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2010/03/02
 イトウが言うには、夏に来れば、漁師でもあるペアレントの彦さんと一緒に小さな漁船に乗り、定置網を引き上げに行き、獲れた魚を朝食として食べる。春には山菜、秋にはきのこを裏の山で採ってくる。それも夕食のご馳走となる。都会では味わえないものばかりなのだ。自分で得た新鮮な食材を、すぐに食べることができる。
「すごく、旨いんだよ。一度味わったら、はまっちゃうから」
「だからここは、連泊者が多いところでさ、ここでしか合わない友達もいっぱいいるんだ。今朝まではそんな常連が三十人ぐらいいたんだけど、明日から仕事の人たちは帰っちゃたから、少し寂しくなっちゃた」
 長い髪に緩くパーマーをかけた女性が言った。
「ヨッチはタカダが帰ったから、寂しいんだろ」
 イトウがからかうように言った。
「そんなことは、関係ないわよ。別に私はタカダさんのことは、なんとも思ってないし」
「あんたさ、そうやってむきになって言うところが、あんたらしいよ、私はタカダさんが好きです、なぜ私を置いて先に帰ったの、って言っているように聞こえるけどね」
 ショートヘアーの女性が言った。ヨッチという女性と同じ歳のようだ。
「ちょっとヨッコ、なに言っての、変なこと言わないでよね」
「ヨッチとヨッコですか、新しいデュエットアイドルの名前みたいやね」
 夏樹の興味は別の所に向かっているようだ。
「ヨッチとヨッコか、それは面白い、彼女たちはいつも一緒に来て、一緒に行動しているし、二人ともタカダ君を狙っているんだよね」
 スキー帽を被ったタケさんが言った。
「タケさんヨッチはともかく、私は違いますよ」
「ヨッコはイトウちゃんだよな」
 ポマードたっぷりでリーゼントに固めた男が言った。なぜか彼は無表情で話す。





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2010.03.03 / Top↑
 ポマード男の言葉にヨッコは、とても困った顔になり、少しうつ伏せ加減で軽くポマード男の背中を叩いた。
「シンちゃん、なんでそのことを今、ここで言うの、裏切り者」
「えっ、ヨッコ、そうだったのか、もう少し早く言ってくれればよかったのに、俺さあ春に結婚するんだよ、残念だなあ」
 イトウが寂しそうに、窓の外の海に視線をやった。
「ええ、本当なんですか」
 真剣な表情でヨッコはイトウに詰め寄った。
「嘘だようん。俺にそんな女がいたら、年末から一週間もかつら崎にいるわけねえだろが。ばあか」
 みんな、大笑いをした。ヨッコだけは真っ赤な顔をして下を向き、ヨッチの後ろに隠れてしまった。

 旅先のユースホステルに泊まり、その日初めての人たちとの会話のほとんどは情報交換である。観光地の穴場や名産の食べ物、泊まって良かったユースホステル、よくなかったユースホステルなどの話しを紹介して共有し、今までになかった知識を得る。次に出身地の食べ物、言葉、方言、習慣などの話にもおよぶ。自分が生まれ育った土地にだけいたのでは、決して知り得ない情報を得ることができる。いま「ケンミンショー」や旅の情報番組が高視聴率を取れるのは、旅先での情報交換で得ていたことが、行かずともテレビ向かうことによって、自分の知識の中にないもの、今までとは違う価値観を知ることができるからなのだろう。

 旅先で初めて会った人たちと、同じユースホステルで二度三度と会うようになると、情報交換よりも、友人としての会話に広がっていく。二十代の未婚者の会話は恋愛関係の話しになっていく。自然の流れである。
 現在では「草食系男子」などと言うようだが、三十年ほど前の十代から二十代の若者の頭の中は異性のことが大半だったように思う。特に男はチャンスがあればと言うより、どうやってそのチャンスをつくり出すか、そんなことばかりを考えていただろう。


