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 誰一人として部屋に戻った人はいないようだ、次から次へとリクエストの声が続き、大合唱が終わりそうになかった。始まってから何曲目だろうか、バンドの人たちがリクエストを受けたのだけれど、演奏が始まらなかった。突然ラジオかテレビのアナウンサーのような声が聞こえてきた。
「ゴーーン。今、新しい年を迎えました」
「ハッピー、ニュー、イヤー」
 バンドのリーダーがマイクを通じて大きな声で言った。その時はじめて新年を迎えたことに気が付いた。その言葉とほぼ同時にあらかじめ渡されていたクラッカーのヒモを参加者が次々と引いた。
「パン、パン、パンパン」
「おめでとう」
「あけまして、おめでとう」
「ハッピー、ニュー、イヤー」
 あちらこちらから新年を祝う言葉が飛び交った。

「じゃ、ひとまず次の曲で一旦、休憩に入ります」
 バンドのリーダーが言った。年が明ける前の最後のリクエストをみんなで歌い、休憩に入り、年が明けたけれど年越しそばをいただいた。
「みんなパワフルやなあ、誰も部屋に戻って寝てる人はいてへんみたいやなあ」
「夏樹君、だからさっき部屋で言っただろう、・・・」
「はあ、何を喋ってのんかよう分からんのやけど」
 トオルが口いっぱいにそばを頬張りながら話した。何を喋ったのか良く分からず、夏樹はトオルに何回も聞き直した。
「だから、寝床の準備なんかしなくて言いよって言っただろう」
「はあ、なんですか」
 トオルの口のなかにはもう、そばは入っていなかったが、夏樹が態とらしく聞き直した。
「てめえ、この野郎、何言うてまんねん」
 またトオルが夏樹を羽交い絞めにした。




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2009.11.02 / Top↑
 参加者全員が、いや宿泊者全員が新年を迎えてからではあるが、年越しそばを食べた。夏樹やトオルたちの周りにいるほとんどの人たちは、今日が初対面なのに、いつの間にか旧知の友のように会話が交わされるようになっている。
 そんな人たちの中から一人の男が、誰かに問いかけるというわけではなく、話し始めた。
「明日の朝は天気がいいのかな、初日の出が綺麗に水平線から出てくれるといいね」
「明日は二日だよ、今日の天気じゃないの」
「そうだよ、もう年が明けたんだから、今日の朝だろ」
 和やかな笑いが夏樹たちの周りで湧き上がった。
「あれ、トオルは」
「智史さん、あそこ、またマッチ箱を出したはるは、凝りひんなあトオルさんも。分からんように後ろに廻って、こっそりと種明かしをしてこようか」
 夏樹たちとは別のグループにいるトオルを指差して言った。
「ほっとけよ、それよりこっちの女性たちと一緒にトランプでもしようぜ」

 タナカと岡本、その友達二人、智史とケイコ、そしてニュー、イヤー、イヴ、コンサートの時に隣にいた三人組みの女性も含めて、夏樹はトランプゲームを始めた。ここでもトランプといえば大貧民ゲームだった。それぞれにルールが少しずつ違うのだけれど、今回はケイコの意見を取り入れて、ジョーカーは入れずに「2」が一番強いカードと言うことで進めた。彼女が今回のメンバーの中で最年長と言うわけではないのだが、ケイコが自らのルールを説明すると、自分たちのやり方と少し違うけれど、今日はケイコのルールでやろうと、なぜか同調するのだった。
「十人もいると一人分のカードが五,六枚しかないんやなあ。はじめの配ったカードで勝つか負けるか決まってしうやんか。「2」が二枚も配られたけど、この二枚とも大富豪に渡さなあかんのやろ、貧民はいつまでたっても貧民やなあ、まるでこの世の縮図みたいやなあ」
 夏樹は大貧民を五回続けている。ついついぼやいてしまったようだ。
「ごちゃごちゃ言ってないで、早くその「2」を二枚、私によこしなはれ」
「ケイコさんまで変な関西弁を使わんといて下さいよ」




