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 翌日は快晴だった。この連休は晴れの日ばかりで気温も高めとなった。
 朝食をいただくために食堂へ向かった。時間が少し早かったのか、十人ほどだけがテーブルに座り食べていた。その中に昨夜の埼玉の男も、一人で窓際のテーブルに座っていた。
「おはようございます。きのうはどうも、なんか話が途中みたいなところで、寝る時間になってしもうて、もっといろいろと聞きたかったんですよ。ここに座ってかましませんか」
「おはようございます。どうぞ、今日は良い天気ですねえ、少し暑くなるかもしれないけど、雨が降るよりはいいよね」
 埼玉の男の話を聞きながら、夏樹は味噌汁を半分ほど飲んだ。それから飯を少し口に運こび、噛みながら話しはじめた。
「今まで全国を旅して来はった中で、どこが一番良かったですか」
「やっぱり、北海道やねえ」
「やっぱり」
「とにかく人間が大きくなったような気がするんですよ。ビルしか見えない都会での窮屈で忙しない日々の生活が、すごく馬鹿げたことのように思えてくるんです。どこまでも続く牧草地にいる牛や馬の姿や、丘陵地のどこまでも紫一色のラベンダー畑を見ていると、全てをわすれることができる」
 夏樹は相槌を打ちながら朝食を食べた。
「毎日、毎日、満員電車に一時間以上も乗って会社に行き、嫌味な上司と無神経な後輩、結婚までの腰掛として将来有望な独身男の目線ばかりを気にしている若い女たちに、言うたくもない上手を言って機嫌をとらなきゃいけないのか、なんてことが全部、飛んで行ってくれるんですよ」
「かなりストレスが溜まった生活をしたはるみたいやねえ」
「そうなんですよ、一応は上場の大手食品会社に勤務していますから、それなりに様々な人がいます。今の私の立場としては、かなりのストレスが溜まる部署に、それなりの地位にいますので」
「なるほどねえ、大変ですねえ」
 夏樹には北海道も大手食品会社も別世界の話のように思えた。



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2010.07.05 / Top↑
 埼玉の男は夏樹より先に朝食を食べ終え食器を返却口に戻し、湯飲みに熱いお茶を入れて両手に持ち、夏樹の前に座った。右手に持った湯飲みを夏樹の前に置いた。
「おぉきにぃ」
「どの辺りまで話をしたかな」
「女子社員は独身の男の目線を気にしていて、あなたはストレスの溜まりやすいそれなりの部署のそれなりの地位にいるって、言うたはったような気がするけど」
「なんか日ごろの愚痴を聞いてもらっているみたいだね」
「そうとも言うけど、俺の勤め先なんか五十人ぐらいの小さな工場やから、少し興味のある話で面白そうなんやけど」
 夏樹は別世界の話におおいに興味が湧いてきた。
「もちろん嫌味な上司や無神経な後輩より、頼りになる上司と俺をサポートしてプロジェクトを成功へと協力してくれる後輩の方が多いのだけれど、変なのが一人二人いるとねストレスが溜まっちゃうんだよねえ」
「真っ直ぐで、真面目な人なんですね。ところでまだ名前を聞いてなかったですね、俺は夏樹です」
「関根といいます、よろしく」
「関根さんは、いっそのこと北海道に住もうとかは思わないんですか」
「思ったここともありますよ。でもねえ、あの冬の寒さは俺には耐えられないでしょう」
「冬にも行ったことがあるんですか」
「ダイヤモンドダストを見たくて二月に行ったのですが、想像以上の寒さで、ダイヤモンドダストを見られる気象条件だったのに、一歩もユースホステルから外に出られなくて、一人だけ留守番していました。とても悔しくて、残念です」
「そんなに寒いんですか、俺は雪が大好きやし、京都の夏の暑さよりは北国の冬の寒さのほうがましかな、なんて勝手に思ってるんですけどね」
 そう言うと関根に持って来てもらった湯飲みのお茶を飲み干した。






