上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
 野田は北の端、宗谷岬を目指すと言った。約500キロの距離を一日で走ることは、未知の走行距離であった。たしかに北海道は道が広く、信号も少ないと言う情報はあるが、一日で500キロは無理だろうという判断をした。それに、車と並走するのはお互いに気を使い、楽しめないようにも思えた。
 では何処まで行くか、北海道全体の地図を見て宗谷岬は上の端、その反対の下の端に襟裳岬が目に入った。
「おんなじ岬でもこっちの岬に行こうか」
『えり~もの、春~は~、何も、ない、春・・・』
 そんな歌詞が頭の中に響いていた。襟裳岬から少し北へ目をやると「幸福駅」を見つけた。当時、ブームだった『愛国から幸福へ』の広尾線が帯広に延びていた。(現在は廃線となっている)鉄道ファンとしては、ここを外すわけにはいかないと思った。
「よし、襟裳岬にしよう」
 さっそく少し詳しい地図を広げ、小樽から帯広、幸福駅を経由しての襟裳岬までのルートを探した。札幌から苫小牧までの高速道路を利用すると、時間的にも早くいけそうだ。それでもおおよそ430キロの距離がある。
「小樽の港に着くのは朝の五時過ぎやから、使える時間が長いからなあ」
 さらに高速を使っての時間の短縮、北海道は道が広く信号も少ないと言う情報を考慮し、走れない距離ではないだろう。これで決まった。
 次に泊まるところだ。もちろんユースホステルである。ガイドブックを広げ、えりも岬ユースホステルと小樽天狗山ユースホステルを見つけ、予約の葉書を準備した。お盆休みで混雑が予想される。
「満室で泊まれないと言うことになると困るなあ」
 それともう一つ、肝心のフェリーの予約が取れなければ全ての計画が無駄になってしまう。野田からの回答を待つしかなかった。



・拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

にほんブログ村 旅行ブログへ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
・応援いただき、ありがとうございます。

スポンサーサイト
2010.10.03 / Top↑
「夏樹さん」
 夕食後に野田が夏樹の部屋に入って来た。
「やっぱり込んでるみたいやねえ」
「ええ、フェリーの予約が取れへんかったんかあ」
 せっかくの北海道旅行の計画が駄目になってしまう。夏樹は野田に詰め寄った。
「ちゃうって先輩。取れるんやけど、行く時は他の客と相部屋になるって言われたんや」
「相部屋?」
 往復共に二等寝台を頼んでいたが、北海道へ向かう時は一等客室に他の客と相部屋になると言うのだ。
「それしか空いてへんのやったら、しゃあないわなあ。値段も高くなんのやろ」
 新日本海フェリーの客室には何種類かあり、一番安いのが二等船室、絨毯が引かれた大部屋に雑魚寝の部屋だ。その上のクラスが二等寝台だ、二段ベッドが並んでいる。そしてその上が一等客室、二段ベッドが二台の四人部屋個室で洗面所が付いている。特別スイートルームと言うのもあったと思う。
「一等やけど相部屋やから、少しまけるって言うてました」
「どんな人が一緒かわからんけど、まあしゃあないな」
「帰りは二等寝台が取れましたから」
「けど、ちょっと待てよ、この二人と青田さんとお前の友達と、四人で行くんとちゃうんか」
「青田さんは行かへんって、俺の友達も都合付かなくなって、キャンセルですわ」
「青田さんが?俺には何にも言うてないけどなあ」
 お好み焼き屋で盛り上がった北海道旅行も、野田と夏樹の二人だけとなり、夏樹の我が儘で、北へ行く野田と南に向かう夏樹と、北海道では別行動になる。ひとまず計画は予定通りに進むことになった。

追記
 ネットで検索したところ、今ではフェリーも高速化し、十九時間ほどで敦賀、小樽間を運行しているようだ。




・拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

にほんブログ村 旅行ブログへ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
・応援いただき、ありがとうございます。

