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 風呂から部屋に戻り、タオルをベッドの手すりに干し、洗い物などをバッグに詰めて談話室へ向かった。
 食事の前と同じように多くのホステラーで賑わっていた。大学のグループは家族で来ている子供たちも仲間に入れて、簡単なゲームをやっている。少人数のグループはトランプゲームや会話を楽しんでいた。その横で少し年配のご夫婦がソファーに腰をかけてそんな様子を眺めていた。
 夏樹はそんな大勢の中から、さっきの大学生風の二人の女性の姿を探した。業とらしくならないように、少し部屋の中を歩きながら見渡した。大きな窓に近づいた時に、その窓から暗くなった外を見ている二人を見つけた。
 せっかく見つけたのに夏樹は直ぐには声をかけられないでいた。窓のそばに置かれたソファーに座り、チャンスを伺っていた、とその時だった。
「一緒にトランプをしませんか」
 大学生風の二人の女性に声をかけた。明らかに夏樹より年下の大学生のような三人の男たちだった。
「先を越されてしもうたかあ」
 ひとり言を小さな声で言った。
 目の前でトランプへの誘いを快く受けた二人の女性たちを見て、夏樹は勇気を振り絞った。
「僕も入れてもうてもかまへんかなあ」
「どうぞ、どうぞ」
「多い方がおもしろいしねえ」
「一人ですか、じゃあ一緒にやりましょうよ」
 女性二人と男三人は快く仲間に入れてくれた。

 やはりこの当時のトランプゲームの定番は大貧民ゲーム (大富豪とも言う?) だった。なぜこのゲームが流行っていたのか、いま思うとルールが比較的簡単で、一回終わるごとに上がった順番に座る場所が変わる。一回終わるたびに隣に座る人が変わると言うことだ。初対面の人たちが集まるユースホステルではコミュニケーションがとり易いということで、定番になったように思う。考えすぎかな。
 最初の一歩が踏み出せれば、あとは関西人独特の周りの人たちを笑わせよう、和ませようと言う無意識の意識が働き、人によっては「でしゃばるな」と言われそうなぐらいに、夏樹は関西弁を丸出しに話しをしていた。


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2009.09.02 / Top↑
「仲間に入れてもろうて、良かったですわ、一人で来たさかいに話し相手がいなくて、ちょっと寂しかったんやけどね、ほんまに良かったわ、おぉきにぃ、ありがとう」
 夏樹は堰を切ったように話し始めた。今朝は会社の寮の誰にも会うことなく出発してきた。渋滞の国道をひたすら走り続けて、昼食は大型スーパーの立ち食いそば屋の自動発券機で食券を買い、無言で券を出してラーメンを食べたから、その店の人とは会話をしなかった。ユースホステルの受付で簡単に、少しだけ言葉を発して以来の会話だから、本日二回目の会話だった。一日の中でこんなに言葉を発しない日は、今までで初めてかもしれない。

「こんなに大勢の宿泊者がいるユースホステルに来たのは久しぶりやから、なんか圧倒されてしもうて、いやあ、ほんまに良かったですわ」
「関西の方ですか」
 二人の女性の一人が言った。夏樹が初めて見たときに少し可愛いな、と思った、夏樹の好みタイプの女性だった。
「あっ、そうですけど、わかりますか」
「わかるよう、こてこての関西弁を喋ってるやないですか」
 大学生風の三人の男の中で肩まで髪を長く伸ばしている男が言った。
「けど、あんたの喋り方も関西弁に似ているような、けどちょっと違うなあ。どっから来はったん」
 夏樹は調子が出てきたようだ。
「俺たちは名古屋から来たんだわ」
 大学生風の三人の男の中で身長が一番高い男が、名古屋弁を意識した言い方で言った。
「名古屋ですか。名古屋弁ってそういう喋り方するんですか、ちょっとだけ関西弁にイントネーションが似ているようやなあ」
「関西のどこですか。まさか地元の人だったりして」
 二人の女性の、髪をショートカットにした人が覗きもむ様に聞いた。
「俺は京都です。原付のバイクに乗って、久しぶりにユースホステルを利用しての旅に出てきたんですわ」
「バイクで一人旅なんだ。でも奈良から京都って近いんじゃないの」
 夏樹のタイプの女性が言った。
「ええ、まあ。五十キロぐらいかな」
「五十キロぐらいなら一時間ぐらいで来れるんじゃないですか」
 髪を肩まで長く伸ばしている男が言った。
「それがねえ、渋滞は酷いし、原チャリやからスピードも出せへんし、四時間近くかかったかなあ」
 他愛の無い会話が始まり、続いた。三人の男の中で短くカットした髪に軽くパーマをかけてメガネをかけた男が、会話に入ることなく笑顔でゆっくりとトランプを切っていた。