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2009.11.04 / Top↑
 二時半ごろだったろうか、カードゲームをしながら時折、欠伸が出てくるようになった。眠気が襲ってくるには最適な時間帯だ。
「夏樹君、眠いんだったら部屋で寝ていてもいいんだよ」
 トオルが含み笑いをして言った。
「なんですかその薄笑いは、なんか俺を寝かしてといて、その隙に見たいな笑いやねえ」
「君の分のおしるこを、いただこうとしているんだよ」
 智史が言った。トオルは酒が飲めない代わりに、甘いものには目がないのだ。
「眠とうなんかない、俺かて、おしるこを食べたいから。寝えへんでえ。ところでおしるこってなんやあ」
「おしるこを知らないの、小豆を甘く煮た汁にもちを入れたものだけど」
 タナカが驚いて言った。
「何や、ぜんざいのことやんか」
「いや、ぜんざいとは違うよ。ぜんざいは餅にやわらかい餡子を乗せて食べるんだよ」
 また、タナカが驚いた表情で言った。
「それは餡餅とちゃうの、小豆を煮た汁の中に粒の小豆があって、餅が入っているのが、ぜんざいやで」
「面白いね、同じ食べ物でも、土地によって名前が違うんだね」
 ケイコが言った。
「そうなんです、ケイコさん。カップに入った『たぬきうどん』が発売された時は、ほんまにびっくりしたは」
「お湯を入れて、三分待って食べる、あのたぬきうどんの何がそんなにびっくりしたんや」
 トオルが夏樹の言い方をまねて言った。
「だって、うどんと一緒に入れるのは『天カス』やなんて、カスを入れてどないすんねん。何でこれが『たぬきうどん』やねん、たぬきだけに騙されたと思った。だいたい『たぬきうどん』が三分待って出来ること自体がおかしいと、思ってたからね」
 夏樹を除いた十人が、夏樹の話に驚いていた。
「あれが紛れもない『たぬきうどん』だよ。強いて付け加えて言わせてもらえば、あのてんぷらの玉は『たぬきうどん』を作るためにわざわざ作るのだから『天カス』じゃなくて『揚げ玉』って言うのです」
 タナカが力説した。



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2009.11.09 / Top↑
「カスやのうて『揚げ玉』って言うんや。カスやと思てた」
「じゃあ、京都の『たぬきうどん』ってどんなものなの」
 今度は岡本が言った。
「きつねうどんって分かりますか」
「油揚げが入っているうどんのことでしょ」
 ケイコも興味津々のようだ。
「きつねは関東でも同じみたいやなあ。あれは三角形の大きな油揚げが入ってるけど、その油揚げを細かく切ったものをおうどんに入れて、めんつゆと片栗粉で作ったアンを掛けて、下ろし生姜を入れて食べるのが『たぬき』。ちなみにうどんは名前に付けへんかな」
 夏樹を除いた十人が驚きの表情で、それぞれの顔を見合わせた。
「きつねうどんのあん掛けなんだ。話しを聞いただけですごくおいしそうやね」
 ケイコが言った。
「寒い冬に食べれば、体が暖まって、ほんまに美味しいでえ」
「所変われば、食べ物も様々、面白いねえ、楽しいねえ」
 智史が言った。
「そろそろ、おしるこ、京都で言うところのぜんざいの時間のようです。食堂に行きましょうか」
 タナカがみんなを食堂に誘った。

 おしるこを食べ終わり、初日の出までにはもう少し時間があるので、コンサートの再開となった。歌詞本には百の曲があるが、まだ半分も歌っていないようだ。大晦日(昨日だけど)と同じようにリクエストを聞いて、みんなで歌った。参加者のほとんどが昨日から全く睡眠をとらずに歌える元気はどこから来るのか。みんな、若かったのだろう。
 コンサートが再開して一時間ほど過ぎただろうか、バンドのリーダーが次の曲が最後になるといった。初日の出が登る時間が近づいてきたようだ。
 最後にふさわしい曲をと何人かの声があがったが、そのリクエストには全く耳を傾けず、伴奏が始まった。『翼を下さい』のイントロがキーボードだけで演奏された。


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2009.11.11 / Top↑
 キーボードだけで演奏されている『翼を下さい』のイントロをバックにバンドのリーダーがひとことだけ言った。
「いつも最後はこの曲ですよね」
 再び初めからイントロの演奏が、さきほどよりは大きな音で始まった。さらにベースの音も加わった。この選曲に誰も反対することなく、大合唱がゆっくりとはじまった。半数以上の参加者が二回目、三回目、またはそれ以上に毎年ここで新年を迎える常連客たちだ、いつも最後にこの曲で終わることを知っているし、コンサートの途中では歌うことのない一曲なのだ。これ以外の曲をリクエストしたのは今回が初めての参加者だということになる。中学校の合唱コンクールなどでも歌われる名曲だ、最後を飾るにはこの曲が最適のように思えてきた。