2010.10.05 / Top↑
 八月十一日午後六時三十分出発。仕事を終え野田と夏樹はそれぞれの車とバイクに乗り、敦賀港へ向かった。フェリーの出港は二十三時だが、遅くとも一時間前には港に着くように、この時間に寮を出た。
 野田の車が前を走り、夏樹はその後を付いて行った。夜は車の後を付いて走った方が楽である。車にはライトが二個、バイクには一個しか点かない、ましてや福井に向かう国道162号線は街灯や建物が少ない山道である、車のブレーキライトがいつ明るく光るか、それだけを注視して走った。
 九時頃に敦賀港に到着、すでに多くの車、バイクが集まっていた。案内に従い車は専用の駐車スペースへ、バイクもバイク専用のスペースへ向かった。
「野田、あとでな」
 乗船は九時三十分からだと言うことだ。後ろに大きな荷物を積んだバイクが数十台はいただろうか、駐車スペース全体を照らすライトは、あまり明るくはない。何台のバイクが待っているのか、正確な数はわからなかった。まもなく、係員が乗船券を確認に来た。
 数十分後に乗船口に近いところのバイクが、次々とエンジンをかけた。それにつられるように、夏樹の周りにいたバイクもエンジンをかけた。一台づつ乗船用のスロープを登り、船の中へ入って行った。進行方向を向いて右側の端へ、数人の係員が誘導していた。
「隣のバイクと同じように斜めに置いて、ローギアーに入れてエンジンを止め、サイドスタンドを出してください」
 一人の係員がハンドスピーカーを持ち、ゆっくりと歩きながら言った。
「航行中はこの場所への立ち入りは禁止になります、荷物は全て客室へ持って行って下さい」
 言われた通りにバイクを止め、荷物を下ろし、ヘルメットは専用のホルダーにかけてキーロックした。そんな作業をしている後ろを次々と車が入って来て、別の係員が車の止め方をハンドスピーカーで指示していた。


・拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

にほんブログ村 旅行ブログへ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
・応援いただき、ありがとうございます。

2010.10.08 / Top↑
 荷物を担ぎ船室入り口に向かおうとした時だった、係員が小型船を係留するのに使うような太いロープをバイクのシートに架け、そして床にある金具にロープを架け、ぐいぐいと引っ張り、手際よく床に架けた金具のところでロープを留めた。ロープがシートにくい込み、サスペンションが大きく下がった。そして隣のバイクも同じようにぐいぐいと引っ張り、床の金具のところで留めていった。
 ちょっとバイクが可愛そうなぐらいにロープが、シートにくい込んでいるのが少し気になったが、あまりの手際の良さに三十時間も揺られるのだから仕方ないと諦めた。

 船内フロントで野田と合流し部屋の鍵をもらい,一等客室が集まるコーナーへ向かった。部屋のドアを開けると目の前に壁が有り、その壁から垂直に部屋の奥へ壁が延びる。垂直の壁の両側に二段ベッドが並び、相部屋とは言っても入り口が同じだけで、二人づつのプライベートな空間が多少は守られている。右側のベッドには、同部屋となる五十代ぐらいの夫婦が先に入室していた。
「こんばんは、よろしくお願いします」
「あっ、どうも。よろしくお願いします。洗面がこちら側にありますから、遠慮なく使って下さいね」
 女性の方がにっこりと微笑んで受け答えてくれた。夫婦は荷物を片付け、ベッドメイキングをしているようだ、時刻は二十三時をまもなく過ぎようとしている。
「ありがとうございます」
 夏樹は皮のジャンパーと皮のライダーパンツを脱ぎ、Tシャツとハーフパンツに着替えた。そして、いつでも寝られるようにベッドにシーツを準備し、ひとまず部屋を出てオープンスペースに向かった。




・拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

にほんブログ村 旅行ブログへ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
・応援いただき、ありがとうございます。

2010.10.12 / Top↑
「ビール、飲もうか」
 野田が夏樹を誘いビールだけが入っている自動販売機へ向かい、それぞれがレギュラー缶を落とした。栓を開けてひとまず乾杯をした。
「うんん、なんや随分とぬるいなあ」
 夏樹が言った。
「ええ、そうですかあ、俺のは、よう冷えてるけどなあ」
 同じメーカのレギュラー缶の見本が七本並んだ自動販売機に、もちろん同じ値段のボタンが七個ある。夏樹は右端にあるコイン入れに右手でお金を入れ、右手でボタンを押したから、おそらく右端を押したようだ。
「野田はどのボタンを押した?」
「左手で押したから、左端かな」
「左の方が冷たくて、右の方はぬるいんやろか」
 ビールが冷えていないからと言って、交換してもらうわけにいかず、仕方なくそのまま近くの椅子に座り飲むことにした。
 二人は缶ビール片手に他愛のない会話をしながら、目の前の自動販売機で缶ビールを買う人を、なんとなく視界に入れていた。係員が販売機にビールを補充しているのを見たときだった。
「あっそうか、なるほどな」
 夏樹はあることに気がついた。なぜ夏樹の買った缶ビールが冷えていなかったのか。
「野田は左利きやったかいなあ」
「字を書いたり、箸は右ですけど、ボールを投げたり、バットを左なんです。絵を描く時も左を使うことがあるなあ」
「それや」
「ええ、何が」
「人の多くは右利きなんや、そやから右側にコイン入れがある、右手でコインを入れて、右手でボタンを押す。七個も並んでいるボタンも売り切れでないかぎり、無意識に右の方のボタンを押すんや」
「なるほど、そやから右の方のビールが早くなくなるから、右の方だけ補充をする、ほんでまた右の方のビールが買われるから、ぬるいのが出てくるんやねえ」
 廻りを見渡したところ、缶ビールの自動販売機はこの一台だけだった。




・拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

にほんブログ村 旅行ブログへ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
・応援いただき、ありがとうございます。

2010.10.14 / Top↑
「二本目を買うてくるわ。一番、左のボタンを押すでえ」
 夏樹の顔はすでに赤くなっている。椅子から立ち上がると足元がふらついた。缶ビールの酔いと、仕事を終えてから百キロあまりの道程をバイクで走った疲れ
が入り混じり、少し足元が安定しなくなっているようだ。
「あああ、よう冷えてるは。うまい」
 オープンスペースにはいくつかのテーブルと椅子が無造作に置かれ、その周りに飲み物やアイスクリームの自動販売機が何台かあり、ゲーム機も数台が置かれていた。テレビもあるが、陸から離れると映りが悪くなり何の番組なのか分からなくなってしまった。
 二本目の缶ビールを飲み終えるころには、夏樹の顔は酢だこのように赤くなり、野田との会話も迷走してきた。
「先輩、もう寝ましょうか、くたびれたもんねえ」
 野田は夏樹より早いペースで三本目の缶ビールを飲み干していた。
「そうしましょう、寝ようか」
 そう言うと椅子から立ち上がり、空の缶を缶用のゴミ箱に入れようとしたが、足元がふらつき床に落としてしまった。なかなか酒が強くならいものだ。

 翌朝は快晴だった。今日は一日中、船の上で過ごすこととなる。小樽に着くのは約二十二時間後の明日の朝だ。この船上と言う空間でこの長い時間をどのようにして過ごすか、目の前に海があっても泳ぐわけにはいかない。客室の小さな丸い窓から外を見ていた。
「とりあえず、朝めしを食べに行こか」
 二人は顔を洗いレストランへ向かった。
 朝食はバイキング形式だ、すでに多くの客が集まっていた。そして入り口の看板を見て野田がつぶやいた。
「俺はいいです。だっていつもはコーヒーだけなんですよ、朝は。たいして食べへんのに千円は高いなあ」
 夏樹も普段はパンとコーヒーで軽く済ませる。朝から多くの食事は喉を通っては行かない体質らしい。
「ほな売店にパンでも売ってへんか、行ってみよか」


・拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

にほんブログ村 旅行ブログへ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
・応援いただき、ありがとうございます。

2010.10.17 / Top↑
 二人は売店で菓子パンを買い、自動販売機で缶コーヒーを買ってオープンスペースで食べた。テレビには時々だが、韓国の番組が映し出されていた。
「さて、これからどうやって過ごそうか」
「そうやねえ、時間を潰すのに都合のいい遊び道具は何にも持って来てへんしねえ」
 ようするにトランプとか将棋とか、一人で時間を潰すための本や雑誌も持って来ていなかった。
「もう二人いたらマージャンができるんやけどなあ」
 オープンスペースのはずれの方にマージャンルームがあった。それを見て夏樹が言った。
「夏樹さんマージャンのやり方、わかるんですか」
「いいや、全然知らん、やったことないしなあ」
「ほな、あと二人いたかて、できひんやないですか」
「俺いがいの誰かが知ってたら、教えて貰えるかなあっと思うてな。これを機会にマージャンを覚えられんのやで」
「俺はできますけどね」
「ほらな、やっぱりもう二人いたら、できたやんかあ」
「いやあ、そんな簡単には覚えらへんと思いますけどねえ」
 二人は缶コーヒーを飲みながら、どうでもいい会話を続けていた。