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2009.09.04 / Top↑
「名古屋の三人さんは大学生ですか」
 夏樹が言った。
「そうです、名古屋の工業系の大学生です。ロボットのことを専門に勉強してます」
 髪を肩まで長く伸ばしている男が言った。
「ロボットを作っちゃうわけね。おもしろそう」
 夏樹のタイプの女性が言った。彼女は髪を長く伸ばし、軽くウエーブがついていた。
「あなたちは、どっから来たんですか」
 夏樹が二人の女性に聞いた。
「私たちは、ねえぇ」
 髪にウエーブのついた女性が、もう一人のショートカットの女性に問いかけるように言った。
「関東方面ですよねえ。標準語やもんねえ」
 身長が一番高い名古屋の大学生が言った。
「そうそう、関東方面、東京の方から来たの、ね」
 髪を長く伸ばした女性が、もう一人の女性の方を見て、少し困ったような表情で言った。
「東京の方・・・」

 当時は関東の中で東京二十三区以外は田舎で、山の手線を中心に遠ざかれば遠ざかるほど田舎の人、のような風潮があったようだ。今では死後になったと思うが「いさちか」と言う言葉があると聞いたことがある。「茨城、埼玉、千葉、神奈川」だそうで、東京を取り巻く都会じゃない県のことだそうだ。
 現在の夏樹が住んでいるところかすれば、かなりの都会である。近くを通るJR線には、三両編成の電車が一時間に一本しか走っていないのだ。「いさちか」と言われていても、電車は十五両編成で十分に一本は駅に来るじゃないか。

「東京の方って、東京やないんですか、神奈川とか埼玉とかって言うことなん。自分ら何処から来たん」
 夏樹はもう旧来からの友達と会話をするように、話しかけていた。
「えっ、自分ってあなたは京都でしょ、えっいま自分ら何処から来たかって言わなかった」
 髪を長くのばした女性がとても不思議そうに言った。
「自分らって自分らのことやんかあ、あれ、あんたらのことやで」
「自分って自分のことでしょ、私とか僕と同じように自分って言うんじゃないの」
「ん・・・。京都では、君とかあなたと同じ意味で自分って言うんやけど、それっておかしいですか」


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2009.09.07 / Top↑
2009/09/08
「まいどぉ おぉきにぃ、」