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2010.03.05 / Top↑
「ここの常連でタカハシさん夫妻って、ここで知り合って結婚したって聞いたんですけど、本当ですか」
 ヨッチはタケさんに問いかけるように聞いた。
「ジュンさんは東京出身で俺の大学の一年先輩なんだ。ジュンさんに誘われて、かつら崎に来たのが十五年前、その時からここが俺の第二のふるさとになったんだ」
 タケさんはみんなが座っている後ろにあるテーブルに向かい、ポットに入っているお茶をゆっくりと湯のみ茶碗に注いだ。
「大学の夏休み中はここでヘルパーをしていた。ジュンさんもね。たしか三年生の時だな、七月の終わりごろにミヨちゃんが泊まりに来たんだよ。彼女は名古屋出身の大学一年生で、ユースホステルクラブの大勢で来ていたんだ。ミヨちゃんもここがすぐに気にいって、一度はユースホステルクラブのメンバーと帰ったのだけれど、すぐに戻って来てヘルパーをするようになったんだ」
「そして恋が芽生えて、学生結婚したんですね」
 ポマード男が言った。
「いつもクールなシンちゃんの口から恋が芽生えるなんて言う言葉がでくるなんて、信じられないなあ」
「イトウさん酷いなあ、俺だって恋の一つや二つ、喋りますよ」
 ポマード男のシンちゃんがはじめて微笑んだ。
「すぐに恋が芽生えたわけじゃないんだ、その時から三年後の正月に連絡をしてジュンさんと一緒に、俺は久ぶりにここへ来たんだ」
 タケさんは大学卒業後に就職した会社での勤務地が、九州の福岡だった。学生時代のようにたびたびかつら崎へ来ることができなくなり、卒業後はじめての第二のふるさとへの帰郷となった。ジュンさんも同じように大学卒業後、初めての帰郷となった。
「そこへ偶然、ミヨちゃんも泊まりに来ていて、就職が決まり、春からは東京に住むことを知ったんだよ。じゃ東京でも時々会おうよ、ということになって、それから恋が芽生えたのさ」



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2010.03.08 / Top↑
 タケさんはタカハシ夫妻の結婚までの馴れ初めを話し終えると、湯のみに入っているお茶を一息に飲み干し、新たにポットからお茶をゆっくりと湯のみ茶碗に注いだ。
「そういえば彦さんが言っていたわ、ここで知り合って結婚した人が三十組ほどいるって」
 ヨッコが言った。
「私も聞いたことがある、その結婚した人たちのほとんどから招待されたって」
 ヨッチがヨッコの背中を軽く三回、叩きながら言った。
「へえ、ほなここにいたはるメンバーの中からも、将来、結婚に発展する人がいたはるかもしれんねえ」
 大阪出身のアマノ、通称テンちゃんが言った。なぜかこの話しには誰も反応を示さなかった。あえて避けて通ろうとしているかのようだった。
 三十年ほど前の話だから、今ではもっと多くのカップルが誕生しているかも知れない。千人以上の常連ホステラーの顔と名前が、一致すると言う話しも聞いたことがある。

「おうい、夕飯の準備を手伝ってくれないか」
 いまみんなが集まっているのはミーティングルーム兼、食堂である。そのすぐ隣に厨房があり、そこから彦さんの声が聞こえてきた。全員がすぐに立ち上がり、厨房の中へ入って行った。ここへくるのが初めての夏樹は、少し出遅れてしまった。
 イトウとポマード男のシンちゃん、タケさんがホットプレートを持って食堂に戻ってきた。今日の夕食は焼肉なのだと言う。正月の三が日は特別料理で、一人に一本だけ缶ビールも付いた。いまは飲酒もできるユースホステルもあるようだが、この当時は飲酒禁止がユースホステルの常識であった。
 あとにも先にも夕食時に酒を飲んだのはこの時だけ。いや、よく考えてみると、もう一度あった。それもペアレントさんと差しで、目の前に一升瓶を置いていたことがあった。その話しはもう少し旅が本格的に進んだころのこと、もう少し後のことだ。