 一番の歌詞を歌い終わり、二番に入りいよいよサビのところにはいってきた。
「この大空に翼を広げ、飛んで行きたいよ、悲しみのない自由な空へ翼はためかせーーー」
 オリジナルのレコードなどを聞くと、この部分の歌詞が二回繰り返されて、三回目が始まるとフェード、アウトしていくようだ。また、赤い鳥解散コンサートのライブの模様をエアチェックしたものを聞くと、二回繰り返した後に「ゆきたいーー」で終わっている。

(余談になるが、今回のブログを書くにあたり、上記二つの音源を聞き比べ、浜名湖ニュー、イヤー、イヴ、コンサートの歌詞本とCDの歌詞本を見たのだが、ライブの音源だけが二番の詩が少し違うことに気がついた。二番の始まりが以下のような詩が加わっていた。
「今、富とか名誉ならば、いらないけれど、翼がほしい」
 何十年も前からこの曲を知っているが、今回初めてこのようなことに気がついた。全くの余談でした)

 しかし、今日のニュー、イヤー、イヴ、コンサートではこの部分を十回は繰り返しただろうか、バンドの演奏も止まらないから、みんなが歌い続ける。
「じゃあ、ラストー」
 バンドのリーダーが大きな声で言った。


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2009.11.13 / Top↑
「ゆきたいーーー」
 演奏も終わった。しかし参加者の半分ぐらいの歌がまだ終わっていなかった。
「・・・翼を広げ、飛んで行きたいよーー、悲しみのない自由な空へ翼はためかせーーー。この大空に翼を広げ、飛んで行きたいよーー、悲しみのない自由な空へ翼はためかせーーー」
 演奏が終わっているからアカペラ状態で歌われている。隣同士で肩を組み、右に左に大きく揺れながら歌が続き、すこしずつ歌う声が増えてきた。
「この大空に翼を広げ、飛んで行きたいよーー、悲しみのない自由な空へ翼はためかせーーー」
 いつの間にか参加者全員が歌っていた。アカペラ状態が十回も続いただろうか、バンドの演奏がキーボード、ベース、ギターの順に再開され、大合唱の声の音量もさらに大きくなった。
「この大空に翼を広げ、飛んで行きたいよーー、悲しみのない自由な空へ翼はためかせーーーーー」
「今度が本当にラストーー」
 大合唱が十回ほど続いただろうか、バンドリーダーとは違う大きな声が言った。
「ゆきたいーーー」
 演奏も終わった。
「・・・翼を広げ、飛んで行きたいよーー」
 十数人の声が聞こえてきたが、さすがにその声に賛同して歌い始める者はいなかった。十数人の声も尻すぼみとなり、聞こえなくなってしまった。

 ホールの時計は四時を少し過ぎていた。参加者全員が部屋へ戻り、防寒着を着て玄関に向かった。初日の出を見に行くのだ。
 東海地方というのは冬でも比較的温暖なところではあるが、今は元旦の午前四時、あたりはまだ真っ暗だ。顔に当たる風は冷たく、防寒着なしでは歩くことはできない。
 ユースホステルからぞろぞろと大勢の人が、少し遠慮した小さめの声で、にこにこ、わいわいと雑談しながら海岸へ向かった。十五分ほど歩くと海岸に着いた。ほんの少しだけ明るくなり、僅かに水平線を確認することができた。



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2009.11.16 / Top↑
 少しずつ明るくなってきた海岸は今までよりも風が強く、さらに冷たく感じてきた。
 ユースホステルのスタッフが買い物籠に湯のみ茶碗を入れて持ってきた。その後ろから一升瓶を持ったスタッフも来た。新年のお神酒を持って来てくれたのだ。何人かの手が湯のみ茶碗を手に取り、お神酒を注いでもらい一気に飲み乾していった。
 夏樹と智史、トオル、ケイコが湯のみ茶碗を手に取り、お神酒を注いでもらった。
「あけまして、おめでとう」
 四人は湯のみ茶碗を目の前に上げ乾杯した。
「だいぶ明るくなってきたけど、まだ陽が登らへんなあ」
「日の出の時間は何時なのかな。それにしても寒いねえ」
 智史が言った。
 水平線近くには低い雲が垂れ込めていたが、それ以外の全ての空には雲はなく、東に近い空の色が少し赤くなってきった。
「さぶ、さぶ、さぶ」
 夏樹は左右の手を胸の前で忙しなくすり合わせ、両足を上下にばたばたと動かした。
「水平線の雲がなければ、もう陽は出てきているのかな」
 田中も夏樹と同じような動きをしながら言った。
「かなり明るくなってきたけれど、まだなんじゃないかなあ」
「トオルさん、日の出の時間をしってはるんですか」
「そんなもん知らんは」
「また、その変な関西弁はやめてえな。おもいっきり変なんでっせ」
「なんか君も変になってきているよ」
 智史が言った。
「ねえねえ、あそこの雲の間から太陽が少し顔を出して来たんじゃなあい」
 岡本が水平線の一番明るくなっている方角を指差して言った。
「おぉぉーーーー」
 海岸のあちらこちらから歓声が上がった。少しずつ雲の間から太陽が昇ってきた。待ちに待った初日の出の登場である。両手を合わせ目を瞑り、拝み始めるものもいた。
 しばらくのあいだ、誰も言葉を発せず、初日の方へ視線を向けていた。

