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 翌朝の早い時間からバレー部の高校生たちが、ドタドタと歩き廻っていた。トイレと洗面所へ我先にと向かって行くようだった。しばらくすると大きな声で「おはようございます」という声があちらこちらから聞こえてきた。先ほどのドタドタは一年生で、たったいま二年生が起きてきたようだ。先輩への挨拶が狭い廊下のあちこちで発せられているのだ。
「お前ら声が大きい。他にも泊まっている人たちに迷惑だろう」
 先生の太い声が聞こえてきた。すると少しだけ声のトーンを落として挨拶する声に変わった。
「先生の声が一番大きいのとちゃうか」夏樹の心の声が囁いた。
 ユースホステルでの朝食は和食のところが多い。夏樹は子供のころから朝はパン食だったため、朝から米の飯が通りにくい喉になっていた。そこでユースホステルではできるだけ朝食は頼まず、前日にパンを買っておくこともあった。この日も小さなアンパンの五個入りを昨日に買った。食堂でお湯だけをもらって紅茶を入れた。
「おはようございます」
「オハヨ ゴザイマス」
 女子大学生と台湾の留学生が一緒に食堂に入ってきた。
「おはようさんです、なんか朝から賑やかやったねえ」
「彼らの今日の大会は、全国大会が懸かっているらしいの、それで朝からテンションをあげているみたいなのよ」
「詳しいですねえ」
「さっき聞いてみたんだ」
 女子大学生は小さな手提げ袋からサンドイッチと小さな水筒を出した。
「朝めしを頼まなかったの」
「だってここの朝食って、メロンパン一個とパック牛乳だけだって聞いたからね、それならこれのほうが良いかなって・・・」
「ほんまかいなあ、パン一個と牛乳一本だけって」
「他のユースホステルに泊まった時に聞いた情報なんだけどね。本当だったらいやだやからさ、昨日、近くの店で買ったの」


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2012.09.01 / Top↑
 朝食後、ユースホステルを出発してひとまず函館駅に向かった。大きい荷物をロッカーに預け、カメラなどの必要なものだけをDバッグに詰め、函館観光に向かった。
 路面電車に乗り函館山方面へ行き、旧函館公会堂、ハリスト正教会、外国人墓地などを見て廻った。入館料が必要なところは外から眺めるだけ、貧乏旅行の悲しい現実である。他の二人も、昼前には次の目的地に向けて列車に乗りたいと言うので、あまり時間をかけて見学をしないで立待岬へ向かった。
「わたし、石川啄木の大ファンなんです。だから啄木の墓がある立待岬には、絶対に行きたかったの」
「石川啄木。聞いたことはあるけど、ようは知らんなあ。ほな電車にまた乗って、行きましょうか」
 最寄の市電の駅に降りて狭い登り道を二十分ほど歩くと視界が開け、海が見えてきた。
「ここですよ、啄木の墓は・・・」
 女子大学生はその場に突然、座り込んでしまった。
「ダイジョウブ、デスカ」
「どないしたんや、急に」
「すみません、感動のあまり少し足の力が抜けてしまって。大丈夫ですから、ごめんなさい」
 留学生と夏樹はお互いの顔を見て微笑んだ。女子大学生はそこに座り込んだまま啄木に思いを馳せているようだった。
「誰かに頼んで、三人で写真を撮ろうか」
「じゃあ、わたしのカメラで撮りましょう。帰ったら送りますから、送り先を教えてくださいね」
「楽しみに待ってるは」
「ハイ、楽しみデス」

   旧函館公会堂
      旧函館公開堂

             ハリスト正教会
                 ハリスト正教会

                   立待岬にて
                     立待岬にて

 後日談。
 数ヵ月後、実家に帰ると、この時の女子大学生から手紙が届いていた。北海道各地を列車で回り、お盆のころには厚岸の民宿で住み込みのバイトをしていたと書かれていた。夏樹もその民宿には函館から数日後に訪れ、一泊したところだった。とても面白いオーナーで・・・、この話は数日後に現場にたどり着いた時に綴ることにする。

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2012.09.07 / Top↑
 昼近くになり函館の駅へ戻り、女子大学生は新冠へ、留学生は札幌へ向かって列車に乗って行った。旅は道ずれ、途中までは同じ列車に揺られて行く二人を、駅のホームから見送った。夏樹は駅の近くのラーメン屋で、少し早めの昼を食べ、今度は国鉄の列車に乗って五稜郭へ向かった。函館駅から一両だけのディーゼルカーに乗り次の駅が五稜郭駅だ。バイクの修理ができるのは午後三時の予定だった。
 二十歳のころ幕末の時代小説を読み耽っていたことがあった。始まりは坂本竜馬だったように思う。幕末から維新への流れのなか、後半に出てくるのが函館五稜郭である。小説に出てきた登場人物などを思いだしながら五稜郭公園へ入って行った。
 タワーに登れば五角形の星型がよく見えるのだろうが、入場料がかかるのでやめた。公園内をゆっくりと見て廻った。
 北海道の六月は花の季節だと聞いたことがある。あまり花には興味がないが、五稜郭公園内には藤の花が盛りを迎えているようだ。天気もよく絶好の藤の花見日和となった。