「おかしいよ、自分は、自分でしょ、ねえ」
 髪の長い女性が名古屋の大学生を見て同意を求めるように言った。
「おかしいと思うけど、大学には関西出身の学生も大勢いるから、聞きなれているからねえ、あまり違和感はないなあ」
 身長が一番高い名古屋の大学生が言った。
「そうかあ、分かりにくいんやったら、言わんようにします。ところで、あなたたちは関東の何処から来たんですか。東京の方って言われても、俺は東京に行ったことがないから、なんか、よう分からんのやけど」
 夏樹がいつもと違うぎこちない話し方で言った。」
「やはり元の話しに戻っちゃいますか、別に何処でもいいじゃん」
 髪の長い女性が言った。とその直ぐ後にショートカットの女性が小さな声で言った。
「埼玉」
「埼玉ってライオンズの本拠地の所沢がある所ですよねえ」
 短くカットした髪に軽くパーマをかけてメガネをかけた男が、トランプを切りながら初めて喋った。
「おれ、ライオンズファンなんだよねえ」
「そう、ライオンズ球場のある所沢の次の駅の市なの」
 ショートカットの女性が言った。
「あなたは次の次の駅でしょ、私が次の駅じゃない」
 髪の長い女性が言った。
「・・・」
 夏樹と三人の大学生は、彼女たちの会話の意味するところが良く分からず、少し呆気にとられていた。
 所沢の次の駅と、その次の駅では東京までの距離がどちらの方が近いか、と言うことが争点だったようだ。関東の人たちにとっては難しい問題のようだが、関西人の夏樹にとってはどっちでもよいことで、かえって東京は地方出身者が多く集まって出来た街で、いわゆる田舎の人間がつくっている都会ではないかと、彼女たちに言ったのだが、そういう問題ではないようだった。

 ひとまず出身地の話題は終わりにして、トランプをすることにした。トランプをやりながら大学生のロボットの話と、夏樹以外の五人が修学旅行で京都に行ったということから、それぞれの修学旅行の話題が会話の中心になっていた。
「京都の人って、高校の修学旅行へは何処に行くんですか」
 髪を肩まで長く伸ばしている男が言った。
「高校の時は南九州やったなあ、帰りはフェリーに乗って来たなあ、他の高校に行った友達は東北に行ったって言うてたなあ」
 そんなやり取りをしてトランプゲームに興じていると、時間の過ぎるのは早い。もう就寝時間になってしまった。



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2009.09.09 / Top↑
「もうこんな時間になっちゃったね。もう寝る時間だよ」
 髪の長い女性が言った。
「まだ、十時じゃないですか、夜はこれからですよ、お姉さま」
 髪を長く伸ばした名古屋の大学生が言った。
「君たちここはユースホステルですよ、夜はこれからなんてことを言っちゃいけません、規則正しい生活を過ごすのがここのルールです」
「せっかく皆さんと打解けて楽しくなってきたと思ったのに、残念です」
 身長が一番高い大学生がしぶしぶトランプを片付けはじめた。短くカットした髪に軽くパーマをかけてメガネをかけた大学生が、そのトランプは俺のものだ、と言わんばかりに無言で取り上げて手早くまとめてケースに入れた。

 大学生の男二人はもう少し話をしようと言ったが、周りの人たちが部屋に向かうのを見てあきらめた。そして、明日は六人で奈良観光に行こうと提案した。全員一致で承諾されたので、笑顔で「じゃ、おやすみなさい」と言って部屋に向かった。
「じゃ、あした、おやすみなさい」
 夏樹も部屋に戻った。

 明朝、秋晴れの快晴となった。透きぬけるような青い空がまぶしかった。
 朝食は他の五人より夏樹が先に食堂へ入った。次に大学生三人がトレーを持って夏樹の座るテーブルに来た。夏樹が食べ終わる頃に女性二人が夏樹たちのいるテーブルに座った。
「おはようございます」
「あっ、おはようございます」
「すっごくいい天気だね、こんな日はなんかいいことがありそうな気がする」
 髪の長い女性が言った。
「いまの言い方って田中さんの真似したの、すっごく似てるんだけど」
 ショートカットの女性が言った。
「田中さんて経理課のあの田中さんのこと、似てるかなあ」
「わたしはそっくりだと思うよ。もしかしてあなたって田中さんのことが、少し噂で聞いたことが・・・」
「ちょっとこんなところで何の話をしてんのよう」
 ショートカットの女性の口を髪の長い女性が右手で抑えるように隠して言った。そして二人が顔を見合わせた後に、大学生三人と夏樹の方を同時に見た。四人が不思議そうな顔をして二人の会話を黙って聞いていた。



