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 生まれて初めて寿司屋のカウンターで食べる寿司は、最高に旨かった。大将の職人としてのこだわりの話も面白く、なるほどと頷けることばかりだった。石垣の話も面白かった。現在の小樽運河は観光用に綺麗に整備されているが、当時は歴史ある趣の運河を埋め立てる話があり、多くの地元住民は反対運動をしていたようだ。「小樽からこの運河がなくなれば小樽じゃなくなる」「運河は小樽の象徴だ」とお役所とやり合う先頭に立った一人が石垣なのだ。
「あいつらは、小樽の発展のために運河を埋め立て、道路にすると言いやがるんだ。でもこの運河があるから小樽なんだよ、埋め立ててしまったら小樽じゃないじゃないか」
 酒も入っていないのにかなりの見幕で捲くし立てていた。
「ちょっと、落ち着いて。運河のこととなると熱くなるんだから。この人に熱弁したって・・・、困るよねえ」
 石垣の奥さんが夏樹の顔を見て言った。
「そうだな、ごめんよ。でも他所から来た人にも俺の、この気持ちを少しでも分かってほしいんだよ」
 石垣はそう言って夏樹の肩をぽんと叩いた。
「はい、ちょっとだけわかります。何でもかんでも新しくすれば良うなるなんて思ったって、あきませんやろ。役所の人間はちょっと偉ぶる奴が多いからねえ、俺もちょっと役所の人間とやりあったことがありますねん」
「ほうぅ、なかなか面白いやつだなあ。仕事も住むところも世話するから、小樽に住まないかい」
「いやあ、いいところですけど、まだそこまでの気持ちは・・・」
 なにを馬鹿なことを言っているのかと、石垣の奥さんが石垣の背中を少し強く叩いた。それから運河の話がしばらく続き、寿司屋の大将も握り終えてからは一緒に運河の話を語り始めた。
「あの時は面白かったなあ。測量をするからと、大きな重機を河岸に持ってきて長い杭を打った時だよなあ」
「そうそう、われわれ反対住民がその現場を取り囲むなかで重機がコンクリートの杭を打ったのだけれど、川底の土が予想以上に軟らかかったのか、打ち終わった杭が斜めに傾いたんだよ」
「そうそう、そしたら取り囲んだ俺たち皆が拍手をして喜んでさあ」


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2012.11.02 / Top↑
 石垣と寿司屋の大将は小樽運河のことや、市民の有志が立ち上げた祭りの話などを聞かせてくれた。その後どのような経緯を辿っていまのように整備された運河になったのかは分からない。もしかすると反対運動が埋め立てを阻止し、観光客を対象にした整備された運河になったのではないかと思う。
「ご馳走さまでした。こんなに美味しいお寿司を食べたのはじめてす」
「さあ、夏樹君、飲みに行くよ」
「えっ、飲んでしもうたらバイクに乗れなくなってしまいますから」
「タクシーで送って行くから大丈夫さ」
「けど、そしたら明日の朝が困りますから、今日はこれで宿の方へ・・・」
「無理にさそっちゃ悪いわよ。長旅で疲れているのよ、ねえ・・・。あなたも明日は早いでしょ」
 石垣の奥さんが夏樹を気遣ってくれた。
「じゃあ明日、ちゃんと準備をして初めから居酒屋に行って、ゆっくりと飲みながら話をしようじゃないか。なんだか大田に久しぶりに会ったような気がしてさあ、とても楽しいんだよ」
「あなた何を言っているのよ。明日から東京に買い付けに行くんでしょ」
「ああっ、そうか。じゃあ北海道を離れる時にもう一度小樽に寄ってくれよ」
「おぉきにぃ、ありがとございます。今日は本当に美味しかったです」
 夏樹たち三人は寿司屋を後にして石垣の店に戻った。預けていた荷物をバイクに積み、紹介してもらった民宿に向かった。

「こんばんわぁ、遅くなりました」
「お帰りぃ、夏樹さんね。お風呂が沸いているからどうぞ。男の泊まりは、あなただけだからミーティング無しにしまぁす」
「えっ、男は俺一人なんですか」
「そうだよ、残念だなあ、この宿のミーティングは面白いのになあ」
 どことなく愛嬌があり、関西風の訛りがあるのだが、関西人ではなさそうだった。
 小樽名物の坂を登ったところに、古い佇まいの民家がある。手作りの看板に「ぽんぽん船」と書いてあった。うっかりすると見逃してしまいそうな小さな宿だ。当時、北海道に少しずつ建ちはじめた民宿だ。民宿といってもユースホステルのように男女別で相部屋、低料金の宿である。
「夏樹さん、すみません、大事なことを忘れてました。ここに名前と住所を書いてください」
 そう言ってさっき出迎えてくれた男が、笑顔で一枚の紙を差し出した。


