「夜のシーンを撮影していてな、ちょんまげのヤクザ見たいな役の男の人と、芸者さんの格好をした女の人が、行ったり来たりしてるんや」
石田が家の二階から見えた撮影現場のことを話しはじめた。
「その二人がすれ違う時に少しだけ会話をするみたいなんやけど、すれ違ったらすぐに『カット』って大きな声が聞こえて、その二人は元のところへ戻らはんねん、すると『ヨーイ』って聞こえると二人はさっきと同なじように歩き始めて、すれ違ったらまた『カット』や、たったそれだけやのに、何回も同なじことをやったはんねん」
「へー、なんか、しんきくさいなあ。その役者って有名な人か」
「いやあ、飛沢が知ってる人やないと思うで、俺も知らん人やからなあ」
「ちょっとしたシーンでも何回も何回も練習して、監督の気に入るまで何回も撮り直すみたいやなあ」
夏樹がテレビで見た映画監督の話の受け売りを話したが、すぐに石田が別の映画の話をはじめた。
「中学校の帰り道に、いつもの商店街で見慣れん屋台や、出店がいっぱいならんでてな、いかにも古臭いねん。戦前に生きてたわけやないけど、テレビとかで見た昭和初期風の色遣いの店ばっかりで、うろうろと歩いてる人もその頃の服を着たはってな、何やってはんにゃろてみてたら『ハイどうぞ今のうちに通って下さい』ってジーパン穿いた若い兄ちゃんが言うから、そのまま通りすぎたけど、あれはセットやなあ」
「あっ、それ俺も見たなあ、学校の帰りにジーパンを穿いた兄ちゃんが、両手を広げて見物人をこれ以上前に行かんように制止しててな、そしたら突然『パンパンパン』て聞こえてきて、バスタオルみたいな布だけを巻いた女の人が裸足で走ってきたんや。その後ろから右手を鉄砲みたいにして『パンパンパン』って言いながら走って来る男の人がいたなあ」
「夏樹、それってほんまの話しかあ、なんでバスタオルだけを巻いた女の人が突然走ってくるんや」
飛沢が信じられない話しだ、と夏樹を疑った。
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