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2009.09.11 / Top↑
 短い時間だけれど沈黙が続き、なんとく気まずい雰囲気になっていた。
「学生諸君、何をしんきくさい顔してまんねん。早よう朝飯食って、若草山に行こうよ。天然のチョコボールがあっちこっちに生えてるさかいに。おもろいでえ」
 夏樹がこてこての関西弁でその空気を吹き飛ばした、ように夏樹は思った。
「あのーそれって、若草山にいる鹿の・・・」
 短くカットした髪に軽くパーマをかけてメガネをかけた大学生がそこまで言った時に、夏樹が彼の口を手で覆うった。
「あほやなあ、飯の時間に何を言うとしてるんや」
「・・・」
「変なことを言うてんのはお前やないかって、あっそうか、こりゃまたすんませんなあ」
 あまりに下らないことを言うものだから、大学生も女性もとりあえずその場は笑ってくれた。

 朝食後に荷物をまとめてユースホステルの玄関で記念撮影をした。大学生のカメラと女性のカメラと両方で何カットか撮った。お互いに住所を教えあい、写真を送ってくれることを約束してくれた。

 夏樹は原付のバイク、他の五人はバスで東大寺に向かった。観光案内のガイドブックを持っていた女性たちに先導されて東大寺周辺の観光をした。もちろん若草山のチョコボールも見に行った。
「ええ、これがチョコボールの正体なんだ、すっごうい」
 女性二人はあちこちに落ちているチョコボールを見て、感動の言葉とともに大笑いしていた。

 昨夜にはじめて知り合った者たちの集まりとは思えないほどに、六人で大いに語り、大いに笑った。短くカットした髪に軽くパーマをかけてメガネをかけた大学生だけは、相変わらす言葉少なかった。

 楽しい時間は過ぎるのが早い。もう昼時となった。
「あれ、もうこんな時間だよ、そろそろ駅に行かないと電車に間に合わないなあ」
 髪を長く伸ばした名古屋の大学生が言った。
「私たちも駅に行かなきゃ、新幹線の時間があるしねえ」
 三人の大学生は大阪に出て神戸まで行くのだと言う。教授の都合で明後日まで講義がないから、神戸の次の日は淡路島から鳴門へ行き渦潮を見に行くのだそうだ。
 女性二人は京都の駅前のお寺に参詣して、遅くの新幹線で東京の方へ帰ると言った。
「あしたからまた、仕事だしね」
 ショートカットの女性が言った。





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2009.09.14 / Top↑
「あれ、大学生じゃなかたんですか」
 身長が一番高い大学生が言った。
「出身は埼玉だって言ったけど、大学生だなんて一度もいてないと思うけど」
 髪の長い女性が言った。
 男たちの思い込みであって、確かに大学生だとは言っていなかった。そう思っていただけだった。夏樹もいままで女子大学生だと思っていた。
[じゃあOLなんですか、昨日の夜に総務課がどうの、こうのって言ってたように聞こえたんですが]
 短くカットした髪に軽くパーマをかけてメガネをかけた大学生が言った。彼はぼやっとしているようで、しっかり人の話は聞いていたようだ。
「まあ、一応、そういうことになりますね」
 ショートカットの女性が言った。その言い方が少しだけ大人っぽい喋り方に見えたのは、夏樹の思いすごしだろうか。

「皆さんにお会いできてとても良かったです。昨夜からいままでの、僅か五時間ほどだけの付き合いでしたけど、初めて友達だけで出かけて来た旅行がこんなに楽しく出来て、感激です」
 髪を長く伸ばした大学生が言った。
「ほなユースホステルも初めて泊まったの、初体験なんやね」
 夏樹が言った。旅行を安く安心して泊まれるところは、ユースホステルしかないと大学の先輩に教わってきたのだと言う。思っていたよりも食事も良いし、料金が安く、何よりもこんな出会いを作れるところだとは、予想外だったようだ。
「全国にはもっといろいろなユースホステルがあるから、楽しいよ。年末の大晦日の日に浜名湖ユースホステルにおいでよ、あそこの年越しパーティーはすっごく面白いよ、私たちも毎年、浜名湖で年越ししているのよ、ねっ」
 髪の長い女性がショートカットの女性に同意を求めながら言った。
「年越しパーティーなんちゅうのがあるんや、面白そうやなあ」
 夏樹は行く気満々である。
「俺も行ってみたいなあ、なあ」
 髪を長く伸ばした大学生が他の二人の方を見て言った。


