上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
 風呂場に今日はじめて会った三人の男が、親しく会話をする。旅館やホテルではあまり見られない光景だろう。
「自分、どこから来はったん」
 夏樹と同じ年ぐらいの男に聞いた。
「自分・・・?」
 そう言って夏樹を指差した。
「あっそうか、俺やのうて、あなた」
 そう言ってその男に指を差した。
「あっ、おれ、俺は東京から。去年の春に仕事を辞めて放浪中なんだ」
「ほな、放浪の旅を二年目っちゅうことかいな」
「そういうことやね」
「けど、バイクも自転車もなかったと思いましたけど」
 香川から来た男が言った。
「自転車が一台あったでしょ、玄関の脇に」
「んん、ハンドルのところに籠が付いた買い物自転車があったような・・・」
「そう、そのママチャリが俺の愛車」
「ええ、あれで全国を廻るのかいなあ」
「本当はね、ナナハンのバイクに乗っていたんだけどさ、今年の五月に北海道に再上陸して快調に飛ばしていたら、ネズミ捕りに捕まっちまって、30キロオーバーで即、免停さ」
「ほな、そのナナハンはどうしたん」
「札幌の近くで捕まったから、札幌のダチに預けて、そこの母さんのママチャリを借りてここまで来たのさ」
「はあ、そこまでして放浪を続けるのかいな」
「電車とかを使えば、金がかかるし、まあ来年の春までに何かを掴めたらなあってさ。結局、急ぐ旅ではないしね」
「なんか、すごいな」
「いや、単に普通の会社勤めが向いていないだけのことさ」
「俺も、前に短い盆休みを利用して北海道に来たんや。三日しか居られへんかったんやけどな、運悪くハミ禁(はみ出し禁止)で捕まったから、慎重に走ってるんや。けど、免停になったらどうするやろ、旅を続けるやろか・・・」
「俺なら、ひとまずバイクをどこかに預けて、帰ってしまうやろな。そんな根性はないね」
 香川から来た男が言った。
「俺も急ぐ旅やないから、旅は続けるかな。けど移動にママチャリって言う選択肢はないかなあ・・・」
 そう言いながら湯船から立ちあがり、縁に腰を掛けた。



・拙い文章を読んでいただき、ありがとうございます。

    にほんブログ村 旅行ブログ 国内一人旅へ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
           にほんブログ村
・応援いただき、ありがとうございます。

          下記URLにて、鉄道模型ブログも公開を始めました。l
          そちらへもお立ち寄り下さい
             ⇒翼芭里鉄道建設記録
スポンサーサイト
2013.07.10 / Top↑
「そやけど、ママチャリで旅を続けるやなんて、自分、ほんま、すごいなあ。」
 夏樹はママチャリ男に敬意を込めてそう言った。
「だから、さっきも言ったけど、普通に会社に勤めていることが出来ないだけだって」
「まあ、そうかもしれへんけど、すごいわあ」
「でもねえ、毎日、ママチャリを漕いでいるからさ、足はもう、パンパンだよ、歩くのもつらいよ」
「そうやろなあ。一日に何キロぐらい走るの」
「多くても、100キロぐらいかな。峠の登り坂なんかは、ずっと押しながら歩いて登ったよ」
 夏樹たち三人は風呂で、裸で親交を深めていった。
「さて、そろそろ飯とちゃいますか」
 香川から来た男がそう言って脱衣場の方へ出て行った。
 風呂から上がり食堂へ向かった。すでにママチャリ男と夏樹以外の宿泊者は席についていた。この日の泊まりは風呂で一緒だった男三人と他に二人、女はカヌーを乗りに行った二人だけだった。
「これで本日のお泊りの方が全員そろいましたね。では、本日の夕食のメニューですが、霧多布周辺で獲れた新鮮な魚を使って、私が寿司を握ります。一応、食べ放題です。もし、皆さんの胃袋の容量が私の計算違いですと足りなくなりますが、その時はご容赦を。時にはオリジナル寿司も出てきますので、お楽しみに。それと、当民宿はユースホステルのような形態で運営していますが、お酒も飲めます。地元産の焼酎しかありませんが、一杯、百円でお願いしています。酒の量は各自の適量でどうぞ」
 まるで漫才師か講談師のように滑らかな口調で、満面の笑顔を作り話が進んだ。
寿司なの、私、お寿司大好き、楽しみだなあ」
 ショートカットの女の人が言った。
「はい、では彼女からどうぞ」
 新鮮なネタが乗せられた寿司が次々と目の前に出された。少しシャリは大きめだった。
「そろそろ、お腹がいっぱいになりましたか」
「もう十分ですは。もう入りまへん」
 夏樹は少々、食べ過ぎたようだ。焼酎の水割りによる酔いも、だいぶ廻ってきたようだ。
「なんだ、もう食べないんですか、これからがメイイベントなのに」
「私はまだ、全然だいじょうぶですよ」
 ショートカットの女の人が右手を上げ、笑顔で言った。


・拙い文章を読んでいただき、ありがとうございます。

    にほんブログ村 旅行ブログ 国内一人旅へ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
           にほんブログ村
・応援いただき、ありがとうございます。