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2010.03.10 / Top↑
 ビール片手に焼肉を食べ、彦さんや今日の泊まりのみんなと、おおいに語らい、楽しい時間を過ごすことができた。夕食後もストーヴを囲んでみんなで、昨年の夏の出来事や、誰かと誰かが結婚しそうだとか、常連同士のカップルの結婚式に彦さんが招待された時の話しなど、尽きることなく和やかなひと時だった。
「正月やけど十一時を過ぎたから、そろそろ寝るぞ。明日も泊まるのは何人だ」
 夏樹以外の全員が手を上げた。
「あっ、俺は明日、金沢ユースホステルの予約を取っているんで、明後日からは仕事も有りますし、残念ですが」
「ほな、明日の昼を食べてから、金沢に向かったらええやんか」
 テンちゃんがニッコリと微笑みながら言った。
「ああ、金沢ユースホステルの夕食に間に合えばええんやから、そうしようかな」
 テンちゃんの顔がますますニッコリと微笑み、彼女の目は閉じているかのように細くなった。
「あれえ、なんかすごく嬉しそうじゃん、なんでかなあ」
 ヨッコがテンちゃんを少しからかった口ぶりで言った。
「別に深い意味はないでえ、ただヒゲさんだけが帰るのは少し寂しいなあと思っただけやんか」
 笑っていた顔が少し険しくなり、両方のほっぺたを丸く膨らました。
 テンちゃんの顔がちょっと赤いんじゃない」
「イトウさん、また、またそうやって意地悪を言う。やめてえな。もう遅いから私は寝ます、お休みなさい」
 みんながにこやかにテンちゃんを見送った。それからすぐに、皆が椅子から立ち上がり、それぞれの部屋に向かった。名残惜しいが、寝ることにした。




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2010.03.12 / Top↑
 翌朝、七時に目が覚めた。窓の外は相変わらずどんよりとした曇り空だった。その鉛色の空からわずかに雪が落ちてきていた。その落ちてくる雪に夏樹は少し感動していた。京都では、ひと冬に数回しか見ることのできない降雪を、目の前に見ることができたからだ。
 朝の七時という時間は、ユースホステルの朝としては決して早いわけではない、しかし同じ部屋のイトウとシンちゃんはまだ起きていない。トイレに行ってみたが他に誰も起きている様子はないようだ。そう言えば昨夜の寝る前に「明日も泊まるんだからあまり早くに起きなくていいよ」と彦さんが言っていたような気がする。テンちゃんの騒ぎで記憶の中には大きく残っていなかったようだ。
 夏樹は連泊をしないけれど、昼食を食べてから出発する約束をした。急ぐことはないからと、もう一度布団にもぐりこんだ。不思議とすぐに眠りに付くことができた。旅の後半になり少し疲れが溜まってきたのだろうか。

 朝寝をしてから次に目が覚めた時は十時を過ぎていた。でもイトウとシンちゃんはまだ起きていなかった。イトウの鼾が夏樹のところまで聞こえた。そんなふたりには構うことなく顔を洗い食堂へ行った。ストーヴの前にはタケさんが足を組みタバコを銜えて座っていた。
「おはようございます」
「おっ、おはようヒゲさん」
「みんな、まだ起きてこないですねえ、ユースホステルでこんなに遅くまで寝てたんは初めてですよ」
「君以外の人たちは、今日も泊まるし、早く起きる必要はないわけだし、彦さんも正月ぐらいはゆっくりしただろうしね」
「みんな、自分の家のようにくつろいでますよねえ、なんか羨ましいなあ」
「ああ、ここには特別なものは何もないけど、海と山があって彦さんがいるから、それだけでいいんだよ。それだけでみんなが帰ってくるんだよ。ヒゲさんもまた帰っておいでよ、みんなが待っているから」
「はい、おぉきにぃ、ありがとうございます」