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2009.09.16 / Top↑
「ほな、写真を楽しみに待ってます。良い旅を続けてください」
 そう言って夏樹はヘルメットを被り、原付バイクのエンジンをスタートさせて、ゆっくりと出発した。
 快晴の秋の空はどこまでも青く、雲は一つも視界にはなく澄んでいる。昨夜からの楽しかった時間の映像が、写真のスライドショーを見るように、夏樹の頭の中をゆっくりと動いていた。とても気持ちが良かった。
 奈良市内で軽く昼食をすませ、きのう来る時に通った道をそのまま逆向きに京都へ向かった。通行車両はきのうよりは少なく、さほど渋滞に巻き込まれることなく快調に原付バイクを走らせて、四時前に寮に辿り着くことが出来た。
「よし、飛沢も誘って大晦日に浜名湖へ行くぞ」


「おうい、元気で生きてたかあ」
 奈良への一人旅を終えてから二週間後の土曜日に、飛沢が夏樹の寮へ遊びに来た。
 飛沢は大学に入学して初めての夏休みに車の免許を取り、中古のスポーツタイプの車に乗っている。夏樹のところへ来る時は、いつも前もって連絡はなく、突然ひょっこりと現れる。現在のように携帯電話などがない時代で、寮の電話に呼び出すのが面倒なのだと言う。もし、夏樹が出かけていたり、都合が悪くても、他の寮生に面識がある飛沢は、適当に話をしているうちに夏樹が現れることもあった。
 相変わらず元気で、面白くて、頼もしいやつでいてくれる。
 高校の卒業式の次の日から出かけた旅で、出雲大社へ参詣した。その時の御利益なのか、今では二つ年下で同じ大学に通う彼女が出来た。夏樹はその彼女にまだ会ったことがない、なぜか夏樹の寮へ彼女を連れて遊びには来ないのだ。
「なんや、今日も一人か、ええかげんに彼女を連れて来いよ」
 夏樹の言葉に飛沢はにこりと笑った。

 飛沢は缶ビールを数本と、するめやピーナッツが小袋に入った酒のつまみを、大きなビニール袋に入れてきた。夏樹と同部屋で同い年の小田君と三人で、日付が変わっても飽きることなく、飲んで話しをした。



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2009.09.18 / Top↑
 夏樹は原付のバイクに乗って奈良へ一泊旅行に行った時のことを話した。
「俺も誘ってくれたらよかったのに、と言いたいところやけど、大学が休みの時はいっつもバイトに行くさかいなあ、よっぽど前から決めといて休みを取ることを、店長に言うとかんとあかんからなあ」
 飛沢はうどん屋で調理のバイトをしていた。なぜか調理の仕事が気に入っているらしく、今では副店長のような存在で、うどんだけではなく、天ぷらや、丼もの、簡単な一品料理も作ることが出来るようになっていた。生まれつきの人懐っこい性格がお客に受けが良く、店長も飛沢のことをかなり頼りにしているようだ。
 いつもなら土曜日の今日も忙しいのだけれど、週末でも一ヶ月に一回は休みをもらえるらしく、そんな時は朝から彼女とデートをして、夜には夏樹のところへ遊びに来るのが決まりになっていた。