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2012.11.09 / Top↑
 差し出された紙に名前と住所と実家の電話番号を書き、その男に渡した。それと引き換えにシーツを一枚渡された。
「夏樹さんは・・・、京都ですか。一人旅をしている女性も京都の人やったなあ」
「はあぁ。きょうの泊まりですか」
「そうそう、今日の泊まりはその女性と、あなたの二人だけ」
「はっ、そうなんですか」
「たぶん、もう寝たと思うよ。夜行で青森まで来て連絡船に乗って、函館から真っ直ぐ小樽まで来たって、言ってたから。風呂入って、めし食ったら疲れた顔をしてたわ」
「そうですねえ、夜行は疲れますからねえ。と言うことは、昨日、京都を出て来たんやろなあ。俺なんかここまで・・・」
 夏樹は右手の指を一本づつ折りながらここまで何日間で来たか思い出した。
「九日目かな、途中で山形の月山に二泊やから・・・。分からんようになってもうた」
「ところで、明日は早く出かけるのかな」
「いいえ、どこへ行くかも決めてないんで、適当です」
「じゃあ、朝飯は七時半頃でいいよね。それより早いのは困るけど、遅いのは構わないから」
「はい、ちょうどいいころです。ゆっくりと寝てますから」
「けど、一応チェックアウトは十時だから。部屋はその部屋ね」
「はい、じゃあ、お休みなさい」
 洋風の扉を開くと畳が一面に敷かれた和室だった。しかし壁は白く塗られ、下半分は板が張られていた。和洋折衷の部屋だ。
(私の記憶が間違っていなければ、なのです。詳しい事情をご存知な方は遠慮なくコメント欄に「そんなんじゃねーよ」とご意見ください)
 八畳の部屋のど真ん中に布団を敷き、一人で寝た。なんとなく落ち着かないのだけれど、以外に早く寝入ったようだ。
 翌朝、目が覚めたのは朝食の時間の七時半だった。本日も良い天気だ。
「おはようございます」
 部屋を出たところにちょうど受付をしてくれた男が立っていて、微笑みながら声をかけた。
「おはようございます。ちょっと寝坊をしたみたいですねえ」
「いやいやだいじょうぶですよ。もうちょっとで朝飯の用意ができますから、そちらの部屋で待っていてください」
 その部屋は建物の中心部分あたりだろうか、広々とした畳の部屋の向うに縁側があり、その先には小さな庭が、さらにその先には小樽の海が眼下に広がっていた。


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2012.11.15 / Top↑
「おはようございます」
 縁側には一人の女性が、小さな卓袱台の横に座り、朝食を食べていた。
「どうも、おはようございます。朝食は私たち二人だけのようですね」
「そうみたいですねえ、俺は昨日の遅くにここに来たから・・・。一人で来たはるんですしょ」
「あれ、関西の方ですか?私も京都からなんです」
「そうです、昨日ここに来たときに、俺と同じ京都から来てはる女の人が一人と、俺だけが泊まりやって聞いてました。なんかおとといに夜行に乗って、昨日ここに着いたって、あの男の人が言うてはったけど」
「そうなんです。周遊券やし休みが二週間しかないんで、できるだけ速く北海道へ来たかったんです」
「北海道は広いから、ちゃんと時刻表を見て計画を立てんと、いろいろと難しいのちゃいますか?」
「そうみたいですけど、とりあえず「ぽんぽん船」に来ることしか考えてなかったんで、今日の行動は昨夜にあのオーナーさんに相談に乗ってもらって決めました」
「あの男の人がここのオーナーさんですか」
「岡山から来て、この家を買って民宿を始めたみたいですよ」
 そんな話をしているところへ、オーナーが夏樹のご飯と味噌汁を持ってきてくれた。焼き魚と煮物、生卵の入った器、そして一人用の納豆のパックは夏樹が卓袱台の前に座ったときに置いてあった。
「やっぱり夏樹君も納豆は食べないのかな・・・」
「そうですねえ、ちょっと苦手というより、絶対に無理ですね。ほんで生卵もちょっと、あきませんねぇ」
「こちらの彼女もあかんて、言うてたから夏樹君もたぶんそうなんやろなあって・・・。じゃあ納豆と生卵はもらっていくね。代わりに味付け海苔を持ってきてあげるよ」
「おぉきに、すんません」
 縁側に置かれた卓袱台を挟んで京都から来た女の人と向き合って座り、庭の風景と、その先の小樽の街、港を見ながらの朝食は心が落ち着いた。こんな気持ちの良い朝飯を食べたのは始めてだと思う。そして、小樽港から吹いてくる潮風がとても心地良かった。