          下記URLにて、鉄道模型ブログも公開を始めました。l
          そちらへもお立ち寄り下さい
             ⇒翼芭里鉄道建設記録
2013.07.15 / Top↑
 民宿のオーナーは彼女の言葉に驚きながらも笑顔を続けた。
「じゃあ、彼女には当店オリジナルの特別な寿司をご馳走しましょう」
 そう言って寿司用のシャリで少し大きめのおにぎりを作り始めた。魚の種類は分からないが、明らかに今までよりは大きな切り身のネタを二枚、卵型のシャリおにぎりに載せた。そして、その大きな寿司(?)を右手に高々と持ち上げ、ゆっくりと上下させながら「モスラーや、モスラー・・・」と言いながらショートカットの女の人に向かって行った。
その場にいたほとんど全員が言葉を詰まらせ唖然としてしまった。ただ一人、ショートカットの女の人だけは大いに笑い転げるほどに感動していた。
「当民宿オリジナルの『モスラのにぎり』です。召し上がれ」
 少し大きめの卵型おにぎりに、大きな切り身のネタをモスラの羽にみたてて載せた『モスラのにぎり』と言う食べ物が彼女の目の前に置かれた。
「わあ、面白い、カメラ持ってくるから、誰もたべないでね」
「いやあ、びっくりしたな、もう。すごいもんが出てきましたなあ」
 夏樹はちょっと古いギャグを言ってしまった。
「面白いでしょ、せっかく泊まってもらったのだから、少しでも楽しんでもらおうと思ってね。今日みたいにお客さんが少ない時だけしか出来ないけどね」
「最近は毎日のように出現していましたけどね・・・」
 オーナーの後ろに控えていたヘルパーの男の人が小さな声で言った。
「君も早くこの技を覚えてね・・・」
「はあい」
 部屋からカメラを持って来たショートカットの女の人は、『モスラのにぎり』を右に左に位置を変えながら数枚の写真を撮った。そして両手でその寿司を持ち、大きな口を空けてほぼ半分を口の中に入れた。その姿にオーナーも含め全員が唖然としてしまった。
「よっ、江戸っ子だね、いい食いぷっりだぁ」
 オーナーが言った。
 この夜はオーナーがここに民宿を始めるまでの話を中心に、夜更かしをしてしまた。旅好きが高じて北海道に住み着き、常呂にある民宿のヘルパーとなり、数年の修行の後にここに民宿を開いたということだった。そんな話を、面白おかしく聞いているものを飽きさせない喋りがとても楽しかった。

・拙い文章を読んでいただき、ありがとうございます。

    にほんブログ村 旅行ブログ 国内一人旅へ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
           にほんブログ村
・応援いただき、ありがとうございます。

          下記URLにて、鉄道模型ブログも公開を始めました。l
          そちらへもお立ち寄り下さい
             ⇒翼芭里鉄道建設記録
2013.07.21 / Top↑
 翌朝は快晴だった。しかし、目が覚めた時は八時になろうとしていた。焼酎を片手に夜更かしをし、床に入ったのは日付が変わっていたように思う。
「あら、もうこんな時間やんか・・・」
 時計を見て驚いたが、同部屋の他の二人はまだ眠っていた。タオルを持ってトイレに向かい、そして洗面所へ行く途中でオーナーに会った。
「おはようございます。ゆっくりと眠れましたか」
「おはようございます。少し寝坊をしてしもうたです」
「だいじょうぅぶ。チェックアウトは十時ですから、それまではゆっくりとして下さい」
「はい、でもとてもエエ天気なんで、あんまりゆっくりと寝てたら、もったいないですよ」
「そうですねえ、今日はどちらまで・・・」
「そうですねえ、まだ考えてへんのですが、根室半島、日本最東端ですか、行ってみようかな」
「夏樹さん、根室半東は最東端じゃないですよ。歯舞、色丹、国後、択捉の北方四島がありますから。地元では早期返還を心待ちにしていますから」
「あっそうか、認識不足でした」
 当時はまだソ連だった。いまだに北方四島は変換されていない。根室半島の先端にある納沙布岬では『北方領土の早期返還』と書かれた看板が多く掲げられていた。観光地と言うより、ここは国境地帯で様々な問題を抱えたところなのだと感じた。
「朝食はできていますから、いつでも食堂へどうぞ」
「はい、おぉきにぃ」
 食堂へは夏樹より先に女の人二人が朝食を食べていた。
「おはようございます」
「おはよう、もしかして二日酔い?・・・」
 ショートカットの女の人が言った。
「まさか、そんなに飲んでへんよぅ」
 夏樹が朝食を食べ終えるころには、宿泊者全員が食堂に集まっていた。昨夜と同じように会話が弾み、オーナーに「みんな、もう一泊していったら、今日も少ないからさあ」と言われた。
「おれは、今日も泊めてください。まだ、足が痛くて」
 ママチャリの男が言った。もう少しここのオーナーとママチャリ男の話が聞きたかったが、急がないけれど次に行くことにした。
 店の看板の前で記念撮影をし、他の宿泊者はそれぞれの目的地に向かうこととなった。

            霧多布里




・拙い文章を読んでいただき、ありがとうございます。

    にほんブログ村 旅行ブログ 国内一人旅へ にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
           にほんブログ村
・応援いただき、ありがとうございます。

          下記URLにて、鉄道模型ブログも公開を始めました。l
          そちらへもお立ち寄り下さい
             ⇒翼芭里鉄道建設記録
2013.07.28 / Top↑

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。