 大晦日の浜名湖ユースホステルのことを話すと、年末年始は稼ぎ時だから、行くことは叶わないようだ。小田君も誘ったが彼は愛知の実家へ帰省するからと、こちらも叶わないようだ。
「石田は行かへんかなあ」
「たぶん、あいつも無理やと思うで。あいつの夢である映画関係のバイトをしてるらしいは、何や知らんけど大学も時々やけど休むし、年末もちょっと無理なんとちゃうか」
 「そうだったのか」石田とは半年以上も逢っていないことを、夏樹は気づいた。

 飛沢が持ってきた缶ビールだけでは物足りなくなり、小田君が持っていたウイスキーを水割りにして、また三人は飲み、語り合った。
「氷がないけど、いいだろう」
 小田君が形の違う三つのグラスに少しづつウイスキーを入れ、食堂から汲んできた水道水をグラスの八分目まで注ぎ足した。
「おう、おぉきにぃ」
 飛沢は少し眠くなったようで、呂律がはっきりしない声で小田君に礼を言った。
 夏樹が初めてのボーナスで買った小さなラジカセからBGMが流れていた。飛沢の家のステレオで録音したビートルズの「青版」だった。
 小田君からグラスを受け取りながら、夏樹は鼻歌交じりにビートルズの曲を歌い始めた。むちゃくちゃの英語のような言葉だった。


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2009.09.22 / Top↑
「お前、相変わらず下手で無茶苦茶な英語でビートルズを歌うんや」
 飛沢は夏樹の方を向かずに、グラスに入ったウイスキーの水割りを少し口に入れて、今にも眠ってしまいそうな目をし、呂律がはっきりしない口調で言った。
 酒の量をもっとも多く飲んだのは小田君だと思われるが、まだまだ飲み足りない様子で、二杯目のウイスキーの水割りを作りはじめた。言葉少ないが、夏樹と飛沢の会話の要所では彼の意見を、端的に的確なコメントを入れたり、時には突っ込みを入れたりする人だった。
「そろそろ寝ようか、飛沢君もこのまま雑魚寝でいいんだろう」
 小田君は夏樹や飛沢よりも多くの酒を飲んだのにまだ酔っていないようだ。はっきりとした口調で言った。小田君が一般的であって、夏樹と飛沢が酒に弱いだけなのかも知れないのだが。

 大晦日の浜名湖へは夏樹は一人で行くことにした。そして、元旦には名古屋へ出て高山線を北上し、北陸方面へ雪を見に行くことにした。降り積もった雪の上を歩くと「きゅっ、ぎゅっ」と言う音がする。これを聞くのが好きな夏樹は、正月ならおそらく北陸まで行けば雪が降り積もっていることを信じ、能登まで足を伸ばして見ようかと考えている。考えているだけで何の計画も立てていない。もちろん泊まるユースホステルも決めていないし、まだユースホステルのガイドブックさえも開いてみていない。初めての無計画の旅に出ようと、企んでいる。初日の浜名湖だけが決まっている旅である。その後は大好きな雪を見に行く旅である。


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2009.09.25 / Top↑
 本文の前に
 おかげさまで今回の更新が二百回目となりました。毎回、多くの方が読んでくださることが励みとなり、ここまで続けることができたと思っております。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。



 夏樹の会社は十二月二十八日から年末年始の休みに入った。しかし、会社と独身寮が同じ場所にあり、寮生がそれぞれに出入りするからなのか、理由はいろいろあったようだが、二十四時間交代で日直と言う役割があった。出来るだけ近くに住んでいる男の社員が勤めることになっていた。既婚者も同様に廻ってくる。社長も例外ではなかった。二十四時間もの長い時間を会社に拘束されるのだから、日直手当てが出る。日によって額は違った、因みに年越しが一万円と一番の高額手当てだった。

