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「こんにちは。いや、こんばんは。次の電車はいつくるのかな」
 とてもその風体からは想像もできないような細くトーンの高い声に
『エッ!何か期待はずれ』
 がちがちに緊張していた僕の体を一瞬にしてほぐしてくれた。

「電車は来ません」

「エッ、こないんですか。困ったなあ」
 もしかしたら今にも泣き出すのではないかといった困り果てた話し方になった。
「ここは電化されていない線路なんで、電車は来ぃひんよ」
「それは困った、そうすると今夜はここで野宿することになるのかなあ」
 ますます、声のトーンが高く細くなってきた。
「いや、そう言う意味とちゃいます。一時間後には次の列車が京都から来ますよ」
 狐につままれたような顔つきで僕を見つめてきた。良く見ると黒ぶちの眼鏡の奥には小さく丸い目が見える。かなり度の強い眼鏡のようで、眼鏡の中に見える顔の輪郭はかなり小さく、不自然に見えた。
「電気で走る電車は来ぃひん。列車は来る」
「あぁ、良かった。じゃぁ野宿はしなくてもいいんですね」
 にっこりと笑いながらありがとうを言ってくれた。

 東京から来たというその山男風の人は、全国を旅していて、丹波地方へは二回目の訪れだと言う。いつもこの大きなリュックにこの服とこの帽子をかぶって、お金が無くなるまで旅を続けるのだそうだ。
 お金がないからヒッチハイクで移動して、無人の駅や神社や寺に野宿しながら、気の向くままの自由な放浪の旅人、と自らを語った。今日はこの先の小さな山村の友人の所へどうしても行かなければならないので、僕が乗ってきた列車に京都から乗って来たようだ。

「ヒッチハイクはね簡単だよ。ドイツに行った時はベンツにだけ手を上げて乗せてもらうんだよ。どうせ乗るのなら高級車がいいじゃない」
 世界中を旅した話を細い声で一人、話し始めた。
「へー、へーすごいなあ」
 この言葉しか返すことができないほどの感動と、驚きの連続が続いた。
「でも、冬のヒッチハイクは大変なんだよ。せっかく乗せてもらったのに居眠りできないでしょ、あの暖かい車内は睡魔との闘いだよ。足に青あざができるまでひねり続けて起きているの。居眠りしないのが最低限の礼儀だからね」
 切れかけの蛍光灯がある薄暗い山里の小さな駅にいることを、無精ひげの旅人は忘れさせてくれた。
 ほんの数分の間だけの会話しかしていなかったかのように時の経つのが早く、話の途中で福知山行きの列車に乗る人たちが駅舎を抜けて、ホームに入って来た。
「まもなく二番線に列車がまいります」
 構内放送が流れて荷物を片手に待合室から二人並んでホームへと歩いた。この後も、放浪の旅人は多くの話を聞かせてくれた。その人が降りる駅まで。

 このときの出会いが東北のこの地までたどり着いた原点かもしれない。あの人は今も旅をしているのだろうか。僕は東北のこの地を旅の終着点にしている。
 
 今のところ。




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2008.05.24 / Top↑
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