 簡単な朝食を済ませ、ひとまず甲板に出た。ここにも多くの客がそれぞれの時間を過ごしてた。
「とりあえずここで、寝よか。夏の海やで、甲羅干ししよ」
 部屋に戻りタオルを一枚持ち、再び甲板に出てタオルを頭の下に敷き、甲板に仰向けになって寝転んだ。眠くはないけれど、ほかにすることもなく、甲板にごろごろとしながら、他愛のないどうでも良い会話を二人は話していた。それでも一時間もごろごろしていると、さすがに暑さに音を上げてしまい、オープンスペースに戻った。
「やっぱり夏は暑いなあ、よし、ビールやビールを飲もう」
「午前中からですか」
「ええやんか、どうせ他にやることもないし、車を運転することもできひんし。左やな、左のボタンを押してくるは」

・拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

にほんブログ村 旅行ブログへ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
・応援いただき、ありがとうございます。

2010.10.19 / Top↑
 夏樹はよく冷えた缶ビールを二本持って戻ってきた。一本を野田に渡し、もう一本の栓を抜いて軽く上に上げた。
「カンパイ」
 小さな声で夏樹が言った。乾杯って昼日なかからビールの栓を抜き、二人で何に乾杯をするというのか。野田も少し困った顔で「カンパイ。いただきます」と小声で言って缶を少し上に上げた。
 野田は夏樹より二歳年下だが、美術系の短大を卒業してきたので、会社では四年後輩になる。さすがに絵を描かせると上手だった。
「野田は、何でこの会社に入ってんや」
「ああ、芸術では飯が食えへんからねえ、それに美大って言うたかて、短大やからたいしたことはないからな」
 右手に持った缶のビールを大きく飲み込んだ。
「学校に求人は少なかったけど、美大やから看板屋とか印刷屋とかが、わりと多かったんですよ、でもそっちの方面はあんまり興味がなかったしなあ。京都やから染工場も結構ありましたよ」
「彫刻が専門やったんやろ。原木をノミと金槌で削っていくんやろ」
「彫刻科って言うてもいろいろあるんですよ。俺は版画をやってました。木版です」
「ほな、彫刻刀を使って彫っていって、専用のインクを付けて紙に写していくやつやな。小学校の美術の時間とかにやるのと同じようなもんか」
「まあ基本は一緒やね。もっと大きな板に彫って、それを何枚も並べて、もっと大きな紙に摺ることもあるんですよ。浮世絵も版画ですよ、あれは色別に色の種類分の版を彫って、多色摺りの絵が仕上がるんです」
「それって型紙を使って、きものの模様を付けていくのと同じやなあ」
「そうなんですよ、初めはあんまり興味がなかったんやけど、たまたま会社見学に来た時にそれを見て、面白そうやなあと思って直ぐに履歴書を送ったんですよ」






・拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

にほんブログ村 旅行ブログへ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
・応援いただき、ありがとうございます。

2010.10.22 / Top↑
 野田は面接という雑談だけの就職試験を難なくクリアーして、夏樹と同じ会社に就職した。入社して直ぐに型紙を使って模様を染めていく部門に配属された。入社して三年目、楽しく仕事をこなしているようだ。
「仕事はやりがいがあるし、面白いですよ。版画は趣味として少しやってます」
「そうかあ、それはなによりやなあ」

 そんな話をしながら、一本目の缶ビールを飲み干した。船内の柱時計は、まだ午前十時を少し過ぎたころだった。今日はとても一日が長く感じる。この後もフリースペースで乗客ウオッチングしたり、船内探索と称して、うろうろと廻って見たりもしたが、そんなに広い船でもなく、ほとんどが客室なのだから見て回れる場所は、かぎられている。直ぐに全部を見て廻ってしまった。
「今度は缶ビール持って、甲板に行こうか。暑いところで冷えたビールは美味しいのとちゃうか」
「いいですねえ、そうしましょう。今度は俺が買ってきますよ」
 そう言うと野田は自動販売機へ向かった。
 甲板からは360度の水平線しか見えない。空には雲がほとんどなく、甲板の床は夏の日差しに炙(あぶ)られ、熱くなっている。床に座り込んで、短パンの下から出ている素足で直に触れることはできなかった。
「やっぱり暑いなあ」
「けど、風は気持ちが良(い)いやないですか」
「そやなあ、ビールもよよう冷えてるし、なんかこの開放的な風景の中で、昼日なかからのビールが、心地よい酔いを・・・」
 夏樹は低い段差でつまずき、転びそうになった。かろうじて右手に持っていたビールをこぼすことはなかったが、ビーチサンダルしか履いていない右足の二本の指がかなり痛手を被ったようだ。
「あいたたった・・」



・拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

にほんブログ村 旅行ブログへ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
・応援いただき、ありがとうございます。

2010.10.26 / Top↑
 何もやることがなく、何の目的もなく、ただ時間が過ぎるのを待つことが、こんなにも退屈で時間の経過が長く感じるものなのだと強く思った。帰りのフェリーでの時間の過ごし方の対策を、考えておく必要がありそうだ。
「テレビがもうちょっと普通に映ってくれたら、暇つぶしになるかなあ」
 雑音交じりで、不鮮明な画像には時々、韓国語らしき言葉が聞こえてくる。鮮明に映ったとしても、暇つぶしの材料にはならないかもしれない。

甲板1

(三十年近く前のネガです。傷が入って見ずらいですが、ご容赦下さい)

甲板2


 ようやく陽が傾いてきた。水平線に沈む夕陽が見られるのではないかと期待したのだが、日中には殆どなかった雲が俄かに湧き出てきて、水平線近くにへばり付き始めた。水平線に丸く赤い夕陽が、ゆっくりと沈んで行く姿を見ることはできそうになかった。

 夕食はディナーバイキング。朝食のそれよりも高い値段だったが、これを省略したのでは明日までは腹が持たない。仕方なくレストランへ入って行った。
 夕食後の時間の過ごし方は、昼の間に決めておいた。映画の鑑賞会が行われることを、フロントの近くに張ってあったポスターで情報を仕入れていた。今日の上映作品は「男はつらいよ」寅さんである。
 映画館のように折りたためる椅子が整然と並び、後ろの席ほど目線が高くなっていくようなところではなかった。多目的に使えるスペースに、横が五メートルほどの白い幕を垂らし、椅子はまばらに置かれていた。床がカーペットになっているので、空いたスペースにそれぞれが気ままな恰好で座ったり、横になったりして寅さんを見る人たちもいた。
「これで二時間はゆっくりと時間を過ごせるなあ
「八時からの上映やから、その前に風呂に入りませんか」
 二人はタオルと換えのパンツを持って浴場に向かった。


・拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

にほんブログ村 旅行ブログへ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
・応援いただき、ありがとうございます。

2010.10.28 / Top↑
いよいよ北海道上陸!

 寅さんを見終わり、またフリースペースへ行き缶ビールを買い、二人で飲んだ。
「明日は晴れるやろか」
「そうやねえ、テレビもまともに映らへんからなあ、どうなんやろねえ」
 明朝は五時に小樽に着く予定だ、その前に荷物を整理してバイクのところへ向かわなければならない。今日は早めに寝ることにした。
 
 朝、四時に起床。陽はまだ出ていないが、部屋の窓から見た空には雲が一つもなく、快晴を予感させた。着替えを済ませ荷物を整理し、船底の駐車場へ向かった。
「野田、あさっての出港時間は何時やったかいなあ」
「午前の十時です、遅れんように気を付けて走ってくださいね」
「俺は明日には小樽に戻って、市内のユースホステルに泊まるから。お前も気をつけてな」
 それぞれの車とバイクの置いているところへ向かった。すでに多くのライダーがバイクに荷物をくくり付け、エンジンをかけて出口の方面へバイクを走らせ、ゲートが開くのを待ちわびていた。
 出口ゲート付近は多くのバイクのエンジン音が、轟音となり船底の中を響きわたった。
 五時前にゲートが開き、車なら一台分の金属製の橋が陸に向けてかけられている。そこを二台のバイクが並んで、次々と降りていき、そのままそれぞれの目的地に向けて散らばって行った。登って間もない黄色い太陽が、散らばって行ったバイクを照らしていた。
 夏樹も前にいたバイクの後に付いて橋を降り、高速道路のインターチェンジに向かって走った。昇ったばかりの太陽がまぶしかった。夏真っ盛りのお盆の十四日なのに、皮のジャンパーに皮のモトパンを履いている身体は少し寒さを感じた。
 


・拙い文章を読んでいただきありがとうございます。

にほんブログ村 旅行ブログへ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
・応援いただき、ありがとうございます。

2010.10.31 / Top↑

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。