 夏樹は二十九日から三十日にかけての二十四時間を日直として、寮に残ることになった。夏樹以外はみんな帰省していて、寮には誰もいない。そこで飛沢と石田を誘い、酒盛りをすることにした。二人ともそれぞれに酒と食料を持って来てくれた。飛沢はバイト先の店長に風邪をひいたと言って休みをもらった。
 会社の寮は郊外の少し山の中にあり、近隣に家は少なく、多少は騒いでも大丈夫、大いに三人で朝方まで飲み、音楽や旅の話し、鉄道の話し、女の話しをして明かした。
 未だに夏樹と石田には彼女と呼べる女性は見つからず、女の話しになると飛沢の自慢話しになってしまうことが、悔しく残念だったようだ。

「夏樹と石田も早よう彼女を見つけろよ、ええでえ二人で手を繋いでデートするんや、むちゃくちゃ楽しいでえ」
 飛沢はいつもながら酒が弱い、缶ビールを二本目で少し呂律が廻らなくなっていた。
「うるさいわ。おれかて飛沢よりもっと可愛い彼女を見つけて、ほんでダブルデートや、いや石田とトリプルデートや。誰の彼女が一番可愛いか・・・」
 夏樹も少し呂律が危なくなってきた。石田は女の話しにはあまり加わらず、淡々と缶ビールを飲み干し、次の缶を空けた。
「石田、お前それで五本目とちゃうか、意外と酒が強いんやなあ」
 夏樹が三本目を手にして言った。

 三人は何時ごろまで飲んでいたのか、会話が途切れた時にテレビのチャンネルを無造作に変えると、テストパターンが映し出されるチャンネルがあった。朝が近かったのかもしれない。
 飛沢と石田は三十日の昼ごろに目を覚まし、それぞれの車で家に帰っていった。夏樹は次の日直当番が来る五時まで、明日からの旅の準備をした。日直を交代してから旅の荷物を持って、ひとまず実家へ帰った。




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2009.09.28 / Top↑
 浜名湖ユースホステルは浜名湖と太平洋が接触する付近の新居町にある。国鉄(現JR)東海道本線、新居駅から徒歩二十五分のところにある。ここへ行くには新幹線に乗り豊橋まで行き在来線の東海道本線に乗り換え、新居駅で降りるのが一般的だ。
 しかし、大晦日のイベントは夜にあると聞いていたことを思い出し、朝から出かけるのなら、ゆっくりと浜名湖ユースホステルに向かえばよいのだということを、時刻表の地図を見ながら考えていた。単純に東海道本線を東に向かうのが普通だけれど、同じ名古屋まで延びる線路が目に留まった。関西本線である。何気なくその地図を見ていると、そちらの路線の方が距離は短く見える。
「急ぐ旅ではあるまいし、今日中に浜名湖へ行けばよい、ためしにこっちを行ってみようか」
 気まぐれな旅はこうして始まった。
 まずは京都駅から奈良線に乗り約一時間後に木津駅へ、京都府最南端の駅で関西本線に乗り換える。亀山駅で一度乗り換えて約一時間三十分で名古屋へ行く。東海道線は何度か乗ったが、関西本線は初めて乗った。車窓も新鮮で亀山までは山間部や田園風景が続き、亀山から先は四日市の工業地帯の近くを走る。時間的には東海道線の各駅停車で名古屋まで行ってもあまり変わらないようだ。

「こんにちわ、ただいまあ、ですね」
 夏樹は少し元気なく浜名湖ユースホステルの玄関を入った。
「お帰りなさい」
 大学生風のエプロンをした男が大きく元気な声で迎えてくれた。すでに玄関近くのロビーなどには、多くの宿泊者があちらこちらでグループを作り賑やかに語り合っていた。
「おおう、ただいまあ」
 ライダースーツに身をまとい、片手にヘルメット、反対の手には大きな荷物を持った男が、大きな声で入って来た。天気は良いが気温が低い中をバイクで走って来たからなのか、頬がほんのりと赤かった。
「おおう、チガサキ、久しぶりって、ここでしか会わないか、お前は相変わらず声がでかいねえ」
 ロービーの奥から一人の男が歩きながら寄ってきて、「チガサキ」の肩を大きく抱え込んだ。


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2009.09.30 / Top↑

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