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2010.07.07 / Top↑
 関根は寒さが苦手なので北海道に住むよりも、行きたい時に北海道へ旅をして、日ごろのストレスを全て忘れることにしているのだと言う。
「ほな、もう何回も北海道に行かはったんですか」
「そうですねえ、学生のころには夏休みの期間を全て北海道のユースホステルでヘルパーをしていた年もあったし、働くようになってからでも年に一回は必ず行くね。大雑把だけど全道を廻りましたよ」
「全国を旅して、その中で一番が北海道で、じゃあ北海道で一番はどこですか」
「んん、道東、知床かなあ。あそこに行った時は、いつもの自分がなんて小さい人間なんだろう、あぁあ馬鹿らしいって思えてくるですよ」
 関根は興奮状態になり、自然と声も大きくなってきた。
「そんなに、ええとこなんですか」
「行った者にしか分からないねえ、あの雄大な風景を,言葉で表現することが出来ないよ、すごくて」
「知床ですか、覚えときます、僕もいつの日にか北海道に行ってみたいから」
 時計を見るともう八時に近かった。夏樹は慌てて朝食を食べ終えた。
「俺は今しか出来ないことは、今やるしかないって思っているんで、関根さんと話しをしていると、いずれは北海道を旅してみたいし、全国を廻ってみたいという気持ちが大きく固まってきましたは。いろいろと教えてもらって、ありがとう、おぉきにぃ」
 そういうと夏樹は関根の右手を持ち、大きく握手をした。それに答えるように関根も夏樹の手を力強く握った。
「じゃあ、おれは出発の用意をして東尋坊に向かいます。またどこかで逢えるといいですね」
「そうやね、浜名湖で会えるかもしれへんね」
「やっぱり関根さんの関西弁は上手やわ」
 二人は握手をしたまま声を出して笑った。



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2010.07.12 / Top↑
 国道百五十六号線を北上し郡上八幡方面へ向かう。ユースホステルを出発し車通りの多い岐阜市内を走ると赤い電車が前を走っていた。名鉄美濃町線だ。しばらくのあいだをこの電車と並走することとなった。
 並走とは言っても電車は専用軌道を走っている、交通量の多い道路を走っているバイクは、みるみる置いていかれてしまう。美濃町に近づくころには電車の線路は道路から離れて行った。そして、美濃町に入ってから再び線路が道路のすぐ横を走るようになり、電車と少しの間だが並走することができた。

 美濃町を過ぎ、さらに国道百五十六号線を北上すると
《郡上八幡60km 白川郷120km》
という標識を確認した。
「岐阜から東尋坊までは百五十キロやと思ってたのに、俺はどんな計算間違いをしたんやろ、白川郷からはまだ百キロはあるはずやなあ」
 後になって分かったのだが、岐阜ユースホステルに入ってすぐに地図を見て距離を計算した時に、百五十六号線と百五十七号線を見間違えたようだ。百五十七号線に大野市というところがある。地図上には
《岐阜まで120km福井まで33km》
と書いてある。そこだけを見て、東尋坊まではだいたい百五十キロぐらいかなと思ったのだ。白川郷を通っていくと、金沢経由で福井、東尋坊と行く道しかない。すると合計で二百七十キロほどの路程になってしまう。
 その時、事前に下調べした距離と違うということに、早く気がつけばよいものを、何を勘違いしたのか、バカな奴である。いつもの早合点と言うやつだ。
「いまさら仕方がない、とにかく東尋坊まで走って夕食までには到着せんと」
 余裕を持って岐阜を出たつもりだったが、見たいところも、そこそこにして、ひたすら走らなければ。余儀ないことだ。



