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「大丈夫、シンちゃんが車で駅まで送って行くから」
「けど、ほんまに送って行ってくれるんか、シンちゃん。イトウさんの言うことは信用でけへんからなあ」
「ああ、送って行く。コーヒーを飲んでから、送って行くから」
 シンちゃんの返事にも信憑性が薄かったが、コーヒーをいただくことにした。
 コーヒーを飲みながら時計が気になり、熱いコーヒーを味わうこともできず、とにかく早く飲み干すことに努力した。
「あっつう!」
「ヒゲさん、もうちょっとゆっくりと、味わって飲みなよ」
 イトウが大袈裟ににこやかな表情を作り言った。
「そやかて、もう三時五分やも、あと二十分で列車がくるやん。シンちゃん、味わって飲んでる場合とちゃうって、はよう行こう。乗り遅れてしまうやんか、それとも今からなら走って行ったら間に合うかなあ」
「乗り遅れたらもう一日ここへ泊まっていったらエエやんか」
 ヨッコが変な関西弁でにこやかに言った。
「そうそう、そうしらエエヤン」
 皆もヨッコにつられるように変な関西弁で、にこやかに言った。
「みんな、意地悪やあなあ。もう三時十分になったがな」
「よし、美味しかった。さあヒゲさん行きましょう」
「シンちゃんもう飲み終えたの、つまんない。ヒゲさんが電車に間に合うじゃないの」
「おいおい、間に合ったらあかんのんかい。それに、ここには電車は走ってまへんで。そんなことはどうでもエエねん、シンちゃんさんよろしく願いします」
 ようやく荷物を持ち、靴を履き、玄関を出ることができた。
「それではみなさん、楽しいひと時をありがとうございました。必ずここへ戻って来ます、その時までお元気で」
「じゃあ、また」
 雪が緩やかな風に流されている。外はかなり寒いが、みんなは玄関の外で大きく手を振り見送ってくれた。



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2010.04.02 / Top↑
 歩けば二十分はかかる道のりを車で走れば五分で着いてしまう。駅に着いた時には列車が来るまでに少し時間があった。
「シンちゃん、送ってもうて、おぉきに。間に合わへんかったらどうしようかと思ったけど、ほんま、助かりましたは」
「みんなは、意地悪じゃないんだよ、ヒゲさんが気に入ったからさ、もう少し一緒に居たかっただけだからね」
「わかってますって、必ずまた来ますから、皆さんによろしく言っといてください」
 二人は固く握手をした。その時、二両編成の金沢行き上り列車が入って来た。
「じゃあ」
「じゃあ、おぉきにぃ」

 金沢駅には六時過ぎに着く。一昨日に来たときと同じくらいの時間になってしまう。
「まあ、夕飯には間に合うから、ええか」
 金沢駅からは一昨日に乗ったバスと同じ時刻に発車する。この日もバス停には夏樹を含めて五人ほどの人が、バスを待っていた。かつら崎にいた時と同じように緩やかな風に乗り、少しだけ雪が降っている。
 バスは定刻にバス停に入って来た。五人ほどの人が降りて、五人がバスに乗り込んだ。バスの中には十人ほどの人がまばらに座席に座り、おもいおもいに時間を過ごしている。
 ユースホステル最寄りのバス停に降りたのは夏樹ひとりだった。一昨日と同じように真っ暗になっていたが、二度目である、道に迷うことはなかった。
「ただいまあ」
「お帰り」
 玄関にちょうどイマさんがいた。
「遅くなってすみません」
「早く受付を済ませて、夕食にして下さい」
 イマさんは笑顔で迎えてくれた。



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2010.04.05 / Top↑

 一昨日に泊まったばかりで二回目の宿泊となると、勝手知ったるなんとかで、部屋の場所も、夕食の流れも全部がスムーズに運ぶことができる。厨房で皿に盛られたおかずをトレーに載せ、飯茶碗にご飯を入れて渡してくれるお姉さん(?)も笑顔で迎えてくれる。
「あれ、一昨日も泊まったよねえ。お帰り」
「どうも、覚えていてくれはったんや、おぉきにぃ、ただいま」
 今夜も宿泊者は十人ほどで、女性二人組みと夏樹以外の人たちは、夕食を済ませたようだ。二人組も間もなく食べ終わりそうなので、夏樹は別のテーブルで食べることにした。
 一人で食べる夕食は寂しい。早く食べて風呂に入って再び食堂に来て、イマさんとゆっくりと話しをすることにしよう。
 温泉宿のような大きな浴槽に、身体を沈めると今日の旅の疲れがとれて、心身ともにゆっくりとできることだろう。

 湯船の中には先客が一人、首までどっぷりと浸かっていた。後ろ姿だが、短く綺麗にまとめられた頭髪の全てが白かった。夏樹よりかなり年配の人のようだ。
「どうも、こんにちは」
 夏樹は先客の横から、ゆっくりと湯船に入っていった。
「あっ、どうもはじめまして」
 先客はゆっくりと夏樹の方を向き言った。この一言が今までのこの人の人生は真面目と言う言葉が支配していたのではないかと言うぐらいに、真っ直ぐでやさしいおじいさんと言うのが第一印象だ。年のころは七十歳ぐらいだろうか、小柄な人だった。
「広くて気持ちのいいお風呂ですねえ。年寄りには風呂が一番ゆっくりとできるときですから」
「そうですねえ、ユースホステルでこんなんに広い風呂は珍しいと思いますよ」
 夏樹はそう言うと両方の足を大きく伸ばし、同時に両腕を斜め前に伸ばした。



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2010.04.07 / Top↑
「ユースホステルって言うんですか、こういう形態の宿にとまるのは初めてなんですよ。こういうところは若い人たちが多く来るところだと聞いていたので、はじめはどうしようかと、ためらったのですがね」
 おじいさんは手に持っていたタオルを浴槽の外で軽く絞り、綺麗にたたんで頭に載せた。
「会社を定年で退職して、毎日が暇でねえ、妻は若いころから様々な趣味を楽しんでいましたが、私は仕事のこと意外は何もできないし、趣味も待たなかった人間なんですよ。それで家でごろごろしていないで、旅行でも行ってきたらと言うことになって、時間はたっぷりあるから、どうせなら行く場所も、期間も決めずに気まぐれな旅に出ることにしましてね、それならユースホステルは安いし、若い人が多くいて今までとは違うことが経験できるんじゃないかって、上の娘に進められまして、今日がその第一日目なんですよ」
 夏樹はおじいさんの話に笑顔で相槌をうっていた。
「以前に兼六園の雪つりをテレビの旅番組で見たのを思いだして、ちょうど今のころに行けば見られるんじゃないかと思いましてね、東京から真っ直ぐに金沢まで来ましてね。それなのに、あまり雪が積ってなかったものですから、少し残念でした。兼六園にはもう行かれましたか」
「いえ、まだです。さっき、金沢へ着いたばかりで、あした、行ってみようと思っています」
 笑顔でそう言ったが、少し風呂の湯加減が熱いようで、夏樹の本心としてはそろそろ浴槽から出たいのだ。夏樹が話し終わると、おじいさんは直ぐに話を続けたので、浴槽から出るタイミングを逃してしまった。




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2010.04.09 / Top↑
 再びおじいさんは話しを続けた。夏樹はこのまま浴槽に入っていることができそうにないので、とりあえず浴槽の渕に座った。
「娘から聞いたのですが、食事の後にミーティングと言う会合があるのですか」
「ありますよ、泊まっているみんなで、話をしたりゲームや歌を歌ったりするんですけどね、今日は泊まっている人が少ないんで、簡単な自己紹介をして、そのままダべリングになるんとちゃいますか」
「ダべリングってなんですか」
「ただみんなで話しをするだけです」
「私みたいな年寄りは部屋で本でも読んでいますよ」
「そんなことを言わないで来てくださいよ。だから、そろそろ身体を洗って、食堂に行きましょう。必ず来てくださいね」
 ようやく浴槽から出て、洗い場のシャワーの元へ行くことができた。
 孫ぐらいの年の差がある夏樹に、とても丁寧に話しをしてくれた。とても印象深いおじいさんだった。

