夏樹と飛沢は回数こそ減ったが相変わらずサイクリング部と、帰宅部後に音楽鑑賞クラブも盛んに活動をしていた。ビートルズの『赤版、青版』の四枚のレコードに関しては、いま聴いている曲の次は何か、すぐに分かるようになっていた。要するに、こればかり聞いていたのだ。

夏休みが近づいたころ、飛沢と赤川が小学校の時に同じクラスだったことが分かり、飛沢を鉄道研究会に誘い込んだ。
「夏休みに日帰りではなく、泊りがけで少し遠いところへ活動範囲を広げへんか」
赤川が切り出した。
「ええなあ。どこへ行こうか」
「餘部鉄橋を見に行かへんか」
「東洋一の大きさを誇る餘部か」
「面白そうやなあ。行こ行こ」
新加入の飛沢も乗り気である。
さっそく、地図を広げて場所の確認。兵庫県の北部、日本海に面したところにある。
「そしたら、京都駅を始発の鈍行に乗って行こう」
「午前中には餘部に着く。鉄橋のすぐ横が駅になってるから、駅に野宿しょうか」
「それがええなあ。寝台特急の『出雲』も見られるなあ」


夏樹の親父はこの辺りの出身である。餘部のことも知っている。
「あほか、おまえは。餘部には駅はあるけど、駅舎はない」
「駅舎のない駅なんかあるかあ」
「考えが甘いなあ。おばあちゃんのところよりも田舎や、単線の線路の横に、ホームだけがある。ベンチぐらいはあったかも知れへんなあ」
「ほんまかいなあ」
「夜になったら、でっかい蚊が出てきて、さされたら大変や」
脅しに屈したわけではないが、親戚の知り合いの民宿に泊まることにした。駅からすぐのところにある民宿なのだが、鉄橋の高さが四十一メートル、そのすぐ横にホームはある。くねくねと山道を降りてくるのは、少々大変だった。
京都駅五時三十二分発の浜田行きの鈍行に乗り、およそ六時間の旅に出かけた。目的地は兵庫県香住町(現香美町)餘部駅。乗車車両はもちろん最後尾の最後列に席を陣取り、時々、最後尾の乗降デッキに向かい、風を感じるのである。少々危険が伴うが。
ランキングに参加しています
下をクリックしてください。ご協力お願いします。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓