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2010.07.15 / Top↑
 郡上八幡に近づくころには交通量も減り、信号もあまり現れなくなった。快晴の空模様の中をひたすら北へバイクを走らせた。
 南中に近い位置にいる太陽が、夏樹の背中を容赦無く照りつける。合皮とはいえ、防寒用のジャンパーから湯気が上がっているのではないか、と思えるほどに暑い。北に向かって走っているのだから、常に南からの太陽の熱を背中に浴びていることになる。
「暑っついなあ、背中も暑いし、エンジンからも熱が上がってきて、それがヘルメットの中へ入ってきよるがな、腰も痛くなってきたなあ」
 単気筒のエンジンは排気量が百二十五cc、小太鼓をリズムよく叩くように、タンタンタンと軽快な音を轟かせて前に進んだ。
「おしりも痛いなあ、ちょっと休憩しょうか」
 まだ郡上八幡の手前である、あまり長く休んでいることは出来ない。この先、二百キロほどの距離が残っているのだから。
「缶コーヒー一本と、たばこを一本だけ」
 この当時は禁煙前である。
 自販機の前にバイクを止め、ヘルメットを取り、バイクのミラーに被せた。
「ふう」
 冷たい缶コーヒーを落とし、一気に喉を通した。
「ああぁ、うまい」
 少しだけ暑さが和らいだように思える。その時だった、右手の方から数台のバイクがエンジン音を轟かせてこちらに向かってきた。先頭はロードタイプの大きなバイクだ。四百ccを越える大型のもので、夏樹の前を通り過ぎる瞬間にこちらを見ながら右手を少し上げた。ヘルメットのシールドの中の笑顔は、夏樹に挨拶をしたように見えた。夏樹は見ているだけで、何もすることができなかった。
「今のはなんやったんやろ」と思う間もなく、次々と大型のバイクが目の前を通りすぎ、どのライダーもこちらを見ながら右手を軽く上げていった。



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2010.07.17 / Top↑
 大型のバイクの中には国産の千五百ccのバイクや、サイドカーを付けたハーレーダヴィットソンのバイクも何台かいた。およそ二十台の集団が、低く大きなエンジン音を響かせ、目の前を連続して通過して行った。
「カッコええなあ」
 口の開いた缶コーヒーを片手に持ったまま、バイク集団の後ろ姿が見えなくなるまで見ていた。
 ハーレーダヴィットソンのような大きなバイクに乗るには、夏樹が取得した運転免許では乗ることができない。限定解除と言う、非常に難しい試験に合格しなければならない。
 四百ccまでのバイクを運転できる中型限定免許は、教習所で取得できるが、それを超える排気量の限定解除を取得するには、教習所では取得できない。公安委員会の運転免許センターに行き、センター内のコースの決められた道順を、迅速にてきぱきと進行し、スラロームや急停止、一本橋などの課題を成功させ、時間内に戻ってこなければならない。
 四百ccの免許を教習所で取得する時も、教習所のコースで同じような走行試験を受け、減点法による採点で合格ラインをクリアしなければならない。しかし限定解除の走行試験は、それの数倍の難易度で、当時の合格率は数パーセントだったと聞いている。合格するまでに五,六回の落第は当たりまえで、十回目で合格したと言う話も聞いたことがある。
「ええなあ、ハーレーに乗ってみたいなあ。けどハーレーって、なんぼすんのやろ」
 
 残念ながら今でも限定解除はできていない、正確には限定解除をしていない。試験を受ける前から怖気づいてしまい、中型の免許で充分だと、自分自身に言い聞かせ、納得させてしまったのだ。
 現在、限定解除も教習所で取得できるようだが、いまさらと言う自分が八割、残りの二割は「やっぱりハーレーに乗ってみたいなあ」という、少し未練がましい自分がいる。

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2010.07.20 / Top↑
 缶コーヒーを飲み終え右手の指に挟まった煙草をくわえ、大きく深呼吸をするように大量の煙を吸い込んだ。口先を少し尖らせるようにして、今吸った煙を吐き出し、煙が肺に入る前に残っていた空気を出し切るように息を吐いた。
 自動販売機の横にある四角い灰皿で火を消し、ヘルメットを被ってエンジンをかけた。バイクを斜めに立てるために出ていたスタンドを起し、ギアーをローに入れ、右後方の確認をして国道へ出た。再び国道百五十六号線を北上し白川郷を目指した。
 先ほどと変わらず、快晴の空から、太陽の熱が背中を燻るように照らしている。

 しばらく行くと、ようやく郡上八幡の街に入った。この旅に出かける前に下調べなど何もしていない。郡上八幡の見所などは何も分からない、もちろんゆっくりと観光をしている時間もない。素通りで郡上八幡を通過した。
 北に向かうにつれ標高が少しづつ高くなっているのか、ほんの少しだけ暑さが和らいだように思える。遠くに見えていた山々が近づいて来た。郡上八幡を過ぎたころからは目の前に小高い山が迫るようになっていた。

 白鳥を素通りして白川郷までは休むことなく走り続けることを、自分自身に言い聞かせ、多少の疲れは我慢をして、ひたすら北へ走った。
 郡上八幡から五十キロほど走った所に、御母衣湖と言うダム湖が見えてきた。国道百五十六号線沿いに五キロほどはあっただろうか、南北に細長く広がった湖だ。その北の端に御母衣ダムがある。一目で今までに見たことのない造りのダムであることがわかった。
「こんなダム、見たことないなあ」
 白川までまだ三十キロほどあるが、ダムを展望できるスペースにバイクを止め、御母衣ダムを見ることにした。



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2010.07.25 / Top↑
 ダムを展望できるスペースに、このダムのことが書かれた案内板がある、それによると「高さ百三十一メートル、日本屈指の規模を誇るロックフィルダムである。」と書かれていた。岩や土を積み上げて造られたダムなのだそうだ。
「こんなダム、見たことないなあ」
 案内版を見ながらジャンパーの左ポケットに、無意識に手が入っていった。煙草のケースを取り出し、軽く握り上に振って一本の煙草を出し、そのまま口に銜えた。右ポケットからライターを取り出し、そのまま銜え、煙草に火を付けた。
「ふうう、腰が痛いなあ。まだ半分ぐらいやろなあ」
 大きく吸った煙を吐き出しながら腕時計を見た。
「わあ、もうすぐ昼やんか、適当にどこかで飯を食わんと、あかんなあ」
 案内板の周辺には灰皿はがなかった。バッグの中から携帯用の吸殻入れを出し、火を消した。
「さあ、もうひと踏ん張り走ろうか。もうすぐ白川郷やな」

              御母衣湖


 白川郷の合掌造りの集落は、一九九五年に世界遺産に登録された、日本有数の観光地で、観光シーズンには大きな混雑があるようだ。あの当時(二七年ぐらい前かな)も多くの人が訪れる有名な場所だった。
 その白川から福井県に延びる白山スーパー林道と言う有料道路があるのだが、二輪は通行禁止。今も二輪は走ることができないようだ。ここを通れば、もっと短時間で東尋坊へ行けるのだけれど、なんともいたしかたのないことだ。

              白川郷
               
 ほんの少しの時間だけ観光を楽しみ、再びバイクにまたがり北へ向かった。残りの走行距離はおよそ百五十キロだ。
「めし、めし、どこかで昼飯を食べんとな、腹がへっては戦が、いやバイクに乗ったまま倒れてしまうがな」





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2010.07.28 / Top↑
 国道沿いの小さなドライブインでラーメンと半ライスを頼んだ。暑い日に熱いラーメンをすする。食べている時は非常に暑いが、食べ終えると少し汗が引いていくような気がした。
「さあてと、もうひと頑張り走ろうか」
 白川郷から金沢へ向かう国道三百四号線のある平村までは、およそ五十キロある。この辺りは標高がかなり高いのだろう、周りの山には雪が残っている。

                残雪の山


 五箇山の集落の少し手前からは富山県に入った。当時の地図には、上平村そして平村へと国道は続くが、現在は周辺町村の合併により、この辺りは南砺市になっている。合掌造りの集落が多く集まる地域が、市になっているということは、合併した町村の数は幾つほどなのだろか。面積はかなり広いのではないだろうか。(書く前にしっかりと調べないあきませんなあ)

 バイクの速度を少し落とし、五箇山の合掌造りの家を見物しながら前に進んだ。機会があれば、冬に来て雪が積ったこの家々を、ゆっくり見て廻ってみたいものだと思っていたが、未だに叶っていない。
 平村の中心地から左折すると国道三百四号線に入る。下りの急勾配が続き、大きく右へのヘアピンカーブを通過した。あわせて六キロほどの二つのトンネルを越えると、再び下りの急勾配が続いた。道幅もさほど広くはなかった。
 周りの山が高い位置に見えるようになってきた、それだけ標高の低い所へ降りて来たのだろう。やがて「城端」と書かれた案内板が見てきた。
「なんて読むんやろ、しろはし?じょうたん?」
 城端と書かれた案内板の下のローマ字表記がようやく読めるところまで近づいた。
「じょうはな、って読むのか」
 今でもこの地名と、この先にある「福光町」と言う地名が、外殻は大きいが中身が小さい脳に、なぜか大きく残っている。



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2010.07.30 / Top↑

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