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2010.03.15 / Top↑
 夏樹はストーヴで暖をとりながら、かつら崎ユースホステルのいろいろなことをタケさんに聞いた。
「夏に来ればねえ、運がいいとヨットにも乗れるよ。ヨットを持っている常連のホステラーがいてね、彼が来る時は自家用のヨットを持って来て、ここの海に浮かべるんだよ、そして臨時のヨット教室が始まるのさ。面白いようだよ、でもかなり難しいみたい、僕は乗ったことがないんだけどね」
 そう言うとタケさんは窓の外の海に視線を向けた
「面白そうですね、旅の途中に一日だけここに泊まっただけでは味わえない楽しみですねえ、そやから連泊する人が多いんですね」
「今日は正月だからみんなは遅くまで寝ているけれど、夏はねえ我先に早く起きてくるんだよ、彦さんの漁船に乗って漁に連れて行ってもらうんだよ、みんなは気持ちが最高にいいらしいんだよ」
「変な話ですけど、船酔いしませんか、俺なんか遊覧船に乗っても船酔いするんですけど」
「はははっ、君もか、僕もさ。初めて彦さんの船に乗せてもらった時は、出発して五分で気持ちが悪くなってさ、すぐに戻ってもらって降ろされたことがあったんだ。だから次がなかなか乗せてもらえなくて、二回目の船は二年後だったよ」
「二回目は船酔せんかったんですか」
「いいや、やっぱり五分後に気持ちが悪くなったけれど、我慢したさ、いま船酔いしたって言えば、二度と乗せてもらうことはできないと思ったからね。きつかったよ二時間近くも気持ちが悪いのを我慢したからねえ」
「ほんなら、戻って来て船から降りたときには、フラフラになってたんとちゃいますのん」
「その通り、船から降りたら真っ直ぐに歩けなくてさ、そうそうイトウちゃんに抱えられてここのトイレに連れて行ってもらったんだよ、そしてすぐにゲーゲーさ、かっこ悪かったなあ」
「と言うことは三回目はなかったんと、ちゃいますか」
「なぜわかったの、その通りさ、二度と彦さんの船には乗せてもらえなくなったね」
 そう言いながらスキー帽を取り、反対の手で頭を掻いた。


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2010.03.17 / Top↑
 タケさんはスキー帽を被り直し、煙草に火を点けた。海の上はだめだから、海の中は大丈夫だろうかと素潜りに挑戦することにしたのだそうだ。ダイバーズショップに行き、水中眼鏡とシュノーケルと足ヒレの素潜り三点セットを買い、かつら崎の海へと潜って行った。
 波打ち際の岩場の海には、海草類のあいだを、数種類の小魚が泳ぎ、少し深いところへ潜っていくと、サザエやあわびが獲れることもあったようだ。
「面白かったよ、とにかく海の水は綺麗で天気の良い時などは、深いところまで太陽の光が届いて、緩やかな波と一緒にその太陽光もゆれて、幻想的な風景が楽しめたよ」
「俺も少しだけやったことがあるけど、二、三メートルも潜ると耳がキーンとくるやないですか、それであんまり深いところへは潜れへんかったなあ」
「そう言う時は耳抜きをするんだよ」
「なんですか、それは」
「耳が痛くなったら鼻を摘まんで、耳から空気を出すんだよ。すると耳の中の気圧が水中と同じになって、耳が痛くなくなる。すると水中の音がすごく良く聞こえるようになるんだ。少し深いところでも岩場を小石が転げる音や、遠くを走る船の船外機の音も聞こえるんだ」
「その耳抜きをやったら、どこまでも深いところへ潜れるんですか」
「息が続くかぎりね」
「そうかあ、ほなそんなに深くは潜れへんはなあ。せいぜい十メートルぐらいかな、十分ぐらいは息を止めていられるさかい」
「ええ、十分も息が止めていられるの」
「いやいや、冗談ですよ、タケさん」
「ヒゲさんって面白い人だねえ」
「いえいえ、この程度のボケは関西ではおもろくないほうですよ。どこまでが冗談で、どこからが、ほんまの話しなんか、分からへん奴がいっぱいいますから」



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2010.03.19 / Top↑
 他に誰も起きてこない少し遅めの朝に、二人だけが朝食も食べずに、かつら崎の話を夏樹は聞いた。そして、タケさんと夏樹とは十歳の年の差があることをタケさんから確認した。
 タケさんは三十歳を過ぎていたが独身だった。タケさんより一歳年上のジュンさんに見習って、かつら崎でいい人とめぐり合えることを期待し、年間に数回はここへ来るのだが、運命の出会いは、まだ叶っていない。
「じゃあ、いままでにいい人やなあって思った人はいたんですか」
「いたんだけど、なぜかここへは一回だけ来て、リピーターとしてまた来る人がいないんだよ。二回目に合ったらアタックしてみようと思うんだけどね。その二回目が運命的だと思うんだよ」
「そんなにうまいこと、いきまっかいなあ。一回だけって、二回目のときにたまたま、タケさんが来てへんかっただけとちゃいますのん。俺みたいな恋愛経験なんかほとんどない若造が言うのも変やけど、一回目の時にええ子やなあと思ったら、二回目への道筋を作っとかなあきまへんがな」
「道筋を作ったら運命的じゃないじゃないか」
「めったにあることや、ないさかいに、運命的なんとちゃいますか。それにその運命的な出逢いが、ほんまにいい恋愛を作ってくれるとは、かぎらへんしねえ」
「それは、そうなんだけどね」
 そう言ってスキー帽を右手で持ち、左手で大きく頭を掻いた。
「いま、ここに泊まっている人の中には、いいなあと思う人はいてないんですか」
「いないよ。でも・・・・・・」
 タケさんは途中まで言いかけて話すのを止め、煙草に火を点けた。
「昨日から泊まっている人の中にはいないんだけど、今日、ここへ来ることになっているんだ」
「ほんまですか」




