここまでくると、逆にご利益が薄くなりそうな気もするが。

 この話しを聞いた飛沢は次の日も出雲大社へ詣でたのは言うまでもない。そして、御賽銭は百二十五円を入れて、もう一度おおきく頭を下げ、五円玉が注連縄に刺さるまで投げ続けたのだ。



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2009.05.27 / Top↑

「なんか腹がへったなあ、そろそろ昼時やな、なんか食べようや」
 念願の出雲大社へ詣でることができて、飛沢はとても満足のようだ。
「出雲といえば、そばが有名なんとちゃうかいなあ」
「石田、何でお前がそんなことを知ってんのやあ」
「夏樹は社会の授業で習わんかったか、出雲大社の御利益のことは知らんけど、出雲地方といえば、そばが有名やて言うことは、なんや知らんけど頭に残ってる」
「そうやったかいなあ」
 夏樹は頭に残っていないようだ。
 旅の途中に社会だの理科だのって勉強の話しはせんとこうや」
「飛沢、理科の話はしてへんで」
「ええ、そやったかいなあ」

 出雲地方は信州地方と同様にそばが有名だ。
 信州などとは違い、そばの殻ごと挽いた粉を使う黒いそばである。つゆもそばとは別の器に入れたものにつけるのではなく、三段の丸い漆器に入れられたそばに、つゆを直接かけて食べる。「割り子そば」というようだ。
 記憶違いでなければ、三段の一番上の器につゆをかけて食べる。食べ終われば一段目のつゆを二段目の器に移して食べる。三段目も同様にして食べるのが出雲流だそうだ。

「そう言えば大社駅からここまで来る時に、何軒かのそば屋さんをみかけたなあ、ほなそこへ行こ」
 飛沢は、お参りすだけで彼女ができると信じているのだろうか。つい先ほどまでは可愛いい彼女ができることばかりを話していたのに、今は空腹を満たすための話に変わってしまった。飛沢の恋が成就するのはまだまだ先のような気がする。

 そばを食べ、空腹も満たされた三人は日御碕を目指した。出雲大社よりバスに乗り二十五分ほどで着く。
 無事に参詣を終え、そばの大盛りを食べた飛沢はバスに乗り、座席に座ると同時に居眠りを始めてしまった。なんとも幸せな奴である。



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2009.05.30 / Top↑

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