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2012.11.18 / Top↑
 ゆっくりと時間が流れていき、ゆっくりと朝食を食べた。食べ終わるころに、さあて今日はどこまで行こうかな。
「今日はどこまで行かはるんですか」
 卓袱台を挟んで向かいに座っている女性に聞いた。
「今日は小樽市内を廻って、札幌まで行ってみようと思います。ヒゲさんはどちらまで・・・」
「そうですねえ、まだ決めてないんですけど、地図を開いて考えますは。北海道には二週間いたはるんでしょ、ほな、またどこかで合えるかもしれへんねえ」
「そうですねえ、夏休み前やから、どこへ行ってもあんまり人が多くないのかなあ」
「いや、わからんよう。昨日、キャンプした大沼にはライダーが十人ぐらい居て、まだ道東の方は寒いからとか、花がまだ咲いてないからとか言うて、大沼に何日もテントを張ってる人もいたから、場所によっては人が大勢いるのかも知れへんねえ」
 京都から一人で旅をしている女性は、社会人として三年目になり、日ごろは休みが少ないのだが、一年に二回、三週間の連続休暇をとれるのだそうだ。取れると言うより取らされるのだそうだ。日ごろに週休二日がいいのか、日ごろ休みが少ない分をまとめて三週間も休む方がいいのか、若い時は後者のほうが良いのかも知れない。家庭を持てば週休二日のほうが良いように思う。
 朝食を食べ終え部屋に戻り、一ページがA三サイズの大きな地図を広げて小樽を探し、その真南に洞爺湖を見つけた。
洞爺湖って何かで聞いたことがあるなあ・・・、青函連絡船の名前やなあ。よし、今日は洞爺湖へ行ってみようか」
 ガイドブックを開き洞爺湖にキャンプ場がないか調べてみた。湖畔には四ヶ所のキャンプ場があることを確認して出発の準備をした。
 夏樹より先に一人旅の女性が先に「ぽんぽん船」を出発した。オーナーと夏樹の二人で見送り、そしてすぐに夏樹もバイクに荷物をくくり付けオーナーに見送られて出発した。もう十時を少し過ぎていた。いつもよりもかなり遅めの出発となった。



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2012.11.23 / Top↑
 ぽんぽん船を出発し、昨日の礼を言うためにひとまず石垣の店に寄った。二、三泊ほどの着替えが入っていそうな大ききのバッグを持った石垣が、ちょうど店から出て来た。
「夏樹君じゃないか。あの民宿、なかなかいいだろう。あのオーナーが面白い奴でさあ、家から近いんだけど、ときどき酒持って泊まりに行くんだよ」
「味があっていいところですよね。特にあの縁側がとても気にいりました」
「確か、ライダーが集まる宿みたいなのを造りたいって、言ってたよなあ」
「はあ、夢ですけどねえ」
「小樽でやりなよ、物件は俺が探してやるから。それに関西からのフェリーが発着するから、関西人がいっぱい来るんじゃないか」
 石垣は自分が何時の列車に乗り空港に行かなければならないのか、頭の中には無いのだろうか。荷物を足元に置き夏樹と話をすることに夢中になっていた。
 とにかく小樽は良いところだから、小樽に住むことを半ば強引に進めた。ますます石垣が熱く話をしているところへ、石垣の奥さんが走って飛んできた。
「あなた、何をしているの、電車の時間、分かっているよね。もう、乗り遅れちゃうよ」
「いっけねえ、つい夏樹君と喋りこんじゃったよ。御免な北海道をぐるっと廻ったら、必ず寄ってくれよ。まずいまずい、じゃ必ずな。行って来ぁます」
 石垣は腕時計を見ながらバッグを持ち上げ走って行った。少し呆気にとられた夏樹と石垣の奥さんが取り残され、いままでとは反対の沈黙の時間が過ぎた。先に口を開いたのは石垣の奥さんだった。
「夏樹君、コーヒーを入れたから飲んでいかない」
「おぉきにぃ、いただきます」
 バイクを店の前に停めヘルメットをミラーに被せ、グローブを取りながら店に入って行った。石垣の奥さんにも小樽の良いところの話を聞かされ、小樽に住むことを進められた。三杯のコーヒーをご馳走になり、店を出て洞爺湖へ向かったのは昼近くになっていた。


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2012.11.26 / Top↑

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