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2010.03.23 / Top↑
 タケさんは少し照れくさそうな顔つきになった。
「思いきって三回目の道筋を作ってみるよ。ヒゲさんに勇気をもらったからねえ」
「そんなあ、勇気なんかあげてませんよ」
「いただきました、おうきに、って言うんだろ、こういう時は」
 二人は顔を見合わせて大きな声で笑った。そこへヨッコとヨッチが目を擦りながら食堂にやってきた。すでに十時三十分を過ぎていた。
「おはようございます」
 ヨッコとヨッチが同時に言った。弱々しい声だ。
「おはよう」
「おはようございます」
 タケさんと夏樹が続けて言った。
「なんかいま、大きな笑い声がしてましたけど、こんなに早くから元気ですねえ」
 ヨッコの右目は半分しか開いていないようだ」
「早くはないですよ、もう十時半でっせ」
「もうそんな時間なんですか。静かだし外は雪空でどんよりと暗いから、まだ八時にもなっていないと思っちゃった」
 両方が半分しか開いていなかったヨッチの目が、パッチリと開いた。
「でもここにいる四人以外は誰も起きてきませんねえ」
「正月ですから。ヒゲさん、きょうは泊まらないで金沢に行っちゃうんですか」
「金沢ユースホステルの予約をとってるし、あさってからは仕事やしねえ」
「残念よねえ、きょうねえ、ユカリさんたちが来るのに。いつも三人でここへ来る人たちなんですけどね、わたしたちの大学の先輩なんです」
「その三人ともすごい美人さんなんですよ、ねえタケさん」
「あっあぁぁ、そうだっけ、ヨッコたちの先輩なんだ」
「タケさん、もしかしてさっきの三回目の道筋って・・・」
 タケさんの顔が少し赤くなったように見えた。
「ヒゲさん、その話は後でゆっくりとね」
「なんですかその話しって」
 ヨッコが夏樹に詰め寄った。
「いやあ、何でもありまへんがな」
「なんか怪しいなあ」
 ヨッチがタケさんに詰め寄った。


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2010.03.24 / Top↑
 タケさんは夏樹と二人でいた時よりも口数が減った。ヨッコとヨッチの先輩で、ユカリさんという、すごい美人さんが来ると言う話しに動揺していたようだ。夏樹はそのことには触れないことにした。
「ヨッコさんたちってここへは何回目なんですか」
 夏樹が話しを変えた。タケさんは大きく吸い込んだ煙草の煙を、吸った時以上に大きく、長く吐いた。
「私は三回目だけど、ヨッチは五回目だっけ」
「大学の時のユースホステルクラブで始めて来て、二回目は一人で着たし、三回目からはヨッコと一緒だね」
「ほな、もう常連さんやなあ。夏に来てヨットに乗ったこともあるの」
「一回だけ乗せてもらったことがあるわよねえ」
 ヨッチがヨッコに問いかけた。
「面白かったよねえ。ヨッチなんか途中で酔っちゃてさあ、ゲエゲエだったもんねえ」
「ヨッコだって港に戻って来てヨットから降りたらフラフラで、そのまま海に落ちちゃったじゃん」
「なんかとても面白そうやね、おれも夏に来たいなあ。船は苦手やけど、海はええよなあ」
 その後もヨッコとヨッチはかつら崎の良い思い出を語り続けてくれた。タケさんもようやく夏樹と二人でいた時のように、思い出話を聞かせてくれた。