 食堂に現れたのは夏樹と、風呂で一緒になったおじいさんが最後のようだった。
「これで今日、ここに泊まっている人たち全員が集まりましたね。こんばんは、私は金沢ユースホステルのスタッフの今井です。ペアレントはお休みをいただいております。今日は宿泊者が少ないですからコーヒーなどを飲みながら、時間まで、情報交換などしましょう」
「イマさん、今日はウイスキーはないんですか」
「ヒゲさん、今日は四日ですから」
「残念ですねえ、今日もまだ正月やないですか」
「あっああ。本当はユースホステルでの飲酒は禁止なのですが、宿泊者も少ないし、特別にお一人一杯だけ水割を出しましょう。でも実費ですよ、一杯二百円でお願いしますね」
「今日は僕も一杯下さい」
 夏樹が一番に二百円をイマさんにわたした。



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2010.04.12 / Top↑
 この日の宿泊は女性が二人組みと一人の三人、男は夏樹と風呂で一緒だったおじいさんと大学生風の一人旅の人が三人、全部で八人だけだった。六人は関東からの旅人だ。一人旅の女性は関西弁のようなイントネーションなのだが、少し違う、大阪や京都の人ではなさそうだ。
「こんばんは。私は香川県から来ました。岐阜の高山や合掌造りの荘川を廻って、昨日から金沢ユースホステルに泊まっています。あしたは香川まで帰ります」
 四国の人と会話をするのは、夏樹は初めてだろう。
「もちろん北陸線で京都、大阪経由で帰られるんですか。僕、明日は京都へ行こうと思うのですが、京都までご一緒させていただいてもよろしいですか」
 千葉出身で東京の大学に通っていると言う男は、四年生ですでに大学院への進学が決まったと、自己紹介していた。
「明日は彼女たちと三人で兼六園に行ってから、昼前の特急で大阪まで行こうと思ってますけど」
「はい、俺も兼六園にはまだ行っていないし、じゃやアズマさんに同行して京都にいこうかな」
 神奈川に住み地元の大学三年生のタカギ君が、右手を上げながら言った。大学院が決まったアズマ君とは、ここで同部屋になり、意気投合したと自己紹介の時に言っていた。彼は明日の予定をまだ決めていなかった。
「それじゃあ、明日は五人で兼六園に行きましょう。クリタさんいいでしょ」
 二人組の女子大学生の一人が言った。香川のクリタさんが笑顔で頷いた。
「あのう、俺も兼六園にはあした行きたいし、ほんで京都まで帰るんですけど。自己紹介まだでしたね、順番を二人飛ばしての発言になってしまうけど、京都に住んでます夏樹です、よろしく。大晦日から浜名湖ユースホステルで年越しをして、一昨日にここへ来て、昨日はかつら崎ユースホステルに泊まって、またここへ来ました。俺も兼六園、京都方面ツアーに参加したいのですが、かましまへんやろか」
 先の五人は笑顔で了解し頷いてくれた。


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2010.04.14 / Top↑
 宿泊者八人の自己紹介が一通り終わり、そのまま会話が続いた。旅の情報交換が主な話題だった。ユースホステルを利用して初めての一人旅に出たおじいさんは、埼玉に住みタカハシと自己紹介した。タカハシさんはずっと笑顔で自分の孫ほどの宿泊者に、旅は初心者だと言って、丁寧な言葉で色々な質問を繰り返していた。彼の明日の予定は富山の宇奈月温泉に向かうと言っていた。
 いつの日か歳を重ね、旅に出かけた時に年齢や仕事での立場などは関係なく、旅人と言う共通点だけで会話ができるだろうか。タカハシさんのことを書き留めておきたかった。