初日の出





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2009.11.18 / Top↑
 ゆっくりと太陽が昇りあたりは完全に明るくなった。寒さもようやく和らいできた。
「さてと、ユースホステルに戻って朝食をいただきましょうか」
 智史が言った。特別メニューとして、少しの御節と雑煮が本日の朝食だとタナカが教えてくれた。
「さっきのぜんざいを食べた時に思ったんやけど、この辺の餅って四角いんやねえ」
「夏樹君それって普通じゃないの。餅は四角いものだよ」
 ケイコが言った。
「関西の餅は丸ですよ。高校の三年間の年末は餅屋でアルバイトをしてましたからねえ、機械で餅を搾り出してカッターで、チョキンチョキンと切るんですよ、ほんで切られた餅は滑り台を転げ落ちて、それを浅い箱に並べると、柔らかいから勝手に丸くて平べったい餅になりよるんですは」
「ほな大福と同じで丸い餅なんや」
 トオルが懲りずに変な関西弁を使って言ったが、夏樹は呆れてしまい、もう突っ込みを入れなかった。

 帰り道は初日が昇った快晴の空の下を、昨夜からのコンサートで歌った歌のそれぞれの思いを話したり、今までに行った旅の話しをしたりしながら数人が固まっては散らばりゆっくりと歩いた。
「皆さん、今日のこの後は家に帰らはるんですか」
「正月は実家に帰って新年の挨拶をしないとねえ」
 智史が言った。
「私は別にこのまま、休み中を何処かへ旅行をしてもいいのだけれどねえ」
 ケイコは智史の方を見上げて言った。
「私たちも朝食を食べたら帰ります、そして元旦は家で過ごさないと母親がちょっと煩くてね」
 タナカが言った。
「夏樹さんは帰らないの」
 岡本が言った。
「俺、今日は名古屋あたりに泊まって、明日は金沢に向かう予定なんです。連休は必ずどこかへ旅に出るという、他人から見ればどうでもいいようなことなんやけど去年の春に決めたんやけどね」



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2009.11.21 / Top↑

「今夜は名古屋に泊まるだけなんでしょ、名古屋までなら直ぐに着いちゃうから、家で一休みしていったら」
 名前は分からないが、年が明けておしるこを食べる時から、夏樹たちと一緒に行動をしていた大学生風の男が言った。少し強めに掛けたパーマが伸びてしまい、ソフトアフロのようになっていた。
「いや、でもまだ今日の泊まるところは予約していないし、もしかしたら岐阜まで行くかも知れへんしなあ。それに今日、初めて会った人の家に図々しく上がりこむわけにわいかへんやろう」
 夏樹はゆっくりと歩きながら話した。
「じゃあユースホステルに戻ったら名古屋市周辺のユースホステルに電話して聞いてみるといいよ、おそらく何処も休業中だよ、正月は」
「ほんまかいなあ、この稼ぎ時に休むやなんて」
 夏樹はユースホステルに戻り、正月の特別な朝食を昨夜から共に歌い新年を迎えた多くの人たちといただいた。
 それからガイドブックを持って公衆電話に向かった。名古屋市内の二軒のユースホステルと、岐阜市内の二軒のユースホステルも休業中だった。明日は高山線で金沢まで行く予定にしているので、その路線からあまり外れたところには泊まりたくなかった。

「何でこの正月の稼ぎ時に休んでるんやろ」
 夏樹は公衆電話からみんなのいるロビーに戻って来て言った。
「年末年始に都市へ遊びに来る人は、あまりいないんじゃないかな。東京だって初詣に行く神社なんかは大勢の人が集まるけど、首都高なんかはあまり混雑しないらしいわよ。多くの人は実家へ帰省したり、観光地やスキー場へ遊びに行ったりするんじゃない」
 タナカが言った。
「だから言っただろう、今日は名古屋駅の近くのビジネスホテルにでも泊まったら。彼女が言ったようにおそらく空いているから、ゆっくりしてから名古屋に向かえばいいよ」
 ソフトアフロの男が言った。





