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 十五分毎ぐらいにサイロの上から干された牧草が降ってくる。降り終わると直ぐに三人で踏み固めていく、その繰り返しだった。黙って踏んでいると飽きてくるからと、神田が高田と夏樹に矢継ぎ早に質問をしてきた。
「高田君は札幌の大学生だろ、ナツ・・・、なんだっけ」
「ナツキです」
「そうそう、どっから来たんだっけ。おめぇさんも大学生か」
「いいえ、仕事を辞めてきました。京都に住んでました」
「京都か、俺も一度行ってみていなあ。なんで仕事を辞めてきた」
「いやあ、若いうちにゆっくりと旅がしたくて」
「ほうう、俺なんか牛がいるから、旅行は修学旅行で行った札幌だけだなぁ」
 牛の世話は一日も欠かすことができないのだと、神田に聞かされた。そんな他愛のない会話が続き、しばらくすると外から大きな声でサイロの外へと呼び出され、干し草がサイロへ降り注がれた。そんな作業が何回か続き、大きく陽が傾いてきたときだった。
「今日はこれぐらいにすっか」
 神田がトラクターを運転していた男に言った。
「んだなぁ、続きは明日にすっか」
 神田よりは十歳ほど若い風貌だった。後で聞かされたのだが、隣の牧場の人で、この周辺の牧場五軒で干し草の収穫を共同で作業をするのだそうだ。隣の牧場と言っても、車で十分ほどの距離にその牧場の住宅があるそうだ。
「高田君は、今日は宿に帰るんだっけな」
「はい、明日の朝にまた来ます」
「ナツ・・・キ君は泊まって行くか」
「あっ、いいんですか」
「かまわねえよ、あそこの宿みたいに綺麗じゃないけど」
「じゃあ、お世話になります」
「で、今日はおしまい、家に行って風呂に入ってゆっくりしてけろ、俺は牛の世話があっからよ」
「せっかくやから、俺も手伝わせてください」
「いいや、今日はだめだ」
 急に神田の表情が厳しくなった。仕方なく家に向かい、高田もユースホステルへと戻って行った。その時、高田が教えてくれた。
「慣れない人が牛に近づくと危ないのだそうです」
 詳しいことはその夜に神田から聞かされることとなった。

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2015.05.10 / Top↑

 神田牧場の自宅には神田の他に、五才の女の子とようやく歩き始めた男の子、そしてお腹の大きな奥さんの間もなく五人家族だ。夕飯にはトンカツがおかずとして食卓に上がっていた。
「おにいさん、何もないけど食べてください」
 神田の奥さんは夏樹の前に味噌汁とご飯を置き、大きなお腹を持ち上げるように、「よいしょ」とかけ声をかけながら立ち上がり台所へと行った。
「神田さんはまだ仕事ですか」
「もう少しで、乳しぼりも終わってくるころだから、冷めないうちにどうぞ。うちに来たら一切の遠慮はなしだからね、その代わり旅館みたいなごちそうは出せないから」
 台所に立ったまま奥さんが言った。その足元をようやく歩き始めた男の子が、足にまとわりつき、夏樹を警戒するように見ていた。五歳のお姉ちゃんは黙ってテレビに夢中になっていた。
「姉ちゃん、御飯だよ、こっちにおいで」
 お姉ちゃんはそう言われても微動だにせず、テレビに向かっていた。
「おかえりい」
 ちょうどそこへ神田さんが帰って来た。
「夏樹君、ビール、飲めるだろ」
「えっ、いいんですか。おれ、まだ大した仕事をしてませんけど・・・」
 と言い終わる前に、夏樹の目の前にはビール用のコップが置かれ、神田はビール瓶の栓を抜いていた。
「うちに来たら、一切の遠慮はなし。仕事をするときは頑張ってもらって、終わったらこれを飲んで、今日もご苦労さん・・・」
 神田はそういって夏樹の前に置かれたコップにビールを注ぎ入れ、自分のコップにも注ぎ、軽くカップを上げた。
「はい、お疲れさん」
 一気にそのビールを飲み干してしまった神田は、また直ぐに自分のコップにビールを注いだ。
「お兄さんも早く飲まないと、一杯だけで終わっちゃうよ。手伝ってくれた人が何人いても、一日一本だけなんだから、早い者勝ちだよ」
 その時、神田のコップに入っていた二杯目のビールが飲み干され、とりあえず空のコップが食卓の上に置かれた。牛と共に暮らし生活している一組の家族が、本当はとても大変なことも、いっぱいあるのだろうけれど、とても楽しそうな、幸せそうな家族に見えた。今日と、明日の二晩だけれど、夏樹も家族の一員として遠慮なく楽しませていただくことにした。

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2015.05.24 / Top↑

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