 一杯限定の水割りを飲み干し、二杯目はコーヒーをもらった。
「イマさん、コーヒーは今夜もサービスですか」
「はい、何杯でもどうぞ。でも、あまり飲むと寝られなくなっちゃうかな」
「じゃあ、まず一杯下さい。イマさんは金沢の前はどこのユースホステルにいたんですか」
「最初はねえ、都内のユースホステルに勤めて、それからここに来たんだ。ここは五年になるかなあ」
「学生時代には、やっぱり全国を廻ったんですか」
「そうねえ一応、日本一周したね。夏は北海道のユースホステルでヘルパーをして、冬は九州や沖縄でヘルパーをしていたなあ。そこへ行くまでに各地を廻って全国のユースホステルに泊まったよ」
 イマさんはコーヒーを飲みながら笑顔で話してくれた。
「どこのユースホステルが良かったですか」
「いろんなユースホステルがあってさ、ペアレントさんが個性豊かで、どこも良かったよ。まあ、たまにはずれもあったけどね」
「特にここのユースホステルには、行ったほうが良いよって処を教えてくださいよ」
「そうだねえ・・・」
 そう言いながら夏樹のカップと自分のカップにコーヒーを注いだ。



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2010.04.19 / Top↑
「北海道のユースホステルはどこも良かったけど、礼文島の桃岩荘は面白いよ。何が面白いかは行って見ないと分かんないなあ、ちょっと説明が難しいなあ。九州も良いところが多かったなあ」
「北海道かあ、行って見たいなあ、憧れの大地って言う感じかな。都会に住んでいると、北海道みたいな広大で何もない牧草地に憧れますねえ。地平線に沈む夕陽を是非見てみたい」
「綺麗だったよ、北海道にいるときに何回か見たんだ。僕も憧れの大地だったよ」
「北海道に行ってみたいなあ。いつかきっと行くそ」
「気合が入っていますねえ。きっと、いつの日か行けますよ、いや絶対に行ってください」
 イマさんは再び夏樹のカップにコーヒーを入れた。
「ヒゲさんは一昨日にウイスキーを飲まないよねえ、特別サービス、コーヒーに少し入れると美味しいよ」
 そう言ってウイスキーをティースプーンにとって、夏樹のコーヒーに入れた。
「あっおいしい、こんなコーヒーを飲むのは初めてやなあ」
 その後は他の宿泊者も加わり、消灯時間を少し過ぎるまで、会話を楽しんだ。
「みなさん、あしたで正月休みが終わる方がほとんどでしょう、あさってからは仕事ですね、頑張ってください。そして、いつの日かお休みの時に、ここへ帰って来てくださいね、私はどこか他のユースホステルに転勤しているかも知れませんが、金沢はいいところですから」
「はあい」
 みんなが大きな返事をして、それぞれの部屋に戻って行った。
 部屋の窓から外を見ると、大粒の雪が音もなく風にも流されず、しんしんと真っ直ぐに地面に向かって降りそそいでいた。日中の気温よりかなり下がったように感じた。
「おやすみなさい。電気を消しますよ」
 同部屋のアズマが言った。
「かまへんよ、おやすみなさい」





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2010.04.21 / Top↑
 一月四日の金沢の朝は、一面の銀世界になった。雪景色を見たくて北陸地方への旅に出てきた。ようやく希望が叶い雪を踏みしめることができる。夏樹は部屋からの真っ白な景色を見て、心が躍った。
「おはようございます。雪が降ったで、銀世界や」
 子どのものようにはしゃいだ。

「イマさんまた来ますね、二日間の金沢は楽しかったです。行ってきます」
「いってらっしゃい」
 イマさんは笑顔で見送ってくれた。
 昨夜の約束通りに大学生の男二人、女子大生二人、香川へ帰る女性と夏樹は兼六園に向かった。ユースホステルの外も十センチメートルほどの雪が積っている。雪を踏みながら歩くと、「きゅっきゅっ」と音がする。夏樹にはとても心地の良い音である。
「ええ音やなあ、この音が聞きたかったんや」
「ヒゲさんっておもしろいねえ」
 大学三年のタカギが言った。
「そやかて楽しないかあ、全てのものが白くなってすごく綺麗やんか、それにこの雪を踏む時の「きゅっきゅっ」っていう音がええやんか、俺はこの音がだい好きやねん、京都ではめったに雪なんか積らへんから、この音を聞かれへんやろ」
 靴の中に雪の水分が浸み込み、靴下までがずぶ濡れになって足が冷たくなってきたが、そんなことはお構いなしに、まだ誰も踏み入れていない雪の上を小走りに歩き、雪の感触と「きゅっきゅっ」という音を楽しんだ。
 正月の兼六園は入園無料になっていた。それでも観光客はあまりいなかった。背の高い木には名物の雪吊りが施され、昨夜からの雪が縄全体に積もり白くなって、その中にある木も白い花が咲いたようになっている。
 一緒に兼六園へ来ている他の五人より、はしゃいでいた。