          五稜郭

                    五稜郭2

 五稜郭をあとにして函館の駅に戻り、路面電車に乗ってバイクのサービス工場へ向かった。
「できてますよ」
 工場に入ってすぐのところに、修理を終えた夏樹のバイクが置かれていた。
「ちゃんと直ったんですね」
「はい、壊れた部品を交換しただけだからね、そんなに難しい作業じゃないよ」
「ありがとうございます。気持ちがようやくゆっくりしました」
 交換された部品と工賃が書かれた書類を渡され、思ったほど高くはなかったので安心した。修理代金を払い荷物を括り付け出発の準備をした。
「本当にありがとうございました。北海道に入ってすぐの事故でした。これからはこのことを肝に銘じて安全運転で旅を続けたいとおもいます。ありがとうございました」
 夏樹はサービス工場の担当の人に何回も何回も頭を下げて礼を言った。



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2012.09.11 / Top↑
 すっかり良くなったバイクに跨り、まずは本屋へ行った。北海道のガイドブックを買うことにした。地図は大きく見やすいのあるが、何処に何があるのかまでは詳しく書かれていない。ユースホステルの場所はユースホステルガイドブックと地図を見れば分かるが、キャンプ場や観光地のガイドまでは載っていない。近くの本屋で適当なガイドブックを買い、早速函館に近いところにキャンプ場がないか調べた。
 函館市内から二十キロメートルほどのところに、大沼公園キャンプ場を見つけた。駒ケ岳の噴火により堰き止められた湖で、国定公園に指定されている。その湖畔に三ヵ所のキャンプ場があるようだ。
「よし、今日はここでキャンプや。天気もよさそうやし、昨日も、おとといもユースホステルに泊まったしなあ」
 三日に二回はキャンプをして旅費の節約をしようと出発前に決めていたのだが、二日続けてのユースホステル泊まり、今日は必ずキャンプしなければ。
 地図で大沼を確認し国道五号線を北上した。昨日は突然の衝突事故でよく分からなかったが、函館の市街地から少し北へ行くと七飯町に入るのだった。その七飯町に入ってすぐのところに、昨日の事故現場があった。夏樹が転倒した痕跡は何も残っていない。当たり前と言えば当たり前であるが、夏樹の心には大きな痕跡が残った場所だった。
 事故現場からさらに北へ五分ほどのところに、サービス工場へバイクを運んでいただいた自転車屋さんがあった。
「昨日はどうも、ありがとうございました。おかげさまで、バイクもちゃんと治りました、本当にありがとうございました」
「いいってことさ、困ったときはお互いさまだろう、これから何処まで行くんだい」
大沼公園のキャンプ場へ」
「そうかい、今なら兄さんみたいなバイクに乗った若者がいっぱい来ているよ」
 そう言いながら武田さんはアイスキャンディーを渡してくれた。
「いや、俺がお世話になったのに、またアイスをいただいたのでは・・・」
「今日も暑いから、これを食ってからゆっくりと行きな。大沼までだったらすぐだから」
「はい、おぉきに、いただきます」


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2012.09.17 / Top↑
 アイスキャンディーをご馳走になり、もう一度お世話になったお礼を言って自転車屋さんを出発した。
 大沼のキャンプ場へ入る前に今日の夕食と明日の朝食用のパンを買いに国道沿いのスーパーへ入った。レトルトのカレーと肉じゃがの缶詰、缶ビールを一本、五個入りのあんパン、それと秋田でのキャンプのときに箸をなくしてしまったので、スプーンとフォークも買った。
 大沼キャンプ場に着いたころには、だいぶ陽も傾いた六時半ごろだった。すでにあちらこちらにテントが張られ、その横にはバイクが停められていた。キャンプ場全体に木々が植えられているが、何も植えられていない広いスペースに、焚き木を中心に十数人の男たちが輪になって談笑していた。
「今からテントを張るのですか。準備が終わったらこっちに来ませんか」
 輪の中にいる一人の男が夏樹に声をかけてきた。
「おぉきにぃ、テントを張って飯が炊けたら、行きます」
 適当なところにバイクを停め、荷物を降ろしテントを張った。水場へ行って一食分の米をコッヘルで研ぎ、そのまま適量の水を入れてテントへ戻った。
「こっちで飯を炊いたら良いじゃないですか、早く一緒に飲みましょうよ」
 輪の中にいる別の男が大きな声で言った。片手には缶ビールのロング缶を持っていた。すると人が一人ゆっくりと輪に入れるスペースが、夏樹の目の前に作られていた。
 コンロと米の入ったコッヘルと水だけが入ったコッヘル、缶ビールと肉じゃがの缶詰にスプーンとフォークを目の前に並べた。コンロに火を付け米の入ったコッヘルを置いた。
「何処から来たの」
 顔を赤くしてアルミ製のカップを片手に持った男が夏樹に声をかけた。その男の前には小ぶりのビンに入った焼酎が置かれていた。
「俺は京都から、今日、青函で上陸しました」
「ということは、京都から陸路をここまで来たんだ。俺は東京なんだけど、仙台からフェリーに乗って苫小牧に上陸して、ここに来たのは・・・四日前かな」
 仙台からフェリーに乗って苫小牧。どこかで聞いたようなフレーズだった。