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2009.11.25 / Top↑
「でも、今日知り合った人ん家(ち)へあがり込むわけにはいかんやろ」
「なにも遠慮は要らないよ、家には他に誰もいないから、昨日から全く寝ていないんだし、少し眠ってから行けばいいよ」
 ソフトアフロの男はとても親切に言ってくれた。
「じゃあ、お言葉に甘えまして、少し仮眠をさせていただきます」

 智史たち三人とタナカたち四人、ソフトアフロにチガサキ君、他にも五,六人の男女が夏樹の周りにいたが、荷物をまとめて帰る準備を始めるために部屋へ戻っていった。そろそろ別れの時が来たようだ。
 荷物を持って玄関に集まり、それぞれのカメラで記念撮影会を開き、何人かの人たちと住所を教えあい、写真を送ってもらう約束をした。
「夏樹君、今度の大晦日にもここで一緒に過ごそうぜ」
「智史、今から来年の大晦日のことを言ったら、鬼が笑うって」
「トオルさん、今度の大晦日は今年やで、一年後やけどね」
「あっそうか、今年だよ、ほな待ってるでえ、今年の大晦日に」
「トオルさん、今年の大晦日までに、もうちょっと関西弁を勉強して上手に喋れるようになっといてやあ」
「たぶん、無理だと思うよ、仕事が始まれば夏樹君のことも忘れるような人だからね」
 ケイコが言った。
「ええ、そんなに薄情なんですかトオルさんて」
「そんなことないよ、忘れまへんでえ」
「今の関西弁が今ままでで一番うまいは」
「そうかい、今まではわざとへたくそに喋っていたんだよ」
「なんだかも、おだてりゃ木に登る、ちゅうやつやな」
 トオルは夏樹の後ろから羽交い絞めにした。
「ロープ、ロープ。ワン、ツー、スリーやで」
 一同が大笑いした。

追記
 浜名湖ユースホステルは平成二十年三月三十日を持って閉館となったようです。大晦日のコンサートの時に三回、百回記念のコンサートの時も泊まりました。
 第六章の話しに出てきた出雲のゑびすやユースホステルも平成二十年十二月三十一日で閉館となりました。
 思い出の地が無くなるのとても寂しいです。
参考資料⇒ユースホステル最新情報



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2009.11.26 / Top↑
 浜名湖ユースホステル最寄りの新居駅から、名古屋方面へ二駅行くと新所原駅に着く。その駅から歩いて十五分ほどでソフトアフロの大学生の家はあった。
 家の周りには畑などもあり、長閑な風景が広がっていた。表札には『高木』と書いてあった。
「自分、高木って言うんや」
「あれ、自己紹介していなかったっけ」
 さっそく高木の部屋に上がりこんだ。
「適当にその辺に座ってください、今何か飲みものを持ってくるから」
「おかまいなく」
 夏樹はそう言ってから大きな欠伸をした。
「さすがに眠いよねえ、炬燵に足を入れて、遠慮なく寝ていていいよ、俺も寝るから。豊橋までは十分で着くし、そこから名古屋までは新幹線に乗れば三十分ほどで行けるから、昼過ぎまで寝ていても大丈夫だからさ」
「おおきに、遠慮なく寝かせてもらいます。ところで何で誰もいないの」
「両親も、妹も旅行中でさ、俺は東京の大学にいるんだけど、冬休みで帰ってきているんだ」
 高木が部屋を出ていった。しかし、いつこの部屋に戻ったのか分からなかった、直ぐに眠ってしまったようだ。

 先に目が覚めたのは夏樹だった。腕に付けた時計は二時三十分を少し過ぎていた。四時間近くも眠っていたようだ。
「おはよう、ってもう二時を過ぎてるか」
 高木が目を覚ました。
「おかげですっきりしたは、ここへ来る前はなんとなく、ボーっとしてたけど、もう大丈夫やは、おうきに」
「本当にこれから名古屋まで行って、明日は金沢まで行くの」
「行くよう、これから泊まるところも探さんとあかんなあ」
「ここに泊まっていっていいんだけどなあ」
「おうきに。けど、金沢まで行けば雪が見られると思うから、雪がいっぱい積っている風景なんか、京都ではあんまり見ることないしなあ。それと能登半島の穴水って言う所に『かつら崎ユースホステル』って言うとこがあって、ちょっと有名なユースホステルらしいねん。そこにも行ってみようと思ってるんや」
「かつら崎ユースホステル、どこかで聞いたような気がするなあ」
 高木が天井を見上げて言った。




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2009.11.30 / Top↑

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