  兼六園
                            雪吊り





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2010.04.26 / Top↑
「靴の中がグチョグチョになってもうたは、足が冷とうなってる」
 誰も踏み入れていない雪の上を歩きまわったことで、雪の水分が靴に浸み込み、靴下まで濡れてしまったが、夏樹の顔は笑顔だった。
 六人は兼六園の近くの食堂で簡単に昼食を済ませ。金沢駅に向かった。女子大生二人は新潟経由で東京へ帰る。香川の女性と男子大学生二人、夏樹は大阪行きの臨時急行に乗ることにした。
「クリタさん、今度は東京に遊びに来てくださいね、いろんな所を案内しますから」
 東京へ帰る女子大生の一人が言った。
「ありがとう、帰ったら写真を入れて手紙を送るから、ゴールデンウイークには東京に行きたいなあ」
 香川へ帰るクリタがそう言って二人の女子大学生と握手をした。
「その時は俺も呼んでください、実家に帰らないで一緒に東京ツアーに参加したいです」
 大学院への進学が決まっているアズマが言った。
「じゃあその時は俺も行きます、横浜を案内しますよ」
 神奈川の大学生、タカギが手を上げながら言った。
「ええなあ皆、おれ以外の五人で盛り上がってるやんか、まだ東京には行ったことないしなあ、クリタさんが行く時は俺にも連絡してえなあ、一緒にいかへんか」
「ええ、一緒に東京に行くんですか」
「あらあ、嫌われてんのかいなあ、やっぱりこのヒゲが印象を悪くしてんのかなあ」
「そんなことないですよ。カッコいいですよ」
 二人の女子大生のあまり話さなかった女の子が、はにかんだ顔で言った。
「おぉきにぃ、ものすごく嬉しいは」
 夏樹はそう言ってくれた女子大生に握手を求めた。

金沢駅周辺

金沢駅



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2010.04.28 / Top↑
 新潟行きの特急列車がホームに入って来た。
「バイバイ、必ず東京に行くからね」
 クリタが二人の女子大学生の手を握り、笑顔で言った。
 二人は列車に乗り込み、とりあえずホーム側の空いている席の窓際に座り、ホームに残った四人に大きく手を振った。特急だから窓は開かない。何かを話しているのか、口が動いていても何を言っているかわからない。
 列車が動き始めた。ホームに残っている四人がゆっくりと歩きながら、二人に笑顔で手を振った。
 東京へ帰る女子大生を見送り、四人は臨時急行に乗り込んだ。臨時列車だからだろうか、七割ほどの乗客がまばらに座っていた。四人掛けのボックス席に陣取り、夏樹たちはさまざまな話しをした。一人で列車に乗る時はいつも車窓を眺めて、いろいろな発見をして楽しんでいたが、今日は通路側に座り、車窓をほとんど見ることはなく、四人での会話を楽しんだ。
 夏樹と二人の男子大学生が降りる京都駅までのあいだ、誰も席を離れることなく、会話が途切れることもなかった。三時間という時間は瞬く間に過ぎ去り、夏樹たちの乗った臨時急行は京都駅に入って行った。本当の別れがやってきた。
 クリタはそのまま大阪へ、そこから山陽線に乗り換え岡山の宇野から宇高連絡線で高松に向かう。家に着くのは九時を過ぎるようだ。

 大晦日から四泊五日の旅もまもなく終わろうとしている。ユースホステルと言う男女別相部屋の宿で多くの人と出会った。出身地や年齢、職業、その立場などは何の関係もない。旅の途中のある日に、同じ所に泊まった者同士、と言う共通点だけで、様々な会話をし、情報交換をした。ほんの少しだけど、人として大きくなったような気がする。
 夏樹と二人の男子大学生は改札口で握手を交わし別れた。
「いつの日か、またどこかで会いましょう」


       小説のような、旅のはじまり 七章 終り


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2010.04.30 / Top↑

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