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2012.09.22 / Top↑
「さっき、四日目って言わはった・・・?」
「そう、このキャンプ場に四泊目だよ」
「へええ、何で一箇所に四回もキャンプをしたはるの」
「まだ、花の季節にはちょっと早いからねえ」
 すると四日目の男とは別の男が夏樹の後ろから声をかけてきた。
「俺は今年の北海道は五回目の夏なんだけど、いつもの年より花が遅いみたいなんだよねえ」
「五回目って、毎年、北海道に来てはるの・・・」
「そうだよ、夏は北海道で牧場の手伝い、冬は沖縄に行ってサトウキビ畑の手伝いをしてるんだ。でも牧場の仕事は来週ぐらいからが忙しいからねえ、もう少しここで皆と過ごしてから行こうと思っているんだ」
「もう少しここで過ごすって、この近くになんか面白いところがあるのかなあ・・・。そんなとこがあるんやったら、教えてくださいよ」
「いやあ、別におもろいとこって言うても、沼と山と木ぐらいしかないけどなあ」
 焚き木を中心にした輪の向うのほうから、大きな声の関西弁が聞こえてきた。
「おれは、大沼に七日目やなあ。特別この辺にはおもろいもんなんかないで、ただ函館の市場に行ったら新鮮な魚が買えるさかいなあ。それをここへ持ってきて、料理して皆で食べんねん、これがまた旨い、北海道のこの焼酎が、また旨いねん」
 朝早くに函館の漁港にある市場へ新鮮な魚介類を仕入れに行き、このキャンプ場に持ち帰り、魚を焼いて少し遅めの朝飯のおかずにする。朝が早かったので少し早めの昼寝をして、夕方の三時ごろから朝市で仕入れた食材を持ち寄り、ゴードー焼酎を飲みながら宴会が始まる。連泊者も夏樹のように始めてこのキャンプ場へ来た者も一緒に輪になって宴会をするのだと言う。
「ほな、いつまでここにキャンプをするんですか」
「さあ、そのうち花が咲き出したら出て行くのかなぁ。とりあえず明日も函館の市に行くやけどね、自分も一緒に行かへんか・・・」
「いやあ、俺は行きたいところがあるんで」
「そうかあ、残念やなぁ、朝市の魚は美味しいでえ」
 関西弁の男はアルミ製のカップに入った焼酎をグイッと飲み干した。


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2012.09.27 / Top↑
「こんばんは。俺もここに座っていいですか」
 大学生だろうか若い男が輪に入ってきた。
「どうぞ、ここのキャンプ場は皆のもの、誰に遠慮など要りませんから、どうぞお好きなところへ」
 夏樹の隣の男が自分の隣を進めた。夏樹も少し横へ寄って場所を作った。
「皆さんはバイクでいらしてるんですか」
 若い男が言った。
「バイクでここへ来た人・・・」
 夏樹の隣の男が大きな声で輪にいる男たちに言った。若い男以外の全員が「はあい」と手を上げた。
「やっぱりバイクの方がいいですよねえ、自転車は疲れますし、距離も稼げないですから」
「自転車で来たのですか。いや、尊敬するなあ。自分の力だけで前に進むわけだから、それもテントや重い荷物を積んで走るんでしょ。バイクはアクセルを握っていればどんな登り坂も前に進んで行くからねえ」
「ほんまやなぁ、自転車の人はすごいと思うわ」
 夏樹も会話に参加した。
「関西から北海道にいらしたのですか」
「はぁ、昨日ね、青函フェリーで函館に着いたんです」
「ずいぶんと遠いところから、俺は札幌に住んでいる学生です。ちょっと三日ほどの旅に出たのですが、今度は中免をとってバイクで廻りたいですよ、自転車は疲れますよ」
 大学生と夏樹の隣にいた男と三人で旅の話や何処から来たとか、他愛無い会話をした。
 陽が完全に沈み、辺りがだいぶ暗くなってきた。輪になっている男たちはそれぞれの酒を傾けながら、思い思いの会話を楽しんでいた。その時、突然大きな音がキャンプ場中に響き渡った。どこかで聞いたことのある演歌のイントロが、何処からだろうかスピーカーから流れているようだ。
「おいおい、キャンプ場でカラオケはいかんやろ」
「あそこの団体さんみたいやなあ。俺が行って言うてくるは」
「俺も行くよ、君のしゃべり方じゃあ喧嘩になるかも知れないからね」
「喧嘩なんかせえへんて」
「まあ、良いじゃないか、一緒に行こうぜ」
 夏樹から見て輪の向う側にいる二人が立ち上がり、大きな音がする方へ歩いて行った。



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2012.09.30 / Top↑

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