 十一時に近くなったころに、他の人たちも起きてきた。みんなでストーヴを囲みかつら崎の話を中心に語り、笑いが絶えなかった。
「ヒゲさんは何時の汽車に乗るの」
 テンちゃんが言った。
「一時ごろかな、そしたら金沢ユースホステルに六時までには着くと思うんやけど」
「ほな、今度は京都に遊びに行った時に案内して下さいね」
「かまへんよ」
「やっぱり、なんかあるんじゃないのテンちゃん」
「イトウさんもしかして、やきもちを妬いてんはんのとちゃいますか」
 夏樹はイトウの顔を覗き込んだ。他のみんなの視線もイトウに集中した。





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2010.03.26 / Top↑
「バカなことを言ってんじゃねえよ、なんでテンちゃんごときに、やきもちを妬かなきゃいけないんだよ」
「イトウさん、随分と失礼なことを言うやないですか、ごときとはなんですか」
 テンちゃんのほっぺがぷっと膨れた。
「すまん、ヒゲさんがおかしなことを言うもんだから、つい。悪いことを言ちゃったな、ごめん」
「朝と昼の兼用でうどんができたから、みんな運んで食べようよ」
 厨房の方からシンちゃんが叫んだ。みんなで厨房の方へ向かい、ストーヴの近くのテーブルに運んで、全員でうどんを食べた。
「やっぱり冬はあったかいうどんが一番やなあ」
 テンちゃんが熱々のうどんを箸で摘まみ上げ、大きく息を吹きかけながら言った。
「いやあ、冬はあったかいそばの方が美味いよ」
 タケさんもうどんを箸で摘まみ上げ、大きく息を吹きかけながら言った。
「関東人はそばが好きな人が多いし、関西人はやっぱりうどんが好きやなあ」
「ヒゲさんの言うとおりや、関西はやっぱり、うどんやねえ」
 テンちゃんが言った。
「わたしも、うどんが好きだよ。でも関西のうどんのつゆって味が薄いからさあ、ちょっと物足りないのよねえ」
 ヨッコが口の中に少し残っているうどんを噛みながら言った。
「関東のつゆが濃すぎるんやて、丼の底が見えへんぐらい濃いさかいに、すごくしょっぱいもん」
「テンちゃんは関東のうどんも食べたことがあるんや。俺は東京に行ったことがないさかい、わからへんなあ」
 口いっぱいに入ったうどんを噛みながら夏樹が言った。
「いやあ、関西のうどんの方が味が薄くて、美味しくないよ」
 両手で丼を持ち、つゆを少し啜り、その丼を口からはなしながら言った。




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2010.03.29 / Top↑
「けど、このうどんはどっちかて言うと、関西風やで、美味しくないかあ」
「ヒゲさんの言うとおり。関西風なんだよなあ、美味しいは」
「でも、少し味が濃いみたいやなあ、東西の中間の西より見たいな感じやろか」
「ヒゲさんの話は良くわからないけど、美味しいね」
 ヨッチが丼に残った全部のつゆを飲み干し、テーブルに置いて言った。
「じゃあ俺はこのうどんを食べたら行きますは、残念やけど」
 夏樹は壁に掛けてある時計の針の動きが気になりだした。
「まだ、大丈夫。金沢ユースホステルの夕食に間に合えばいいんだろ、三時の列車に乗ればいいから、ゆっくりしていきなよ」
 ヨッコが微笑みながら言った。せっかく来たのだからもう一日泊まっていけばいいじゃないかと、皆が言ってくれる。とてもありがたく、うれしいことだが、金沢ユースホステルのイマさんともう一度ゆっくりと話しがしたい。後ろ髪を引かれる思いを堪えて、ギリギリ三時の列車に乗ることにした。

 朝食と昼食の兼用としていただいたうどんを食べ終え、再びストーヴの前に皆が集まり、相変わらす他愛のない話で盛り上がっていた。外は午前中と変わりなく、どんよりとした曇り空が広がり、緩やかな風に乗って雪が降っていた。
 いつものことながら、楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。壁に掛けてある時計は二時三十分を過ぎていた。駅までは歩いて二十分はかかる、まとめてある荷物を部屋に取りに行った。そのまま彦さんに挨拶をして玄関に向かった。
「ヒゲさん、まだ三時にならないよ」
「だって歩いて駅までいくのに二十分はかかるさかいに、行きますは」
「大丈夫、五分もあれば駅に着くから」
「そんなことないやろ、これに乗り遅れたら次は四時過ぎまでないから」
「三時だからさ、コーヒーを飲んでからにしたら」
「えっ」






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2010.03.31 / Top↑

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